文月の物語 3



だが虚しく腕を掴まれたまさにその時。
近付く足音が増えたと思ったのと同時に
誰かが割って入るようにして現れ

パシッと払う音が鳴り、強く掴まれてた感触が消え
次いで優しく腕を握られた。

💜「ふっかは俺ね」
🌕「――・・・あ」
👥「なんだお前、邪魔すんなよ」
💜「邪魔なのはアンタら、この子は俺と約束してるから他当たれよ」
👥「遅れて来といて彼氏面かよ」
💜「どっか行かないならお仕置かな~」
👥「お前が俺らにお仕置?笑わせんな」

颯爽と現れたのは見慣れた人の背中。
私を背に庇い、青年らと対面したのは
ずっと待ちわびたふっかさんだった。

安心感から泣きそうになるのを堪える。
本当にしつこい青年らは、去ろうとしない。
ケンカになるのだけは避けたい・・・
何とかならないだろうか、と思案してると

意味深なニュアンスでお仕置かなと発した深澤
言葉の意味を読み取ろうとするより早く
そのお仕置役に相応しい人が、青年らの背後から現れたのだ。

💛「お仕置は俺な」
👥「!?」
💜「彼めっちゃ鍛えてるからお仕置ヤバいよ~?どうする?体験したい?」
💛「人間ダンベルが特技なんだわ、サービスするよ?」
👥「人間、ダンベル・・・!いや、遠慮します!」

そう、腕を組みながら現れたのは照にぃ。
上着は黒いTシャツ1枚、組んだ腕には血管が浮き出ており

人間ダンベルの信憑性を上乗せしたのか
顔を青くした2人の青年は、逃げるように立ち去って行った。

さすが、照にぃ・・・・・・🤣

ポカーンとして逃げ去った2人組を見送る。
そんな私の前に立つふっかさんが動き

💜「えーと・・・立てる?」
🌕「あ、はいっ」
💛「大丈夫?足、めっちゃ腫れてるよ」
🌕「えと・・・捻っちゃったみたいです・・・」

優しく声をかけ、目の前に屈んだふっかさん
それから照にぃも傍に来てくれた。
何だか2人の優しさが身に染みる・・・

ふっかさんが私の両腕を握るようにして
ヒョイっと地面から立たせてくれた。

そんなふっかさんに、落ちたままの下駄を拾った照にぃが並び立つ。

💛「の姿が見えないけど?」
💜「そういやそうだな」
🌕「じ、実はお2人が近くに来てないかと」
💜「もしかして見に行っちゃった
🌕「多分・・・」
💛「それ心配だな、俺探してくるわ」
💜「1人で平気か?」
💛「愚問、ふっかはその子と居てあげて」

素朴な疑問から私を探しに行くと言う照にぃ
いや、私は目の前に居ましてね・・・
も従妹も私なんです、なんて言えん。

照にぃホントごめんなさい表情大泣き
再び人混みに消えて行く頼もしい背中に向け
私は聞こえる事の無い謝罪を送った。

それから深澤に背負われ、は境内へ。
雑踏を離れた境内はとても静かだ。
背中から境内にある御堂の階段に下ろされる
それからどうしたものか、深澤は焦っていた

駆け付けてから気付いたんだが・・・
この子、先月水族館で会った子だったのよ!
縁があれば逢えるよってが言ってくれてさ?今目の前に居るってヤバくない?

てか、まさかこの子がの従妹だったとはね~・・・世間って狭いわ。

運命的な出逢いしちゃった、と騒いだ相手・・・
まさかの末っ子と従妹関係にあったとは。
道理で似てる訳だよな~・・・😳

なんてしみじみしてる場合じゃねぇわ。

💜「鼻緒、切れちゃったんだね」
🌕「あ、はい・・・ナンパから逃げたくて」
💜「そっか、から聞いたわそれ」
🌕「これ、友人から借りた下駄だったんです・・・悪い事しちゃいましたね」
💜「君の友人は、無事だった事を喜んでくれると思うよ?」
🌕「えっ・・・・・・?」
💜「会った事ないからカンだけどね(笑)」

落ち込む私を励ましてくれるみたいに
優しい声音でふっかさんが言った。
チラって見れば、何やらケータイを操作中。

照にぃと連絡取り合ってるのかな。
良い頃合で照にぃにも連絡しとこう・・・
他の場所で休憩してるから後で合流しますと

友人にも連絡しなきゃだね
無事を確認したいし・・・下駄の事を謝りたい。

取り敢えず友人に向け、LINEを打った。
"兄達が来たそっちは無事?兄達には従妹ですって誤魔化したから私の荷物を届けられる?"と。

返事を待つ間、は深澤をこっそり眺める
横顔のフェイスラインが綺麗なふっかさん。
個人的に私はふっかさんの正面ナナメの伏し目が好き。

眺める事数分、急に深澤が顔を上げ
履いて来たスニーカーの靴紐を解き始めた。

そして解いた靴紐を、下駄の鼻緒の代わりに結んで行った。
実はケータイを操作していたのは鼻緒が切れた時の対処法を検索していたのである。

💜「ん~・・・こんな感じかな、履いてみて」

と言って視線を合わせてくる。
妙にドキドキしたが素直に頷いて階段から立ち
目の前に置かれた下駄に足を乗せる。

その際片足立ちになる体を支えようとしたら
私の真横にふっかさんが屈みながら言った。

💜「俺の肩に掴まっていいよ」
🌕「あ、ありがとうございます・・・」
💜「体重掛けちゃって良いからね」

ナチュラルに言う深澤に促され
おずおずと右手を出し、深澤の左肩に置く。
右手を通して伝わる体温に心臓が騒いだ。

妙に緊張してしまい、足が震える。
深澤は男装してる時と変わらず優しいまま。
なのに女の子に戻ってそれを感じると
妙にドキドキしてしまって困った。

🌕「ごめんなさい、震えちゃって・・・急いで履きますね」
💜「いいよ、それに怖かったでしょ?」
🌕「・・・恥ずかしい話、怖かったです」
💜「女の子なんだし怖くて当たり前よ」
🌕「はい・・・」
💜「あっ、泣かないで?」

焦れば焦るほど上手く履けず恥ずかしくなる
そんな姿に呆れもせず急かしもしない深澤。
逆に優しく慰められ、今更怖さがぶり返した

🌕「ごめんなさい、我慢しま――」
💜「そうじゃなくて、俺ね、また逢いたいなって思ってた子にまた逢えて舞い上がってんの」

そんな事、この至近距離で言わないで欲しい
肩に乗せた手からふっかさんが喋る度
体内で反響した声が伝わり、響く。

ぎゅっと抱き締められるより照れた。
しかもまた逢いたいって、思ってくれてた事
私が私のままで聞きたい言葉だった。
複雑な心境でいる私の横でふっかさんは言う

💜「逢えただけでも嬉しいのに泣かれたら間違いなく抱き締めちゃうから」

それは流石に怒られるかなって、と
包み隠さず正直に話す深澤。
私じゃなく、従妹に向けて紡がれた言葉。

嬉しい言葉は私に言ったものじゃない。
その事が無性に虚しくて、胸が傷んだ。
どうしてこんな、胸が痛いんだろう・・・

分からなくて、でも苦しくて
照れるふりしてふっかさんから顔を背けた。

早く履こう、早く離れよう。
そうしないと自分が惨めになる・・・

🌕「えと、ありがとうございます?」
💜「そこお礼言っちゃう?俺が逢いたいって思ってたの君だからね?」

(うん、知ってたよ)

🌕「えっ?」
💜「天然さんなのかな?まあそういうのも可愛いけど」

やめてよ・・・そんな顔して言わないで。
私じゃない子にそんな言葉、言って欲しくない。
・・・どうして?なんで嫌なんだろう。

さっきからよく分からない感情がぐるぐる。
分からない事ばかりの中、漸く履けた。
取り敢えず離れよう、そうすれば落ち着く。
また冷静な自分に戻れる。

下駄を履いてみせ、下の位置に屈む深澤へ
ありがとうございます、助かりました。
と精一杯の笑顔を向けて感謝した。

💜「あ~やべ~無防備すぎて可愛い」

笑顔を見た深澤が小声で口許を抑えて呟く。
この呟きは聞こえなかった

手を深澤の肩から離し、1人で立ち直し
鼻緒の感覚を確かめて確認。
しかし捻挫をした事を忘れていた。

ピロンと鳴ったLINEの通知音に
反射的に動いた瞬間失念してた痛みを感じた

🌕「友人からかな・・・って、痛っ!」
💜「危なっ――」

鈍痛に眉を顰め、体も傾く
屈んだ体勢から立ち上がった深澤が気付き

咄嗟に倒れて来た体を受け止め
下から掬い上げるように抱えた。
つまり、お姫様抱っこ・・・😀

ひょ、ひょえぇぇ!!!

🌕「わああああごめんなさいごめんなさい」
💜「いやそれより落ち着いて(笑)」
🌕「従兄からLINE来たから見たら足」
💜「ちょっとマジ可愛い、下ろすよ?」

可愛いという言葉を言われる度
妙な胸の痛みを感じる

嬉しいのに素直に喜べない。
御堂の階段に下ろしてもらうまでが
スローモーションみたいにゆっくり感じた。