April 後編
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💛「あ、やべ・・・」
💚「どうかした?」
💛「iPhone忘れて来たっぽい」
🖤「えっ、大変じゃないすか」
🤍「さっきのお店じゃない?」
店を出て歩きながら岩本が気付いていた。
買ったばかりの黒糖タピオカラテを堪能中
電話をかけねばならない事を思い出したのだ
スーツの内ポケットから出そうとして
財布を避けた指は、iPhoneに触れなかった。
足を止め、改めて内ポケットを探すが
やっぱりiPhoneは入っていない。
阿部が気付いて岩本にどうかした?と聞きに来る。
頭で違う事を考えながら目黒とラウールに答える岩本。
あのiPhoneには重要な情報が記録されている
ラウールが言った通り忘れて来たのはあの店だろう。
閉店時間は22時だったはず・・・
💚「今は22時15分だから閉店してるね」
🖤「電話鳴らしてみますか」
💛「だな、目黒頼むわ」
🖤「うっす」
岩本の考えを読んだみたいな阿部の言葉。
すぐ対応したのは後ろにいた目黒。
促すと自分のiPhoneを取り出し番号を呼び出して通話ボタンをタップ。
あの店員さんが気付いてれば良いなぁと
そう思いながら呼出音に耳を澄ました。
待つ事数分、呼出音が途切れ誰かが出た。
🦢『・・・もしもし?』
躊躇いながら出た声に、すぐ目黒は気付いた
さっきの店の店員だと。
💛「目黒ちょっと代わって貰っていい?」
🖤「はい」
💛「さんきゅ」
反射的に自分を見た目黒の横に行き
片手を出しながら代わるよう申し出る。
意味を察した目黒が素直にiPhoneを手渡し
自分と代わってくれた。
受け取りながら礼を言って電話に出る。
💛「もしもし、さっき店でタピオカ買った4人組の岩本ですが・・・」
🦢『あっ、岩本さんですね?良かった気付いてくれて』
💛「ん・・・?」
🦢『今交番に向かってたんです、私から連絡するべきか悩んだんですが
お名前しか把握してなかったので・・・』
目黒に代わって貰い、電話口に出てみれば
予想通り、先程会話した店員の声が聞こえた
少し警戒していたが相手が岩本だと分かると声の色から警戒が消えて行く
iPhoneを忘れて行った旨を話せば何故か良かったと彼女は呟いた。
良かった、と呟いた理由を聞いてなるほどなと納得した岩本。
知らせるにも岩本の名前しか知らず
このiPhoneに自分達の誰かが電話をかけて来ないかなと考えながらも
仕方なく交番に向かって居たらしい。
そこに自分が電話をかけたから交番に行かずにiPhoneを返せる
と感じて良かった、と彼女は言ったのだろう。
💛「じゃあタイミングバッチリだった?」
🦢『はい、バッチリでした』
電話越しだが会話が自然に続く。
そんな岩本を脇を固める目黒と阿部が見やり
ラウールはニコニコしながらタピオカを飲んでいる。
💛「今から取りに行きたいんだけど」
良いかな?と電話口の彼女に聞く。
すると彼女は"あ~・・・"と少し口篭りながら
🦢『お店は閉めてしまったから私がそっちに行きましょうか?』
💛「マジ?」
💚「有難いけどこの辺はキャッチ多いよ?」
💛「そうだな・・・いや、俺が行くわ」
🦢『えっ、わざわざ申し訳ないですよ』
💛「時間的に危ない、一旦店戻って」
彼女から申し出てくれたのは有難かったが
確かに阿部の言うようにこの時間からこの辺は夜の街になる。
キャッチ(呼び込み)が道を歩き
目を付けた客を勧誘しに回る時間帯・・・
見た感じ若そうなあの店員の子が足を踏み入れれば
一瞬でカモにされるだろう・・・
こういう世界が似合わなさそうだったし。
てな訳で岩本自らが店に戻る事を決めた。
阿部や目黒に任せてもいいが、自分のiPhoneだし本人が行くべきだろう。
💛「んじゃ俺取ってくるわ」
🖤「岩本くん気を付けて」
🤍「あれ?あそこにいるのって・・・」
💚「うん?・・・彼女だね、交番から戻る所かな」
💛「マジか・・・」
一旦戻ってと伝えた相手がまさに戻る所を阿部とラウールが見つけた。
服装は違うが、髪型であの店員だと気付いたんだろう。
つまり今自分達が居る位置からほぼ一直線先に
タピオカ屋が在るという事になるな。
それなら、と岩本は早歩きで3人の所を離れ
スーツを靡かせてタピオカ屋を目指した。
擦れ違う何人かが岩本に気付き会釈して行く
そんな人らに片手だけあげて擦れ違った。
自分達はこの界隈でそれなりに顔を知られている。
兎に角人混みを縫うようにして歩いた。
幸い彼女は店先で足を止めて待っている。
人混みを抜けた先に見つけた姿へ声を掛けた
一方で連絡を取る事が出来、道を引き返した〇〇は
再び出発したバイト先に戻り、岩本を待つ。
電話をかけてきた人は、多分目黒と呼ばれた人かなと感じた。
気安い感じはしたが、悪い人では無い印象
ただ、興味ない世界の人達には違いない。
服装も黒いスーツだし、装飾品も高級だった
多分・・・彼らは夜の街に生きる人達だろう。
一生関わる事は無いと思っている人達だ。
やっぱホストなだけあって顔が良いのは納得
まあiPhoneを返したら関わる事は無くなる
ほんの少しその世界を覗き見ただけよ。
とか考えながら待つ事数分。
右側からやたら息を切らした影が現れた。
思わず身構えたが、直後に気付き緊張が解ける。
🦢「――岩本さんわざわざ申し訳ないです」
💛「やっぱアンタだったか」
🦢「え??」
💛「いや、戻る所が見えたからさちょっと急いだだけ」
荒い呼吸を肩で繰り返す岩本さんの目が私を捉える。
見えた事にも驚いたが、何故急いだんだろう
🦢「見えたんですか?凄い目がいいんですね」
はあ・・・と乱れた息を整える岩本さん。
何か画になる人だなぁ?
スーツのネクタイを緩ませて話す様はかなりヤバい、目を奪われた。
そんな〇〇へ急いだ理由を岩本は話す。
💛「この辺夜は歓楽街になるから危ないって思ってな、悪質なキャッチとか多いし」
🦢「なるほど、だから急いで来てくれたんですね?ありがとうございます」
理由を聞いた〇〇は先ず素直に感謝した。
普段はこの時間まで此処には居ないし
初めて見る夜の街には慣れてないから
僅かでも顔見知りな岩本さんの存在を見て
安心したのは事実だったから。
逆に岩本の方が〇〇に驚かされていた。
僅かしか関わってない相手を信頼し
屈託のない笑みまで向けているのは中々だ。
悪く言えば騙され易くカモにしかならない
俺らと関わって幸いだったかもと感じるくらいには隙だらけ。
💛「取り敢えずiPhoneさんきゅーな」
🦢「いえ、すぐ届けられて良かったです」
💛「後でお礼させてよ」
🦢「またお店に来て下さるだけで嬉しいです」
目の前に立つ岩本さんはスタイルが良く
話す間も道行く人からチラチラ見られている
〇〇も偶々彼がiPhoneを忘れなければ
今こうして会話する事も無い世界の人だろうと感じていた。
返すものは返した今、これ以上は関わりたくない。
そんな〇〇の気持ちを読んだのかお礼をしたいと
岩本が申し出たのである、関わりたくないのに何で~状態。
しかし強く断るのは勇気が要る。
体格も良いし、強面だし・・・
万一嫌がらせされたらどうしよう?
店に迷惑はかけられないし困る。
まさか目の前でそんな事を考えてるとは知らない岩本。
戸惑う〇〇の右手を取ると、掌を上向きにし
ポケットから1枚の紙を取り出して乗せた。
💛「これ俺の名刺、また後で連絡する」
吃驚して手に乗せられた紙を見ると
間接的に知ってしまった岩本さんの名前が。
ひかる、はこういう字なのかと眺める。
って、また後で連絡する・・・?
本気でお礼しようとしてくれてるんだ
🦢「連絡ってお店に・・・?」
💛「いや、お礼したいから連絡先教えて」
🦢「私のですか!?」
💛「当たり前でしょ、俺がそうしたいの」
わぁー・・・
まさか連絡先を教える流れになるとは表情冷や汗
関わりたくないのに何でかな!?厄日?
名刺を貰っちゃった手前断りきれない〇〇
仕方ない・・・お礼をしたら気が済むかもだし、それまでの辛抱よね・・・うん。
逃げ道は無く、気は向かないがiPhoneを出し
自分の連絡先を岩本へ伝えた。
💛「▢▢ 〇〇ちゃんか」
🦢「はい・・・」
💛「連絡は俺からするから待っててな」
🦢「分かりました」
💛「ん、それじゃありがと またね」
私の連絡先を登録した岩本さんはニコッと笑んだ。
クシャッとした笑顔は少し幼い。
しかし今の私はその笑顔に警戒心を抱いた
何故かは分からない。
確実に関わらねばならなくなった事に対し
本能的に警戒したのかもしれないね・・・
またね、と口にして〇〇の頭を撫でて行く。
踵を返し、再び雑踏に消え行く背中を暫く眺めていた。
🦢「・・・ホストクラブ『SnowDream』代表:岩本照・・・・・・」
ーーフェッ!?この店名って・・・
立ち去る岩本さんを見送った後貰った名刺を見た〇〇は
思わず名刺を2度見した。
書かれてたのは岩本さんの名前と肩書きに勤め先の名前・・・・・・
2度見したのは勤め先の名前だ。
念押しで言われたから記憶に残ってたソレ。
『SnowDream』
まさに友人が話していたホストクラブの名前だったのだ。
オープンしたばかりだって言ってたそこ・・・
まさか岩本さんがそこの代表だったなんて・・・
関わりたくない所かガッツリ関わってしまったじゃん・・・
まだ少年ぽさも残るラウという青年もホストという事になりますね?
はあ~・・・・・・最悪、4月からツイてないわ
だが後悔してももう遅い、諦めるしかない
〇〇は深い溜息を吐き、4月の空の下家路へと急いだ。
April.終わり