不安の具現化
宵闇に包まれた部屋。
寝る寝所は同じだから、隣には現八も眠ってる。
疲れたらしくてすぐに寝入ったのを感じた。
その凛々しい寝顔を見てから私も寝入った・・・
ヤミに沈んだ意識、それから間もなく夢を見る。
「現八?現八っ」
闇の中に浮かび上がる背中。
紛れもない現八だ・・
呼びかけると振り向く。
けど少しも近づけない・・・・
触れそうなのに触れない。
自然と不安に駆られる。
声も届かない?
その夢は玉梓に見せられた悪夢と似ていた。
大事なものが失われるような喪失感。
呼んでも反応してくれない、どうしてだ?
聞こえてるはずなのに・・
叫んでももう振り向いてくれない・・・っ
「嫌だっ、現八!!」
「―――!夢だ。落ち着け」
「――っ!?」
追いかけようと伸ばした手を、大きな手がしっかりと握る。
それと同時にぎゅっと抱き締められた。
現八の匂いに包まれて不思議と安心した私は落ち着きを取り戻す。
魘されたを落ち着かせた現八だったが
現八自身も驚いていた。
今朝から元気なく、口数も少なかった。
帰宅してからもそれは変わっておらんかった。
気に掛けていたが・・・悪い夢でも見たのだろうか・・・?
しかもワシの。
いきなり名前を叫ばれるのは意外と驚く。
落ち着かせようと抱き締めた小さな体。
胸の鼓動が伝わって来るほどの胸の鼓動は動揺している。
「現八が・・私を置いて行ってしまう夢を見た・・・」
「ワシがお主を?」
「何処へも行かないよな、現八・・」
「当然じゃろう、ワシは何処へも行かん」
「本当?」
抱き締めた腕の中で不安げなの声が聞こえる。
魘されていたのはどうやらその夢のせいらしい。
ワシがコイツを置いて何処かへ・・・・・
全く・・それは夢で、現実の訳がないじゃろうに
相変わらずは真っ直ぐで純粋なままじゃな。
感情を取り戻し記憶をも取り戻しても、何も変わらない。
だから手放したくない気持ちも変わらない。
もう一度言わねばならんか?
言うには何とも躊躇われるが、震えるをそのままには出来ぬ・・
決意した現八、もう一度抱き締めてから言った。
「本当じゃ、ワシは・・を手放せん・・・ずっと傍に居れと言うたじゃろう?」
「・・・・」
「ワシを信じろ」
「うん、起こしてごめん現八」
「構わん、もう休め。ちゃんと傍にいてやる」
温かい温もりが傍にある。
大好きな現八の清潔な香りに包まれると、驚くくらいに安心出来た。
恥ずかしそうに傍に居れと言ってくれた様が可愛くて和んでしまう。
そうだ、あんなのは夢に決まってる。
現八は嘘を吐いたりしない、今だってこうして傍にいてくれるんだ
不安に思う事なんて・・・・ないよな?
ぎゅっと現八を抱き締め、厚い胸板に顔を埋めると
すぐに眠りへと導かれた。
++++++++++++++
そして翌朝・・・
目覚めた私が隣を見ると、其処には―――
「起きたようじゃな」
普段ならもういないはずの現八の顔。
何か・・・・朝からむっちゃくちゃエロイ。
何って雰囲気?
寝起き+胸元の肌蹴た着物+少し掠れた低い声=エロイ
それと・・・何か分からないけど幸せだなあとか思った。
掛けられた言葉に頷いてから抱き着く。
去年はまさかこんな未来が待ってるなんて思ってもいなかったのに
出逢った時から惹かれていた現八と結ばれるなんてさ
そう言えば・・いつもはもう起きてるのに
今日は出かけたりしないのだろうか?
「今日は休みじゃ」
「えっ、そ、そうなのか」
「最近共に過ごせなかったからな」
凄い嬉しいぞ・・・・
わざわざ父上に話してくれたんだろうか?
ふと見せる優しさが嬉しくて胸が温かくなる。
暫く幸せな時間を満喫していた私達。
太陽が真上に来る前に起きようかと思い立ち
寝巻きから正装に着替える。
この時代に普段着なんて物はない。
だから寝巻き(肌襦袢)を変えれば豪華絢爛な姫としての着物に着替える。
町人だとすれば、寝巻きすらないけど・・・・
勿論現八も正装である着物へと着替えてるはず。
女中さん達にてきぱきと着替えさせてもらう
自分でやろうとしたら怒られたから口は出さない←
薄青の着物を羽織り、その上に薄布の内掛けを重ねる。
いい感じに下に着ている薄青が透けて綺麗。
全て着替え、広間へ行くと既に父上と家来達
そして同じく着替えを済ませた現八が
挨拶を済ませると、父上は言葉を濁らせ
「来たようだな、姫」
「はい・・父上達もお揃いで・・・あ、お早うございます」
「うむ、今日はお前達に聞きたいことがあってな」
「何なりと」
「はい」
「それはだな。その、世継ぎの方なんだが・・・我々も皆とても楽しみにしておってな」
とんでもない、あ、いや・・まあ至極当然な事を口にされた。
瞬間私も現八も思わずその場で固まった。