葉月の物語 3
――シェアハウス。
納涼祭の開催を待つ兄3人はリビングで待機
今夜納涼祭に行くのは今リビングに居る3人
深澤、阿部、佐久間の3人だ。
💗「楽しみでやんすね!」
💜「だな~、取り敢えず着いたら別行動な」
💚「え?まさかふっか・・・例の子を?」
💗「なになに例の子って?」
💜「言うなって🥴別に良いだろ?」
💚「ある程度回ったらイベント会場来るよね?本来の目的はくんの晴れ姿だよ?」
💜「わぁーってるって」
他の3人は1日中の仕事が入り、不在だ。
そんな中の会話だが、深澤の言葉に阿部のこめかみがピクリ。
納涼祭を見て回りたい気持ちは分かるが
今回はくんの晴れ姿を見に行くのが目的であり、個人の目的を達成する事じゃない。
にも関わらず深澤は自分だけの目的を達成しようとしてる姿勢に阿部は眉宇を寄せた。
佐久間だけは純粋に深澤の言葉の真意を知ろうとしているが、阿部は違った。
理由は簡単だ・・・本人が無自覚の気持ちを
持ち前の鋭さから阿部が知ってしまった事。
それは深澤に向けられた特別な気持ちだ。
は無自覚だが、深澤を意識し始めている
彼が彼女だと知った時から阿部自身も抱いた、ことへの気持ち。
この2つの答えは同じ、相手を想う気持ちだ
阿部は()を想い
()は深澤を想うようになった。
今、この矢印はそれぞれ異なる相手へ向き
互いに向き合ってはいない片想い状態。
深澤からの矢印(気持ち)はの従妹へ・・・。
梅雨の季節にショッピングモールで
本来の姿で来店していたと出逢い
深澤は理想の出逢い方ってヤツをした。
俺が提案しなかったら2人は出逢う事も無く
がふっかを好きになる事も
ふっかがを好きになる運命は生じなかっただろう・・・。
💚「・・・くんの事、泣かすなよな」
💜「え?」
何とも言えない悔しさを込めた言葉を
同じ空間に居る深澤に向け言うのが精一杯で
暫くは気持ちの整理が必要だと阿部は決めた
💗「阿部ちゃん?」
💚「・・・うん?」
💗「元気無いじゃんこれから納涼祭だぞ~」
💚「ふふ、そうだね観に行こうか」
💗「おうっ車出すから待ってて~」
💜「阿部ちゃ・・・」
💚「ふっかも行くよ、庭で待とう?」
💜「・・・おう🙂」
知らないうちに顔に出てたのかな
逸早く気付いた佐久間に呼ばれ、問われた。
理由は流石に言えそうに無いけど
気付いて心配してくれる佐久間の言葉が嬉しくて、結構自然に笑えたし
俺の言葉に何らかの気付きを示したふっかにも、いつも通りの接し方が出来た。
少し神妙な表情からの笑顔に見えた阿部。
そしてあの言葉。
ちゃんじゃなくてを泣かせるなと
少し強ばった声で阿部は口にした。
どういう意味なんだろ・・・?
の従妹を俺が好きになった事でを泣かせる事になるんだろか?🤔
あれ俺やっぱ彼女の事好きなんだな(今自覚)
兎に角分かんないけど、妙に迫力を感じた。
普段優しくてニコニコな阿部ちゃんを怒らせたらマジ怖い気がする・・・( ˙꒳˙ )
取り敢えず納涼祭周りつつ探そう、うん。
という訳で(どういう訳や)佐久間の車に乗り
3人でのみのステージを観る為出発した
ちゃんと玄関も閉めて出発しました🙂
走る事数十分、佐久間の運転する車は
無事納涼祭の会場へ到着した。
💚「大分賑わってるみたいだね」
と車内の阿部が呟く通り、駐車場にも
会場の賑わいやざわめきが聞こえていた。
それに同意しつつ車を降りる3人。
一応ジャニーズではあるが
デビュー組ではないし変に変装するよりは
自然体で紛れてしまう方がバレにくい。
この考えが正しい事は先月で実証済みだ。
💗「何かすんげぇワクワクして来た!」
💚「相変わらずだなぁ佐久間は」
💜「ワクワクし過ぎて身バレすんなよ?」
💗「お前もな!(笑)」
💜「へいへい」
💚「さて、俺はイベント会場行くけど・・・」
💗「俺は食いモン買いつつそこ行く~」
車を降りるなり目をキラキラ輝かせる佐久間を鬱陶しそうに眺める深澤。
それから最年長らしく釘を刺すのも忘れない
次男坊な割に佐久間は落ち着きが無いのだ。
まあ比較的、年長組は落ち着きが無い(笑)
年少組の方が逆に落ち着いていて
最年少だった阿部は特にしっかりしている。
今もiPhoneを取り出しながら荷物に手を入れ
中から4つ折りにされた紙を取り出した。
💜「阿部ちゃんそれは?」
💚「・・・納涼祭のプログラムだよ😶」
💗「へぇ~流石阿部ちゃん!」
これならステージを気にしすぎてしまう事も無いし、出店やらを楽しめるでしょ?と
質問した俺や佐久間に阿部は答えた。
その際の少しの間が、まだ完全に俺に対する怒り?が消えてない事を表している。
"くんの事、泣かすなよな"
眺めた顔に阿部の言葉が重なった。
単純に末っ子を想う兄の言葉にも取れるが
そう話した時の表情が違う含みを匂わせてて
阿部は・・・何か知ってて言ったんだろうか。
とに関係する『何か』の部分を。
・・・例えば、あの2人は従兄妹じゃないとか?
うーん・・・( ˙꒳˙ )・・・・・・分からん。
💜「考えんのやめた、ステージって何時?」
💚「?えーと21時からだね」
💗「早速自由行動する気だな!?」
💜「まあね、でもその時間迄には戻るよ」
💚「なら良いけど、トラブルは起こすな?」
💜「はいはい(笑)」
💗「行ってらピーマン」
気分を変える為、有言実行する深澤。
代わりに阿部から訝しげな眼差しを向けられたが構わずステージ開始時刻を確認。
末っ子のステージは観る意思がある事を暗に示し、明るい佐久間に送り出された。
兄弟ではあるがその前にメンバー同士でもある阿部と深澤。
変に気まずくならないよう阿部の考えも尊重
今の時刻は19時50分を過ぎた辺り。
それまでには探すのを終わらせ
阿部達と合流する意思は示しといた。
踵を返し、人混みに消えて行く深澤の背中。
ぼんやりと見送る俺に横から声が掛かった。
💗「ねぇ阿部ちゃん」
💚「うん?なあに、佐久間」
其方を見れば10cm下から俺を見上げる佐久間の大きな目と視線が合った。
俺と視線を合わすと、少し言い淀んでから
真っ直ぐに真っ直ぐな問いを俺に発した。
💗「・・・ふっかと何かあった?」
真っ直ぐな問いに無意識だが息を飲む阿部。
何故かその瞬間、隠せないなと直感で思った
それでも一応聞いてみる、何かって?と。
だが佐久間はそう返される事を予想してたかのように、間を置かず答えた。
💗「出発前、ふっかに何か言ってたのと
此処に来るまでの間、俺とばっか話してたじゃん?」
💚「・・偶々だよ」
💗「ホントに?隠し事はナシだよ?」
💚「・・・敵わないな佐久間には」
💗「俺これでも阿部ちゃんのお兄ちゃんだからさ、頼ってよ」
澱みない眼差しに根負けしたのは俺の方で・・・
何となく、佐久間に話してしまいたくなった
💚「・・・ふっかが別行動したのはね、逢いたい子が居るからなんだ。」
納涼祭に来たのもその子に逢えるんじゃないかって思ったからだと思う。
💚「俺も良く知ってる子でさ、何ならきっかけは俺だと思う。」
💗「そうなの?」
💚「6月に水族館で撮影があったじゃん?」
💗「うん、あったね」
💚「あの日にふっか、理想の出逢い方をしたみたいなんだ。」
ぽつらぽつら人混みを見つつ話す阿部に
時折驚きながら佐久間も真剣に耳を傾けた。
が、理想の出逢い方をした深澤の話には
ツッコミ精神が疼くのか、表情は輝いている
からの率直な疑問を向けて来た。
💗「あの深澤がねぇ~でも何でその子が納涼祭に来てるって思ったの?
その子の住んでるトコとか知らないし、逢えないかもしんないじゃん?」
💚「うん・・その子、従妹なんだくんの」
💗「――ま、まぁじぃ!?」
なるほどね、だから確証はゼロじゃないのか
相手がの従妹なら、納涼祭を見に来てるかもしれないし逢えるかもしれない。
💗「つまり阿部ちゃんは恋のキューピットだ?なのにそんな顔してるって事は・・・」
あ~佐久間さん分かっちゃったなぁ・・・。
なにこれ刹那すぎじゃん!
チラっと見た先には俯きがちな元末っ子。
多分だけど、阿部ちゃんは初めて異性を好きになったんじゃないかな。
だからその分ピュアでさ、甘酸っぱい。
今まで知らなかった感情と向き合い葛藤し
いっぱい悩んで苦しんで、潔く身を引いた。
何だかいじらしくて堪らなくなった佐久間は
兎に角頑張った元末っ子を褒めちぎりる作戦に出る。
褒めながら鼻の奥がツーンとしてしまうが
それでも阿部の頑張りを認めてあげたかった
💗「なるほどね、阿部ちゃんもふっかに負けないくらいその子の事好きだったんだね。
それも、ふっかより先にその子をずっと見つめて見守ってたんだ・・・すげぇじゃん」
好きだったんだね――
という言葉が驚く程すんなり俺の中に降る。
俺は彼女をずっと見守り、見つめてきた。
それこそ彼女が男と偽って家に来た日から。
俺自身すら目を向けなかった深層心理を
佐久間は一瞬で見抜き、見つけてくれた。
俺が奥底に沈めた彼女への想いを。
💚「そっか・・・俺も、好きだったんだな」
💗「うん」
💚「バカだよな俺、今更気付くなんてさ」
💗「バカじゃないよ阿部ちゃんは」
💚「そうかなぁ・・・っ」
💗「阿部ちゃんは優しすぎただけだよ」
今更自覚した彼女への想いと
もう伝える事すら出来ない現実に
悔しさと情けなさで声が震えた。
そんな俺を見た佐久間がくしゃりと苦笑し
バカみたいに泣くから、俺もつられた。
納涼祭の会場だし人混みの中なのに
一切気にせず俺は佐久間と2人で泣いた。
いや、佐久間のお陰で泣く事が出来たと思う
💗「阿部ちゃん」
💚「・・・うん?」
💗「また1つ大人になったね!」
💚「うえぇ?これ大人になったの?(笑)」
💗「結果はアレだけど俺嬉しくてさ」
💚「俺が失恋した事が?なんてね(笑)」
人前で泣くなんて恥ずかしいなと
落ち着いて来てから感じたが
不思議と気持ちは晴れ晴れとしてて
会場端にある柵に座って聞いてくれてた佐久間に対し
軽い冗談が言えるくらい失恋したけど気持ちは晴れやかだった。
多分、佐久間が聞いてくれたからだね。
冗談だと思ってない佐久間は
違う違う、と俺の自虐ネタに慌てつつ訂正。
見ていたら口許を緩ませて嬉しげに言った。
💗「だって初めてじゃない?阿部ちゃんが俺に赤裸々トークしてくれたの」
そう口にして照れくさそうに笑う兄。
何だか胸が熱くなるのを感じ
感情がブワッと込み上がって毀れた。
💚「かもね?・・・ありがとう佐久間」
💗「阿部ちゃん可愛い」
俺ってこんな泣けたんだなって思うくらい
引っ込んだはずの涙がポロポロ溢れて来た。
吃驚しながらも佐久間は嬉しげに笑い
ガシッと荒々しく俺を抱き寄せて
頭を撫でたり寄り添ってくれた。