流転 三十章Ψバレた!?Ψ
暗い暗い闇に包まれていた。
男のフリをしていても、所詮は女の身。
体力の差をまざまざと感じさらせれた。
咄嗟に信乃を庇ったけど、逆に足手まといになっちまった。
俺なんかが庇わなくても信乃は平気だったかもしれないのに。
悪夢の事もあって、現八が持たせてくれた玉。
不思議と温かささえ感じる。
姉上が、力を送ってくれてるかのよう。
此処は何処だろう、眠ってからしばらくは
現八の温もりと、僅かな話し声が聞こえていたな。
何を話していたかまでは分からなかったけど。
何となく・・俺の事を話してた気もする。
玉のおかげで悪夢も見なくて済んだし、何か胸がスッとするよ・・・?
「!?」
パッと目を開き、胸元を触る。
スッとする理由が一気に分かった。
当たり前だーーーーー!!
しっかり巻いといたサラシが無くなって、代わりに包帯が巻かれてる。
と言う事は・・・・見られた(バレた)!?
同時に驚きから、不安へと変わった。
今まで必死に男として接して来ていたのに、自分の油断で正体を晒してしまったなんて・・・。
どうしよう・・・現八は女と情けは武芸を鈍らせるって。
俺が女って知っちゃったからには、これからの旅に同行させて貰えるかも分からない。
いやだ、置いて行かないで欲しい。
姉上からの頼み、彼等八犬士を無事揃え
里見に平和を齎すまで・・・傍に、いさせて。
現八の事を考えると、途端に様々な変化をする心臓の鼓動。
これがどうゆう事なのかは、まだ分からない。
感情が欠けてる自分を呪いたかった。
『起きたのか?』
不意に現八に呼ばれた気がした。
ハッと視線を向ければ、現八とは全く違った人が自分を見つめてる。
「気がつきましたか?ちょっと失礼・・・うん、熱は引いて来てますね。」
「あ・・・アンタは?」
「私は犬村大角礼儀と申します、現八殿から貴女を任されました。」
「そうか・・・やっぱり、俺は置いて行かれたのか。」
任された、という事は=置いて行かれた。
そんな方程式が頭の中に生まれ、胸が締め付けられた気がした。
熱も出てたし、女だし・・・足手まといだから置いて行かれたんだ。
横になったまま、言葉を無くし悲しげな顔をした女性。
いきなり女性に泣かれるのは困るので、大角は女性に名を尋ねた。
「あっあの、貴女のお名前を教えて頂けませんか?」
大角の言葉に、一瞬キョトンとしてしまった。
初対面の相手の前で泣くのも迷惑だな、きっとこの者も俺を気遣ってくれたんだろう。
は涙が浮かびかけた目を瞬かせ、体を起こそうとした。
「いえ、そのままで・・・まだ熱は完全に引いてませんから。」
「すまない、迷惑を掛ける。俺はという・・・いや、真の名はだ。」
起きようとしたを制し、そのままの体勢で構わないと言った大角。
その大角に礼を言って、一旦男名を名乗ったが
もう知れてるだとろうと思い直し、本名を名乗った。
男名と本名の両方を聞いた大角。
口を開いて奏でた声は、外見によらず低くてハスキー。
仕草も話し方にも、生まれながらの優雅さ・気品を感じる。
「殿・・いや、殿は何故現八殿や犬塚殿と旅を?」
「えっと・・・これは、軽々しく話せないのだが
里見の姫に俺はある事を頼まれ それを成す為に彼等と旅をしている。」
「里見?安房の国のですか?そこの姫君に・・・」
「ああ・・、それと大角からは現八達と同じ気を感じる。」
「気?」
「そう・・・清浄で、澄んだ気だ。」
大角がそう感じてると同時に、も大角に他の人とは違った気を感じていた。
青年の態度も礼儀正しくて、現八と顔見知りなのだろうか?
何だろう・・この似た気に触れてると、悪い事も起こらないって思える。
もしかして・・・持っていたりするんだろうか?
それか・・牡丹の痣とか。
「「あの・・・」」
互いに問いかける声がハモッた時、を嫌な感覚が襲った。
クラッと視界が揺らぎ、一気に頭が重くなる。
意識が浮き沈みし始めた。
なん・・だ?風邪がぶり返した?
胸が苦しい、凄く嫌な事が起きそうな・・・・・そんな・・・
「殿?・・・どうしたんです?」
「分からない・・、何か・・・変だ・・・・」
「――殿!?」
よくない事が起きる、災悪が起こりそうな。
そう言いたかったのに、俺の意識は途切れた。
眠りたくない、寝てる間に今度こそ置いて行かれてしまう。
そうしたらもう二度と、現八に・・・信乃や荘助・小文吾に会えない気がするのに。
横になったまま意識を失った、慌てて近寄り
熱を測ろうとしたが、外に人の気配を感じて中断。
取り敢えず、熱がぶり返した時の為に濡らした手拭いを額に乗せた。
何かが変だと訴えていた、さっきまでは落ち着いていたのに何故?
大角の考え事は、それ以上続けられなかった。
客人か、現八達かは分からないが
出迎える位置を、布団の手前にして人が現れるのを待った。
信乃が閉めた戸を開けて入って来たのは、実父と義母。
現八達に、婀娜っぽい妖婦のような女と言っていた女だ。
それでも実父が妻にと娶ったなら、息子として接しなければ・・・
左眼に布を巻いたザンバラ頭の父と義母の訪問。
出迎えた大角らが話しを始めた中、大角の背に庇うように位置された布団に眠る。
突然の眩暈と頭痛、脱力感と嫌な予感。
これらは、玉梓の呪いと深く関係している事は知らずにいた。
赤岩一角そっくりに化けた化け猫と新しい妻とやらをやり過ごし
その化けっぷりにある意味感心すると、2人も後を追って庵へ戻った。
大角が一緒とはいえ、熱に魘されてるを残してる事は気が気でない。
ましてや相手は化け猫で、その妻になった女も怪しい。
足音を忍ばせて戻った現八達は、入り口の戸ではなく木枠窓の前に立ち耳を澄ませた。
中の会話を聞く為である、もし何か仕掛けるようであれば阻止しなくてはならない。
木枠の隙間から覗くと、大角がを後ろに隠すよう応対してるのが見えた。
何だかんだ言って、ちゃんと任されてくれてる事を嬉しく感じる。
・・ワシはお主を傷つけた、それは間違いない。
ちゃんと向き合えるじゃろうか・・・・
だが・・・向き合わなくてはな、もっとちゃんとお主を理解したい。
真っ白な心を、傍で・・・・。
外より、現八と信乃が見守る中
偽一角と義母、そして大角の話し合いが成される。
それはまた、強引でとんだ絵空事だった。
しかし、父と慕う大角には その絵空事さえも真実となる。