横暴だ
つくづくこの男は・・・

めぐるめぐる、架空亭。


§初仕事§


はい、です。
いきなり帰宅途中に変なコエに導かれ
奇妙な店からパラレルワールドへの扉を開きました。

寧ろ自分から入ったってのが正解。
だって気になるじゃない?
今までなかった店がいきなり在るとかってさ。

まあやっぱり入ったら其処は別の空間で
出迎えた男は口の悪いめんどくさがりなイケメンだった。

その人はこの空間の管理人で
『嗣鏡眼の司』とか仰々しい役目名で呼ばれてて
私が『御言葉使い』に選ばれたと教えてくれた。
教えてくれたと言っても、ちゃんと説明してくれたのは

『聴遠の獣人』って呼ばれてる獣人なんだけどね。
彼だけ何て呼んだらいいのか謎だったりする。

名前、教えてくれるのかな?
別に仲良くなりたい訳じゃないわよ、呼ぶのに困るだけ。

二人を盗み見れば
何か難しいそうな顔で話し合ってる。

右も左もまだ分からないのに
またしても置いてけぼりだ。
置いてけぼりも此処まで来ると苛めに近い。

「おい」
「・・・・・」
「てめぇ無視ぶっこいてんじゃねぇ」
「――いたっ!!何すンの」

話し合いがまとまったのか
やっと私に視線を向けた喪月。

しかし、さんざ置いてけぼりにされてた
腹いせに返事をせずにいると
ポカッと拳で頭を叩かれた。

仰々しい名前で呼ぶ傍らこの扱い、腹立つ・・

と涙目で振り仰げば
不機嫌そうな喪月の顔がある。
それを見た獣人さんが傍に来て優しくの頭を撫でた。

「!?」
「喪月様、いけませんよ?様は『巫覡の尊』様なんですから」
「誰であろうと呼ばれてシカトするのは許されねぇだろ?」

びびび吃驚した、不意に撫でたりしないで欲しい・・ 私はまだ貴方達に心許した訳じゃないんだから。

「叩かれたくなけりゃ次から返事しろ。」
「一回殴らせなさいアンタ」
様も落ち着いて下さいな」

直ぐにでも喧嘩を始めそうな二人を見て
獣人は何とか落ち着かせる。

こんなんじゃ心許せる訳ないでしょ・・・
取り敢えず獣人には『巫覡の尊』の尊様ではなく
名前の方に敬称をつけるだけにして貰った。

だってむず痒い・・・・
今まで何処にでもいるごく普通の女子高生だったんだしさ。

どうやらついでに喪月の事も
役目名じゃなくて本名呼びにしたらしい。
何だこの素直さ・・異世界ならではかしら。

上司に似なくてよかったねホント。
話が全く進まなくなる所だったわ・・・

「で、何を話し合ってたの?」
「はい。お部屋へは後程私が案内させて頂きます」
「有り難う」
「その前にお前には仕事をやって貰う」
「ふーん?・・・って、いきなり!?」
「当然だ、お前・・自分が何で呼ばれたか忘れた訳じゃないだろ?」

・・・・・・そうでした

何かもう全てが終わった気でいたよ←
そうでしたね、と頷く

それを呆れた顔で見てから
口早に喪月は説明し始めた。

「さっき獣人が依頼を持って来ただろう?初仕事はそれの修繕だ。」
「・・・」
「直す箇所は俺が視る、そしたらお前は獣人と此処を出て文司の管理する塔へ行け」
「二人以外にも人がいるんだ?」
「『人』と呼べるのはお前しかいねぇよ」
「・・・・・は?」
「行けば分かる、そしたら文司がお前に同行させる文木霊を選ぶだろう」

ふみつかさ、とふみこだま。
またも新しい言葉の羅列だ。

不意に思う
喪月の紡ぐ言葉は不思議と綺麗
顔のせい?・・ではなく漠然と

口調は悪いのに
綺麗な綴りになって形を成して行く言の葉が
『綺麗』だと思った。

「それと・・ってお前、聞いてるか?」

ポカッ、
と今度は軽く拳が頭を鳴らす。

何か動揺してはこんな風に答えた。

「はいっ!いえ、聞いてませんでしたっ」
「・・てめぇはバカ正直に何言ってんだよ阿呆。」
「あ」
「『あ』じゃねぇ、いいか?獣人と文司に会え。
それから文木霊と此処に戻って来い」
「修繕は?」
「最初だからな、俺が教えてやる」
「・・・・へぇ〜・・珍しい」

ちょっと焦った。
言の葉の綴りが綺麗で・・・
喪月の纏う空気が少し接し易さを私に与えた。

「それでは様、ご案内しますね」
「有り難う。」

扉を開けてくれた獣人さんにお礼を言って
扉に向かいつつ、視界の端で喪月を盗み見た。

ちょっと真剣な顔。
『視る』ってのがどんななのか気になるけど
後で聞けばいいか、と思い

獣人と共に、文司の塔へと赴いた。
次なる住人との出会いは間近へと迫っていた。