嵐
久美子に大体の事を話した日から、数日経った日。
人知れず、一人の青年の運命が変わろうとしていた。
そうなる事で、3Dに一つの大きな嵐が巻き起こる事となる。
は 小田切の事がどうなってるのかが気になり
山口へ聞いてみようと、職員室へ向かっていた。
3Dの生徒が、職員室に向かう事は絶対にない。
授業が遅れても、教師を呼びに行かず そのままにしておくようなクラス。
だからこそ、今俺は物凄く注目を集めていた。
今更だが、俺が女として来た姿を知ってる者も何処かにいたりする。
そういった者は、大概 今の俺を見て吃驚したりしてる。
女として転校して来た奴が、いきなり男として通ってるのだ。
まあ・・空き教室に連れ込まれていないだけマシか。
女と知ってれば、それくらいして来そうだが。
そんな度胸のある奴はいないと見た。
優秀進学高校だもんな、頭の固い奴ばかりだろうよ。
とか思ってる間に、の視界に職員室の文字。
特にノックもせず普通に扉を開け放つ。
「山口〜いる?」
開口一番、担任教師の名を叫ぶ。
すると、他のセンコーが目を丸くして驚く中 教頭の裏返った声。
「こらぁ〜!嘩柳院!教師を呼び捨てするんじゃない!」
「猿は黙りな」
「なっ・・!貴様・・・!」
ジロッと教頭を睨み、ズカズカと室内に入って行く自分。
教頭も此方に歩いて来るが、突然目の前に現れた人物により
それ以上こっちに来る事はなかった。
「嘩柳院じゃないか、どうしたんだ?珍しいね。」
「来たくなかったけど、色々と聞きたい事があったから。」
女としての姿を知ってる教師達は、驚いた顔で俺達を遠くから見てる。
教頭が後ろから何か言いかけたが 上手く久美子が防ぎ
教頭を追いやるように手で押し、教頭がよろけた隙を突いて
久美子はの背を押しながら歩き、職員室を立ち去る。
「で?何だ?聞きたい事って」
少しウキウキした感じの久美子、そんなに職員室に来たのが嬉しいのか?
まあいいか、と思い直し俺は本題を口にした。
「小田切の事だよ、どうなってるのかなって思ってさ。」
「へぇ〜不良が嫌いって言ってた割には気にしてんだな。」
「そこ、煩いよ」
楽しげにそう口にした久美子に、すかさず突っ込む。
確かに俺は不良が嫌い、大人もセンコーも嫌いだと言った。
その考えが少しずつ変わり始めてるのを指摘されるのが
何だかイヤで久美子の肩を押しやる。
「分かった分かった、しかしおまえはそれを聞いてどうするつもりだ?」
「小田切にまた会ってみたいだけ、駄目か?」
「駄目だ、それにおまえは女の子だろ?危険な目に遭わせる訳には・・・」
自分の肩を押しやるをやっと宥め、久美子は俺へ問い返して来る。
そう聞かれるとは思わず、少し驚くが何とか切り返す。
また会ってみたいのは本当だった。
あの鋭い目、何処か自分と似たような寂しさを持つ青年。
話したのは短い時間だったけど、惹かれてる気がする。
それでも久美子は、俺が同行するのを許さなかった。
理由は、俺が女だから。
「・・・駄目か、でも必ず来させろよ?武田も心配してるし
隼人もクラスメイトだって誤解したままなんだ。」
「誤解?何の事だ?」
「あ、いや・・何でもない。とにかく頼む、『仲間』の『絆』が
拗れたままなのは俺もイヤなんだ。」
まだ久美子の真実を話すのは早い、そう思って慌てて言葉を終い込む。
慌てて隠した真実への言葉を、久美子はそれ以上聞けず
次にが口にした、仲間と絆・という言葉に気を引かれる。
全く自分の事や、此処に来た経緯を話さずにいたが初めて感情を露にした。
「そうか、おまえも結構いい奴じゃないか。」
いいから安心して待ってろ。
廊下の窓から外を見た俺の肩を叩き、久美子は笑った。
一緒に行けないのは悔やまれるが、その笑顔はとても安心出来る。
久美子に任せておけば、きっと大丈夫という気持ちになるから。
だから今回、彼女に同行する事は諦めた。
その日は何時もの通りに、隼人達とゲーセンに向かう。
頭の片隅に、久美子達の事が残っている。
もし竜が来たとして、隼人と仲直り出来るのか。
拗れた『絆』は、元に戻るのかとかばかり考えていた。
「のゲーム終わってるぜ?」
「あれ・・・?」
乗り気で来た訳じゃないのに、連れて来られてしかも考え事。
そんな状態でクリア出来るゲームではない。
座りたくて座ったんじゃないもんな。
そう をこのレーシングゲーム席に座らせたのは土屋。
で 今指摘したのは日向。
「あれ?じゃねぇって、考え事か?」
更に突っ込んだのは隼人。
ビリヤードの棒(キュー)を手にしたまま、何時の間にかいた隼人。
「てか・・何で此処にいんの?」
吃驚したけど、まずそれを聞いてみた。
聞かれた隼人は「ん?」とだけ口にし、何故かそのまま居座る。
「ビリヤードしねぇのかよ」
いい加減気になって考え事も出来ねぇ・・・と思って問えば
「まあいいじゃん、つっちーにハンデだよ。」
「ふーん・・・とか思わせといて、奈落に突き落とす気だろ」
沈黙・・・
「あはははははっ!!おまえサイコー」
突然爆笑され、意味が分からずとにかく隼人を見る。
この笑い声に驚いたのは、俺だけじゃなく武田達も驚いてた。
「おい・・笑い過ぎだろ」
「いいじゃん、おもしれーんだから」
いい加減恥ずかしくなって、バシッと手の甲で隼人の胸板を叩く。
しかし変わらず隼人は笑ってて、治まる気配すらない。
隼人って笑い上戸・・・?
彼が笑い治まったのは、土屋達に隼人キモイと言われた為。
俺が笑うのがそんなにキモイんか!と此処で隼人が土屋達に飛び掛る。
俺と武田はそれを見て、二人で笑い転げた。
この後起こる、一つの嵐を知らずに。
が小田切の事を気にしながらも、日はまた昇り朝が来た。
何時ものようになんら変わらない一日だと思って、は登校。
「 はよ」
「ああ、隼人か・・オハヨ。」
隼人と朝から一緒になるなんて、凄く吃驚だが
それもいいかと思い、互いに歩き出す。
自然と肩を並べての登校。
「・・・何かついてるか?」
教室に向かうまでの間、俺は隼人の視線を感じで視線だけ向けて問う。
すると彼は、しみじみと人を見てから言った。
「やっぱおまえ、女みてぇーな感じ。何か華奢いよな」
とか言いながら俺の肩を触ったり、しげしげと見てる。
俺は珍獣か?
そう言いたい目で見てやると、わりぃわりぃと笑って手を離した。
「それとさ、おまえ最近よくタケといるけど何か企んでんの?」
しかし次の瞬間に、その目は鋭い物となり俺へ向けられた。
流石・・察しがいいみたいだな。
「企んでねぇ、ただ思ったままに動いてるだけ。」
そう口にしたら、グイッと上着の襟を引かれ隼人の顔が近づき
「あんま余計な事すんな、タケを焚き付けるのも止めろ。」
「余計な事?俺はそうは思わない、それに焚き付けるも何も
武田だって自分の意志で動いてるんだ。『仲間』なら信じろよ。」
山口に向けられていた、あの冷たい目で言われたが
俺だって引き下がらない、自分のやってる事が間違いとは思わない。
隼人も、の口にした『仲間』という言葉に重みを感じた。
心に直接掛かる重み、けど隼人はそれを認めたくない。
「・・・・」
かと言って、一度仲間として迎えたを突き放す事も出来ず
煮え切らない思いを抱いたまま、を残し先に歩いて行ってしまう。
隼人も苦しんでるのは、俺だって分かっている。
不良みたいな感じだけど、ちゃんと仲間の事を考えてる彼等。
複雑な気持ちのままも教室へ向かい、そして嵐は起きた。
突然外が騒がしくなり、気になって俺達3Dも外へと向かう。
騒ぎは校門で、そこに猿教頭達が集まり騒いでる。
矛先は、一人の男子生徒・・・遅刻でもしたからか?
そう始めは思っていたが、段々と近づくその姿を見て誰だか気づく。
「小田切・・・」
呟いたを、隼人がチラッと見やる。
達より手前にいる久美子も、後姿だがとても嬉しそうだ。
これで『仲間』の『絆』も戻ればいいんだけど。
も 斜め後ろに立つ武田を伺い見る。
彼の顔も、複雑そうだが何処か嬉しそう。
「久しぶり」
集まったクラスメイト達の前に立った竜。
薄い笑みを浮かべた顔でそう呟き、竜の顔が微かに変化したその時。
隼人の顔つきが変わるのを、俺は悟った。
殴ってしまう、そう直感したは誰も予想しない行動に出る。
「俺さ・・おまえの事、許してないから。」
の変化に気づかぬ隼人は、それだけ言うと拳を作り
目の前の竜目掛けて腕を振り上げた。
「隼人、よせっ!」
これでは何も変わらない、そう思った俺は体が動いていて
拳と竜との間に、立ちはだかっていた。
「・・っ!あぶねっ・・!」
驚いた感じの竜の声、それは最後まで聞く事はなかった。
右の頬に鈍い衝撃を感じ 体が浮き上がったような感覚を最後に
俺の意識は暗い闇に落ちてしまった。