葉月の物語 5
💗「あっ、ふっか来た」
💚「・・・・・・」
💜「悪い遅れたわ」
💚「まあ、まだ1曲目だし・・・良いんじゃない?」
💜「・・・おう」
💗「もぉ~何なの2人して暗くなぁ~い?」
💜💚「佐久間煩い🙂」
静寂を破ったのは佐久間の声。
ハッと我に返り、同じ方を見れば
人混みを縫うように来た深澤を見つける。
戻って来た深澤の表情は神妙。
表情だけだとと逢えたのかは分からない
まあ気になるけど聞くのも野暮だなと感じ
敢えてそこには触れずに接した。
互いに多くを語らないせいで会話は途切れるのを察し、
茶化して空気を軽くしてくれた佐久間に向けたツッコミは自然とユニゾンした
💚「――ぷっ」
💜「おま、笑うなよ(笑)」
💚「ふっかだって笑ってるじゃん」
💜「俺は佐久間見て笑っただけだし」
💗「2人とも素直じゃないでやんすね~」
💜💚「だから佐久間はうっさい!」
💗「またハモってる~仲良いのは分かったから動画撮ろうよ~」
仲良しじゃないし!とまあまたユニゾンしつつ、少し前の方に人混みの中佐久間は移動。
小柄なのに心は誰より広い佐久間。
同時に誰よりも志が高く、誰よりも厳しい。
怒るのが下手な阿部や深澤の代わりに
後輩達を叱り、厳しく指導するのは大体が
佐久間で、極偶に翔太だったりする。
阿部や深澤は叱られ落ち込む後輩のメンタルをサポートしたり支えてはケアする側だ。
岩本は率先して動き、引っ張って行く指針。
どうやればいいかを行動と姿勢で見せる人で
自然と目を惹くカリスマ性を持っている。
まあ要するにそれぞれが各々に
各々にしか出来ない役割を持っていて
その役割を理解し尊重し合い認め合えている
だからこそ率先して厳しく接する役割を担う佐久間や翔太は尊敬に値するのだ。
自分では出来ない事だし、また逆も然り。
持ちつ持たれつな関係を6年続けて来た。
💚「ふっか」
💜「・・・ん?」
この6人だったからここまで来れた自負。
佐久間の背中を追いかけながら改めてそれを噛み締めた俺は、ふっかの腕を握って呼んだ
呼ばれた深澤はまだ少しだけ気まずそう。
だけど歩みは止めて視線を合わしてくれた。
合わさった視線、揺らいだ瞳を見つめる。
💚「この先何があっても、信じてあげてね」
💜「・・・え?それどういう意味?」
💗「うわあああやべええええ!」
💚「佐久間煩い!(笑)」
💜「ねぇ阿部ちゃん今のどういう意味?!」
💚「言葉通りの意味だよ、佐久間どしたの」
何か深い意味がありそうな言葉を口にした後
阿部は奇声を上げた佐久間の方へ行き
一緒になってワイワイし始めた。
何があっても?どういう意味??
阿部は意味の無い事を口にしたりしない奴だ
、だから今の言葉にも意味はあるはず。
にしても抽象的すぎて分からん表情あちゃー
兎に角俺は彼女を信じてれば良いんだな?
その前にあの子の何を疑う必要が?
まあその時が来たら向き合って考えよう🤔
🎭「続いて最後に演奏しますのは、此方も同じ作品からのカバー曲で箏の為に作られた作品です、聴いて下さい『龍星群』」
ふと聞こえたアナウンス。
いつの間にか次がラストになっていた。
ヤバい殆ど聴いてなかった!と感じた深澤は
謎に興奮してる佐久間と宥める阿部の横に。
💜「佐久間お前あんま目立つなや😗」
💗「まさかここで聴けると思わなくてさ!」
💚「佐久間の好きなアニメの奴みたい🙂」
💜「あ~なるほどな(笑)」
興奮冷めやらぬ佐久間に釘を刺すと
目がバッキバキな佐久間から怒涛の説明が。
これの前に演奏した曲と今から演奏する曲は
同じ作品からのカバー曲らしい。
佐久間はその作品を原作から知って
更にアニメも見てたからどちらも知ってる。
からの大興奮、熱く作品の説明をする様は
かなり暑苦しいがBGM代わりに聞いてあげた
ステージ上の私、は客までは見えないが
沸き起こる拍手と歓声は耳に届いていた。
箏を弾くのは云年ぶりだけど指と体は弾き方を覚えていて、めちゃくちゃ楽しい。
音のユニゾンは心地良いし凄く満たされた。
やっぱり私は箏を弾くのが好きなんだなぁ・・・
って改めて確認する事も出来た。
すき・・・。
ふっかさんに感じた気持ちは同じなのかな。
私が箏を好きだと感じる気持ちと。
でも、何となく違うものな気がする。
だって箏を弾けなくなっても触れなくても
悲しい気持ちにならなかったし・・・
胸がぎゅってなる事なんて無かった。
やっぱ人に対するものはあてはまらないね。
嬉しいし楽しいとは共通で感じるけど
考えただけで苦しくなったりしないもん。
何でだろう、ふっかさんだけなんだ。
他の兄達には感じた事ない気持ちになるのは
なんで私の事は気にしてくれないの?
なんで(架空の)従妹しか見てくれないの?
とか思ってしまうのは・・・全部ふっかにだけ。
どんどん嫌な自分になってしまう。
嫌だとかワガママを言いそうになっちゃうんだ・・・。
💗「あ~すげぇ」
💚「迫力ある音から優しい音色になったね」
💜「箏ってこんな音出るんだな」
💗「いっちゃん好きな所なんだわココ!」
視線は3人ともに釘付け。
専用の爪で一斉に弦を掻き鳴らす様は見事で
会場は一気にその迫力に包まれた。
作品愛を語る佐久間に解説を任せつつ
ラストは1番前で十七弦を掻き鳴らすを
固唾を呑んで食い入るように見つめる。
佐久間が好きだと語る部分は、前半の激しさから一転。
穏やかで少し寂しさも感じさせ
優しい気持ちになる音色に変わる箇所。
物語の人物が養い親の祖父の言葉を真に理解し
穏やかな気持ちで受け入れ、俺にも分かったよ。
という思いを馳せるシーンらしい。
勿論モノローグ扱いだが、音色と人物の表情も相俟って見る側の心に刺さる。
親に捨てられたその人物の生い立ちは
自分らと少し似ていて一層捉えたのだろう。
佐久間や、自分達の心を。
対するは別の感情に揺さぶられ
狐面に隠した双眸から溢れるものがあり
弾く傍ら器用に溢れたものを拭った。
深澤の事を思い浮かべるだけで胸は甘く痛み
言葉や仕草を思い出せば胸が締め付けられ
箏に対する『好き』とは違うのは分かる。
こういう痛み?を感じるのが『戀』とやらなのかを兄の誰かに聞いてみたら分かるのか?
まだまだ自覚は無い。
様々な想いが交錯した夜は更けて行き
まだ交わる事なく過ぎて行った。
この気持ちに名前が付くのはもう間もなく。
葉月の物語.Fin