隼人の苦悩



屋上に着いた俺達。
眼下には、続々と校門を潜る女子中学生の姿。
用意周到なクラスメイト達は、双眼鏡を覗いたりしてる。
傍から見れば、覗きをしてる変態にしか見えない。

俺はそれに混ざる気は起きず、少し離れた位置から
歓喜するクラスメイト達を眺めた。

竜は俺がいれば十分って言ったけど、隼人は?
オマエも同じ風に思っててくれてんの?
何て、きっと聞くなんて出来ねぇな。

昨日のケンカだって、俺が勝手にキレただけだし。
隼人は悪くない、もしかして嫉妬?

「まさか・・そんな訳ねぇよ」
「同性見てもつまんねぇのは分かるけど、独り言言ってんなって」
「!?隼人、吃驚させんな。」
「それよりさ、って何処中だった?後輩いるかもよ」
「後輩?それはねぇな、俺転校して来たんだぞ?」

何時の間にか目の前に隼人がいて、結構吃驚。
この地区の中学には通ってねぇよ、と隼人の問いに答え
興味のなさげな目で、タケの隣から見下ろす。

表面上は冷静だけど、さっきの至近距離には心臓バクバク。
後ろの方で、隼人がそれもそっかと納得していた。

一通り女子中学生を見た俺達は、再び移動。
正面玄関への道程を歩き、何となく付いて行く。
早急に返事するべき?どっちかを選ぶべきなんかなぁ
この悩みは流石に、コイツ等には話せない。

が何か悩んでるのは、隼人にも分かっていた。
さっきの竜との気まずさといい、何隠してんだ?

「病院、一人で行ったんか?」
「・・・何で?」
「竜と何かあった?」
「べ・・別に?」

ホントって、嘘が下手だよな。
俺から外す視線も、濁す言い方が嘘だって言ってるもんだ。
顔にも出てるし、分かり易いって。

隼人は視線を一旦から外し、玄関の方へ向ける。
其処にはズラッと女子中学生が集合していて
教頭が恭しくスピーカーで説明してる。
クソみてぇな説明、俺等を檻ん中に追いやって
綺麗なだけの外見だけしか見せてない。

久美子が教頭と話してる姿が見られたが
去り際に気づかれそうになって、慌ててしゃがみ。
しゃがみ遅れそうになったを、引っ張って座らせた。

「隠すなよ、顔に出てる。」
「え!?」

座らせた体勢で、ボソッと呟けば声を荒上げた
の声の大きさに、クラスメイト達が鋭く睨みつけた。
そんな視線にハッとしたは、わりぃと小声で謝る。
クラスメイトに謝ってから、また視線を隼人へ戻した。

戻した視線の先に、まだ真剣な目の隼人がいる。
この目には弱い・・それはかなり実感。

「竜とは行った、今はそれだけしかいわねぇから。」
「オマエ結構、頑固だな。」
「・・・・」
「無理にはきかねぇけど、今度は俺もついてくかんな。」

それでも何とか耐えて、告られた事は内緒で
病院に一緒に行った事だけは話した。
意思を変えないに対し、隼人は息を吐く。

それにしても・・ちゃっかり同行してやがったとは。
竜の奴、やる事はぇえな。

内心で竜の行動の早さに、焦りつつ歯噛みする。
次こそは、と意気込み隼人はへにじり寄った。
近づかれて、ドキッと跳ねる俺の心臓。
ヤバイヤバイ!そんなに近づくなっ。

逃げ腰の、その手を隼人は素早く掴んだ。

この手を離したら、は竜に持って行かれちまう。
何でだかそう思った。
竜はちゃんと、自分の存在をの中に残してる。

その存在が大きくなる前に、阻止したい。
あの日告げた想いは、嘘じゃねぇ。
は俺の中でどんどん大きくなってる。
抱きしめて、その存在を確かめたい・・それも今感じてる。

その存在が今目の前にある。
自分の手の中にある、柔らかい手。
引き寄せれば、きっと俺の腕の中に飛び込むの体。

「これからはなるべく俺の近くにいろよ。」
「え?・・どして?」

真剣な目、熱を帯びた瞳。
ずっと見つめてたら、駄目になりそうな・・・
自然に出た疑問、問い返すと隼人は迷わず答えた。

「姿が見えねぇと、何か不安なんだよ。」
「俺・・いや、俺は隼人のモンじゃねぇだろ。」
「望んじゃ駄目なんか?俺はオマエが好きだ。
だから傍にいて欲しいんだよ。」

直球ストレート。
いいのか?皆いるトコで、恥ずかしいじゃん!
そう思って回りを見てみると・・・

「あれ?タケ達いねぇーな」
「は?・・言われてみれば、なら心置きなく言えるじゃん。」

痛いほど刺さる視線を予想していた俺の視界に
その視線を送るべきクラスメイト達の姿はなく
隼人を勢いづかせるハメとなった。

「そっ・・それより、タケ達について行かなくていいんかよ。」
「話 逸らしてんなよ」

こんな時の隼人は、何時もみたいに単純なノリじゃない。
誤魔化しが利かない・・・困ったなぁ。
隼人と目を合わせられなくて、キョロキョロしてたら
意外な人物を見つけた。

「ねぇ!隼人!タケ達見つかってるよ!」
「はぁ!?もう見つかってんの!?」
「しかもつっちー、あのセンコーと知り合いみたいじゃね?」
「あぁ〜そんな感じだな・・」

俺が発見した出来事に、上手い具合に隼人の注意が逸れた。
タケ達が見つかってるのは、偶然見つけたんだけど
ナイスタイミングだぜ、オマエ等!←ヤンクミ風。

あれ?あの男の教師とあのお下げの子・・・
何処かで会ったような?
初めて見た気がしなかったは、考え込む。
あの眼鏡、あの髪型・・そんでもってあのムカツク喋り方・・

中学・・・、そうだ!あのクソ石頭の担任!
石川だったっけ?変わってねぇなぁ!
つーか、つっちーとも知り合いって何でだ?

「オイ ?どうかしたん?」
「あのセンコー、俺の中学ん時の担任。」
「マジかよ!」
「ああ」

この隼人の声がデカかったのか、集まっていた全員がこっちを向いた。
おかげで、その石川と目が合う。
その瞬間石川の目が驚きに見開かれ、俺に向かって声を出した。

「・・オマエ、嘩柳院か?まさかオマエも此処にいたとはな。」
「てめぇもな・・大して変わってねぇじゃん。」

見つかったから俺達もタケ達の近くに行く。
いきなり睨み合う俺と石川に、教頭達もハラハラし出す。
その様子を吃驚して見てるのは、隼人達。
つっちーも、まさかとも知り合いだとは思わなかったらしく
と石川を交互に見てる。

この面見てると、苦々しい記憶が甦る。
の事でちっとも理解を示さなかった石頭な担任。
俺の話を聞こうともしないで、勝手に警察に頭下げたり
思い出すだけで、腹が立つ!

「最初は金持ちだからって、ヘラヘラして俺におべっか使ってたよな・・・
それに 俺の親とかにも調子こいてさ。」

憎々しげに過去の話をすれば、どんどん石川の表情が強張る。
それに周りの空気も張り詰めた 緊張した物になった。
教頭達の顔色も、更に青ざめ 中学生達も顔を見合わせだし
つっちー達も俺の方を吃驚した目で見た。

「嘩柳院、もうそれぐらいにしとけ。」

事実を言われ、何も言い返せない石川に
これ以上印象を悪くされたら困ると、教頭が止めに入るが
その行為は、更に俺の怒りを煽るだけだった。

「ふざけんな、綺麗事言ってんじゃねぇよ!
てめぇだって俺の親父が倍の金払ったら、ヘコヘコした口だろ!」
「そっそれはだなぁ嘩柳院・・」
「俺達に指図すんな」

止めるはずが逆に止められた教頭。
これには呆気に取られる中学生達。
久美子達も何も言えず、それを一瞥し立ち去ろうとした時・・

「嘩柳院先輩ですよね?」
「「「「「「先輩!?」」」」」」

可憐な声が、立ち去ろうとした俺達を停止させた。
せん・・ぱい?一斉に刺さる5人・・5人?
あれ?何時の間に竜がいる・・って今はそれどころじゃない。
今言ったのこのおさげの子??

は足を止めて、正面からそのおさげの子を見つめる。
その子は自分より、背は小さく女の子らしい雰囲気の子。
見つめられた女の子は、同性同士なのに頬を染めた。

ただならぬ雰囲気、彼女が先輩と言った訳は
も忘れていた時に含まれていた。