謀りの糸
「だから刑事さん、コイツ等の前でちゃんと筋通して下さい。」
夕暮れの近づく警察署前、よく通る久美子の声。
その後、久美子は刑事に頭を下げ お願いします・と頼んだ。
たかが生徒の為に、そう思うだろうが達は
勿論驚いたけど 止める事なく、その背を見守った。
ついには頭を下げられ、刑事も立ち去れなくなり
しばらく歯を噛み締めたりしたが、ゆっくりと俺達の前に来ると
少し屈んで・・・・
「・・・すまなかった」
心が篭ってないと言えばそうだが、あの刑事が謝った。
それだけでも、は久美子の力だと思った。
一言だけ告げると、足早に刑事は署内へと消える。
隼人達は、吃驚した目で刑事を見送って・・・・
隼人が学ランの端をグッと引っ張るのを合図に
クラスメイト達が喜びの声を上げた。
ワイワイと皆が騒ぐ中、と竜は冷静に受け止めている。
竜は単にノリが悪いだけだと思うが・・。
は、とても喜ぶ気になれなかった。
これから必ず、刑事から聞かされた奴等が接触するだろう。
おちおち構えてなどいられない。
教頭が久美子に何やら耳打ちしていたが
それを気にする事もなく、クラスメイト達に揉みくちゃ・・・
とっても喜べないんだけど、盛り上がりの最中に連れ込まれ
同じく盛り上がってない竜も、一緒に揉みくちゃになってた。
その後、久美子の案内で一昨日6人で行ったあのラーメン屋へ行く。
ラーメンを食べてる間も、俺の頭の中は別の事でいっぱい。
「、ヤンクミの奢りだからいっぱい食おうぜ!」
「奢り?じゃあ、食べなきゃな!」
「そうそう!はラー油入れる?」
「おう、サンキュな浩介。」
ぼけーっとしつつ、ゆっくり麺を口に運んでいると
ズシッと肩に重みが掛かり、パッと見るとタケが寄り掛かってる。
タケの言葉で、取り敢えず食べ進める気になった。
少し表情に笑みが戻ったタイミングで、浩介がラー油を手渡す。
軽く笑って受け取り、少しだけつゆの中に入れた。
それから、打ち上げ的な雰囲気のまま その日は過ぎた。
隼人達とは別れ、は深く考え込んだ顔で夜道を歩く。
問い詰めた、とゆうか聞き出した刑事が言った話。
予想通り、俺を見張ってるのは竜神学園の奴等だった。
何の為につけ回してるのかは分からない。
こうして今、一人で歩いてるのはある意味危険なのかもしれない。
危険だが、接触はし易いだろう。
此処で接触出来れば、誰一人 巻き込まずに済む。
「卒業もしないで人の事つけ回してるのって、暇だからか?」
「さぁな・・でもそれっぽかったりしてな。」
やっぱり?そう思うよな〜・・・って
「うわっ!?おまえ、何で此処にいるんだよ!」
「何でって、ジャンケンで俺が送る事になったんだよ。」
・・・ちゃっかりジャンケンとかしてんなよ。
それに無理矢理参加させられてる姿が浮かび、は小さく笑った。
笑ってるのに気づくと、くしゃっと竜はの頭を撫でる。
竜にそうやられるのは初めてで、ちょっと吃驚した。
でも そうされるのが正直嬉しい。
「おまえ、何時も此処通ってんの?」
「え?ああ、近道だしな。」
ふーん、などと他愛ない話をしながら道を歩く。
凄く自然な動きで、竜は車道側を歩いてくれた。
が近道だと言った道は、幅も狭く 人か自転車しか通れない。
そこを出ると、広い通りに出る。
今俺達はそこを歩いていた。
九時を回った今では、スッカリ人通りはない。
こうして近くで見て思う、竜が来てくれてよかったって。
一人で帰れるつもりだったけど、怖い・と思わない自信はなかった。
自分を包んでしまいそうな闇、無音の恐怖。
勝手に怖い方へと考えてしまう思考。
沈黙の中歩く達、その前に何かが飛び出す。
「きゃっ!?」
「!?」
しまった・・・思わず飛び退いて、ガシッと横にあった物に 抱きつくようにした。
突然の事だった為、女言葉になってしまった。
飛び出したのは野良猫、の声に少しビクッと此方を見てから
そそくさと路上の方へと姿を消す。
がしがみついたのは、竜の腕。
掴まれた竜も、その顔は驚きでしばし止まっている。
それもそうだろう、男として見て来た(最近は違うけど)奴が
いきなり可愛らしく叫んだのだ、驚かない訳は無い。
竜はふと、掴まれた右腕を見下ろす。
猫を見送り、竜へ視線を移し 気づく。
正しく言うと、視線を辿って気づいた。
「わりっ!」
「別に・・つーか今・・・」
「言うな!!空耳だ!」
竜が言いたい事は、すぐに分かった。
どうする?此処で言っちゃっていいのか??
誤魔化すのは苦しいよな?バッチリ聞かれたはずだし。
どうしよう!!今までずっと隠し通して来たのに!
動揺するを見て、黙ってはいるが竜も混乱していた。
見た時から女ッポイとは思ってたが・・・・
さっきのは決定打じゃね?
でもこの様子からすると、バレちゃマズイみてぇだな。
「・・女っぽさが際立つから、その反応マジ笑えねぇ」
「へっ?ああ、そうだよな!わりぃわりぃ!」
何か知らないけど その言葉で凄く助かった。
絶対気づいたと思ったのに。
気づかない訳ねぇじゃん、なんかさその先聞くに聞けなかった。
はゆっくりと腕を解き、ぎくしゃくと歩き出す。
竜は竜で、敢えて突っ込まず 後を追って歩き出した。
気づきはしたけど、だからって態度を変えるつもりはない。
今は言ってくれなくても、何れ話してくれる。
竜はそう納得づけて、の傍にいる事を決めた。
☆☆
マンションに着いた、ベッドの上に鞄を投げて
同時に深い溜息が口から出る。
いよいよ過去の因縁と対決するって時に、自分がボロを出すとは。
竜の事は信じてる、けど今日のはマズかった。
あそこで猫なんか出てこなけりゃ・・・
何て思っても、やってしまった物は仕方ない。
まあ・・・つっちーや浩介みたく、ふれ回ったりしないだろうが
こうなってしまった今、ちゃんと話さなくてはならないと思う。
俺自身でアイツ等を信じると決めた。
だから、隠してる事全てを 打ち明けてしまいたい。
話して楽になるんじゃない、在りのままを知ってもらいたい。
逃げてばかりでは・・・前には進めないもんな。
その日の夜は、ベッドに入らず 天井を見上げたまま寝入った。
早速翌日に、謀りの糸に絡め取られるとは知らず。
のマンションから朝早く立ち去る人影。
それは二つあり、走る顔も不気味なくらい活き活きとしていた。
やっと掴んだ情報・・これを報告すれば、頭も喜ぶだろう。
走りながら、二つの影はそれを確信して笑い合った。
そんな事とは知らず、目覚ましで起床した。
時計を確認し、二度寝したいのを堪えながらベッドから降り
慌しく制服に着替え、しっかりナプキンを持つと
朝食もまばらに 忙しなくマンションを出た。
何時もと何ら変わらない一日の始まり。
未だ動きを見せない者達を警戒しつつ、俺は学校へ急いだ。
がマンションを出たのを確認する人影。
それは死角になる電柱から現れた。
「しっかりやれよ?失敗したら・・分かってんだろうな?」
「・・・はい」
隠れていたのは二人、一人はガラの悪い青年。
その青年に襟首を掴まれるようにして出て来たのは
と同じ学ランに身を包んだ青年。
執拗に念を押すと、不良青年は黒銀の青年を突き飛ばすようにして歩かせ 学校へ向かわせた。
役者は揃った・・・後は、行動を起こすのみ。
アイツの震え上がる顔が早く見たいぜ・・・。
気弱そうな青年を差し向けた後、残った青年は妖しく微笑むのだった。
その糸が、獲物を捉えるのは近い。