侮辱
真希ちゃんを逃がした俺、そこまでは良かった。
黒銀の事は知ってる奴が数人いる。
そいつ等が、知らない奴に簡単に話した。
それからだ、奴等の態度が変わったのは。
狂気じみた色が、顔に現れ始める。
これはちょっとヤバイ?
そうが感じ始めた頃、一人の男が口を開き
嫌な奴の名前を出した。
「柴田、覚えてんだろ?オマエ等とやり合った奴。」
もう終わった奴の名前なんか出すなよ・・・
何でコイツ等、それ知ってんの?
ヤンクミが捕まえたのは、柴田だけだし
逃げた奴等がチクッたのか?
そうだとしても、何でこんなのに?
知り合いだったりする?
「俺等の後輩なんだよね、しかも察に突き出してくれたみたいで」
「当然の事だろ、あんな事しといてほっとかれる方がおかしいんだ」
「てめぇ・・やられっぱなしだったくせに、生意気なんだよ。」
「今の頭だって大した事ねぇんだろ?ボコボコだったみてぇだし。」
「!!」
知り合いどころか、アイツ等の先輩だとさ。
後輩がアレなら、先輩もコレか。
揃いも揃って、バカばっかだな。
呆れ果てて嘆息したに、傍で聞いてた男が笑いながら言う。
その言葉に、は耳を疑った。
つーか、何かが音を立てて切れ始める。
大した事ねぇ・・・だと?
汚ねぇ手ぇ使って、あの2人に抵抗出来ねぇようにしたのは柴田だ。
それを、何も知らねぇくせに アイツ等の事
好き勝手言うのは、俺か許さない。
「あの2人はなぁ!てめぇらよりもずっと綺麗なんだよ!」
怒りを抑えきれず、目の前で2人の事を笑った男の胸倉を掴む。
何よりも、今の自分にとって大切な者達を侮辱された心境。
それこそ留まる事なく、爆発した。
綺麗で強い心を持った隼人と竜。
何も話さなかった俺を、ずっと信じてくれた隼人と竜。
ずっと待って、真実を受け入れてくれたタケ達。
そんなアイツ等の事を・・・!!
「綺麗だと?ただ顔がいいだけじゃ駄目なんだよ!」
「ハッ!どうかな、そんな考えじゃアイツ等には勝てねぇよ!」
吐き捨てるようにが言い返した途端。
右側で空気が唸った。
瞬間 自分の体が左側へ飛ばされる。
ドサッと地面に尻餅を着いた、それも一瞬ですぐに立たせられる。
起こされたの眼前に、眉間に皺を寄せた男の顔が迫り
「オマエ、アイツ等とつるんでるんだろ?
後輩を可愛がってくれた礼・・取ってもらうぜ。」
「・・・汚ねぇな、集団じゃないと何も出来ねぇのか?」
「ふざけんな!!」
ガツッ!!
に吐き捨てた言葉を言った顔は、人を殴るのを楽しんだ顔。
きっと、こうゆう抵抗の出来ない奴を殴るのが特に好きなんだろう。
サイッテーな奴だ。
一人じゃ何も出来ねぇのか、そう言えばすぐに殴られる。
絶対図星なんだな。
次に殴られたのは、左の頬。
あーあ、これでも女なのにな。
と こんな状況を、冷静に見ている自分がいる。
明日学校行ったら厄介かも・・・
も殴られっぱなしではない、ここ最近始めた空手。
それを活かさないとな。
「やっぱ大した事ねぇな!」
「その台詞は、よく見てから言え。」
「何だと?・・・!?」
1人対5人。
の両腕を、2人がかりで固定していた男2人。
腕を力の限り前へ倒し、そのまま肘を後ろへ下げる。
下げた肘は、勢いよく2人の男の胸へ炸裂。
それを受けた男達は、息が一瞬詰まり
くぐもった声を漏らして、後方へ倒れた。
見事な早業に、残った3人の男等の表情が固まる。
その隙を突き、は休む間もなく次の動きに移った。
動きの鈍った1人に狙いを絞り、男が咄嗟に振った腕を避け
屈んだ姿勢のまま、男の鳩尾へ蹴りをプレゼント。
「ぐっ・・・!?」
「なに!?・・ぐあっ!」
隣にいた男が、突然倒れたのに驚いた男。
倒れた仲間に気を取られたのか、背後に立ったに気づくのが遅れ
振り向くより早く、突厥に手刀を喰らい崩れ落ちた。
5人中、4人がたった1人に軽くのされた。
残ったのは、自分達が柴田の先輩だと言った男のみ。
偉そうだった態度も、今じゃ少しも感じられない。
余程吃驚したんだろう、見かけは弱そうで女顔な奴が
身軽な動きで、4人の男を倒してしまったのだから。
人を見かけで判断したら、駄目だぜ?
ダル気な目線を、は目の前の男へ向ける。
その目には、危なげな色気すら感じた。
男の動きも、一瞬魅せられたのか 止まる。
が一歩踏み出した時、誰かが来る気配がした。
少しだけ、の注意が逸れる。
今度はが、その隙を突かれた。
気配の方向へ向けられてた視界が、激しくブレたのだ。
同時に首に強烈な痛みが走り、え?と思った時には
自分の体は、正面からコンクリートへ叩きつけられた。
「うっ!」
「てめぇ油断すんなよ、4人倒したからって調子にのんな。」
倒れ込んだに、上から男が声を落とす。
の首に衝撃を与えたのは、男の放った蹴り。
その蹴りで、元が女なの意識は飛びかけた。
しかし、ここで気絶してる場合じゃない。
辛うじて意識を繋いでいる状態。
体全体に、大きなダメージを受けた。
力の入らない体が憎らしい。
男はしゃがむと、荒々しい手つきでの胸倉を掴んで引き起こす。
男の拳が、を殴る寸前。
近づいていた気配が、ギリギリで間に入った。
目を瞑ったの前に、出した掌が男の拳を受け止める。
パシッとゆう乾いた音で、目を開けた。
その視界に、全く知らない男の背中が写った。
自分達よりも、一回り逞しい背中。
「だっ・・誰だてめぇ?」
「可愛い女の子に頼まれてな、コイツを手助けに来た。」
「何言ってんだてめぇ・・これからコイツには落とし前付けて貰うんだよ、どけ!」
「残念だけど、それは無理。その子待たせてるからさ・・!」
殴ろうとしたのを止められ、苛立った様子の男へ
現れた男は、冷静な口調で受け応えする。
その態度にキレた男が、現れた男を殴ろうとしたが・・・
キレのいい動きで、を助けた男のパンチが
不細工な男の面にめり込んだ。
まともに喰らった男は、声もなくその場に倒れ込み
呆気に取られて見ていたに、その男が言った。
こっちに向かって、手を差し出しながら。
「細身なくせに、結構やるな 立てるか?」
「・・アンタもな、この場は助かった。」
自分よりも大柄な男を、パンチ一発で倒したこの男。
一体何者なんだ?可愛い女の子に頼まれた・・って真希ちゃん?
気絶した男達を見渡して、ヒュウッと口笛を吹いてる男へ問う。
「頼んだのは真希って子?」
「多分、最近通ってる店にいた子だったから。」
「へぇ・・所でアンタ、何かやってんの?スポーツ。」
「ああ ちょっとボクシングをな、オマエ名前は?」
差し出された手に掴まって、ゆっくり体を立たせる。
少しだが、蹴られた首が痛んだ。
きっと腫れてるかもしんねぇな〜顔も。
真希ちゃんに頼まれて駆けつけた男は、最近俺等がバイトする店に
客として通ってるらしい。
あんま見かけた記憶はないけど、真希ちゃんを知ってるならそうなんだろう。
因みに、歳は俺よりも上の大学生。
道理で体格がガッチリしてる訳だ。
しかもボクシングをしてて、大会とかで連勝してるとか。
こりゃあ、真希ちゃん好みの奴なんじゃねぇ?
「」
「姓は?」
「あんま言いたくねぇ、アンタの名前は?」
「ふーん・・まあいいか、俺は奥寺。」
「・・・そっちこそ名前は言わねぇのかよ。」
「これでアイコだ、あっちで真希ちゃんって子が待ってる。」
行ってやれ、そう奥寺は俺に顎で示した。
姓と名前を隠した挨拶だったが、としては面白く感じた。
あんま追求して来ない人で、少しホッとしている。
は奥寺に礼を言ってから、店に来たら珈琲一杯サービスしてやるよと言い残し
奥寺の一杯だけかよとゆう突っ込みに見送られ
示された通りの向こうへと急いだ。
急ぐと言っても、痛みを堪えた状態のスローペース。
痛む体に鞭を打って、歩いて行くと指示通りのトコに
心配そうな顔をした真希を見つけた。
の姿を見つけると、走って駆けて来た。
「!ちょっと傷だらけじゃん!1人で無茶するからだよ!」
「そ?少しは頑張ったんだぜ?残り1人まで負かしたし。」
真剣に心配する真希に、笑って言えば少し怒った顔をされた。
どうやら、自分だけを逃がして不利な状況にさせてしまった事を
真希ちゃんは悔いていたようだ。
心配してくれるだけで十分だ、と言ったら泣きそうな顔で笑った。
彼女のホントの姿を、少しだけ垣間見た気がした。
自分より少し低い真希の肩を借りて、一緒の辺りまで歩く。
家までこさせると、世田谷じゃないとバレるし彼女に悪い。
そんな気持ちで歩くと真希。
その姿を、後ろから偶然見ていた人物がいた。
ツンツンの髪の毛が、街灯に照らし出される。
彼は 明らかな誤解をし、次の日を迎えるのだった。