虹色の旋律 二十七章



「ついでにメイクもしてもらいましょうよ」
「めい・・く?」
「やっぱ似合ってるわねその格好!メイクしたらもっと綺麗になるわ」
「え?え?」

めいくって何なんですかぁぁあーー
と言うの心の叫びをスルーして、試着室からズルズルと連れ出すジュリー。
そしてあれよあれよと言う間にメイクが済んだ。

鏡の前には見た事もない人がいる・・・
ってこれは私ですね←
うわあ・・・・こうも変わるんですねぇ・・・・・



それにしても、歩き難い履物です・・;;
これが今の流行なんでしょうか?

ジュリーと店員はかなり満足そうにを見ては盛り上がっている。
にはそれが分からないので、ただ鏡の中の自分を見つめていた。

「勿体無いわねぇ・・こんなに綺麗なのに男装しなきゃだなんて」
「ジュリーさん!!さあ早く出ましょうっ」
「え、ええそうね」

ポロッと漏らしたジュリーさんの呟きにビクッと反応した
店員さんに聞こえるのを防ごうと、思い切り声を張り上げた。

思いの外大きくなってしまった声に驚くジュリーと店員さん。
店員さんには愛想笑いを向けて、ジュリーさんを急かすようにしてメイクコーナーを立ち去った。
あのままいたらボロが出そうで(ジュリーから)

まあ無事に私服と下着も買えたし。
後は皆が帰って来る前に家に戻っておけば問題ないわ。

しかし、ジュリーさんの無茶振りはこれだけでは終わらなかったのです(無茶振り言うな

何事もなく地下の駐車場に戻り、車に乗り込んで帰路に着いた。
のだが・・・・もう少しで着くと言う時に、ジュリーはこう言ったのである。

「此処から後は歩いて帰ってね」
「はい?」
「顔出ししたらもうこんな風に外歩けなくなるのよ?もうこの道渡って直進すればお家だから」
「えっ?冗談ですよね?」
「本当です、私これでも重役なのよ。会社から呼ばれたから急がないとだから」
「そ、それはお手間お掛けしました・・・・」
「久し振りに愉しかったから気にしないで、じゃあまたねちゃん」
「はい、今日は有り難うございました」

歩道に横付けし、ニッコリと爽やかに言ってくれた無茶振り←
それは此処から数メートルの距離をこの格好で歩いて帰れとの指示。
鉢合わせたら今までの芝居が水の泡・・・

それでも歩いて行けと言うのだから鬼ですね。
逆らえる訳もなく、は荷物を受け取ると挨拶を交わしてから早足で歩いた。

どうかまだ帰って来ませんように!!
今までにないくらい真剣に祈った。
もう元の時代に戻して下さい、と祈った数日前並みの必死さで。

しかしですね、急ぎたいのですがこの靴・・・フラフラします・・・・・
踵が高くてバランスをとるのが難しいですね・・・・
あ、でもこれが意外に何かの練習になりそうです←

なんて事を考えながら足元を見て先を急ぐ。
必死に足元だけを見てフラフラと進む

夕方の街並みを眺める余裕すらなく、焦りで逸る心で歩くそんな時
荷物の中に入れたケータイの着信が鳴り響いた。
立ち止まるのも惜しくて、不慣れな靴で歩いたままケータイを取り出す。

「はい、もしもし」
『あ、メシ食った?』
「めし・・はまだです」
『ホント?何か買って行こうか?』
「いいんですか――――わぁっ!?」
『うん・・・って???』

コツコツと路面に響くハイヒール。
電話の相手は上田さんだった。

少しホッとして、それから会話に応える。
何か買って来てくれると言う申し出に、答えようとした途端足元の注意が逸れた。

道路の隙間にヒールの踵が挟まり、バランスを崩して転倒。
しかも踵が中々抜けないまま転んだので、右足首を思い切り捻った。
思わぬ激痛にその場で暫く悶絶(

そして車の中でその転倒したっぽい音を聞いた上田も車内で緊迫した声をあげてしまう。
家の先にあるコンビニへ向かう車内で腰を浮かした上田を他の面々が何事かと眺める。

その視線を偶々外へ向けた上田は、一人の女性が歩道に座り込んでるのを見つけた。
足首を摩ってる・・・転んだんだろうか?とは思ったが車は止められない為、窓の外に見送るだけで景色は過ぎ去った。
同時に再びの声が耳に届く。

「すみません、ちょっと転んでしまいました。えーと、この前亀梨さんが作って下さった物を食べたいです」
『転んだ?平気なの?カメが作ったのって言うと・・・・アレね、スパゲッティ。りょうかーい、てか帰ったら転んだ所見せるように』
「平気です、掠り傷くらいだったので!」
『本当?ならいいけど、気をつけてよ?』
「はいっ」

ふう・・・・誤魔化せたかしら・・・
本当は捻った足首がかなりの具合で痛む。

靴を脱いで確認してみると、紫色になって腫れ上がってます・・・・・
これは早く冷やさないとですね。
皆さんが戻る前に冷やしておいて、買って下さった物を受け取ったらまた冷やして治さなきゃ。

何とか立ち上がってみるが足首の痛みでよろめく。
綺麗に舗装された今の道、これなら足の裏を切る事はないだろう。
と言う訳で、靴を脱いで袋に入れるとヒョコヒョコとびっこ引き引き家を目指した。

まずいです・・・写真の事で迷惑をかけたばかりなのに
捻挫してしまったと知られたら、呆れられてしまう・・・・

折角赤西さんも認めてきて下さってる可能性を教えて頂いたのに
足手纏いになったらそれこそ信じて下さらなくなるかもしれない。
は必死で家に戻り、痛む足でキッチンに向かうと偶々凍らせてあったペットボトルで足首を冷やし始めた。


+++++++++++


一方コンビニに着いた面々。
軽く顔を隠すような小物を身に着けて、車を下りた。

何だって?」(和
「カメが前作ったスパゲッティが食べたいってさ」(上
「気に入ったのかな」(和
「かもね」(上
「お前何ボーッとしてんの?」(赤
「え?ああ、うんとね、さっき家の近くで」(上
「上ピーおにぎり買う?」(淳
「うん買うーーー♪田口の奢り?」(上
「おいコラ上田・・・てめぇ田口っ!!俺にも奢りやがれっ」(赤
「あいつら元気だなあ」(中

日も暮れたとは言え、コンビニは客が途切れる事はない。
そんな場所にあの調子で入ったらすぐバレそうだな・・と呆れる中丸。
中丸の隣で亀梨も苦笑を浮かべるが、その眼差しは温かい物だ。

上田との会話が気になっていた亀梨と赤西。
電話の後、何か考えてるような顔をしてたのが気になって
声を掛けてみた赤西だが、ナイスなタイミングで田口の声が注意を逸らし

握り飯に釣られて大事な部分を言わないまま上田は立ち去った。
もう少しで何に気を取られてたのかが分かっただけに、田口の登場にイラッとした赤西が便乗して追いかけて行く様を亀梨は眺めていた。

わーわー言い合いながら品物を選ぶメンバー。
居合わせた客は、気付いてるかもしれないが敢えて近づかずに遠巻きに見ているだけ。
ちょっとその行為に亀梨は感謝した。

プライベート(ではないけど)を大事にしてくれたんだろうしね。
気兼ねなく買い物出来るし、店にも迷惑は掛からなくて済む。
常識的な人達で良かった。感謝して買い物しなきゃね。

気持ちも余裕が生まれ、またにスパゲッティでも作ってやろうかなと亀梨は思った。

の夕飯を買うつもりが結局全員の夕飯を購入。
当然それぞれが自腹ですけどね。

会計を済ませてシェアハウスに着いた時、時刻は夜の20時を迎えていた。
それでもまあ昨日よりは早く帰れた面々。

玄関に入り、マネと軽く明日のスケジュールを確認してから別れ
リビングに駆け込む田中と中丸。
腹が減ったと各々が口にしながらリビングへ到着した。

ー、メシ買って来たよー」

留守番をしているはずの7人目を呼ぶ。
するとその姿は二階ではなく、キッチンから現れた。

「皆さんお帰りなさい、その・・昼間はご迷惑をかけてすみませんでしたっ」
「もういいよ、探し物は明日も皆で探すから元気出せよ?」(上
「そうそう、皆で探せば見つかるよ」(淳
「有り難うございますっ」
はスパゲッティ好きなん?」(和
「はい、初めて食べた時、とても美味しくて!大好きになりました」
「ガキか」(赤
「そういやって何歳なんだっけ?」(聖
「それ俺も気になってた」(中
「え、えっと・・・20歳です」
「俺とタメかよ」(赤

こっそり部屋着に着替えといた
上田に呼ばれるとペットボトルを冷凍室に戻してから現れる。
を見つけると上田は優しく笑って、先ずは写真の事を励ました。

その言葉に続くように他の面々も言葉を掛ける。
亀梨からの質問には、感じたままの言葉を返して答えた。

今で言えば、スパゲッティなんて当たり前の食べ物。
だがのいた時代では見慣れぬ物でしかない。
名前からして異国の食べ物だ、そんな食べ物を自分が食べられた事・・それを心から感謝した

その姿と笑顔は、食べ慣れてる亀梨達には新鮮な反応であり
素直な感想に面食らった面々を代表して、赤西が思わず突っ込む。
それが切っ掛けで年齢を聞かれた

躊躇いが生まれかけたが、上田に言われた言葉が頭を過ぎり
思い切って実年齢を明かしてみた。

そしたらどうだ、どっと盛り上がってしまい
年齢明かし大会みたいな雰囲気に取り込まれた。
上田の言うように、些細な会話が自分とメンバーの距離を埋めて行くんだなと感じた。