花篝り
ゆらりゆらり、舞う花篝り。
会いたい思い 届けて下さい。
再び出雲での町祭りが行われる季節が巡ってきた。
平和になった豊葦原での祭り。
人々が喜びに沸き、平和を堪能する。
何にも縛られる事なく、自由に伸び伸びと生きる。
こんな世になったのも、二の姫のおかげ・・・か。
まあ、俺達が決起して同盟を結び・・共に闘って勝ち取った自由と平和だ。
存外悪くない。
「アシュヴィンさんってば」
人々の幸せそうな姿に、つい思案に耽ってしまったのか
膨れた声が隣から俺を呼ぶ。
そう、瑠璃葉に続いて現世からの客人だ。
親しくさせてもらっている者で、葵と言う者。
頬を引っ張ると反応が面白くてな、よく触らせてもらっている。
「ああすまないな、少し考え事をしていただけだ」
「考え事、ですか?」
問い掛けに一つ頷く、平和になったこの世界の事を考えて思案に耽っていた。
まあ俺らしくない話だがな。
そう言えば、葵は否定する。そんな事はないです、と。
この世界の話は、現世でゲーム?とやらになっていて
葵も全て把握しているらしい。
まあその方が連れてきやすい。
「何か見たい物はあるか?」
「うーん・・こんなにじっくり祭りって見れなかったから何処がいいだろう」
「見れなかった、とは来た事があるのか?」
「やだなぁアシュヴィンさん、ゲームでしたんだってば」
「あ、ああ・・不思議な話だな、何度聞いても驚かされる。」
「ふふっ、そうでしょう」
ひらりひらり、舞う花篝り
足元を照らす灯りの残像が、ふわりふわりと揺れ動く。
その中に溶け込むように歩く葵。
現世の者が、この豊葦原の祭りを事前に体験しているとはな・・不思議な話だ。
先に歩く背中を追いながら、はぐれないよう目を配る。
すると何か見つけたのか、葵の歩く速度があがった。
それに気づき、自分もすぐに追いかける。
「おい、あんまりはしゃぐとはぐれるだろう。」
「ごめんなさい、だってほらこれ気になったから」
「・・・・ん?」
そう言って葵が示したのは、この世界では珍しくもない勾玉の首飾りだった。
首飾りだけでなく、腕輪や耳飾りも並べられている。
「ほぉ・・意外に好きなんだなこうゆうのが」
「意外って失礼なっ、私だってアクセサリーは好きですよ!」
「あくせ、さりー?これの事か」
現世と此方では物の言い方が違うらしい。
腕輪=ブレスレット、首飾り=ネックレス、耳飾り=イヤリング・ピアス。
ああゆうのを横文字と言うんだとか何とか。
それらをまとめて称したのがアクセサリー。
何ともまあ面倒な括りだな。
まあそう言ったら言ったで、葵にどつかれそうだが。
俺の問い掛けに答えると、それからはそのアクセサリーに夢中だ。
目を輝かせている。何処の世界の女も、光物が好きなんだろうか。
「欲しいか?」
気がつくと問いかけていた。
葵も驚いたのか、此方を振り返る。
一瞬表情が綻ぶが、ハッとして口を閉ざす。
どうやら遠慮しているらしい。
全く、お前らしくないな。
「一つくらいなら構わん、此方の世界からの土産だ。」
「でも・・・高そうだし」
「人の好意は素直に受け取っておけ」
「いいの?ホントのホントにいいの?」
「さっきからそう言っている」
すると葵は、花が綻ぶように笑った。
そうして笑うと少しは見られるじゃないか。
まあ、普段からも可愛らしいがな。
数ある中から瑪瑙で作られた勾玉の耳飾りを選び
待っている葵に手渡した。
「ホントに買ってくれた!!有り難うアシュヴィンさん!」
「本当に、とは疑っていたのか?」
「あ、そうじゃなくて・・本当に買ってくれるとは思ってなかったから」
「面白い奴、俺はこう見えても紳士だぜ?」
くすっと笑って耳飾りを受け取る葵。
ピアスとか言うハイテクな物は売っていないから、耳朶に挟むタイプだ。
嬉々としながら耳飾りを手に取り、キョロキョロする葵。
どうやら早速付けてみたそうだな。
「貸してみろ、この世界に鏡なんて物は少ないからな俺がつけてやる」
そう切り出したら葵の頬が少し染まった。
偶に見える少女らしさ、そのギャップが心を温かくする。
葵の手から耳飾りを預かり、髪を耳に乗せ耳を露わにさせ
耳朶に金具の部分をサイドから挟むように付ける。
痛まないか気になったが、平気そうなのでもう片方も付けてやる。
「どうだ?痛んだりしないか?」
「うん、大丈夫。どうどう?似合ってる?」
「ああ色の具合がお前の肌と調和して、勾玉が引き立っていて似合っているぞ」
「本当?有り難うアシュヴィンさん!」
お礼ばかり言う姿が可愛くて、自然と笑みが零れた。
漸くリラックスしてきたのか、葵は別の露店へと俺を連れ歩く。
俺自身もこんなに祭りを堪能出来るとは思っていなかったな。
それもきっと、葵と過ごしたからかもしれん。
「今日は有り難うな」
「え?」
「お前のおかげで俺も存外楽しめた」
「そんな、私は何もしてませんよ~?」
「ふ・・気づいてないのならいい、暗くなってきたからな足もとに気をつけろ?」
「ふふふーアシュヴィンさんがいるから大丈夫ですよ」
「その根拠は何処から来るのだ?」
「そんな事はいいから次はこっちを見ましょう!」
「お前はつくづく面白い奴だ」
また面白いって言うー、と葵に叩かれながらも豊葦原の郷土料理を売っている出店へと引っ張られていき
祭りの時間は過ぎて行った。
ゆらり ゆらり 舞う花篝り
会いたい思い 届けて下さい。
Fin