虹色の旋律 三十二章
2004年5月22日、快晴。
怒涛の日々は脱し、今日は一日オフになった。
皆さんはそれぞれにオフを満喫してます。
私――はと言いますと・・・・・
三ヵ月後に迫った大舞台へ向けて予習中。
8月8日から始まる本公演は、29日まで行われる長丁場だ。
体力が最も必要になるし、体調管理もしっかりしなくては。
初舞台となるは、今最も練習する必要がある。
なので自室で自主トレと言う訳だ。
本格的なレッスンは明日からと言う事だが、は既に開始している。
それは勿論、皆に迷惑をかけない為。
曲は不思議と音階から頭に入って歌詞も自然に覚えた。
後は体力とか肉体的なものだと言う訳で・・・・
事務所に行こうかなと思ってたり。
「?どっか行くんか?」
練習着(ジュリーに貰った)をバッグに詰め込み
スタッフさんから貰った進行表やら諸々を手に部屋を出た所で後ろから声がかけられた。
「あ、聖さん。」
「荷物持ってるって事はレッスンか?」
「はい!体力つける為にも体を動かさなくちゃと思いまして。」
「そっか、体力つけんのもいいけど無理はすんなよな」
「有り難うございます、気をつけますね!」
「おう」
振り向いた先にいた聖と軽く言葉を交わす。
気にかけてもらえるのが嬉しくて、笑顔で頷いた。
聖も笑い返し、わしゃわしゃとの頭を撫でて送り出した。
シェアハウスを出た、タクシーを拾う為に表通りへと向かう。
此処に来たばかりとは違い、タクシーと言う乗り物の乗り方も覚えた。
幸いまだ誰にも自分の正体はバレてない・・・と思う。
表通りはタクシーが拾い易いくらいに大きな通りだ。
きっと四月一日さんがこの場所を選んで家を借りたのだろう。
自分が来られない場合にメンバーがタクシーを呼んで移動出来るようにと。
そのお陰でも無事一台のタクシーに乗車した。
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到着しましたジャニーズ事務所です。
運転手さんに運賃を支払い、車から下車。
事務所前を見ると、若干の人の姿が見受けられる。
きっとあれは出待ちの人なんだろうなと推察。
キャップを目深く被り直して事務所への門を潜った。
何やら視線が向けられてるのを背中で感じつつ、ドアの取っ手を掴む。
あの世界にはなかった光景を客観的にではなく実際感じてしかも其処に身を置いてるのだ。
ひそひそ声の、あの人もジュニアなの?を聞きつつ建物内へ。
彼女達はまだ知らないのだ、自分がKAT-TUNの新メンバーなのだと言う事を。
知った時の反応が少し怖い。
その前に彼女達は誰のファンなのかしら?
いやいやいや、それよりも今はレッスンだ!
受付に通行証を提示してからエレベーター乗り場へ向かう。
昇りを待つエレベーターの前には数人の少年達。
にとっては全員が先輩みたいなものなので挨拶が肝心!と一声を発する。
「こ、こんにちは!」
「――あ、こんにちはー」
「・・・エレベーター来たぜ」
「だな行こ」
「私も乗りま――」
しかしだ、挨拶を返して来たのは三人中一人。
けど視線を合わせてはくれなかった。
極めつけは残り二人の態度である。
挨拶所かの存在をまるきし無視し、さっさとエレベーターに乗り込むと
ハッとして乗ろうとしたに気づいてるにも関わらず、扉を閉めてしまったのである。
・・・・声が聞こえなかったのでしょうか?
きっと急いでいたのかもしれませんね、次はもっと大きい声で挨拶してみよう。
聖がいればきっと突っ込みを入れたかもしれないが
寧ろその抜けってぷりがの心を保たせていたのかもしれない。
レッスン室があるのは上の階、数分後到着したエレベーターで
は一人レッスン室へと向かった。
今日行われているのは、少年倶楽部やら諸々の番組レッスン。
後はまあ普通にレッスンも行われている。
勿論SUMMARYのレッスンも。
が向かうのはそのSUMMARYのレッスン室だ。
通しをNEWSや他のJrがやると聞いてたので見学も含めの自主連練も兼ねて。
レッスン室に顔を出すと、既に出演者は集まって準備運動とかを各々にやっている所だった。
室内を見渡して気づく、出演者の中に先程の少年達を見つけたのだ。
どうやら同じ出演者だったらしい。
なら尚の事きちんと挨拶は交わさなくては、と思い立ち早速彼等の所へ行きもう一度きちんと挨拶をしてみた。
「こんにちは、皆さんもSUMMARY出るんですね!」
「・・・・うんまあね」
「お前屈伸とかしたのかよ沼崎」
「あ〜まだだった、久島、手伝って」
「あの、こんにちは、飛び入りですけど私はと申します。宜しくお願いしますね!」
「この前山下さん達と配置チェックしてた人ですよね、俺は玉森、宜しく。」
「玉森さんですね?此方こそよろし――」
今度は声を張りめで挨拶したのだけども、やはり三人のうち二人の態度は同じだった。
しかも他のJrからチラチラと視線を集める羽目に。
だがからすると、何故挨拶が返って来ないのかが分からない。
やはり女人とは言葉すら交わさない風習が続いているのだろうか?
に応えた一人の少年、玉森と姓を名乗り片手を差し出してきた。
一人だけだったが、彼はエレベーター前でも挨拶を返してくれた少年。
それだけでも嬉しくて、も片手を差し出した・・・・のだが
そっと握り返されるはずのそれは、ギリッ・・と強く握られた。
思わず手を引き戻そうとしただったが、それは叶わず更に力を篭められる羽目に。
「随分先輩達に目をかけられてるみたいだけど・・・・調子に乗るなよ?」
「―――え?」
「いきなり現れてオーディションすらパスしたんだって?しかも社長のお墨付きでKAT-TUNに抜擢とか話がウマすぎじゃん」
「それは・・・っ」
「この前もいきなり泣くとか、そんなに注目集めたいの?」
「う・・っ痛い・・・・っ」
力を篭められ引き寄せられると、先程とは打って変わった少年の低い声が聞こえて来た。
調子に乗るな、の言葉に篭められた何かがの背中に緊張を走らせる。
手の痛みも去る事ながら、玉森から発せられる言葉が胸に刺さった。
顔合わせ当時の赤西と田中の態度が脳裏に蘇る。
痛みはから感覚を奪って行く。
周囲のJr達もと玉森の様子に不審を抱いたのか、ザワザワし始めた。
心配そうに眺めていた数人が、誰かを呼びに行こうとした時
丁度入り口の扉が開いて誰かが入って来た。
その瞬間、玉森は握っていたの手ごと左に振り払い
盛大な音と共にフロアの床へ倒れ込む。
一方のは振り払われて自由になった手をもう一方の手に取った。
「どした玉森」
倒れ込んだ音に気づいて此方に来たのはNEWSの小山。
小山と共に現れた青年が、倒れていた玉森を助け起こす。
も初めて見る青年に助け起こされた玉森は、驚きの発言をした。
「先輩に挨拶をしようと思ったんです・・・」
「うん、挨拶?でも何で倒れ込んでたん?」(小
「それは・・・・きっと僕がしつこかったから先輩の気に触っただけです」
「えっ?」
「・・・本当?」
「ちが――」
「いいんです先輩!僕が悪かったんです、先輩は凄く才能があってオーディションなんかしなくても合格しちゃう凄い人だから」
「―――っ・・」
一人称までガラリと変わった玉森は、薄っすらと目尻に涙すら浮かべて小山へ訴えた。
周りのJrは口を挟むことなく遠巻きに眺めているだけ。
優しい笑顔を向けてくれていた小山の表情も、怖くて見れなかった。
分からないままでいたかったが、は気づいた。
自分はまだ認められていないんだと・・・
玉森が立ち去った後の雰囲気は重く、何とも居心地の悪さをに与えた。
複数の好奇の目に晒されると言う体験は滅多にない。
寧ろなるべくなら味わいたくない物である。
小山も青年も、妙な雰囲気に考えあぐねていた。
どちらが正論なのかが分からない。
玉森の言葉が真実なら、が握手した手を振り払って彼を転ばせた事になる。
けどなあ・・がそんな事するか?
会って会話した身からすると、玉森の話はかなり疑わしい。
あんなに低姿勢で、けど芯は通ってて・・・赤西に認めて貰う為にいつも前を向いてる。
だからが手を振り払ったってのは玉森の方便なんだろう。
「、ちょっとこっち来て」
「・・・はい・・」
「あ〜この子か!」
「え」
納得した小山は居心地の悪そうなを手招く。
ビクッと肩を震わせたが、招かれては小山達のいる方へ歩いて来る。
それを見ていたもう一人の青年が、思考を巡らせ、合点が行ったらしく声を上げた。
何やらの肩を叩き、ニコニコと笑いかけている。
「今気づいたのかよおせぇな」
「???」
「だって俺名前しか聞いてなかったんだってば」
とか何とか盛り上がってるが、は完全に蚊帳の外である。
「、紹介するよ。」
「はい」
「コイツNEWSの増田貴久、SUMMARYでも一緒だから宜しくね」
「皆やファンの子は『まっすー』って呼んでるから君もそう呼んでね」
「増田さんですね、そのです・・宜しくお願いします」
謎の青年は、小山さんや山下さんと同じぐるーぷの方でした。
何とも可愛らしい雰囲気の方ですね。
増田と言葉を交わすをジッと眺める小山。
すっかり怯えてるような、身構えてしまってる気がした。
純粋だし真っ直ぐだからな〜・・・・鵜呑みにしなきゃいいけど。
て言うか今日に限って一人なのか??
だけレッスンで赤西とか別の所にいるとかなのかも?
周りからは相変わらず奇妙な視線だけが注がれている。
振り付け指導のサンチェさんとか来ないとこのままかもなー・・・・
でも不味いな・・これからSUMMARYへ向けて本格的なレッスンが始まるって時にこの騒ぎだろ?
玉森がどうして嘘を言ったのかは大体想像がつくけどさ
想像出来ちゃうからこそ気になるんだよな、この先何か起きそうな気がしてさ。
小山の予想は、強ち外れてはいなかったのであった。