初めての拒絶
教室を飛び出したタケを、懸命には追いかけた。
がむしゃらに走るタケの足は速く、すぐには追いつけなかった。
「タケ!!タケってば!」
追いつけない分、少しでも落ち着かせようと名前を呼ぶ。
しかし、タケは立ち止まったりしなかった。
追いかける事しばし、やっと追いついたのは何処かの公園前。
ハァハァ・・と呼吸を整えた。
再度前を見てみれば、立ち止まってるタケの姿。
良かった・・止まってくれたみたいだ。
それに安堵して、俺はゆっくりタケに近づき
ポンと肩を叩いてから、ちょっと間を置いてから口を開いた。
「痛くなかったか?」
「・・・・いてぇよ」
「そうだよな、けど・・ああゆう事しても好きな人に
自分を意識して欲しいって気持ちは分かるよ。」
励ますつもりで言った言葉。
バイト先でもタケの気持ちに同意してたから
タケは当たり前のように、有り難うって言ってくれると
俺はこの時まで思ってた。
でもやっぱり、甘かったんだって思い知らされる。
タケはすぐに返事を返さなかった。
「ホントに分かるんかよ・・・」
「え?」
「はホントに好きな奴いんの?」
「え・・それは・・・、けど分かるよ?」
しばらくして、搾り出すようなタケの低い声を聞いて
俺はギクッと胸が鳴るのを感じた。
てゆうか、タケのマジな顔・・初めて見たかも。
好きな奴いんの?って聞かれた俺、いるよ!と即答は出来なかった。
だって俺、タケ程真っ直ぐじゃない。
でもなんか、聞かれるうちにズキズキと心が痛み出した。
「は女だろ?それなのに男の俺がする事なんか
弱い男がする卑怯な手なんか、分かる訳ねぇじゃん!」
気にしていた性別の事、タケに言われると深く胸に刺さる。
『分かる訳ねぇじゃん』
その言葉が、拒絶されたような寂しさを突きつけた。
「そんな事ないよ、タケは弱くなんかねぇって!」
タケに自分自身まで拒絶して欲しくなくて
辛そうに叫ぶタケの腕を、力強く掴んで聞かせた。
「無理に分かったって言われても、俺が惨めになるだけだよ!」
「そんな風に思ってねぇよ!どうしてマイナスに考えんだ!」
「どうせ、俺はそうだよ・・同情なんかで、分かったような事言うなよ!!」
精一杯の力で掴んだタケの腕、しかしそれに勝る力で
タケは俺の手を振り払い、暗闇へと走って行ってしまった。
追いかけたかったのに、俺はすぐ追いかけられなかった。
タケの初めて見せた姿と、初めてぶつけられた言葉。
同情なんかじゃないのに・・・本当に心配だった。
けれど、タケはそれが重かったの?
てゆうか・・・やっぱ俺が一番最低かも。
タケは、俺の迷いとかお見通しだったのかな。
俺・・ちっともタケの事、分かってやれてなかったんだ。
出会ってからずっと、俺に懐いてくれてたタケ。
過去の因縁を断ち切った時も、無理しないでって言ってくれたのに。
ずっとずっと、タケも隼人も竜も浩介もつっちーも過去を知る前からも傍にいてくれた仲間。
『オマエこそ、俺達と結んだ絆 簡単に断ち切んなよ』
前 竜が俺にくれた言葉。
駄目だ・・俺、俺が一番最低。
あーもう!どうすりゃいい??完全にタケに嫌われた。
あんな事、軽々しく言うんじゃなかった。
『そうゆう気持ち、俺も分かるし』
そうゆう気持ちって何?本当に俺分かってたん?
でもさ・・好きな人に、自分を意識して欲しいってのは
分かるつもりだよ?でもホントは、分かってなかったのかな。
「タケ・・・」
初めてタケから拒絶された辛さ、自分の甘さに
気づくとは1人、その場で涙を流した。
タケに振り払われた手が、凄く痛くなった。
同時に、暗い記憶がの頭に甦る。
の事で家を出ろと言われた時、抗議の為に父親の腕を掴み怒鳴った時だ。
父親は無言で、さっきのタケみたいに
俺の手を振り払ったんだ。
あの時の拒絶が、今と重なって怖くなった。
もうタケは、俺の事を仲間と呼んでくれないんじゃないかって。
そう思うと、余計自分のした軽率さが腹立たしくなる。
「♪〜♪♪♪」
涙も拭わずに、ブランコに腰を下ろした時
突然ケータイの着ウタが流れた。
誰もいないと思ってた空間に、機械的な歌が流れ
ドキッと肩を震わせてから、ポッケに入れてあったケータイを出した。
画面を見ると―隼人―の文字。
どうしてか、胸がギューッとなった。
メールじゃなくて、電話だってのが緊張したけど通話ボタンを押す。
『もしもし、?』
「・・・ああ、俺だけど。」
『タケ・・どうした?』
その名が出た途端、さっきの悔しさが甦ったのと
隼人の電話越しの声が、ヤケに優しい事とでぶわっと涙が浮かぶ。
何だよこの涙腺!脆すぎ!!
泣きたくないのに、情けない声を聞かれたくないのに
どんどん視界は滲んで来て、拭っても拭っても
涙は止めどなく、俺の頬を伝った。
「追いかけたけど・・・駄目だっ・・た」
『・・・・・』
マズイ感じで、しゃくりあがった喉が言葉と途切れさせた。
そのタイミングで、電話口の隼人が黙る。
あれ?どうして黙るんだ?
突然黙った隼人に、少し怖くなった。
追いつけなかった事に何か思ったのか?
ノロマ・・・とか?
でも隼人じゃなくて、竜が言いそう。
『何泣いてんだよ、何かされたんか?』
「え?」
真面目に問われて、その声の色っぽさにドキッとした。
隼人のくせに、竜並みに鋭い問いかけ←結構失礼。
さっきのでバレた?
鋭さのあまり、俺は一瞬声が出なくなった。
どうしてこうゆう時に限って、鋭いんだよ〜
嬉しいのか?
こうやって気にしてくれるのが?
でも俺さ、その優しさに甘えていいんかな・・・
タケの事すら、分かってやれなかったのに。
仲間として、ちゃんと分かってやれんかった。
「何もねぇよ・・気にすんな」
『・・・ふざけんなよ、声震えてんじゃんバレバレ。』
「震えてねぇって!」
『1人で抱え込むなよ・・今ドコ?』
「言わねぇモン」
『ストーカーするぞ?言わねぇと。』
ビクッ・・・隼人ならマジでしそう。
ジョーダンっぽく聞こえたけど、それくらい気にしてくれてるのが分かった。
隼人の声が、体に浸み込む。
貴方の声に侵食される。
目を閉じると、すぐに隼人の姿が瞼の裏に浮かんだ。
どうしよう・・・傍に、傍にいて欲しい。
「公園」
『え?』
「隼人の好きなキリンさんのある公園だよ」
『よっし、すぐ行くから待ってろ。』
場所を告げると、こっちの返事も待たずに電話が切られた。
きっとああ言ったからには、すぐにでも来るんだろう。
ホントに仲間想いだねぇ、隼人は。
それよりも、隼人が来る前に泣き止んどかないと・・
泣いたのバレてるけどさ。
心配・・・かけたくねぇんだよな。
けど、思ったよりも隼人の到着は早かった。
「!」
「え!?もう来たのかよ」
わたわたと隼人の声が聞こえた事で、心臓が跳ね上がる。
急いで涙を拭って、隼人の姿を探した。
やっと見つけた時に、すぐ目の前に隼人を見つけた。
しかも、まだ思い切り目が腫れぼったくて
泣いたの丸分かりで・・・俺は急に恥ずかしくなった。
「やっぱ来んな!」
「はぁ!?今更ふざけんなよ。」
「来んなよ、俺今マジ駄目だから・・甘えちまいそうだから」
「・・・甘えろよ」
遠くから見ても、凄く小さくて壊れそうに見えた。
ずっと心配だった、タケと山口のやり取りを聞いてる時から。
タケを追いかけてって何があった?
折角来れたのに、今更来るなはナシだろ。
それに、そんな姿見て帰れる訳ねぇだろ!
隼人はの制止を振り切り、ブランコの前にいるへ走った。
近づく程に、涙に濡れたの目がよく見えて
1人で泣かせてしまった後悔が、心に押し寄せた。
「来んなって言っただろ・・・」
「が泣いてんのに、放っておける訳ねぇだろ。」
必死に泣いた目を隠そうとするを見て
とてつもなく、愛しさが湧き上がって来た。
強がるなって言っても、強がろうとする姿。
とっても愛しかった。
しまいには擦り始めたその手を掴み、そのまま引き寄せた。
抱きしめたの体が、緊張するのが分かる。
その体がとっても小さくて、余計愛しくなった。
このまま、手放したくなくなった。