わー・・・・
何処を見ても男(?)しかいない

文司と呼ばれる他の住人は――


§文司の塔§


兎に角休む間もなく移動。
しかもいきなり仕事まで言いつけられた。

その前に、喪月の部屋を出た途端に驚いた事がある。
何これ何これ!!珍百景?と内心でのみ思う。

通路はあるんだよ。
此処までは普通の塔だったんだ

けども

マジビビるよコレ。
廊下に出て、1つ扉を開けたんだけど

其処には次の通路か、外の土でもあるのかと思ってたのだけど
扉の先にあったのは、輪。
は?とか思った。

「さあ移動しますから乗って下さい?」

え、あの、それマジで言ってます?
ただの輪ですよねコレ。

ふみつかさ、とか言う所に行くんだよね?
それとこの輪は何の関係が?

踏み出すに踏み出せずにいると
先に輪に入った獣人が、こっちに手を差し出す。
有無を言わせない空気に仕方なく近づき

おずおずとその手に自分の手を重ねた。
何が起きるのかサッパリ分からない為無口になる。

「行きますよ?」

と、彼が言った途端。
風が巻き起こった。



えーー!??

とっ、飛んでる!!!!
って言うか元々塔の最上階からの移動なはず

飛び立つ際に風が起こり
煽られそうになって思わず獣人さんにしがみついた。
初めて味わう浮遊感に悲鳴すら出ない。

文字通り硬直した
必死に縋る手に、自然と獣人の口許に笑みが浮かんだ。

様、ご安心して下さい。落ちたりはしませんから」

風に邪魔されずに聞こえる涼やかな獣人の声。
申し訳ないが今、その言葉に反応する余裕すらなかった。

は知らなかったが
眼下には息を呑むような美しい光景が広がっていたりする。

常春の狭間は温かく
花畑や小川、そして日本にはいない・・
恐らく地球にはいないであろう鳥も佇んでいた。

空中遊泳は数秒だけで済んだ。
輪っかは別の塔の扉の前で止まり
到着を告げるかのように消え、扉が開いた。

「さて、到着しましたよ」
「・・・・ホントだ」

自分にしがみ付いたまま目を閉じていた
優しく声を掛ける獣人。
風も感じなくなったので目を開けると

喪月のいる塔の扉とは違う扉が
どうやら此処が文司とか言う人がいる所みたい。
それからハッと気付いた。

「(!?)ごめんなさい」
「お気になさらず、初めて乗ったのですから」
「あれはどんな仕組み?」

「あれですか?私もよく知らないのですが
この狭間にあるエネルギーが動力みたいですよ」

しがみついてしまっていた事に気付いて
平静を装い、獣人から離れる。

動力とかあるんだね此処・・
そしていよいよ、文司に会う為に扉を開けて塔の中へ。
其処にもある意味おかしな光景があった。

わあ・・・・・
かっ・・わいいなんて思ってないわよ

扉を開けたらまあ吃驚よ。
内部の造りが和、和、和。
内殿作りって感じ。

って言うかさ・・・・・
自由すぎじゃね?

扉がどれも媒体になってるのか分からんけど
開けただけで空間無視する勢いで

内装の違う室内が現れる。
やりたい放題ですk
まあそれもある意味で異界だからだろうか・・・・

内装の次に目に入ったのは
和服に身を包んだ30cmくらいの小人達。
慌しく動き回っている。

やべぇ・・
何なんだろうこの動き回ってる生き物は。

「ああ、彼等は文木霊ですよ」
「文木霊?」
「はい。文司の部下です」

微笑ましい光景(?)だが
この小人が文司の部下らしい

文木霊達は二種類いた。
金の髪に裾まで長い着物の者と
書生さん姿の少年・・・・?

って言うか、彼らも獣人?
横にいる『聴遠の獣人』をチラ見
彼にも垂れ気味な耳がある。

駆け回る文木霊にも耳・・
金髪の子は猫みたいにピンと立った耳だ。

「あれ・・一人足りませんね」
「え?文木霊は3人なんですか?」
「ええ、残り1人は私達サイズですけどね」
「同じ文木霊なのにサイズが違うんですか〜」

キョロキョロしているを傍に呼び
一人いないなあと言った獣人。

しかも私とかと同じ人間サイズ。
とっても見てみたかったが今はいなかった。

「取り敢えず文司の所に連れて行きますね」

忙しそうな文木霊達を横目に
は獣人に塔の奥へと案内された。

何処までも和様式な造りの塔。
床の橋(廊下)を歩く横には簾のような物がある。
柱には灯篭がつけられていた。

淡い光に照らされた床の橋を進む事数分。
またしても1つの扉が・・
獣人は二回ノックをすると、室内へ。

中は朱色で統一されていた。
黒塗りの柱が朱色を際立たせている。
上等な和の家具に囲まれた人が中央に一人・・・

それはまた、目を離せない程の美形。
誰の好みだろう此処まで来ると

「こんにちは、文司」

何とも雰囲気のある空間・・
息を呑むの横で、そんな空気も気にせずに
普通に獣人が声をかけていた。

文机で書物を読んでいた文司
その視線が書物から此方へ向く
しゃらり、と音がしそうな優雅な動作。

癖のない真っ直ぐな髪の毛。
物憂げに此方を向く顔は・・

直視に困る程の美形――――

陶器のように白い肌に・・・
あれ?何か頭に生えてる・・・・

流石異空間、羽耳もアリか。

羽耳は別として、しかし綺麗な人(?)だなあ
やっぱ人じゃないんだろうな〜

「『聴遠の獣人』殿が何用ですか?」
「貴方に紹介しようと思いましてね」
「・・・・紹介?」
「ど、どうも・・・・・・」

何か恐れ多さを感じた。
人間離れした美しさのせいだろうか

文司さんは獣人さんを見てから
彼が一人ではないと気付き
視線を此方にくれた。

するとその目が僅かに見開かれる。
そして彼は書物を置くと、こっちに来るや否

「えっ・・?」

白い狩衣が汚れるのも構わずに
文司さんは、私の前に膝を付いた。

綺麗な白の麗人。
文司さんは、膝を付くと綺麗な顔を私に向ける。

「貴女様が『巫覡の尊』様ですね?」

そう問う表情に、少し色が浮かぶ。
さっき獣人さんと話す時は全くの無表情だったのに・・

作り物みたいだった顔に生気が滲む。
命が芽生えるみたいな感覚に捉われた。

「一応、そうみたいです」
「ふふ・・面白い事を言われる方ですね」
「・・・・・」
「?」

何か綺麗に微笑まれた←
そしたら珍しそうに獣人さんが文司さんを見ている。

不思議に感じたが、今は聞かなくてもいいかなと
文司は獣人の視線には気付かずに
立ち上がると獣人を見やり、先を促した。

「此処に来られたと言う事は」
「ええ、察しがいいですね」

それだけ言葉を交わすと
文司はに微笑を向けてから文机へ戻り
一枚の書類をさらさらっと書くとこう言った。

「これは修繕指示書です。文木霊はもう貴女を待っていますよ」
「流石、仕事が速いですね」
「あ・・有り難うございます」
「『巫覡の尊』様の為ですからね」

達筆な字・・・・・
取り敢えず、これで修繕が出来るらしい。

大きな判子が押された書類を眺めてからお礼を言う。
すると文司は躊躇う事無く
『巫覡の尊』の為だからと口にした。

そんなに偉い立場が私みたいな小娘でいいんだろうかと
ちょっと疑問になる。

「判子1つですぐに書類をくれるのは様にだけですよ」
「え?」
「本来は許可が出るまでに時間が掛かるんです。」

「そうなの?」
「はい、様以外の私とかが頼むと二日判子を押すまでに要し
文司が修繕に同行承認するまでに三日かかり、それから文木霊を動かすのです」

5日も待つんだ・・・・・・
それは確かに特権かもしれない。
まあそんなこんなで、自分を待つ文木霊の所へ向かう事にした。