側面
物体や人を、決められた位置から見た言葉。
生きる者には、様々な側面がある。
真の心を隠して生きる者は、自我を捨て仮面を着ける。
感情を捨て 仕える者の為に道具となれ・・・。



第四幕 アンバランス



生徒会室へ連れて来られたは、大まかな説明を受けた。
知らなかった事ばかりで驚いたが、やるしかない。
生徒会メンバー達の、何処か壁を作るような雰囲気は気になるけど
今はまだ見守る事にした。
転校して来たばかりで、変な空気を作りたくない。

「君は寮で暮らす事になるが、案内はルイに任せる。
寮の事で何かあれば、俺やメンバーに聞くといい。」
「はい、色々と有り難うございました。」

話の終わりが見えて来たは、カムイの言葉にすぐ反応し
元気良く答え、ニッコリと笑って礼を言った。
そんな反応に、カムイの表情が一瞬だけ柔らかくなり
口の端を上げるくらいの笑みで応えてくれた。

「気にするな・・ガーディアンとして生徒会長として当然の事。」

ああ・・・そうだよね、何期待したんだろう私。
少し近づけたような気も、その言葉で突然広がる。
彼にとっては、普段行っていた仕事内容が増えただけ。
でも・・どうして、私はこの学園に転校させられたの?

ラシール国になら魔法学校なんて、山ほどあるのに。
その中でも、一際大きなこの学園に入れられた。

メンバーとはその後分かれ、はルイと二人きりに・・。
照れる必要はないが、逆に緊張している。
前を歩くルイさんの一房程長い髪が、一定のリズムで揺れ
綺麗な弧を描いている。
何ともまあ・・・上品そうな人だなぁ。

「ルイさんは、寮に住んでるんですか?」

何となく聞いてみた質問。
ルイさんも、ごく普通に答えを返す。

「いや、寮には住んでないよ。住んでるのは双子とカムイだけ。」

うん?じゃあどうして案内をルイさんに任せたの??
コウさんは恐らく、私と一緒にいたくなかったんだろうけど
ライさんは??会長のカムイさんは別として。

「気になる?」
「え?」

掛けられた短い言葉、それだけでも核心を突かれて
自分でも驚くくらいの 過敏な反応をしてルイさんを見ていた。

「顔に書いてある、ちゃんは分かり易い子のようだね。」

落ち着いていて、的確に核心を突いてくるルイさんの言葉。
正しく副会長に相応しい人。
全て分かられてるようなので、隠す事なく頷く。

「素直な子は好きだよ、カムイは深い事情で寮にいる。
双子は家が他国だから寮を選んだ。
私は寮よりも自宅の方が住みなれているから、自宅から。
エリックは・・・彼は自由な人だから、一つの場所にいないんだ。」

風のような人なんだろう、の思ったように
エリックは、何時も登校してくる場所が違うみたい。
あのようにフェロモン バリバリに溢れてる人だから
きっと寝泊りは女性の所で済ませてるんだ。
そんな人が生徒会でいいのだろうか・・・

「大丈夫、魔法の力で私達に敵う者達はいないから。」

の心配を見透かしたかのように、先にかけられた言葉。
ルイさんの笑顔は、見ていて安心するけど裏がありそうで?
まあ 一筋縄では行かない人達の集まりみたいな感じ。

「一つ 聞いてもいいですか?」

今から聞くのは、この学園に来る前から気になってた事。
真剣さを増したの声に、ルイは足を止めて此方を振り向く。

「どうして、そんなにお金を持ってない私がこの学園に?」

しかも男子校なのに・・そこまでして迎え入れる理由は?
私の問いかけに、珍しくルイさんは黙った。
少し、困ったような顔をしている。

黙る必要があるのだろうか?それとも言えないような理由なのか?
自分なりに、考えて待ってるとルイさんが視線を此方へ向け

「多くの事は言えないけど、君には魔法の才能があるんだ。
だから、何処よりも優れたこの学園で学ぶ権利がある。」

もっともらしく聞こえる理由。
まあ喜んでいいんだろうけど、不思議と素直に喜べなかった。
これ以上聞くのも何だし、取り敢えずその理由で納得しておいた。

「それと、ちゃんの部屋は最上階・隣にはコウとライがいるし会長のカムイもいるから安心して。」
「は・・はぁ」

安心出来るような、出来ないような・・・・。
ある意味、一人でいるより緊張するんじゃないの?
煩く出来ない(しようとしてた訳じゃないけど)し
今 コウさんとは、話しかけられないムードだしさ。

「大体の物は揃えてあるから、必要な物があればカムイに言うといい」
それじゃあ、私は会議があるから行くね。

ムーンと唸りながら、マンションと見紛う位に立派な寮を見ていると
後ろからそんな声が聞こえ、慌てて了承するとルイさんは
落ち着いた足取りで、本校舎へと戻って行った。

あれ?でもまだ部屋の前まで着いてないけど・・・いいのかなぁ
何かいい加減な所があるんだなぁ・・ルイさんって。
魔法が使えるんなら、移動させてくれてもいいのに。

「ガーディアンって、変わってる。皆何か・・アンバランスだよ。」
不釣合いってゆうんじゃなくて、ぎこちない感じ。
後は、妙によそよそしい。
気の合う同士としか、一緒にいないように見えた。

生徒会室を出た、コウとライは魔法棟を移動中。
この学園は、全ての建物が渡り廊下で繋がっている。
歩いてもいいし 魔法で移動しても構わない。
ある意味自由な校風である。

「コウ、何時まで不貞腐れてるの?」

自分より一歩前を歩く兄、コウの背中へライはそう問いかける。
何も知らないに、あんなきつく言い捨て 突き放したコウ。
今まで誰も、分かっていても聞かなかった言葉。
それを、はごく自然に聞いてきた。

―どうして?―

聞きたいのは俺の方だよ!
苛々が抑えられなくて、コウは拳で壁を叩く。

「俺達は、カムイの道具・・何故こんな扱いなんだ?
一年も一緒にいて・・あいつには分からない。」
同等に扱って欲しいと願う気持ちは、カムイも持ってるはずなのに。

「それは僕だって分からないよ、それに僕達は此処に来るまで
ずっと二人きりで生きてきた。今更温もりを求めるのは無理だ。
カムイが僕達を、道具としてしか見てないのならそれでいい。」

自分達の苦悩・・・でも、兄と自分の悩みは同じではない。
コウは、優し過ぎるんだ。
孤独を感じて生きてきたから、二度と味わいたくないだろうし
他人にも感じさせたくないと思ってる。

でも、カムイとの関係はそんな兄の願いを許さない。
カムイと自分達では、普段なら身近に会う事も出来ない差がある。

それに、このメンバーにはもっと特別な上下関係が横たわり
それを超えて、互いに信頼関係を築くのを邪魔する。
どうしたら『仲間』になれるのか、それを模索している兄に
今日初めて会ったばかりの少女は簡単に言ってのけた。

トップ同士だから気にしているのか?
生徒会の集まりは、仲間みたいな物じゃないのか・と。

一年共にいれば、少しは心許せる物なんだろうが
自分等の他のメンバーは、皆それぞれ壁を作っている。
表上の『生徒会』以上、入ってくるなと。

「そうか」

ライの言葉に、コウはそれだけ答えた。
双子でも、分かり合えない物はある。
互いの信念だけは、自分しか分からないのだから。
の存在は、確実に双子の中に波紋を広げる物になっていた。

会議後 ルイは席を立ったカムイへ近寄り、耳打ちする。
「疑問に思ってるよ、彼女は。」
「何にだ?」
多くを話さない言い方に、眉を寄せて問い返すカムイ。

立ち止まった二人の周りでは、他の生徒が教室を出て行く。
会議の時だけは、一般課の生徒役員も参加しているので
結構な人数になる。

「自分がこの学園に転校させられた理由、私に聞いてきた。」
「・・・・・」
「怖い顔だね、安心してあの事は言ってないから。」

ルイの言葉に息を呑んだカムイだったが、次の言葉を聞くと
止めていた分の息を吐き出す。

「適当に言っておいたのか?悪いな、ルイ。」
「気にしなくていいよ、トップシークレットなんだろう?」
何とも大それた言い回し・・だが、これは本当の事。
本人だけが知らず、ガーディアンである自分達のみ知っている。

この事が学園全体に知れ、そして国中に知れれば
カムイがこの学園に転校させた意味がなくなる。
理由はどうであれ、ここに転校させたのはを保護する意味も含まれていた。

あまりにも無知で、魔法界の事を知らなさすぎる
此処にいれば、カムイの権限で立ち上げたガーディアンが守れるし
カムイの属する国も安泰・・一石二鳥。

「自分の国の事、諦め切れてないのに俺に協力するのか?」
「・・・どうだろうね、少なくとも今は宿命だと思ってるよ。」
闇と光は裏表、常に傍に在るのが自然ってもんだろう?

そう言うルイの顔は、誰の前でも見せない妖しい色を浮かべていた。
「やっぱりおまえは油断ならない奴だよ。」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
肩に腕を乗せて、至近距離で話していた二人。

決して本心を見せないルイに、苦笑してカムイは笑った。
ガーディアンだけにある、特別な上下関係とは
魔法として扱う精霊の加護にある。

他の魔法課生徒には、平等に力が配布され飛びぬけて優れる者はいない。
――が 『扉』を守る役目のガーディアンには、それがある。
『扉』の配下にいる属性を司る精霊達には、最も優れた人間を
守護する決まりのような物がある。

コウは風の精霊・ライは水の精霊が守護し、エリックは火の精霊。
ルイには闇の精霊が、そしてカムイには光の精霊がついている。
魔法界を代表する光と闇の精霊に気に入られ、守護を受けている二人。

その者達の上に立つのが、源の力を秘めた
まあ本人は無自覚であるが・・・。
コウが気にしているのが、この精霊の守護による上下関係。
それを重んじているのはいないと思うが、自然となってる。

「でも・・事情を知れば、ちゃんは辛いかもね。」
肩から腕を退かし、教室を立ち去りかけた時残した言葉。
「何故だ?」
「さぁ?思っただけで意味はないよ。」

どうだか・・口にするって事は、何か意味があるからだろう?
はぐらかすような言い回しに、内心で零す。

「彼女はそんな関係を崩す『鍵』だと、私は思ってるけどね。」
「何か言ったか?」

さっさとルイの隣を通り抜けたカムイに、呟くように言ったルイの言葉は
聞こえる事なく 聞き返したが教えてくれる奴とは思えないので
ただ微笑んだだけのルイを見て、はぁ・と溜息を吐いただけで その場は立ち去った。

そんな会話がされてるとは知らない
一人 自分の部屋として割り当てられた自室で、呆然としていた。
何此処は!?何処かのスィートルームですか!?
って思いたくなるくらい、豪華な部屋でして はい。

生徒会室に負けないくらいの豪華さで、やっぱりキッチンがある。
トイレがあるのは当然だとして、お風呂はないでしょ・・・
そんな庶民的な考えは間違っていました。

ありましたよ!お父さん〜!!←壊れ気味
しかも、滅多に遭遇出来ないお風呂でした・・・。
ジャグジーって何時の時代のだか・・・それがある。

「あ・・そう言えば、クラスの仕組みとか場所とか聞いてない。」

忙しさと、一度にいっぺんの事があり過ぎたのとで
大事な事を聞き忘れていた事に気づいた。
魔法課に入れられる事は聞いたが、それの驚きが強すぎて
言うだけどんどん、言い訳に聞こえてくるから止めよう。

明日になれば、何とかなるでしょ・・聞けばいいんだし。
ってな訳で、よく眠れないまま朝を迎えた。
ノロノロと置いてあった制服に着替える。

女子の制服なんて、きっとこれ一着だけだね。
首に白のタートルネックで、広い襟がある上着を着て
真ん中に紅いリボンがあり ワンピース型のスカート。

「結構可愛い系だけど・・誰が考えたのかな」
「いいから早くしろ、独り言が長い(怒)」

あ、あれ?外から突っ込みが・・・
と思いながら、いそいそと鞄を持って扉のノブに手を伸ばす。
ガチャッと開けてこれまた吃驚。

「・・かっ・・・会長」

ドアの外に立って、突っ込みを入れたのは生徒会長のカムイさん。
腕を組んで立つ姿も絵になってる。

「教室が分からないんだろう?来い、案内する。」
「は・・はい、宜しくお願いします・・。」
思いも寄らない出迎えに、ドキドキしつつも
嬉しいと思い カムイと共に学園へ出向いたのでした。

つづく