現八色?
姉である伏姫に生まれ故郷、異世界の安房へ呼ばれ
姉の産み落とした八人の犬士達と
怨霊と化した玉梓を倒して安房を救ってから約一年後・・
安房に訪れた平和は世界に満ちたまま。
滝田城から眼下に広がる町並みを一人眺める人影。
それはこちら生まれでありながら異界に飛ばされてしまい
無事伏姫の導きで生まれた国へ戻り、犬士達と共に安房を救った里見の二の姫。
犬士の一人、犬飼現八と想いを通わせ
戦いの末結ばれた。
現八は滝田城の城主を継ぐ、義実に色々と城主としての知識を学んでいる。
その為か、今不在だった。
最上階にいるのはだけで他の者達は階下で各々の仕事に追われているようだ。
それにしても・・・・・・・・暇だ(
姫ってやっぱ暇だよな・・
他の犬士達は方々に旅立っていて久しく会っていない。
唯一身近にいるとすれば、妹の浜路と婚姻した信乃くらいか。
彼は扇谷と足利を見張る為、国境付近に城を建てた。
武蔵と安房の境目だから会おうと思えば楽に会える。
「姫」
遠くを眺めるその背に中性的な声が
聞き覚えがある声にパッと振り向けば懐かしい姿があった。
「毛野さん!?」
「久し振り、元気だった?」
「はい!毛野さんは無事戻られたのですね」
「・・・・・」
「毛野さん?」
嬉しくて傍へ歩み寄り、顔を見た所何故か擬視された。
どうしたのかと思って見つめ返す。
すると仰々しく溜息を吐いてこう言った。
「あーあ、スッカリ染め上げられてるね」
とか言うと目の前でニッコリ。
私にはサッパリ分からない。
染め上げ?この着物は仕立ててもらった物だけど
私が染めた訳ではない。
そう言い返せばそれはそれで爆笑する毛野さん。
何がなんだか分からなくて首を傾げたら
ひーひー涙を零した毛野さんが漸く答えた。
「相変わらず面白いねは」
「戻って早々人で遊ぶなっ」
「ふふ、いつもの口調に戻ったね。」
「あ」
「別に姫らしく無理にしなくてもいいんじゃない?」
「そう言う訳にもいかない、現八が指導してくれてるし・・」
「君を自分色に染めてるその張本人は?いないの?」
毛野さんと話してると、行徳の近くにある海で会話したのを思い出す。
あの時も仲間同士の挨拶を教えるとか何だかんだ・・・・
今はからかわれてたと分かるけど、あの時は普通に鵜呑みにして
信乃とか皆に恥じらいもなく言って回ったなあ
つまりは今もまたからかわれてる訳か。
何だよその現八色って・・・
毛野さんは此処まで来る間に現八に会わなかったと言っている。
そりゃそうだよ、此処最近は忙しくて全くまともに会話してない。
父上も連れ回しすぎだと思う・・・・・とは言えない。
戦いの後、父上は安房を八郡に分けて現八達に任せたけど
すぐに城主になる事なく彼らは旅立った。
育った地にも帰らず、滝田城城主として現八は毎日外出。
戻って来てからも雑務みたいな事をこなしてるし
ゆっくり触れ合う機会もない。
ね、現八・・
寂しいのは私だけなのか?
抱き締めて欲しい
抱き締めたい
傍にいるのに遠いよ
「どうして泣くの?またほっとかれてるとか?」
「泣いてなんか・・・それに現八は毎日主としての勤めに忙しいだけだ」
「知ってる?それをほっとかれてるって言うんだよ」
「違う・・っ」
「泣く事ってさ、悲しいとか寂しいとか嬉しいとかの他にも使う事があるんだよ」
「・・・・」
「まあそれは何れ分かるからだからあんまり泣かないで」
「・・・・・・うん」
何だか今日の毛野さんは優しい。
からかっていたのに優しい言葉もくれた。
泣くって色々あるんだな、嬉しい悲しい以外に泣くって何があるんだろう。
なぞなぞみたいな言葉を残した毛野さん。
相変わらず意地悪な毛野さんでもあったけど・・・
励ましてくれたりするのも毛野さんだった。
はっぱかけてくれたり?
数刻後、父上と現八は帰って来た。
疲れている風に見えたのもあって、あまり会話はしなかった。
だって疲れてるのに話しかけても迷惑だろう?
夫婦になったのに何故か擦れ違ってばかりいた。
そのせいなんだろうか、その日の夢見は不安が具現化したような物になった。