笑顔



「って、何の相談だ?」
「何でお前が此処にいんだよ」
「おしえなーい、ヤンクミには」
「そう言う事」
「「「「ニャッ」」」」

重なった手はヤンクミの手で、円陣を組む俺達を見て
理由も分からず参加したみたいだった。

早々に隼人がツッコミ、つっちーは目を逸らして輪から外れ
可愛らしくタケが内緒だと言う。
浩介がタケに同意した後、俺と竜以外の四人が猫のポーズで声をハモらせる。

訳が分からないヤンクミの脇を、隼人を筆頭に肩をポンと叩いて通り過ぎて行く。
取り敢えず合コンの話は控えておこうと思い、は隣の竜と目配せ。
その時見た竜の顔には穏やかな笑みが・・

やべー・・・・ちょっと可愛いとか思っちゃったよ。
けど竜が笑う顔とか、初めての勢いで見た気がするなあ。

俺がそう思う傍ら、竜もヤンクミの肩だけを叩いて歩き出す。
それに続いた俺達の背中に、同じ事を思ったのだろう人の声が届く。
小田切、と呼び止められ隣の竜が向かい風に髪を靡かせながら振り返った。

・・・・恐ろしいくらいにキマってるな

「お前前より笑うようになったな」
「・・・・・・」
「も、かーわーいーいー」
「うるせぇよ」
「(ぶっ)」
「行くぞ、

リアクションつきで振り向いた竜に言ったヤンクミ。
激しくそれに同意した俺。
黙ってるとクールな面が引き立つ竜だけど、笑うと何か可愛いんだよな〜

思ってる事をヤンクミが言ったから噴きそうになって堪えた。
だって絶対怒られるし。
ヤンクミにうるせぇよとか言った竜だけど、その顔は心底言った言葉ではない顔だった。

だってそう言った後竜の顔に浮かんでたのは笑顔だったから。
それを近くで見たも、不思議と嬉しくなって笑顔になった。



□□□



取り敢えずいつもの教室に到着。
席に着くなり隼人は、誰がいつ作ったのか不明なチラシを取り出し
それを口に銜えてから此方を見た。

竜と一緒に教室に入って来た事でも言われるのかと思ったけど
隼人はそれとは違う言葉を口にした。

「ホラ、お前もコレ持て」
「え、つか・・・・こんなの誰が作ったんだよ」
「俺とタケとつっちーと浩介」
「・・・・・・用意周到」
「まあ睨むなよ、これも付き合いだし」

・・・・何のだ
思わず内心でツッコミを隼人に入れる。
それは建前じゃないのかってくらいに隼人は楽しそうに見えるし。

膨れたの頭をくしゃっ、と大きな隼人の手が撫でる。
その手がくすぐったくて愛しくて、どうも許してしまうのだ。
あーあー・・・すっかり俺も絆されてるな、隼人に・・・・・

もうそれを隠そうとは思わない。
俺はもう、感情を殺す必要がなくなった。
それに、心が感じたままに表現したいから――

少し離れてそれを見ていた竜。
男として、の傍にいるべきなのは隼人なのだと受け入れた。

前みたいに動いたら、またを苦しめちまうから。
には今みたいに笑ってて欲しい。
隼人じゃ心配だけど、が幸せならそれでいい。

まあ隼人も、がいれば無闇に喧嘩しねぇだろうしな。
(ストッパーかそれは)

そんな事をぼんやり竜が考えている後ろでは
既に合コンを掛けた呼びかけ(男の醜い争い)が始まっていた。

「合コン行きたいかー!」
「おーーー!!」(クラス全員)
「桃女の女の子に会いたいかー!?」
「おーーー!!」(クラス全員)

沸き起こる歓声。
それを満足そうに受けた隼人が、ピンクのペンで書かれたチラシを掲げ
高らかに合同コンパ開催、と宣言した。

うわー・・・・凄く嬉しそう。
ひょっとして男同士の付き合い、とかでも言うつもりなんだろうか。
盛り上がるクラス全員を、やや冷やかに見つめるとやや呆れ気味の竜。

そしてそのまま竜が一言。
盛り上がるクラスに大胆に水を差した。

「全員は無理だろ」
「あ」
「そうだった・・・」
「何でだよ!!!」(クラス全員)

竜の言葉にハッとした隼人が片手で口許を覆う。
その仕草でタケ達も気付き、盛り上がりから一変して
クラス中からブーイングが巻き起こった。

「実は向こうの参加者は10人だけなんだわ」
「わりぃ、此処は人数しぼらして」

ブーブー言うクラスメイト達に、爺さんみたいな口調で浩介が説明。
この説明で更にブーイングが湧き上がる。

つかそんなに合コンしたいのか?
まあ前の学校見学の時も、かなり盛り上がってたしな・・・・
これが不良なのか?黒銀の不良と言えばここらじゃかなり悪評名高いんだぞ?

女の子の話に盛り上がり、合コンに沸き立つ様を見ていると
自分がそんな不良の巣窟に、男として通ってるとか忘れる(

くじ引きかよ、ジャンケンか?もうこの際ケンカで
とかやいのやいの言ってる。
・・・・・醜い(←酷い

しかし このコンパが原因で、また1つ事件が起こるなどと
この時点では誰も予想していなかった。



□□□



あの後いきなりヤンクミが現れて、大いに分かると豪語。
折しも今日はホワイトデー・・・・そう彼女は口にした。
其処で固まった奴が約5名。

当のヤンクミは1人芝居(いつもの)に突入し、1人の世界に入っていた。
もヤンクミの言葉に、ああ〜・・・と思い出す。
―――1か月前の出来事を。

『コレ、本命?』

何故か思い出したのは竜の一言。
あの後・・・うん、気持ちを伝えられたんだよな・・・・・・

いつもの竜からは想像出来ないくらいの激しさで。
・・・・・激しさってオイ(自主ツッコミ)
つか何で竜の事思い出してんだ俺。

隼人にもあげたけど、竜に告られてパニくったままだったし
駄目押しに隼人には勘違いされてたからなあ。
ホント、余裕なかったバレンタインだったぜ・・・・・

チラッと視線を動かして、隼人と竜を盗み見る。
ポカーンとヤンクミを見てる2人。何か可愛かった。

一方隼人達はと言うと、ヤンクミの言葉で一斉に先月の事を思い出していた。
タケ達は普通ににもお返ししなきゃだなあ、と考えていたが
隼人と竜は、先走った自分達を思い出していた。

俺あん時竜とは両思いなんじゃねぇかとか勘違いしてたんだよな・・・・・
屋上にいる竜に先に渡しに行ったを見て、さ。
戻ったがもう嫌だ、って泣いて・・・また泣かせちまったって悔んだんだっけ(隼人)

竜は無言で気付かれぬような動きで、あの時重なった自分の唇に触れる。
の気持ちを無視して突っ走った結果、泣かせてしまった過去の自分。

そうか、もう一ヶ月経ったんだな。
見て分かるように、もうは答えを見つけてる。
お返しなんて、やっていいんか?隼人に誤解されそうじゃね?

それぞれに黙す。
ただ、クラスとヤンクミだけが賑やかだった。