半端者



隼人に負け、俺は放課後ゲーセンに行く羽目となった。
あれから土屋が隼人に勝負を挑もうとし
それに対してあれこれ言ってる彼等だったが
いないはずの久美子の声が聞こえると、一斉に其方を振り向いた。

「・・何で??」
「ちょっと聞きたい事があってさ」
「だからって、そんなトコにいんじゃねぇよ!」

驚いたり怒声を浴びせられても、表情一つ変えない久美子。
結構根性据わってると思う。
全員の視線を浴びながら、久美子は話を切り出した。

「小田切君の事なんだけど」

久美子がそう切り出した途端、隼人だけが不機嫌そうな顔になり
俺の隣から離れ、久美子から遠い位置に移動。

「竜の何が聞きてぇんだ」
「矢吹君との喧嘩が原因で、来なくなったって聞いたんだけど。
何で彼だけそんな処分になったの?」

隼人には構わず、久美子は目の前にいる土屋へ問いかけた。
返ってきた言葉は詳しい答えの期待出来ない物。
それでも久美子は問いかけるのを止めない。

「関係ねぇだろ」

そんな彼女へ浴びせられる隼人の素っ気無い言葉。
これは余程の事があったんだろう。
も振り向いた肩越しに隼人の様子を見る。

「君との喧嘩が原因なら、気にならない?」
「別に」
「別にって事はないでしょう?」

久美子の問いかけに答える隼人の言葉は、相変わらず淡白。
俺の目から見ても、今の隼人はかなり不機嫌で
その『小田切』とやらの事なんか、聞きたくないように見えた。

やっぱ、不良のように見えなくても男の子とは
色々あるんだろうな、女のあたしには全く分からないよ。
今まで立ってた土屋がさっきまで隼人がいた場所へ腰掛ける。

つまりは俺の隣、おっきい体が自然と視界を遮った。
腰掛けた土屋と交代に、隼人と話をしている久美子へと
日向が近寄り 彼もその話題を終わらせようと口を開いた。

「竜の親と理事長で話がついてるんだからそれでいいじゃん」
「心配じゃないのか?同じクラスの仲間だろ?」

『仲間』

何気ない久美子の言葉に、の中で何かが弾ける。
大切だった友達、救えなかったあの子。
失いたくなかった友情。

自分のせいで、大切にしてきた関係全てが崩れた。
あの子は、今でも俺の事を『仲間』と思ってくれてるだろうか・・・

「仲間・・?」
「ああそうだろ」
「偶々同じクラスになっただけで仲間とか言われてもね」

しまいこんだはずの記憶の甦りに、耽る俺の耳に
久美子の考えと俺の考えを否定する声が割ってはいる。
何時の間に後ろにいたのか、サングラスのような物を掛けた生徒。

「でもそれが縁だろ?その縁を大事にしようとか思わないのか?」

縁・・か、山口って今までの大人と違う感じだな。
身近な奴で誰一人、そんな当たり前の事を口にする奴はいなかった。
真っ直ぐ前を見て・・一人俺は思った。

「あいつは仲間じゃねぇんだよ」

だがその時、押し殺すような・・・でも何処か辛そうな隼人の声が聞こえ
俺の思考も止まり 視線だけ彼を捉える。
久美子もえ?と口にして隼人を見た。

「仲間なんかじゃねぇ・・・」

怒りを押し殺すように言うと、彼はそのまま教室を出て行った。
彼に続いて、土屋達も慌てて彼を追い 教室を去った。
教室には、呆然と彼等を見送った久美子とそれを見送ったクラスメイト。

「あの二人、前 あんなに仲良かったのにな。」

ポツリと呟いたクラスメイトの一人。
久美子が聞き返せば、隼人が怒るのも無理はない・と答えた。
その話を、は知らない。


口約束だけなのに、何故か彼等を放っておけずついて来てしまったから。

教室を飛び出した隼人達について来た
彼等の行き着いた先は、何時も寄ってるゲーセン。
隼人の機嫌も何とか直り 今はビリヤードをしている。
も先程の会話が気になり、隼人を避け武田へと聞いてみた。

「なあ・・小田切って誰なんだ?」
「・・・・」

最初聞いた時、すぐに武田は答えなかった。
少し 周りを気にし、隼人達がゲームに夢中なのを確認してから口を開く。

「小田切竜っていって、俺と隼人は小学校からのダチなんだ。」

まず小学校からの、という言葉に驚く。
小学校からのダチで同じ高校・・やっぱ仲が良かったんだな。
同じ高校・・か、俺とが交わした約束。

「嘩柳院?」

俯いていた俺に気遣うような声を掛けてくれる武田。
いい奴だな・・こんな奴もいるんだな。

「平気だ、続けてくれ。」

が一瞬だけ笑むと、武田は何故か心臓がドクンと脈打つのを感じる。
ちょっと待て俺!嘩柳院は男だ!!
そんな言い聞かせを武田がしてるとも知らず、次の言葉を待つ

気を取り直した武田が自分に打ち明けた内容。
俺はとてもやり切れない気持ちになった。

お互いを信じあってるのに、小さな誤解で擦れ違ってる二人。
そして、この武田も真実を打ち明けれないで苦しんでいる。

「このままじゃ駄目だろ武田、それはおまえも分かってるんだろ?」
「・・・嘩柳院って、鋭いなぁ。」

武田が弱々しく苦笑した時、普通に聞こえていた声の中に
女の声が混じった事で 俺達の会話も中断。
振り向くと、何時の間に来たのか久美子の姿があった。

しかも、彼女の手はしっかりと土屋の手首を掴んでいる。
土屋の手には、誰かから巻き上げたらしい千円札。
コイツ・・・かつ上げしたな?

その様子を確認すると、俺と武田は土屋達の方へ駆け寄る。
俺達が駆けつけた時には 土屋はお金を返していた。

「放課後まで監視か」
「まさか・・小田切君を探してるの。彼が何処にいるか知らないかな」
「知らねぇよ」

久美子の登場に驚いた顔をしていた隼人が、再びビリヤードへ
意識を戻し 嫌味のような言葉を口にしたが
サラリと久美子に流され、再び嫌な名を聞く羽目となった。

勿論教えるつもりもないし第一知らない隼人は、キッパリと言い捨てる。
このセンコーは簡単には諦めないだろうな。
というの予想は当たり、案の定久美子は俺達へと質問を向けた。

「君達は?」

向けられた視線と言葉、しかし誰一人として答えず皆そっぽを向く
隼人の機嫌が拗れる拗れないの心配でもしてるんだろう。
久美子の視線は続いて俺へ注がれ、ちょっと吃驚した顔をした。

「何?俺がもうコイツ等といるのが意外?」
「いや?馴染めたみたいで安心したさ。」

皮肉めいた言葉、だけど久美子は心からの笑顔を俺へ向けただけで
久美子はまた視線を戻し、再度問いかける。

「クラスの奴等から、ヤバイ所でバイトしてるって聞いたんだけど本当に誰も知らない?」

ここまで聞いてるのに誰も答えない。
いっそ俺が武田から聞いた話でも教えてやりたいな。
こいつらのあいだにある、つまらない誤解と意地。

「そんなに知りたきゃ教えてやるよ」

静まった空気に、やけに響く隼人の声が久美子の意識を引き寄せた。
自分の隣に来た久美子に、滅多に見せない笑顔を向けて彼は言った。

「フィレンツェってゆう店でバイトしてるよ」

貴重な物に見えた笑顔も、俺には裏があるように見えた。
あれだけ嫌がってた相手の場所を、簡単に教えるとは思えない。
それにあの顔は、何か企んでるような感じだ。

でも 本気で小田切を心配している久美子には、それは分からない。
隼人の嘘にまんまと掛かってしまった。
行き先を教える隼人へ、何か言おうとしたが横から土屋に止められる。

これは楽しんでるな・・まあ、俺もコイツの事も隼人達の事も
完全に信じた訳じゃないし 少しは現実って物を見せるにはいい機会だろ。
このセンコーは他とは違う、本能はそう俺に告げてた。

無闇に信じるな、そんな事したらまた同じ目に遭う。
大人やセンコーを信じたばかりに、も救えず
言いたい事も聞いてもらえぬまま 俺は此処へ追いやられた。

だから俺は久美子のその後を知らない。
騙されたけど、ちゃんと竜に会えた事
『約束』を交わした事を。