芙蓉
あのチカン事件から一ヶ月が経過した。
私以上に慌てていて、心から案じてくれた青年。
カメ・・・そう呼ばれていたけど、愛称だろうか?
同行していた友人さんの方は姓が分かった。
私としては上田さんじゃなくて、切れ長の目をした青年の方の名前を知りたい。
上田さんごめんなさい←
もう一度会ってお礼を言いたい。
ろくにお礼も言えなかったから・・・・
今までは偶然でも会えていた。
その日会えなくても何処かで会うだろうって構えてられたけども
用がある時って、中々会えなかったりする。
うーん・・連絡先くらい聞いておけば良かったなあ。
今更後悔しても遅かったりするんだけどね・・・・・・
は悩んだ末、先月から避けがちだった電車へと向かう事にした。
流石にあれからすぐには電車に乗る気にならなかったのよね・・
通勤ラッシュだけじゃなく、帰宅ラッシュの時にも女性専用車両作ってくれればいいのに・・・
とか内心で文句を言いつつ乗車すると、前触れなく声がかけられた。
少し構えて顔を向けたの両目は驚きに見開かれる。
「やっと会えた」
「え、あ・・」
「あれから電車で見かけないから心配してたんだよ」
「私なんかを・・・ですか?」
「あんな所に居合わせたし、簡単に忘れられるモンじゃないからさ」
「・・・その、あの時は本当に有り難うございました。ちゃんとお礼が言いたかった・・」
タラップを上がった瞬間届いた声に惹かれるように見れば
目の前に切れ長の目がある。
瞬間視線が縫い止められたみたいに視線が逸らせなくなった。
サングラスはしてるのに青年の目が見えた気がして。
青年はどうやら今日は一人みたいだ。
が前に来ると、そのまま自分が座っていた席に座らせる。
そして自らは立っての前の吊革に掴まった。
口調を聞くと、自分と会えるのを待っていた風に聞こえたが
まさかそんな事はないだろうと、は思う事にしておく。
ちゃんとお礼が言いたかった。そう言ったの頭を青年の大きな手が上から優しく撫でる。
その仕草に理由なく胸が跳ねた。
この前の遭ったチカン騒動の事を気遣ってか、席に座らせてくれた青年。
そんな些細な気遣いがとても嬉しく思えた。
青年の気遣いに背中を押され今日こそ、と意気込むと思い切って口を開く。
「あの、名前・・・何て言うんですか?」
「ん?俺?まだ名乗ってなかったんだっけ、えーと・・亀梨和也って言います」
「私も名乗ってなくてすみません、 って言います。」
「へー、何かいい名前だね。」
思い切って聞いたのは青年の名前。
聞くタイミングが中々なくてずっと聞けず仕舞いだった。
漸く聞けた時、青年は少し周りを見ると
耳を貸してという仕草をしたから、ドキドキしつつ耳を傾ける。
息が掛かるくらいの至近距離で青年は名前を教えてくれた。
その時の私は、ドキドキの方が大きくて
些細な行動の不思議さには気付かなかった。
姿を見かけるようになってから四ヶ月目でやっとお互いに自己紹介。
この遅いくらいの歩みが、私達には丁度いいような気がしていた。
すげぇ短くて申し訳ないです・・・・
此処まで読んで頂けて幸いです(´▽`)また読んでやって下さいbb