慟哭



狩野の代わりに、彼等に連れて行かれた
今 竜神学園の生徒達に囲まれるよう、立ってる所は倉庫?
此処に来るまでは、変に思われないように
傍から見れば、ただの悪い仲間とつるんでる若者にしか見えない。
そんなカモフラージュ付で来た。

念には念をってか?随分と用意周到じゃねぇか・・・
まるで、最初から俺だけを連れて来るつもりだった感じ。

「さて・・やっとゆっくり話せるな」
「そうだな、今更現れた理由も説明してくれるんだろ?」
「そんな焦るなよ、これから楽しもうってーのに」
「楽しむ?」

この不良達の頭らしき青年が、乱雑に置かれた鉄筋に座り
その前に立ったも、頭の青年に挑戦的な態度で臨めば
揶揄するような笑みを口に作った青年が、の肩に手を置く。
手を置かれた事は嫌だったが、彼が言った事の方が気になる。

「まあ先ずは、お嬢様の問いに答えてやるよ。」
「待てよ、その前にそのふざけた呼び方止めろ。」

過去を知ってるのは分かったから、強調されっぱなしだとキレる。
家とは縁を切った、つーか向こうが望んだんだ。
もうあの家とは、一切の関わりは無い。

の目の中に、鬼気迫る物を感じ 一瞬頭の青年は黙る。
他の青年達も合わせて黙り込む。

「はいはい、じゃあ嘩柳院・・おまえの質問に答えてやるよ。」

しばらく睨み合った末、頭の青年は笑うと傲慢な態度に変わり
偉そうに仰け反って俺に言った。
多少ムカつくが、変に仰々しくされるよかマシだ。

「三年前のお礼と、目的を果たす為に来たんだよ」

なに?
楽しそうに顔を歪める青年達。
礼って何だ?目的って・・?

「わからねぇか、じゃあおまえの友達の事から話すか。」
「・・・の事からだと?」
「ああ、目的はおまえの友達と関係あるからな・・・」
「貴様・・・」

の名前が出た事で、の目も鋭さを増す。
こんなチャラチャラした奴等と、あの子に何の関係があるってーんだ?
だって、コイツ等と会った時だって初めてだったぞ?

コイツ等に会うまでは、何にもなく平和に当たり前に生きてた。
普通に学校に通って、普通に仲間と話して騒いで・・・
そんな考えは、目の前のコイツが消し去った。

「おまえの友達は、俺のモンになってんだよ。」
「は?てめぇ、嘘言うと許さねぇぞ?」
「嘘じゃねぇよ、最初から俺はお前達をモノにしたくて近づいた。
俺等の間で結構狙ってる奴いてさ、丁度と町で会って
結構の奴その気だったぜ?」

色々といい具合だったし?

「ふざけんじゃねぇ!!!」

ゲラゲラと笑う男の声が、俺の記憶を呼び起こした。
ある日をきっかけに、様子のおかしかった
極端に外に出るのを嫌い、特にある場所を毛嫌いするようになった。
ゲームセンター・・様々な若者や子供連れで溢れてる場所。

それと、偶然見つけた手首の傷。
苦しんでたんだ、は・・俺が気づくまでずっと。
いい具合だっただと?人の事何だと思ってんだ!?

「怒るなよ?おまえの事も忘れてねぇからさ
狩野・・・ちゃんと痕残したんだろ?どうだった?」

コイツ等の言葉なんて、聞こえない。
は、こんな奴に弄ばれたのに・・それでも俺を守ろうと・・
泣き顔なんて、見せなかった・・何時も 笑ってて。
涙の浮かんだ目で立つ、背後から青年達が肩や腰に触れてくる。

嘲笑うような問いかけ、当然俺は何の事かと問い返す。

「決まってんだろ?と同じ気分が味わえたかって聞いてんの」
「・・んだと?自分であんな目に遭わせといてっ!!」

掴みかかろうとした手を、後ろから掴まれる。
そこでやっと、自分の自由が利かない事に気づいた。
顔を動かせば、俺の自由を奪ってる奴等と目が合う。
合わさった視線、ニタリとそのうちの一人が笑った。

はあの後怖気づいて、逃げようとしたし
だから今度はおまえの友達代わりにするぞって言ったら
アイツ、急に怒り出してよ・・・でもな、今おまえは此処にいる」

背筋が凍った。
同時に全ての糸が繋がり始める。
ある日をきっかけに、の様子がおかしくなった。
それは、コイツに滅茶苦茶にされたから。

それと、自殺に追い込んだのもコイツ。
「邪魔されるとさぁ・・イラつくんだよ」
「だから・・俺を突き飛ばしたのか?」
「そうすれば、はおまえを助けるだろ?」
俺は頭が真っ白になった。

コイツは、を無理矢理自分の物にしただけじゃ足りず
俺を次の標的にし、挙句の果てには阻止しようとした
俺の傍から・・・ただ、それだけの為に?
それだけの為だけに、をあんな目に遭わせたのか!?
それだけの為に、俺達の日常を壊したのか!?

「きさまぁぁああっ!!!」
「おっと!」
「静かにしろ!」

がむしゃらに泣き叫び、俺は目の前の青年へ掴みかかろうとした。
もう、この悔しさと憎しみを 思い切りぶつけてやりたかった。
何回殴ったとしても、簡単には消えない痛み。
だが 羽交い絞めにされてた俺は、青年達により後ろへ引き戻された。

「あれはラッキーだったよ、運転手も口裏合わせてくれたしな」

が俺の代わりに撥ねられた時、運転手は突き飛ばされたのを
見えていたくせに、脅されると簡単に証言を変えやがった。
俺がコイツ等を無理に振り切ろうとして、車道へ出たのをが庇って撥ねられたんだと。
俺達が何したってゆうんだ!誰も真実を知ろうともしないで!

『・・一人で抱え込むなよ』

想いを告げた隼人は、俺にそう言った。
仲間だから、心配だって・・・
ヤンクミも 俺から話すのを待ってくれるって・・。
竜だって、自分達を頼れって言ってくれた。
きっとタケ達も、真実を打ち明けられるのを待ってる。
自分から関わられるのを拒んだはずなのに、どうして今更・・・

こんなにも、隼人に会いたいって思ってしまうんだろう。

☆☆

達の居場所は検討が着いた。
走りながら、隼人は思った。
が必死に強がっていた理由と、仲間を絆を重んじる理由。
今までの事で 大体、何か過去にあったんだとは思ってた。
今回の事があって、確信に変わってる。

竜神学園の柴田・・・コイツと何かあったんだって。

「隼人、あの刑事が言ってたを見張ってたのって・・・」
「柴田達だ・・それと、を苦しめてたのもな」

隣を走る竜が、息を弾ませて問いかける。
その質問の先を理解した隼人は、言い終わらぬうちに答えた。
苛々する・・・を苦しめてる柴田も。
それが分かって尚、何も出来なかった自分に。

「おい忘れるなよ?」
「何が」
「一人で突っ走るなって事。」
「・・・忘れねぇよ」
「俺もいるって事も、忘れるなよ?」

言葉少なく言い返せば、妙に視線を外して言う竜。
何だかそのぎこちない言葉が、妙に嬉しくて笑えた。
無茶をしようとするのを逸早く察知して、止めてくれる竜。
何せ付き合いは小学校の頃から、色々あったけど
今では心許せる仲間の一人。

勿論、タケ達も・・・それとも。
俺は俺なりに決めた、仲間を守る事を。
だから今、俺はの事を知りたい。
仲間の為に無茶を平気でするアイツを、傍で守りたい。

もう、アイツの事を男だとか思っていない。
狩野とのやり取りで、あの時気づいた考えの通りだったから。

走る隼人と竜の前に、狩野が言った倉庫が見えた。

☆☆

静かにしろと叫んだ青年の一人が、俺の頬を殴りつける。
その力の強さに、切れた口から血が流れた。
ぼんやりする視界に映った頭の青年が、ユラリと近づき言う。

「さぁて・・・メインディッシュの時間だ」

淫猥な笑み、俺の背筋に寒気が走る。
初めて形のある恐怖を覚えた。
はコイツに乱暴された、その気持ちを味合わされた。
どんなに怖かっただろう、どれだけ辛かっただろう。
がそんな目に遭ってる時、俺は何をしてた?
数人に手足を押さえられ、無理矢理開かれる足。

『助けられた命、償いの気持ちで生きてるか?』

届けられない真実、受け入れられない事実。
耳を貸さない大人 言い含められる世の中。
誰一人して、俺とを助けてくれる者なんていなかった。
どんな気持ちだったんだろう、こんな事されても尚
俺の事を守ろうとしてくれたは。

逢いたい・・・声が聞きたい。
大丈夫だよって、言って欲しい。
二人でまた、笑顔で今を生きたい。

「はや・・とっ・・・りゅ・・う」
「おい、てめーらさっさと寝かせて服脱がせろ」

助けて 助けて!
自分だけ逃げ出したくなんてない、けど!
二人に逢いたい、タケとつっちー・浩介に会いたい!

暴れようとしても、数人で押さえられて身動きが取れない。
所詮、どんなに男として振舞っても駄目なんだ。
形だけじゃ駄目なんだ・・自分は女。
こんな形で思い知らされるなんて。

一番の事、気づいてやれなかったのは俺だったね。
こんなんで の為になんて生きられないよ。
の仲間だって資格・・・ないっ

乱暴に地面に転がされる
すぐさま手を伸ばされて、上から束縛される。
乱れた学ランからは、破かれたサラシ。
その間から覗く、ふくよかなラインと赤々とした痕。
の両足を開かせ、その間に入る頭の青年。
恐怖と憎悪の入り混じった目をした俺を見て、ニタリと笑うと
有無を言わさず、手荒な動きで俺の学ランを掴んだ。

俺は、の異変に気づけなかった悔しさと
コイツ等の好きな風に踊らされていた事実とで
悔しくて、情けなくて・・叫んだ。
募り過ぎた憎悪は、言葉にならない。

「ああああああああああああ!!!!」

その悲鳴に近い声を、倉庫の前に着いた隼人と竜は聞いた。