慕情
学校を抜け出した、俺と竜。
それにしても、何で竜はあんな事言ったんだ?
俺がいれば十分って・・・どうゆう意味?
視線だけで竜を見れば、何時も通りの涼しい顔。
この余裕そうな態度 何だかこっちが焦っちまう。
まさか・・それも計算済み!?
「百面相すんなよ」
「み・・見えてたんかよ」
「視野 広いから。」
「あ、そう・・」
何か知らんが、会話に詰まる。
普段から口数の少ない竜、今日はより一層気まずく感じられた。
まあいいや、もう難しい事は考えるの止め。
最近そんな事ばかりあるし・・。
俺は竜から視線を外し、周りの町並みへと視線を移した。
この町に来てから、もう三週間は経ってる。
考えてみれば あっと言う間だったな。
この黒銀に通うまで、俺の心にあった決意は今はない。
隼人達と出会ってから、決意の考え方が変わった。
やっと向き合ってみようって思った。
に会いたいし、の両親とも和解したい。
和解ってゆうか、今なら真実を話せる気がしたから。
こんな時に、一人じゃなくて良かった。
ってゆうか、俺がそう思う時 何時も隣にいるのは竜。
偶然なのか必然なのか。
とにかく(多分)、傍にいて安心出来るのは竜だと思う。
「なあ、竜。」
「ん?」
「ちょっと付き合って欲しいんだけど。」
「・・・友達んトコか?」
相変わらず冴えた指摘、竜には俺の考えってお見通しなのか?
まあ指摘通りに行き先は病院。
俺は 竜へ頷いてみせた。
頷くと、竜は悩む間もなく いいぜ と了承してくれた。
☆☆
その頃、学校に残った隼人達。
明日の学校見学会に来る、女子中学生歓迎の為
支度するセンコーに混ざり 着々と準備している。
彼等の準備は、学校見学会を盛り上げる事。
手始めに、竜と以外のメンバー四人で
教頭達が選んだ制服にちょっとした工夫を終えた所。
満足の行く出来に、つっちーと浩介・タケは笑い合ってる。
しかし 唯一人隼人は、とても彼等に混ざって騒げる気分じゃない。
理由は聞くだけヤボ。
隼人が悩む事は唯一つ・・・竜との事。
何となく任せたけど、やっぱ気になる。
は女、そう何となく気づいてた俺と竜。
男として俺等といた時から、気になってたし
無茶ばかりして、放っておけないって思ってた。
教室で言った竜の言葉、あれからして本気モードになったってトコだろ。
相手が竜ってなると、俺も勝てる気がしねぇ・・
だって俺より些細な事に気づくし、ちゃっかり手がはぇし。
の事は男だと思ってた時から好きだった。
ぶっちゃけ、男でもいいから付き合いたいって勢いだったし。
そっち系でもいいや、って思えちまった相手。
相手が竜だとしても・・・を渡したくない。
傍にがいない、それだけでこんなにも不安になるなんて。
今何処にいんだろう、どうしてるだろう。
面倒に巻き込まれてたりしてねぇだろうか・・
逢いたい 声が聞きたい。
その存在を、抱きしめて確かめたい。
「完全に溺れちまってるな」
悪戯に満足したのか、自分を呼んでる三人の方へ
口許に自嘲の笑みを作ってから 隼人は歩き出した。
胸に沸き起こる への想い。
溢れ出した波は、俺をも飲み込んで狂わせる。
に 逢いたい。
☆☆
学校から、病院までの道程は そんなに遠くない。
前 学校をサボって、公園に行く途中に見たあの病院とは違う。
サボったってゆうか・・連れ出されたって言った方が正しいな。
あの時の事を思い出し、自然と顔が綻ぶ。
ハッ!また竜に百面相すんなよ、とか言われそう!
ふと気づいて、また視線を隣へ向ければ
合うはずのない目が合って、その目の強さに驚かされた。
逸らす事を許さない、そんな感じ。
「オマエさ、隼人と何かあった?」
「へ?何で?なんもないよ」
竜の指摘に、真っ先に思い出したのは熱いキス。
それから、あの言葉。
自分の指摘に、顔を赤らめ 目を逸らしたの態度で
直感的に竜は何かあったと悟る。
はすぐ顔に思った事が出るから、嘘をつくのに向いてない。
そんな所も、可愛くて目が離せねぇんだけどな。
そう考えて隼人バリに溺れてる自分に、竜は気づいた。
「隼人、オマエの事好きだって あの時言ってただろ。」
オマエなりに、返事したのかよ・そう竜は俺に聞いた。
あのどさくさ紛れに、隼人が言った言葉。
やっぱ覚えてたか・・・
「返事したのかよ」
俯く、コクられてあまり慌ててなかった様子から
あれが初めてじゃないと、自分は気づいてしまった。
こうゆう時、あんまカンがよくても嬉しくねぇな・・・。
が口を開くまで、竜は黙って待つ。
その間の沈黙が重い、ただ歩く音と車が走る音だけ聞こえる。
この時、俺は教室で竜が言った言葉が気になってたが
まさか竜は違うだろう、と思う事にして
長い沈黙を破り 口を開いた。
「まだだよ・・・吃驚して、返事ドコロじゃなかった」
それよりも、隼人にキスされた方が衝撃で・・・。
息を吐くように言う、恥じらいと戸惑いの含まれた瞳。
見る限り、嘘ではないようだ。
ま 嘘なんて、ついても無駄だし。
の嘘なんて・・俺がすぐに見破ってやる。
「ふーん・・じゃあ、俺にもチャンスはあるんだな。」
うん、まあそうなるね・・・って は!?
凄く自然にサラッと言ったから、一度は納得しそうになったよ。
な、何言ってんだ??竜まで!
「チャンスって、何言ってんだよ竜・・ジョーダンは」
「本気だって言ったら?俺だって、が好きだ。」
う・・・こんな展開、予期してなかった。
信じろって言っても考えに頭がついて行けない。
竜はどうしてそんな事を俺に言ってるのか
それらしい態度が今までなかったじゃねぇか!
「何で?」
「何でって、人を好きになんのに理由がいるのかよ。」
「う・・・」
「いらねぇだろ?俺はが好きだ、誰よりもがいい。」
オマエさえいれば、俺はそれでいい。
動けない程吃驚したの耳元で、竜はそう囁いた。
何でコイツ等、こんなに声とか色っぽいんだ!?
低く響く声が浸透して、耳まで赤くなりそう。
思わず立ち止まってしまった。
竜は隣からその手を掴み、手を引いて歩き出すと 言った。
「今すぐじゃなくていい、あんま悩むとよくねぇから」
「あ・・ああ。」
「病院行くんだろ?一緒に行くからな。」
「ああ・・」
マジかよ、隼人も竜も俺の事が好きだって??
こんな俺の何処がいいんだ?
何処がよくて、好きになんか・・。
竜は理由なんていらないって言ってた。
それは確かにそうだ、きっと理由を付けて人を好きになる奴なんて
滅多にいないだろう。
でも俺は、この三年間 誰かを好きになる事なんてなかった。
だから、理由もなしに他人を好きになる経験もない。
理由なんていらないくらい、恋焦がれた相手も
そんな事さえも、した事なかった。
竜に告白されて恥ずかしいし、上手く態度が取れないけど
此処で帰れ、そう言えない自分がいた。
繋がれたままの手、それを振り払ったりは出来ない。
他人を拒絶して、突き放す 俺が一番怖い事。
だからきっと出来ないんだ。
自分が嫌な事を・・大切な仲間には。
そうだ、急がなくてもいい。ゆっくりでいいんだよ・・な。