近しい者



前方から現れた警察官と店長を見て、全員がサァーッと顔色を変えた。

「金払ってねぇっ!!!」
「お巡りさんニヤけてる・・っ」

前後から挟まれ、ニケツで逃げたあの日を思い起こさせた。
逃げ場を無くした俺達、全員が背中合わせになり
その場でぐるぐると回るしかない。

其処でやっと気付いた隼人が叫ぶと、つっちーがお巡りさん達の表情を見てゲンナリ
竜も苦笑いを浮かべるしかなかった。

あー・・・またしても警察に行く事になるとはっ(しかもあの刑事のいる処)
こりゃあまたヤンクミに怒られるぞ・・・・



□□□



そして数分後、俺の予想通りに呆れた顔のヤンクミが駆け付けた。
あの胸くそ悪い刑事こそ現れなかったが、ヤンクミの方が怖い(
俺達の方に駆け付けた久美子は、呆れ顔のまま問いかけた。

「ったくお前ら何やってんだよ」
「金払い忘れちゃっただけ」
「あもう・・大体お前ら、ボウリング場で清く正しい合コンじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけどよ」
「それじゃあ盛り上がんねーし」

問われると、つっちーとタケが渋々答える。
何回目かになるか分からない溜息を久美子が吐き出した時
此処の署長さんが現れた。

あの時のニケツ事件でも現れた人。
こっちに来る署長さんに、久美子が申し訳ありませんでしたと頭を下げる。
それに対し、署長である男は思わぬ言葉を返した。

「生徒さん達、連れて帰ってもいいですよ」
「・・・・え?それはまたすんなりと・・」
「小田切君のお父様が先方とお話をされましてね」
「お父様?」

これには俺達も久美子も、驚いて立ち上がり署長さんを見る。
すると更に俺達を驚かせる言葉を口にした。

竜の・・・・・父親?
どうしてか俺は、急に不安になった。
まるでこの先起こる事を予期しているかのように。

『父親』

この言葉を聞くと、胸がズンと重くなった。
忘れかけていた戒めの言葉が甦る。

この子の為に、生かされてるんだ・・・って。
もう二度と・・思い出す事はないと思ってた。



□□□



「小田切のお父さんって、警察に顔が利く人なのか?」
「確か警察庁のお偉いさんだよな、親父さん」
「「えっ?」」

廊下を歩く久美子が、行き当たる問いを竜に向けている。
それは俺も気になってたから、斜め前の竜の背を見た。

続いて答えた浩介の言葉に、久美子との声がハモる。
つまりは警察庁長官とか言うんじゃ?もしくは警視総監。

「親父の事は関係ねぇだろ」

俺とヤンクミが驚いた声を上げた途端、速足で歩きながら竜が冷たく言った。
父親の事には触れられたくない、って言ってるようだった。

そして前方からスーツに身を包んだ男が現れた。
廊下に靴音を響かせ、こっちに歩いて来るその男。
反応したのは隼人だった。

誰だか分からない久美子や俺は、隼人の方を見て久美子が誰だ?と隼人に問う。
隼人が答える前に、目の前に立った男の方が名乗った。

「小田切竜の父です」
「どうも、私、担任の山口久美子です」
「貴女が・・山口先生ですか?」
「あ、はい・・・初めまして」
「・・・・・・?」

第一声で厳格そうな父親だと分かった
挨拶したヤンクミから視線を外し、後ろにいる俺達へ視線が向く。
その視線に目を逸らした隼人達。

思わずジッと見てしまった俺と目が合った時
竜の父親は少し目を見開いた。

あれ?俺・・・・初対面のはずだよな?
そう確認したくなるくらいに、竜の親父さんの目は驚いていた。

「・・・帰るぞ」

どれくらいそうしていただろうか、やがて俺から目を逸らすと
一言だけ竜に言うと、ヤンクミに一言断り歩き出した。

少し躊躇うような顔をした竜。
その顔は、何か迷ってるようで酷く心許ない顔をしていた。
だから思わず傍に行き、左腕を握る。

気付いた竜は、一瞬だけ俺へ笑み
ポン・・と俺の頭に手を乗せて父親に続き歩き出した。

「何か・・・怖そうなお父さんだな」
「俺あの人苦手」

後方から聞こえたヤンクミと溜息交じりの隼人の呟き。
本能的に俺も苦手かもしれない、とは思った。
自分の父親と重ねたせいかもしれない。

厳格で厳しく、華道家として家元を務めていた父と。



□□□



警察署を出た竜。
父親の車に乗せられ、帰路へと着いていた。
その車内で、父親が竜へ厳しく言った。

「未だあんな連中と付き合っていたのか、折角理事長に話をつけたのに
私の言ったとおりにしないからこういう面倒な事になるんだ。」

答えない竜の隣で、父親は不満そうに話し続ける。
昔からこの父親と言う男はそうだった。
昔から変わらない・・・敷かれたレールの上を歩かせようとする父親は。

学校へ行くと決めたのも、隼人達と一緒にいるのも俺の意思。
けどそんな事は親父には関係ない。
俺を縛り付けて、自分の望む道を歩かせようとしやがる。

前は考えるのが面倒で、全部どうでもよかった。
今は・・・・・・?

『いつも、アリガトな。ソレはそのお礼』

記憶に呼び起こされるアイツの声。
アイツは、は俺にそう言った。

気持ちばかり押しつけて、勝手だった俺に。
仲間の大切さも教えてくれた。
隼人もタケもつっちーも浩介もいて、がいて・・・山口がいる。

いつの間かかけがえのない物になった。
感情を殺し、考える事も放棄してた俺とは少し似てたな・・
ま・・・今はちっとも似てねぇけど。

「それと見かけない奴が1人いたが、名前は何て言うんだ」
「――?」

の事を思い出していた竜。
其処に向けられた質問、それは明らかにの事だ。

一瞬躊躇った竜だが、父親の目に促されて口を開く。

「・・・・・嘩柳院」
「予想はしたが・・嘩柳院家の者だったとはな」
「・・・知ってたのかよ」
「当然だ、小田切と嘩柳院は古くから付き合いがある」
「―――――!?」

紡がれた言葉に、竜はただ目を見開いた。
全く知らなかっただけに、父親の言葉は衝撃だった。

なら俺は・・親父は、の家に起きた事を少なからず知ってる事になる。
三年前、に一番近かったのは俺だったのかよ・・・・