虹色の旋律 二十六章
何でしょうか・・・動悸?
映像を見ていただけなのに・・・・
所作がとても惹き込まれる物で、それで・・・
見ていると此方も胸が締め付けられてしまう。
トクトク刻む早い鼓動、今までは何ともなかっただけに戸惑ってしまう。
いやいやいやいや!駄目です、動揺してる場合ではないわ。
このくらいで動揺していたら駄目です!
動揺しないように私も練習をこなさなくてはっ
きっと、あまりに綺麗な所作だったからですね!
私もあの方のように、観手の方にそう思ってもらえるような表現力を身に着けなくては。
負けませんよっ!!何か吹っ切れたきがします!!
は何処かズレた結論を結びつけると、カウントと振り付けを脳内で重ね
見よう見まねで練習を始めた。
紹介されて登場、踊るのは最初の部分と吊られた後。
中盤には個々のダンスがある・・が混ざるのは出だしと後半。
全くの未経験なので、個々の部分には入らない。
メンバーが踊ってる間、は後ろの方・・・つまりは上田の傍に下がり
その時には赤西も上田の傍にいる為、二人してメンバーのパフォーマンスを見る。
歌詞と曲調は覚えた、今すぐ楽譜に起こせるくらいに。
それはまあ絶対音感が成せる技とでも言っておこう。
OPの後はの意見が採用されていて、世界の音楽コーナーだ。
振り付けにはフラメンコのような動きが取り入れられている。
此処でも一人ずつクローズアップされた激しいダンス。
まだ基礎しか教わってないから真似から始めた。
頭から写真の事が離れなくて集中に欠けるが、振り払うように練習に没頭。
音感のいいは、何となくだが動きを覚えてきた。
オマケに汗もじんわり・・・・
まだ皆帰って来ない・・(閃いた
風呂は昨晩も入ったし、先に済ませてしまおう。
DVDを停止させ、気付いた。
「下着・・・・・・・・買ってなかったんだわ・・・」
そう、そうなんです。
買えないまま一日経過していたんですよね・・・・
お金は四月一日さんから少し頂いているし、買えない事はない。
でもお店を知らないし・・男の格好のままでは下着コーナーなんて行けない・・・・
どうしましょう!でもこのまま同じ物では過ごせません。
上は買わなくても済むからいいとしても、下は変えなくては。
やはりここは・・・・相談してみるしかないですね。
と言う結論に辿り着き、中丸に教えられたメール作成方法で早速メールしてみた。
下着を買いに行きたいのですが、どうしたらいいでしょう。
とまあストレートな文面を送って数分、受信したのを知らせる音が鳴った。
「そうですね、此方も仕事が終わったので社長の所に寄ってみます・・・?」
( ゚Д゚)え、つまり確定ではないのですか?
皆さんの仕事も終わられたようですし、重なってしまったらバレてしまわないかしら?
文面を数分眺めたまま悩んだ。
何故に社長に確認する必要があるのだろう、それが一番の疑問。
数分後、返答のようなメールが届いた。
其処に書かれていた文面、目を疑った。
社長の信頼してる人を寄越すからその人と買いに行ってきなさい・・・と言う物でした。
それ 誰!??
こっちに寄越すと言う事は、信頼出来る人なんだと言うのは予想出来た。
けどそれが誰なのかはサッパリ分からない。
一緒に買い物に行けるような人・・・って事ですよね?
と言う事はその人って・・・・・・まさか
――ピンポーン
此処で呼びが鳴る。
来訪を告げる音、勿論大正時代では馴染みがない。
思わず聞き慣れない音にビクッとしただが、音と共に誰かの声が聞こえた。
「ちゃんいるー?」
とか言う陽気な声だ。
しかも呼んだのはの本名・・・
と言う事は、今来た来客が社長の遣わした人・・となる。
は部屋のドアを開け、おそろおそろ階段を下りて玄関へ。
其処に居たのは、女性。
少し日本人っぽくない容姿の人だ。
その人はと目が合うと、ニコリ、と微笑み
「叔父に言われて来ました。ジュリーよ」
「叔父?・・・まさか・・その・・・・」
「私の叔父はジャニー喜多川なの、話は聞いたわ。皆が来る前に買い物に行きましょう?」
「おっ叔父様ですかっ!!??はっ、はいっ!あ、でもどうやってでしょう?」
「あはははは(笑)素敵なリアクション。表に私の車があるから行きましょ」
「はいっ」
サラリと凄い事を言いました。
社長さんを叔父さんと呼んだという事は・・・社長の姪御さん?
凄い事を聞いてしまったような気がしてきました・・・・
ジュリーに手を引かれ、部屋着のまま車に乗せられて東京の街中へ向かった。
1923年の街並みとは全然違う景色を車内から眺める。
溢れる人、広い道、高い建物。
これが未来の東京の景色なんですね・・・とっても平和な時代です・・・・
あまりに広い道すぎて迷子になったら一生あの家に帰れなくなりそうですね←
考えるのはよしましょう(
思考に蓋をして、再び外を見る。
今は車は停止していて、他の車も止まっていた。
正面上にある赤い灯りが緑(昔の人は青を緑と言っていた)に変わると再び走り出した車。
手旗信号ではないのですね・・・・あ、此処は未来でしたね。
ジュリーがを連れて行った先は、渋谷の109。若者の町だ。
到着すると、地下駐車場へと入って行く。
空いている場所に車を駐車させると、ジュリーはに下りるよう促す。
少し緊張した面持ちで促されるまま車を下りた。
「さあて行きましょうか、私と居れば下着売り場にいてもそんなに自然じゃないわ」
「本当に有り難うございます!何とお礼を言ったらよいか・・・・」
「お礼なんていいのよ、叔父が貴女をこっちに引き入れたんだもの。お手伝いさせて頂戴」
「引き入れただなんて・・私は、社長さんに声を掛けて貰えたお陰で今が在るんです。お世話になってるのは私の方ですよ」
「謙虚なのね、じゃあ行きましょう。貴女と私は今から親子よ?いいわね?」
「親子・・・・はい、宜しくお願いします」
とても優しい笑みを浮かべて微笑んだジュリー。
其処に、母性を垣間見た。
一時だけ親子だと言われ、その微笑みと眼差しに母を重ねて返事が遅れた。
嬉しそうに笑ったを見たジュリーも、優しく笑い返すと
の肩を抱くようにして地下の駐車場からエレベーターに乗って上へ上がった。
先ず向かったのは下着売り場。
この区画には下着売り場と靴下売り場が隣接して配置されていた。
ジュリーはにコソコソと耳打ちをして、こう聞いてきた。
好きな色と、好きな形。今は様々な形の下着が売られている為の質問だ。
通常のパターンとボクサー仕様とTバック。後者は有り得ない←
勿論大正時代にそんな種類はないので、普通のを頼む事にした。
色は・・・・ジュリーに任せると告げるとエスカレーター側にあるベンチに腰掛ける。
確かに変な目で見られてはいないみたいだった。
何だか本当に親子で買い物に来た気分。
下着を買いに来た母親をベンチで待つ娘・・男装してるけれども、はそんな気持ちになれた。
「お待たせ、取り敢えず数枚買っておいたわ。もしまた入用になる時は連絡してちょうだい」
「はい!後ジュリーさん、男物の服とか買っておいてもいいですか?」
「あら勿論いいわよ?そうだ、ついでに女の子物も買いましょうよ」
「えっ」
「だって折角こんなに綺麗なんだし、もし有名になったら外なんて歩けないわよ?元々の性別を活かさなきゃ」
「は・・・はい」
何やら勢いに呑まれて頷いた。
強ち間違ってもいない、確かに自由に出かけるとしたら
この格好より本来の姿の方が気楽に出かけられそうだもの。
腕を引かれてレディースコーナーに連れて行かれ
服を選ぶ事になったけども、仕様も異なる服のデザインに混乱してしまう。
あの時代では袴と着物が主流だったし、異国の文化は入って来てはいたが此処まで劇的に変わられると・・・・・
「あの、ジュリーさん・・」
「なあに?」
「私・・・その、似合う服以前に服の事はよく分からないんです・・・・」
「そうなの??じゃあ気に入った服を選んでくれればいいわ」
気に入った服と言われましても・・・・;;
気を悪くさせたくないあまり、服を選ぶ事になった。
数百はある服の中から過去の人間の自分が、この時代の服など選んでもいいのだろうか?
男物も探しつつ女物も探すとなるとかなり迷う。
参考として広げてある雑誌やマネキンを眺めて必死に服を選別。
サラサラストレートの黒髪で、ショートヘアのが似合うような服・・・
時代のせいか、可愛らしい系には見向きもしない。
脚を出す事は禁じられていた時代を生きていたのだ、それは自然な行動だった。
が、の魅力に気付いているジュリーからすると勿体無いの言葉に尽きる。
色々な服を眺めながらコッソリを眺めて脳内で選んだ服を着せ替える事数十分。
これだ!と思う服を数点選び出したジュリー。
「ちょっとこれとこれ着てみて頂戴」
「えっ!?でも此処れでぃーすですよ??」
「サッと入っちゃえば分からないわよ」
「そ、そんなっ――」
「いいから入ってて、私がいいって言うまで其処に居なさい」
「は・・はあい・・・・」
服をドサッとに持たせると、試着室に押し込む。
もごもご言うを無視し、何か閃いたジュリーはその中から出ないように約束させ移動。
残されたのは服を両手に抱えたままののみ。
流石社長の姪御さんですね・・押しが強い←
仕方なく手渡された服を壁の突起に掛けてみる。
1つは茶色と白の上着と、見慣れぬ生地で作られた短いズボン。
もう一着は、白い生地で黒い長袖付きの服とズボン・・・・
こういうのが流行ってるのかしら?
全く分からないが、着ていないと怒られそうだなと思い
抵抗の少ない方の後者を試着する事にした。
来た事もない場所で初めて着るこの時代の服・・
母ではないが、母を感じさせてくれたジュリーとの買い物。
代わる代わるに知らない事を体験させてくれるジュリーを、は慕った。
そして試着が終えた頃を見計らい、戻ったジュリーは思わぬ事をに提案するのだった。