謀―はかりごと― 今日は私にとって、特別な日。 それは、大好きなヒノエ君の誕生日だから。 腕によりをかけてバースデーケーキ!・・と言いたい所だけど。 この世界にそれを期待するのは間違ってる。 まあ・・譲君に頼めば、無理じゃないと思うけど そんなに頼ってばかりでは駄目。 他の男の子の為に、誕生日ケーキを作らせるのは バレンタインデーの時で充分だよ・・・ あれは失礼だったよね、と心で反省。 彼は優しいから文句も言わずに手伝ってくれた。 後で何かお礼した方がいいかな。 譲君の事より、今は明日の事を優先しなきゃ! 今日から四月・・・四月の一日・・って言えば?? エイプリルフール!! とは言っても、そんなのがあるのは私がいた世界でだけで この京にはそんなイベントはない。 ふふーん・・普段はヒノエ君に敵わないけど これを機に一泡吹かせられるかも♪ 今日だけは嘘をついてもいい日。 この京の人達は知らないから、上手く行くかもしれない。 でも一応、私なりのプレゼントも用意しておこう。 てな訳で私はそのプレゼントの用意に急いだ。 「希望・・聞いておこうかなぁ〜大体予想はつくけど」 あの性格だ、彼が言いそうな事なんて容易につく。 春の京での安らかな日々。 骨休み中のヒノエ君を探し、辿り着いた先は大原。 単独行動を好む彼、周りには人の姿はない。 これなら聞きやすいかも。 そう思って、ゆっくりと背後から近づく。 静かに歩いてなるべく気配を消して、近くなったヒノエ君の 肩に手が触れるか触れないか・・という時。 突然振り向いたヒノエ君に、伸ばした手を掴まれ引き寄せられた。 「わっ!?」 「驚かそうとしてたみたいだけど、甘いね姫君。」 引き寄せられ、ぐっと近づいたヒノエ君の綺麗な顔。 紅い双眸が甘く微笑む。 悔しいなぁ〜どうして分かったんだろう。 裏をかこうとしても、先回りされて見破られてしまう。 そんな感じ。悔しくて頬を膨らましても、ヒノエ君の色香漂う 表情に負けて それも続かない。 気配を消していても、おまえの事は分かっちまう。 草がおまえの体を触る音、布の擦れる音。 それから・・の体から溢れてる香り。 春の風のように清々しい香り・・これはおまえにしかない。 捕らえた手首を開放しながら、ヒノエは眼下のへ問いかける。 「所で、わざわざ俺に会いに来てくれたのかい?」 そうだとしたら、期待してしまいそうだよ。 華のような姫君に、探しに来てもらえるなんてね。 淡い期待を胸にすると、口許も緩んでしまう。 「あのね、ヒノエ君が今欲しい物を聞きに来たの。」 単刀直入な質問・・これを聞きたかったのは本当だしね。 この言葉を口にした途端、ヒノエの表情に微かな変化。 ・・・何を考え付いたかは大体分かる。 ゆっくりヒノエの唇が開き、私の予想通りの言葉が出てきた。 「俺が一番欲しいのは」 予想通りの答え、分かってるはずだったけど不覚にも心臓が跳ねる。 甘い声と甘いマスク、低い美声から紡ぎ出される私を欲しいと望む言葉。 きゃーーーーー分かってたくせに駄目だ! 駄目よ!此処でヒノエ君に飲まれちゃ! 今回は私がヒノエ君を驚かす番なんだから! 心の中で決意し、少し演技を(頑張って)入れて答えた。 「わた・・私??」 「勿論 俺はが手に入れば他に何もいらない。」 頬を染め、問い返す私にあくまで真剣にヒノエ君は答えた。 騙すようで忍びないけど、今回だけは許してね。 「ヒノエ君が望むなら・・いいよ?」 それを聞いた俺は、一瞬驚きで頭が真っ白になったくらい。 頬を紅く染め 視線は外さず下からの戸惑いがちの表情。 その全てが俺を誘ってる。 白い肌が上気し、うっすらと染まる様は何とも艶やかで艶めかしい。 もうそれだけで、どうにかなってしまいそう。 「本気かい?・・それは俺に全てを捧げるって事だぜ?」 私の言葉で、魔法にかかってしまったかのように ヒノエ君の瞳が妖しさを増し、熱い物に変わる。 彼の片手が、サイドの髪を潜って私の頬に触れる。 ドキン・・! さっきよりもずっと強く、胸が高鳴った。 この顔は・・・・本気モード?? 少しの危機感を私が感じてるうちに、ヒノエ君の手は 頬から私の唇へと動き、もう片方の手は私の腰へ・・・ 「待った!ヒノエ君!此処は外だよ!?」 「そんな事分かってる・・なら、褥ならいいのかい?」 いやーーーーちょっと待ってって!強引なのは分かってたけど この展開は速すぎるって!! 「姫君が誘ったんだ、俺をその気にさせといて待ったはなしだよ?」 それはそうだけど、いいよって言えたのはエイプリルフールだから・・ って・・・この言葉世界では通用しないんだった。 ど・・どどどどどうしよう〜!! こんな事になるなんて!自分の甘さに情けなくなる。 これじゃ、本来のプレゼントだって渡しづらい! だからって拒めない、そんな事したらヒノエ君を傷つけてしまう。 嫌いな人だったら、いやだって叫んで突き飛ばせるのに。 大好きな人だから・・尚の事出来ない。 どうしたらいいの〜 どうする事も出来ず、頭の中がパニックになって・・・ そんな時、ヒノエ君の動きがピタッと止まった。 気になって顔を上げると、真っ直ぐ見つめる紅い目と視線が合う。 「泣くな・・がイヤならこれ以上しないよ」 そう言って、私から離れようとする。 え?私・・泣いてなんか・・・ 思って頬に手を当てて、初めて自分が泣いてる事に気づいた。 駄目じゃん!絶対ヒノエ君を傷つけたよ。 慌てて涙を拭うと、背を向けたヒノエ君へと近づき 自分が考えてたバカな事を、全て彼に話した。 傷つけたままなんてイヤだから。 「ごめんなさい、嘘・・ついて。」 「やっぱりね・・どうもアッサリ許可したはずだよ。」 背を向けたままで私を見てくれない。 「でも、ヒノエ君を好きなのは本当だよ?だから誕生日祝いたくて」 「その気持ちは嬉しいけど、嘘をつくのも関係があるのかい?」 口調は優しいけど、傷つけた・・怒らせてしまった。 許してくれなかったら・・・どうすればいいんだろう。 「説明しづらいんだけど、この四月一日って私の世界だと エイプリルフールの日でこの日だけ嘘をついてもいいって日なの」 あまりにも辛くて、全てを打ち明けた私の言葉に またもヒノエ君の反応がなくなる。 呆れて何も言えなくなってしまったのだろうか? とっても大切な事を、嘘として約束してしまった私に。 「ふーん・・・さっきのは嘘だったって訳ね。」 「う・・ごめんなさい、本当はドキドキしてまだ怖くて・・」 もう完全に嫌われたと思った。 自然と涙が溢れて、本来のプレゼントを持つ手も震える。 背を向けていて、が泣いてるのが伝わって来た。 嘘だったのはショックだったけど、やっぱり泣かれるのはもっと辛い。 も嘘だとしても、頷く事は勇気がいった事だろうし それを打ち明ける事も同じで。 たとえ嘘をつかれたからって、俺のへの気持ちが変わる訳でもない。 変わらず愛しい存在だという事に。 「可愛らしい謀に免じて今回は待つけど、今度は待たないからな?」 そう言った声がやけに近くで聞こえ、フワリとヒノエ君に包み込まれた。 温かくて力強い腕・・失わずに済んだ温もりに私は安堵し 零れる涙を止められずにいた。 「さて俺の姫君、その手に隠し持ってる物の説明をしてくれるかい?」 ・・・バレてましたか。 流石ヒノエ君・・誤魔化し切れなかったか。 私ももう諦めて、素直に彼の前へ袋を取り出した。 「えっと・・・誕生日、おめでとうヒノエ君。」 「これを俺に?嬉しいね・・有り難う姫君。」 袋を受け取りながら、さり気なく手に唇を落とすヒノエ君。 吃驚して袋を落としそうになったけど、何とか死守。 顔を真っ赤にした私を楽しそうに見て微笑むヒノエ君。 早々と袋を開けて、中身を取り出す。 「・・・これは、腕輪?」 取り出されたのは紅い石を皮紐に通し、リング状になってる装飾品。 「うん・・・ヒノエ君お洒落だし、似合うだろうなって・・・」 「一応聞くけど、の手作り?」 「やっぱり下手だった?私アクセサリーって作るの初めてで!」 桜色の頬がもっと染まって、俺の言葉で様々な色に変わる。 その姿に、思わず俺の口許も緩む。 「でもね見て!私の分も作ったの、これでお揃い。」 恥ずかしがりながら、衣の袖をまくってブレスレットを見せる。 の石は、エメラルド。 とても似合う色だと、素直に感じた。 同時に言葉にはしきれない程の愛しさも。 それはすぐ行動に出た。 目の前の華奢な体を抱き寄せて、耳元で甘く囁いてやる。 「おまえを褥で抱く時、この石も艶やかに艶めくのを見るのが楽しみだよ。」 俺の言葉で、おまえの頬が染まるのがもっと見たい。 俺の手で どんな色にも染まるおまえの姿。 この手で・・俺色に染めてみたい。 初めてここまで思わせた女。 もう 俺は二度とこの華を手放せないだろう。 END |