ごめんと有り難う
「大丈夫かよ、。」
「うぇっ?あ!わりぃ隼人・・」
奥寺が去った後、不意に耳元から聞こえた声。
思いもよらず、色気のある声に
素で変な声を出して驚いた。
いや、仕方ないってだってさ・・隼人の顔がメチャクチャ近い!
自分の体をしっかり受け止めてる手の温もり。
背中に触れる、隼人の広い胸。
ヤバイ・・・顔が赤くなりそう!!
駄目だろ、真希ちゃんもいるんだから!
「サンキュ、隼人。」
動揺を見抜かれないよう、隼人から離れた。
もう、キスだってしちゃってたり
泣き顔だって見られてんのに、まだ恥ずかしい。
「、大丈夫か?」
「ああ、腕がちょっといてぇだけだ。」
「ヘーキかよ、マジで。」
何事もないのを努め、声を掛けてきた竜とつっちーに答える。
その姿を、ジッと隼人は見つめた。
避けられてる?俺。
心に浮かんだ疑問。
前から感じてた疑問が、今更に深まった。
竜が見てる前だから、誤解されたくねぇのかもな。
は竜が好きだと勘違いしている隼人は
そう思う事で、浮かんだ疑問を心の奥に追いやった。
「ごめんね・・」
目の前では、しゃがんでハンカチをタケに手渡した真希ちゃん。
ボコボコに殴られたタケは、ぎこちなく笑い
真希ちゃんが差し出したハンカチを受け取る。
真希ちゃんに分かって貰えたのが嬉しいらしく
タケの顔には、いつもの笑顔が戻っている。
俺は、赦して貰えるだろうか・・・
タケの気持ちも分かってないのに、土足でタケの心に入った自分。
その事もあって、はタケ達に近づけずにいた。
「嘩柳院、何か言わなくちゃなんねぇんじゃないか?」
「ヤンクミ・・」
「このままじゃ、嫌だろ?」
「ああ、このままじゃ嫌だ・・」
此処に来て初めて出来た仲間。
ずっと自分と一緒にいてくれた仲間の1人。
自分のせいで、この関係を失いたくはない。
決意したはタケの前に座ると、慎重な面持ちで言った。
「タケ・・まだ、怒ってるよな。分かったような口利いた事。」
「・・・・」
俯きがちに言ったを、腫れた顔を向けて見つめるタケ。
確かに、怒りの気持ちはあった。
それは知った風な口を利かれた事じゃなく
情けない姿、に励まされてばかりで
に気を使わせてしまった自分に対しての怒りだった。
今は、心の強さで奥寺に勝てたと思ってるし
に対しての怒りなんて、最初からなかったから消えてしまってる。
「怒ってなんか・・・ないよ、は悪くねぇもん。」
「赦して・・くれんのか?」
「当たり前、俺達・・・仲間じゃん。」
腫れた顔で一生懸命笑顔で言ってくれたタケ。
それだけで、嬉しくて泣きそうだった。
理由は分からない真希も、泣きそうなの肩を叩いた。
見守る隼人達も、良かった良かったと
互いの顔を見合わせて、笑い合う。
変わらず仲間と呼んでくれるタケに
は小さく、有り難うと礼を言った。
その後、つっちーと浩介がタケを連れて帰り
ヤンクミとが、真希を送り
隼人と竜は、途中まで共に帰った。
それから日にちはアッと言う間に過ぎ
VD当日を迎える。
「、あたしさ・・あげたい人いるから呼んどいてくれる?」
バイトが終わった時、更衣室へ向かう途中
真希にそう頼まれた。
え?あげたい人が、黒銀にいんの?
もしかしなくても、タケ・・・とか?
期待を込めた目で真希を見れば、目を逸らされたけど頷いた。
実は俺も、用意はしたぞ?
日ごろの感謝とか、迷惑かけた礼とかの意味でさ。
ヤンクミとタケ達には、市販。←ごめん
人一倍迷惑や心配を掛けた、隼人と竜には・・・
まあとにかく、俺と真希は昼間のバイトを終えた足で
夕暮れが近づきつつある黒銀へと向かった。
タケにはメールを送っておいた。
真希ちゃんが会いたいってさ、と送ったから
午後のHRも放棄して、待ち合わせ場所に行くだろう。
そんなタケを想像しつつ、真希と別れたは
黒銀の門を潜り、青いビニールの被さってる
自分達の教室へと向かう。
用意したのは、6人分。
クラスメイトが帰ってしまってる事を祈り、中を覗く。
「あれ?バイト終わったんかよ」
顔を覗かせたに気づいたのは、つっちー。
他に確認出来たのは、隼人だけだ。
浩介と竜の姿だけが見えなかった。
タケは真希ちゃんのコに行ったとして・・・
恐らく竜は、屋上に行ったと思う。
どうせだから・・・つっちーには、浩介達のを預けとこう。
「ちょっとつっちー、こっち来い。」
「ん?何だよ」
「あれ?、俺は??」
「いや・・隼人は後で」
つっちーだけ呼ぶと、一緒に来たさそうな隼人と目が合う。
切なそうな目だったが、後でと言って止め
袋を隼人から見えないようにして、つっちーに差し出した。
キョトンとして袋を受け取ったつっちー。
仕草がちょっと可愛かったよ・・・
それは置いといて、俺は袋を受け取ったつっちーに小声で言った。
「いつも、アリガトな。ソレはそのお礼」
「え?」
「今見んな、タケと浩介にも渡しといて。」
お礼だと言われ、つい中を見ようとしたつっちーを
慌てて制して、後で見ろと念を押し言付けてから彼を見送った。
さて・・これからが本番だな。
そう意気込むと、は隼人だけが残った教室へと入る。
言い訳はしないが、手作りは無理だった。
奥寺のキックを受けた両腕が、思ったより腫れてて
とてもじゃないが、チョコ作りは無理だったんだ。
「後で渡したいモンあるから、此処にいてくんない?」
ホントは隼人に先渡そうと思ったんだけど
竜がいつまで屋上にいてくれるか心配だったから、そっちを先にする事にした。
この言葉に、少し表情を曇らせた隼人。
それでもいつもみたいに笑って、屋上に向かおうとしてるのを
送り出してくれた。
「俺より・・竜が優先かよ」
だから知らない、やり切れない顔で
切なそうに、隼人がそう呟いたのを。
隼人と別れたは、屋上への階段を上がっていた。
どうしてか、心臓が鼓動を刻む音がリアルに聞こえる。
柄にもなく緊張してんだろうか。
感謝の気持ちを込めて、チョコを渡すだけだってーのに。
女って、いつもこんなドキドキしてチョコ渡すんかな。
ドキドキして、心臓が張り裂けそうで
それでも、気持ちを伝えたくて・・・・
って、なんか竜の事好きみてぇじゃん!!
好きなんかじゃない!仲間として好きなんだ!!
なんて言い聞かせながら、屋上への扉を押し開けた。
重い鉄の扉を、ゆっくり押し開けてアイツの姿を探す。
「何してんの、・・かくれんぼか?」
「うをっ!?」
扉から顔を出し、少しずつ屋上に出たの背後から
低い声が聞こえて、思わず肩を竦めた。
聞き覚えがある声だった、つーか・・探してた主。
パッと竜の方を振り向くと、脅かすなと文句を言って
間を置かず、ラッピングされたチョコを手に握らせた。
「・・・コレ」
「見ての通りチョコだよ、手作りは無理だったけどな。」
「昨日のアレか?痛むのかよ」
「ヘーキヘーキ、ただの打ち身だから。」
間近に迫る竜の整った顔、これ以上見てられなくて
校庭を見つめながら竜の問いに答える。
手をヒラヒラさせ、踵を返したを竜の声が止めた。
「コレ、本命?」
ドキッと胸が鳴る・・・
手作りは無理だったけどなって言ったじゃん。
そこで本命じゃねぇって分かれよ〜
何て声は口にしてないから、竜には分からない。
「残念でした、本命じゃねぇよ」
「・・・隼人にも、やるのか?」
じゃりっと靴で踏んだ石が、コンクリートで擦れる。
それは、竜が近づいて来るのをに気取らせた。
益々心臓が跳ねる、竜のあらゆる言葉が脳裏を駆けた。
そりゃあもう色々だよ・・
「世話になったからな、つっちー達にもやった。」
もうこの場にいたくなくなって、俺は扉に急いだ。
けれど、竜がそれを赦してくれなかった。
待てよと言わんばかりに、強く腕を引かれて気がつけば
コンクリートの壁に背を当てて、竜と向き合っている。
真剣な竜の目が、真っ直ぐを貫く。
ドクンと跳ねた心臓・・、逃げられない。
「隼人が好きなんか?そうじゃなくても、行かせたくねぇんだよ」
「なっ!何でそうなるんだよ!」
腕を振り解こうとしても、竜の手は外れない。
「言っただろ、俺はが好きだって。」
「・・・っ」
「隼人のトコなんか・・行くな」
力の差は、こうも無力さを突きつけるのか・・・
竜の力は弱くなる処か、更に強くを引きとめた。
隼人と同じ、あの顔で想いを告げる竜。
どうして、そんな顔して言うんだよ・・
振り解けねぇじゃんか・・・
絡み合う視線、抗う力が緩まった瞬間。
の唇に、柔らかいモノが優しく重なった。
扉越しにいる者の、目の前で――