様々な国の思惑
様々な人間の思惑
の存在が知られていなくとも
動き出す、それぞれの策略が――
第六幕 新たな影
目的は同じなのに、意志の疎通が乏しい。
そんな自分達の関係、ルイは変えてくれると期待している。
何故期待するかって?
面白いじゃない?互いに深く関わる事を避けていた私達に
たった一人の女の子が及ぼす影響。
大きいと思うよ?存在が増せば増すほど
与える影響力は大きいからね。
コウに一度出くわした屋上で、1人ルイは使い魔を空へ放つ。
とても必要な事だから。
僕にとっても、彼にとっても。
ΨΨΨΨΨΨ
オフィーリア国 王宮。
絢爛華麗な室内にあるテラス、其処で寛ぐ1人の青年。
黄緑色の長い髪、横の毛は顔の横に切り揃えられ
後ろの髪は、腰まで達し
双眸は紫、美しいその瞳は南の空へ向けられている。
彼の後ろには、使用人達が多数控えていた。
何故なら、彼はこの城の城主の息子。
オフィーリア=レイモンド=クリフ=ラザート。
もうお分かりだと思うが、この国の王子である。
そのラザートは、何かを待つかのように空を眺めていた。
まるで、南から何かが来るのを待っているかのように。
待ったのはどの位だっただろう。
やがて、南の方角から一羽の鷹が現れた。
「フフッ・・・漸く来たようだ。」
妖しげに笑うと、長椅子から立ち利き腕ではない腕に止まらせる。
鷹も、腕を傷つけないよう気にするかのように
柔らかく舞い降りた。
それから真っ直ぐに、ラザートを見て待つ。
鷹の意図が分かるラザートは、ニコッと微笑むと
腕に止まった鷹へ、掌を翳した。
「『カーン・解封魔』」
掌を翳し、呪文のような言葉を呟く。
すると、掌から緑色の光が放たれ 鷹を包んだ。
緑色の光に包まれた鷹、やがて光が消えると
其処に鷹の姿はなく、代わりに光に透けた青年が現れた。
魔法の映像なのだが、現れた青年の深緑の髪は風に揺れている。
ラザートは、その青年をよく知っている為
驚く事なく変わらぬ口調で青年へ言った。
「さぁて、君が掴んだ情報でも教えて貰おうか。」
『・・・・畏まりました。』
「硬いねぇ、僕達は義兄弟なんだから砕けてもいいんだよ?ルイ。」
『・・・いえ、同じ王族でも難しいですから。』
「ふーん?ルイは真面目だなぁ、分かった報告を頼むよ。」
姿を転送して来た青年、ルイへ笑みを浮かべて問いかける。
何故出身国の違う2人が義兄弟なのかは、不明。
砕けても構わないと言うラザートに対して、あくまで態度を変えないルイ。
そんな義兄弟を見て、ラザートは滑稽そうな笑みを作った。
手早くその話題を切り上げると、本題を持ち出して先を促した。
促されるまま、機械的な人形のように従順な口調でルイは報告をする。
『ラザート殿下がお探しになられる<扉>は、ラシール国に現れ
我々の学園で保護しております。』
「ふーん・・さぞかしカムイ殿下はお喜びだろうね。」
ルイの報告に、皮肉めいた言葉で答えるラザート。
その彼を一瞥してから、ルイは黙々と報告を続けた。
『<扉>の名は、ルシア=レイ=。
ラシール国のラナム出身、歳は16。父親はラシール国の元王族近辺護衛隊隊長を勤めていました。』
黙々と告げられる報告に耳を傾けながら、僅かな反応を見せる。
王族近辺護衛隊隊長、王族を護衛する隊の中の最高管理職。
其処の隊長を勤めていた者の娘が<扉>か。
王族に関わっていたのなら、<扉>や<鍵>の事を知っていもおかしくはない。
これは面白くなって来たな。
「ルイ、オマエその父親の事を詳しく調べられるか?」
『勿論』
「調べてみろ、何か此方として有利になりそうな事が見つかりそうだ。
それとルイ、その<扉>殿は自分の力と<鍵>について知ってるのか?」
新たな仕事に頷いたルイ、其処へ立て続けに問いを向ける。
楽しげに問いかけてくるラザート、その顔を見る事無く問いだけに答えるルイ。
『いいえ、カムイ殿下が黙っているようにと。』
「それは不幸だね、何れ誰かが教えてやらねばならないだろうに。」
この言い回しは、何か企んでいる言い回し。
黙って話を聞きながら、冷めた目でルイはラザートを見た。
本来ならば従いたくもないが、これは自分自身と国の為。
母の為にも、私はコイツに頭を下げねばならない。
自由になる為なら、私は何だってするだろう。
そう、この行いが1人の少女を苦しめる事になっても。
『殿下、お言葉ですが今それを告げるべきではありません。』
「そうなの?つまらないなぁ・・教えてあげれば、彼女は僕の物になるのに。」
『時が来れば、自ずと知る事となるでしょうから。』
「そうだね・・それにしても、上手く振舞ってるようじゃないか」
『殿下にとって、必要な事ですから。』
「忠実な義兄弟を持てて、僕は幸せだよ。」
『勿体無いお言葉です、それではまた連絡しますので。』
「うん、頑張って。」
頭を下げたルイの姿は、ラザートの前から消えた。
直接赴かなくても、互いの姿を見ながら話が出来る魔法。
この世界では、至極当然な事。
控えている使用人達も、驚く風もなく自分達の仕事をしている。
1人の女官が、ラザートの傍に来ると飲み物を差し出した。
当たり前のように、その飲み物を受け取ると
優雅な動作で、乾いた喉を潤すラザート。
美しい顔には、楽しむような笑みが作られていた。
「フン・・母親の為なら、犬畜生にもなれるようだなルイ。」
大いに楽しませてくれ、全ては俺の為に回っているのだから。
扉の鍵となるのは、この俺だけで十分だ。
ラシールのカムイや、他国の連中に扉は渡さぬ。
せいぜい足掻け、そして・・・俺の前に屈するがいい。
ΨΨΨΨΨΨ
屋上で、ラザートとの通信を終えたルイ。
その足で屋上の淵に歩み寄ると、其処から見える教室を眺めた。
ルイの眼下に見えるのは、魔法を学ぶ生徒の集う魔法課。
誰もが求めて止まない力を秘めた少女が、入学した課。
この世界に溢れる魔法、その源を司る力を持った少女。
ラザートやカムイだけではない、この世界に住まう者全てが求めている。
彼女を手に入れれば、間違いなく世界を手に入れられるだろう。
戦争だって思いのままだ。
何も知らずに育ち、この地へ足を踏み入れた。
君に罪はない、あるとしたら<扉>として生まれてきた事だ。
知らない所で多くの人間の運命を変えてしまっている。
陽だまりのような笑顔、接した者の心の闇を見抜き光へと導ける人
それが救いとなる者もいるだろうが、そうならない者もいる。
「後者としては、私の事だろうけどね。」
私は君を守るべくにいるんじゃない。
君の真っ直ぐさ、純粋さに付け入って利用しようとしている。
そう知った時、君は変わらぬ笑顔を見せてくれるかな?
赦されなくてもいい、その時が来るまで君の事は守るよ。
私が君を御せる<鍵>になれるその日までね。