疑惑
「彼等は・・・・訴えるしかありませんね」
突然の呼び出しに応じ、学校の職員室へ来た久美子。
キッパリとそう言い捨てたのは、竜の父親。
息子は今ほど反抗的ではなかったと
最終的には父親である自分に従って来た、と。
そして、当たり前のように隼人達を責めた。
高校生相手にその判断は重いと言おうとした久美子へ
冒頭の台詞を父親は口にした。
住居侵入、警備員への暴行・・・高校生のする事とは思えませんな、と。
「彼等には、厳しい処分を」
「・・・お願いしますよ、それから息子を連れて逃げたと言うその生徒ですが」
「はい、その生徒も厳しく対応するつもりであります」
「全く。嘩柳院家も地に堕ちましたな、宜しくお願いしますよ」
「本当に、申し訳ありませんでした」
久美子は交わされる会話に耳を疑った。
1つは理解のない対処の仕方に。
それから、小田切の父親が口にした言葉に・・
口振りからして、嘩柳院の家の事を知っている感じだ。
それは隼人も同じで、何故竜の父親が知ってるような事を言うのか
それと、教頭と犬塚が不思議そうな顔をしたのに顔色1つ変えない理事長の反応が腑に落ちなかった。
□□□
「やめ・・っ、止めろっ!」
「うるせぇなてめぇは黙ってろ!」
ガツ、と頬が殴りつけられる。
いつもの冷静な竜が、相手の喧嘩を買って
止めようとしたは何度も割って入ろうとするが男の力には敵わない。
止める以前に、の仲裁を邪魔だと怒鳴った男に殴られる始末。
それを見た竜も多勢に無勢で、気付けば乱闘から暴行に変わっていた。
隼人から託された信頼と願い。
今それを自分で蹴ってしまった自分に呆れた。
これじゃ、守れてねぇよ・・・
泣かせて困らせて・・今度こそは守るって決めたのに・・・
の信頼に応える為にも・・・・
隼人の信頼にも・・山口の為にも、決めた約束・・・守れてねぇじゃん・・
殴られて倒れこんだが、細っこい腕で懸命に俺を守ろうとしてる。
俺のせいで、こいつを巻き込んだ。
力なく暴行されるままだった竜。
何度目かの振り払いにブチ切れそうになった俺は、集中し、空手の構えを取った。
久美子はと言うと、夜の町を疾走していた。
目的は勿論、竜とを探す為。
・・にしても気になるなあ・・・・
何で小田切の父親は、嘩柳院の事を知ってるような口振りだったんだ?
アイツは今年の1月に此処に来たばかりのはず・・
何処で知った?
それに・・・あの場で小田切の父親が嘩柳院の事を言った時
それを不思議にも思わなかった風の理事長も気になる。
いや、そんなまさかな。
一瞬過ぎった予感。
走りながら久美子はそれを頭の隅へ押しやった。
小田切の父親も、理事長も・・嘩柳院の家の事を知っているんじゃないか
そして、嘩柳院が本当は・・・・女の子だって事も。
浮かんだ考えを頭の隅に追いやったのは、知っているならそれをこっちに言ってくるはずだと思ったから。
だが久美子は、後に後悔する事になる。
全く予想していなかっただけに、すぐに意識は切り替えた。
その足をゲームセンターへ向けて、店内を見て回っている久美子の視界に
見慣れた学生服が飛び込んだ。
「お前ら・・!こんな所で何やってんだ、さっきあんだけ言われたのにまだわかんねぇのか?」
「竜と、探そうと思って・・・」
「俺ら余計な事しちまったからさ」
「竜の為と思ってやったけど・・やっぱ頭わりぃよな、俺。」
思わず叱り飛ばせば意外にも素直に答える面々。
自分のした事を悔いた様子の隼人は、中でも特に歯痒そうだ。
捕まる側にしないように、いざって時の為に竜といさせようとした。
守りたかったから。
けど言い訳にはなんねぇよな・・
どんな形にしろ、結局は俺のせいで皆に迷惑かけちまったし。
俺は退学でもいい・・・けどと竜は退学になんかさせたくねぇ・・・・・
俺に出来る事ってあるのか?
小さく ごめん、と呟いた隼人に久美子の温かい眼差しが向けられ
温かな空気になった其処へ駆けつける足音と声が、隼人達へ報告を持ってきた。
「隼人!竜とがいたよ」
二人は一緒のままだと言う事に一瞬安堵する隼人。
そして直ぐに駆け出し、浩介の案内するアーケードへ全力で走った。
少ししか離れていなかったのに心が急ぐ。
駆けつけた隼人達が見たのは、思わぬ光景だった。
今まさに竜を殴る男達を、空手でいなす所だった俺なんだけども
意外な手が入った。
優しく肩に置かれたその手に振り向くと、其処にはヤンクミがいてその後ろには隼人達の姿もあった。
そして現れた久美子は見事な立ち回りで男達を追い払う。
ぽかーんとして眺めてると、耳元でエロイ声がした。
「お前・・・また無茶したのかよ」
「う、わっ!」
「ホントだ、ココ腫れてるよ?」
「あーあ」
「何やってんだよ・・・お前らは・・」
それは隼人で(エロイ声っつったらコイツしかいないだろ)
驚いた俺の頬に触れて呆れてる。
続いて言ったのはタケ、ため息ついてあーあと抜かしたのはつっちー。
逃げ去った男らの後には、支えをなくして倒れこんだ竜。
気付いて駆けつけて、その体を浩介やつっちーが支えた。
男らから助け出せなかったのを謝ると、竜は視線を外して謝るなよと言う。
傷だらけの竜と、殴られただけで済んだを連れた面々はいきつけの喫茶店へ。
どうしてか余所余所しい雰囲気の竜と席に座る。
VDの時の喧嘩は、もう仲直りしたはずだ。
余所余所しくされる理由が見つからない。
でも無視とかされてる訳じゃない。
手も繋いでてくれたし・・さっきも俺を巻き込まないように
自分に相手を引き付けてた感じだった・・・・・
そう言えば、家から抜け出す時に見た竜の顔。
俺に向けた視線・・・何処かいつもと違ってたような・・・・
「大丈夫か?」
「ああ・・それよりお前ら、どうなった?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫だ、心配するな。明日、理事長とお前のお父さんと・・ちゃんと話、するから」
「・・・そっか・・ごめんな、迷惑掛けて」
思案するの横で交わされる皆の会話。
仲間を案ずる竜の問いに、黙り込んだ隼人らの代わりに答えたのは久美子。
察しのいい竜は、隼人達の沈黙によくない結果を読み取った。
だが目の前の担任は安心させようと明るく心配するなと。
気遣いやら何かが見えて、竜は心から謝った。
自分の家庭事情にダチを巻き込んでしまったと
苛立ちに任せて喧嘩をしてしまい、そのせいでを巻き込んだ事。
家があんな風じゃなければ
俺がもう少ししっかりしていれば
も隼人達も、巻き込む事はなかったはず。
これでは何も変わらない。全て自分に非があると感じた竜は席を立った。