少しだけ、勿体無いなと思った。
だけど今は大人に任せるべきだと思ってた。
俺らはまだ子供だったから。
だから時々様子とか見に行って
偶に彼女の歌を聴ければそれでいいんだと・・・・
虹色の旋律 三章
一度聴いただけなのに完璧に歌いこなしたさん。
透明度のある歌声に、無意識に鳥肌が立つ。
吸い込まれそうなその歌声は、一瞬で俺の意識を惹き付けた。
これってアレだ、絶対音感って奴。
譜面を見ただけで・・とか、一度聴いただけで・・・って奴だよ・・
それに声量が凄い。
ボイトレ受けたらもっと上手く声が伸びそう・・
これじゃあ合唱にはむかねぇだろーな・・・・
ずっと聴いていたいくらいに透き通った綺麗な声。
そのの声を亀梨の他に聴いていた人物がいた。
車から降りた彼らのマネージャーその人である。
「待たせたね、その子がその・・・ハイカラさん?」
「あ、四月一日さん。そう、この子」
今着いた風を装って亀梨とへ駆け寄る。
取り敢えず亀梨は、四月一日(ワタヌキ)にこう説明してあった。
コンビニ帰りに女優の卵さんが衣装のまま迷子になってたから保護したけど、どうしたらいいか分からない。
我ながら上手い事を思いついたと思った亀梨。
四月一日が今の歌声を聴いていたなどとは露知らず。
この子、と言って亀梨が会わせた女の子は目を見張るくらいの美女だった。
ヴィジュアルも合格だな・・それにこの中性的な容姿と・・・透明感溢れる高音の声。
女優の卵にしとくのは勿体無いぞ・・・・
何とかして売り出せない物かと人知れず頭を捻る四月一日。
そんな事を悩んでるとは知らない亀梨は、マネに問いかけた。
「何かお金ないみたいで帰れないんだって、どっかいいホテルないっけ」
「ほー・・・・?(キラーン)それならいい所がある、俺に任せといてくれ」
「流石マネ、じゃあこの子宜しく。ホテル決まったら連絡して?保護した身として気になるからさ」
「分かった。明日の仕事は雑誌の撮影だから遅れないようにな?」
「平気平気」
「あの、亀梨さん。色々と有り難うございました。赤西さんにもそう伝えて置いて下さい」
「ん。じゃあまたな」
嘘は言ってない。
多分この時代のお金は持ってないと思ったから咄嗟に出た。
でもマネさんは気にならなかったらしく、ホテルへ連れてってくれると約束。
決まったら連絡するように言ったのは純粋な善意と好意。
去り際にさんを見たら、本当に感謝してくれてるみたいで丁寧なお礼を言われた。
戻ったら仁にも話といてやろう。
マネさんの車に興味津々な顔をして乗り込んださんに手を振り、走り去る車を見送った。
だから気付かなかったんだよね〜・・・・・
四月一日さんの企みに←
「その格好だと・・ドラマの撮影?」
「どら、ま?」
「え・・・まさかドラマ知らない?」
「田舎から出て来たので・・・すみません」
走り出してから問われた言葉に、つい疑問符を浮かべて答えてしまった。
案の定不思議そうに見られてしまう。
私が過去の人間だと知られすぎるのは良くない気がして・・
でも・・・あの二人が信頼してそうな人だし・・・・
取り敢えず誤魔化したけど、幸いそれ以上質問はされなかった。
ほてる、と言う所は寝泊りの出来る所なのでしょうか?
だとするならお金が要るのでは?
断るにしてももう向かってしまっているし・・
それに断ったら失礼になる。
ううん、それ以前に、亀梨さんの信頼してる方を疑うなんて。
お金は・・どうにかして返せばいいかしら・・・方法なんて思い付かないけど・・・・
戻れるのか分からない今、この時代で生きるしかないんだわ・・
そしたら働き口でも探して宿代をお支払いしましょう、それには此処に慣れる事からしなくては。
不安で仕方ないけれど、そうするしかない。
郷に入れば郷に従えと言うし。
それにしても、この乗り物は何て言うのかしら・・・・
馬車よりも遙かに早い。
何よりも違うのは、星が見えない事。
夜景には高い建物が聳え立つ事で見えないわ。
空気も少しあの頃とは違う気がする・・
「そうか、じゃあ随分景色も違うだろう」
「はい・・・そうですね・・夜空が霞んで見えます」
「きっと東京の街が明るいせいかもしれないね・・・スモッグも酷いし」
「私の住む土地は、夜は真っ暗でしたから・・そのすもっぐ・・・とは何ですか?」
「じゃあいい所だったんだろうねぇ・・・・スモッグってのは、正確に言うと光化学スモッグって言ってね・・車の排気ガスとかで空が濁るって言うか公害だよ」
公害・・・・あの頃の東京にはなかった言葉だ。
平和そうに見える未来には、聞いた事のない公害が発生しているのね・・・
イタイイタイ病が富山で流行ってるくらいしか知らなかっただけに驚いた。
「そうなのですか・・私、イタイイタイ病くらいしか知らなくて」
「あ〜・・・あの四大公害ね」
四大公害?あれ以外にもあったのだろうか?
思考を巡らせ黙った。
四月一日(わたぬき)は別の事を思案している。
社会科が得意なのかな・・今時珍しい女優志望さんだ。
まあただ容姿が良くて歌が上手いだけじゃ今はハクがつかないからなあ・・・・
この子の場合そんなのなくても売れそうだけど・・・
「ホテルに行く前にちょっと会わせたい人がいるんだけどいいかな」
「会わせたい人・・・・ですか?私とも会ったばかりなのにそのような殿方が?」
「うんまあ・・・って、殿方??随分古い言い回しだなあ・・歴女系?」
「れ・・・・れきじょ・・とは何なのでしょう?」
「知らない?今流行ってるんだよ?にしても世間慣れしてないんだなあ〜・・流石素朴だよ」
「は、はあ・・・で会わせたい方と言うのは?」
四月一日さんは私を感心した目で見ると、他に会わせたい方がいると仰られた。
今日此処に来たばかりの私に会いたい方なんているのだろうか?
いや、居る筈がない。
瞬間緊張が走る・・・・この人を疑いたくはない。
でも怖い・・私の事情を知る亀梨さんは此処にはいないんだもの・・・
つい身構えると、気付いた四月一日さんは
気を悪くするどころか小さく笑って安心させるように言った。
亀梨さん達が属してる所の社長さんに会わせたいのだと。
何処かの会社に属してるのだろうか?
歳が近そうなのに、社会に出て働いてるのかしら・・・・
どうしてその社長さんに会わせたいのだろう。
もしかして赤西さんに失礼な事を言ってしまったから?
・・・・それはないわ、だってそんな風に告げ口するような方達には見えなかったもの。
何にしてもその人に会わなくては分からない。
それに宿泊場所を紹介して下さるのだから挨拶くらいするべきかもしれないわ。
「分かりました、お会いします」
「本当?良かったよ、有り難う・・・そうだ名前を聞いてもいいかい?」
「あ、名乗りもせずに失礼致しました・・私はと申します」
「古風な名前だね、俺は四月一日 悟。宜しくね。」
「はい、宜しくお願いします」
こうして四月一日に連れられ、はある場所へと向かう事になった。
其処は俗に言う、ジャニーズ事務所だったのである。
其処では会うのだ。
珍しい物好きで変わった事、面白い事が好きな風変わりな男に。