葉月の物語 4
佐久間と阿部が話し合ってる頃。
納涼祭の会場を宛もなく歩き
出店を眺め歩く深澤は、何となく足を止め
ズラリと軒並み列ねる出店の列が途切れた辺りで、囲い代わりの柵に寄り掛かった。
(佐久間と阿部らの居る柵とは端と端になる)
💜「・・・20時半過ぎたなぁ」
歩く事40分ちょいが経過していた。
を探すのも頭にあったし
別行動をした理由にも含まれている。
が、阿部の言葉と表情が気になり
また自分自身の気持ちとも向き合っていた。
阿部に言われた事がきっかけで自覚した気持ちとかを。
まあ、また逢いたいなって思った時点で
俺は彼女に堕ちてたんだと思うけどね。
ただ阿部の様子から誰かを想ってるのは察せた。
それが誰なのかは分からない。
うーん・・・を泣かせるなってどういう事?
そればかりが頭ん中で引っ掛かって
ちゃんを探す事だけに集中出来ん😕
だからなのか、柵から離れ歩き出した瞬間
横から歩いて来た人影とぶつかってしまった
? 「わっ・・・」
💜「――っと、ごめんなさ・・・!」
🌕「私こそごめんなさい、大丈夫でしたか」
💜「ちゃん・・・?」
🌕「ふっ・・・深澤さん?」
勢い良くぶつかってしまった相手を見ようと
すぐ振り向いた瞬間、ハッと息を飲んだ。
居たのだ、目の前にまさに探してた本人が。
が参加してるから万が一観に来るんじゃないかって、賭けたにも等しい。
ホントにまた逢えるなんてやっぱ運命?
1ヶ月ぶりに現れたは白い着物姿。
まるで結婚式で花嫁が着る白無垢のよう。
はあ・・・ヤバいくらいに可愛いし綺麗。
などと顔には出さず内心で見惚れた深澤。
対する、もといは複雑な表情だった
覚悟はしてたがいざ会ってしまうとモヤモヤ
深澤は自分の応援の為じゃなく
納涼祭はついで扱いで架空の従妹に会いたくて来てるのだ。
正直どんな顔をしたら良いのか分からない。
会いたいと、深澤が言ってくれたのは
本当に嬉しかった、けど、それは私ではない
私の姿をした従妹に向けられてる。
探してまで会いたいのは私じゃない。
この嬉しそうな顔も言葉も気持ちも全部
私が作り上げた従妹へ向けられてるんだ。
💜「ちゃん?」
🌕「――はいっ」
💜「ぼんやりしてたけど大丈夫?」
🌕「はい、大丈夫です!」
先月友人に言われた言葉が頭を巡る。
辛い戀を選んだんだね、という言葉が。
もしその通りなら最近感じるモヤモヤとか
私が、架空の従妹に会いたがるふっかさんの言葉を聞くのも嫌で
私より架空の従妹に会う為に納涼祭に行くとか言ったふっかさんの言葉に悲しくなったのは、全部全部、私が戀をしてるから。
戀って、誰かを想う事ってさ?
こんなにも苦しいの?
💜「・・・!・・・ちゃん、本当に大丈夫?」
🌕「だ、大丈夫です、気持ちが昂ってるのかも!私も補助で出るから・・・」
💜「そうなんだ?でも、大丈夫?」
困った。
涙が急に溢れて止まらない。
目の前のふっかさんが困ってるのが分かる。
しかもメイクが落ちちゃうね
このタイミングでふっかさんに会いたくなかった。
本番が近いから既に衣装には着替えてたし
咄嗟に補助で出ると誤魔化したのは良かった
が、凄く気持ちが乱されたのは事実。
兎に角気持ちを落ち着かせようと決め
それを深澤に言おうと上げた顔は
近付く気配と影に止められた。
ふわりと包まれる感覚と背中に触れる温もり
🌕「・・・!?」
💜「ごめん急に、何かほっとけなくてさ」
🌕「・・・っ、深澤さん・・・恥ずかしいです」
我に返ったら目の前には誰かの服。
そこから香る匂いは少し苦味があった。
背中に添えられた温もりは心地よく
余りにも予期せぬ事態に、涙は止まってた。
私を混乱させるくせに包み込む手は優しくて
バカみたいに安心させられて悔しくなる。
私はふっかさんに抱き締められていた。
涙を止める為だとしても、これは狡いよ。
普段末っ子として過ごす私に対する接し方と全然違うじゃん何でそんな優しく触れるの?
想いが溢れてしまいそうになるじゃんか。
悔しいから平然としてやろうって決め込む。
💜「涙、止まった?」
🌕「止まりましたよ・・・」
💜「そっか、止まっちゃったか」
🌕「はい、ありがとうございます」
優しい問いに毅然と答えれば
何故か残念そうな響きの声をした深澤。
若干の間の後、深澤の腕から解放される。
ホッとして息を吸う。
ちょっとだけ名残惜しむ自分が居た。
でも名残を惜しんでる場合じゃない😶
真秀の方々とのステージは近付いている。
💜「ステージ頑張ってね応援してる」
🌕「・・・従兄の事も、応援して下さいね」
💜「ん?ああ、うん勿論」
改めて向かい合って立ち
深澤と視線を合わせた後そんな事を言ってた
としての自分が惨めになるだけなのに。
架空の従妹の事しか頭に無い深澤に
少しで良いから気にして欲しかったんだ。
当然深澤からの返事は困惑した曖昧な反応。
そのリアクションに改めて後悔した。
やっぱり末っ子としての私には興味が無く、
架空の従妹しか見ていないんだと。
🌕「それじゃあ私戻りますね」
踵を返しつつそれだけを返し、歩き出す。
早くしないと泣いてしまいそうだったのと
詰ってしまいそうだったから。
もっと私の事も見て欲しいって。
そんな事、今言っても仕方ないのにさ。
しかも今の姿はでしかない。
それこそ意味の無い言葉にしかならなかった
💜「・・・俺、言葉のチョイス間違えたかも・・・?」
思わず抱き締めちゃったけど
そうしたかったから心が感じるままに動いた
でもちゃんの憂い顔は変わらなかった。
俺ちょっと自分の気持ちで動きすぎたんかな
ヤバいなあ・・・彼女に嫌われたら辛すぎる。
うーん・・・取り敢えず2人と合流しなきゃだ。
何となくモヤモヤは晴れなかったが
時間迄には戻ると約束したからには戻らねば
とステージに向かう為歩き出した深澤。
1度だけが消えた方を見てから立ち去った
ステージ袖に戻った()は
真秀の人に気付かれ、崩れたメイクを直し
お礼を言ってから軽く目を閉じる。
今は演奏に集中しよう。
ふっかさんに心乱された事なんか忘れる。
悲しかった気持ちも今だけは押し込めよう。
私に任せてくれた養父や、代役として受け入れて下さった真秀さんの為に
また箏を弾ける喜びを
初めて味わった刹那を
感情を箏の音に乗せる
🎭「さあ、スタンバイしましょう!」
🌕「ーーはい!宜しくお願いします!」
真秀の代表の力強い声に、私の迷いも消える
閉じた目をゆっくり開いた時には
眼差しに力の宿った精悍な顔付きに変わった
両手に乗せた狐面で目だけを覆う。
こうすれば誰が誰だかは区別が付きにくい。
どんな表情をしていても分からないだろう。
私は全ての感情を狐面の下に隠し
観衆が待つ納涼祭のステージへ上がった。
🎤「続きましては『真秀』の皆さんです!」
司会者が高らかに紹介した瞬間、
ステージがパッと明るくなり
楽器を前に立つ狐面の集団が照らし出された
外は暗く、明るいステージからは
集まった観衆の顔や姿はあまり見えない。
それに狐面をしてるから何か安心。
これなら兄達をつい探してしまう事も防げる
🎭「ご紹介に預かりました『真秀』です。
皆さんどうぞ宜しくお願い致します!
今夜は和楽器コラボ曲として3曲披露させて貰いますので楽しんでって下さい!」
この挨拶に対し観衆からも拍手が送られた。
いよいよメンバー1人1人が位置につき
用意した曲を演奏する体勢をとった。
真秀メンバーの前に置かれた楽器は様々。
二胡や笙(しょう)三味線に箏。
箏は十三弦と十七弦の2種類が用意された。
が任されたのは低音を担う十七弦。
バンドで例えるならベース。
洋楽器ならチェロに似た魅力ある楽器だ。
主は低音だが音高も自在に変えられる。
🎭「『Teary Edge』」
皆が担当する楽器の前に着いたのを確認し
観衆へ向け、代表は1曲目を舌に乗せた。
拍手が止み会場は静まる。
そこから先ず三味線と琵琶の重低音が響き
十三弦の滑らかな音が主旋律を奏で始めた。
悲壮感と並々ならぬ決意を漂わせる音階。
十三弦が悲しみを奏で、三味線と琵琶が決意を表す音を力強く表現。
の十七弦は楽曲自体の根底を支える。
良く聴かなければ逃してしまうくらいの低音
だが、無くてはならない音である。
合奏となれば迫力は増し、和楽器とは思えないくらい迫る物があり
それはやがて会場を支配し始めた。
💚「・・・・・・ヤバいね」
と声を漏らしたのは観衆に紛れてステージを観に来た阿部。
💗「うん・・・何かヤバいな」
次いで似たような感想を漏らした佐久間。
ステージに現れた狐面の集団は異質で奇異。
始めは興味本位で観に来ていた観衆らを
真秀の演奏は僅か1音だけで魅了したのだ。
心を瞬時に捉えた彼らの旋律・・・。
語彙力を奪われた2人の口からは
兎に角『ヤバい』しか出て来なかった。
彼らの演奏は一気に会場全体を支配したのだ
💚「にしてもふっか遅いな」
💗「そうだなあ、開始迄には戻るって言ってたのに~」
💚「腹の立つヤツ・・・😕」
💗「まあまあ阿部ちゃん、ねぇあの着物姿の子 かな!」
💚「え~?」
1曲目が中程迄過ぎた頃、深澤の不在に気付き
約束と違う、と目くじらを立てる阿部。
本当に彼女を探す為だけに来たのかと腹が立った。
そんな阿部を落ち着かせた佐久間は
ステージを見た際一際小柄な人物が居る事に気付き、阿部の両肩を叩いて気を逸らす。
じゃない?との言葉に素早く反応し
阿部はステージに目を凝らしてみた。
確かにステージ上には一際小柄な人物が白い着物姿で箏を演奏している。
周りは黒い着物姿なので白い着物姿は映えた
💚「うん・・・彼だね」
だが実はで、深澤が心奪われた相手でもあるが阿部は言わずにおいた。
佐久間がだと認識しているのに
違うよだよと言う必要は皆無だから。
久々に箏を演奏したとは思えない腕前なのは、素人の阿部にも伝わっている。
狐面で表情こそ見えないが音を感じ
音と戯れ、楽しんでるのが肌で分かった。
全身で楽しみ、音を感じる様は美しく
会場に集まった観衆を魅了していて
とても綺麗で・・・目が離せない。