貴方の存在で紛らわせて・・・
8月。
1人暮らしをするべく、東京都内のマンションを借りた私。
クソ暑い中の引越し作業も無事終えて、ちょっと一休み。
このマンションの同じ階に住む人達には
粗方挨拶も済ませた。
唯1人、隣の部屋の住人を除いて。
挨拶には行ったんだけど、チャイムを鳴らしても反応がなく
声を掛けても人の気配はしなかった。
管理人さんが言うには、その部屋の人は若い男の子で
とても忙しいのか、殆どマンションには戻らない日があるとか。
じゃあいつ挨拶出来るか分からないね。
まあ何れ何処かで会うだろうし、その時でいいか。
そう思って、私も隣の住人の事は忘れていた。
あの夜までは
この世の自然災害の中で、一番嫌いな物 それは
暑い夏には当たり前のように起こる、夕立。
あの光と、空気を震撼させる雷鳴が嫌い。
少しでも音がしただけで、体が緊張してしまう。
家族といた時は、皆いたし平気だったけど
今は1人だ、駆け込む相手が誰もいない。
耐えられるか?そう思うと怖くなる。
叫んだりしたら恥ずかしいし、情けないよね・・・。
しかし、不安とゆうのは現実になるのです。
ゴロゴロ・・・
「!?やだ、夕立??」
冷房を掛けて、リビングでくつろいでいれば
嫌な音が耳朶に飛び込んできた。
大嫌いな夕立、窓の外を見れば真っ暗な西の空が目に入る。
心臓の鼓動がリアルに刻み始め、緊張感を高めた。
勝手に手とか体が震えだす。
私――は厚いカーテンを閉めたり、テレビを付けたりした。
ボリュームを上げて、外の音が聞こえないようにする。
こんな事をしても、意味はないって分かってるけど
少しでも不安を消したくて、やるしかなかった。
☆☆☆
が1人、不安と戦ってる時
1人の青年が、の住むマンションへと帰って来た。
挨拶の終えていない隣の部屋の住人である。
管理人さんが珍しそうに声を掛け、軽い会話を済ます。
それと、自分の隣に女の子が越して来たと聞かされた。
歳の近い住人の事を少し気にしつつ、エレベーターに乗り
部屋のある階へと向かった。
「うわー今夜は凄くなりそ・・」
ピカピカと光出した空を見て、そう零す。
お化け屋敷とかは苦手だが、雷はそれ程でもない。
今日も暑かったし、これなら涼しく寝れそう。
とか思いつつ、部屋の鍵を開けて電気を付け
リビングのソファーに腰掛けた時だ。
ドドーーン!!
激しい光と共に、地響きのような轟音が空気を震わせた。
油断していた為 少しビクッとなった俺。
今ので蛍光灯が消えそうになった。
これひょっとしたら、停電するかもしんねぇな。
ピンと来た俺は、念の為に懐中電灯を手元に控えた。
停電する前にメシ喰わねぇと、と立ち上がり
キッチンへ向かった。
一方 は、さっきの雷鳴で思わず耳を塞いで目を瞑っていた。
光ってすぐ鳴ったから、距離は近い。
うえ〜怖いよぉ・・目が勝手に潤む。
怖くて外は見れないが、大きい音がしないだけで
ゴロゴロ言ってるのが聞こえる。
耳栓が欲しい!!
しかも、カーテン閉めたはいいんだけど 窓閉めてなかった。
うわーうわー!近づきたくないよ〜
でも閉めないと雨とか吹き込みそうだし・・
は泣く泣く窓を閉める為に、窓へと向かった。
まだ音はゴロゴロと控えめな感じ。
それがいつでかくなるか、妙な緊張感が体を覆う。
やっと窓の鍵に手を掛けた時、謀ったかのように
雷鳴がの目の前で、縦光と共に鳴り響いた。
「きゃああっ!!」
恥ずかしい位、大きい悲鳴が喉から出た。
床に倒れ込むように屈む。
震えながら動けずにいるの悲鳴は、見事に隣へ聞こえた。
「悲鳴?隣からか?」
雷鳴を気にする事なく、自分で茹でたアルデンテのスパゲッティ。
それを食べていた俺、ふと隣から聞こえた悲鳴に
ハッと顔を隣の部屋がある方へ向けた。
そう言えば、管理人さんが女の子が越して来たって言ってたよな?
1人暮らし・・・だよな?
そう思いつつ、ゆっくり麺を口に運ぶ俺―赤西 仁―。
テレビの音量を下げ、隣を気にしつつ夕食を食べる。
それから何度か轟音と雷光が響き、その度に女の子の悲鳴が聞こえた。
徐々に仁も心配になって来る。
そうこうしてる間に、スパゲッティは食べ終わり
隣へ行こうかと思った矢先、とうとう停電してしまった。
それも予測の範囲、手近に用意しといた懐中電灯を取る。
ベランダから行くのも考えたが、変な人に間違えられそうなので
普通に玄関へと向かった。
その時は、おっかな吃驚しつつもタオルケットを掴み
頭から被ってその場で縮こまっていた。
とうとう停電してしまった、懐中電灯を取りに行く余裕もない。
心細い、電気が消えて余計に光るのが分かるし
どんなにタオルケットを被っても、怖さはなくならない。
自分の事を嘲笑うかのように、音は鳴り止まず
段々泣きそうになってきた。
ピンポーン・・
そんな時、玄関のチャイムが室内に響いた。
こんな時に誰だろう。
タオルケットを頭から被りつつ、玄関を見る。
おそろおそろ近くまで行くと、声が聞こえた。
とっても響きのいい声だった。
「ちょっと開けてもらえない?怪しいモンじゃないから。」
男の子の声、同じ階を全部回った時
こんな良い声の男の子はいなかった。
つまり、今外に来てるのは隣の住人の男の子?
どうして来てくれたのかは分からないけど
とにかく今は1人は怖くて、心細いからは思い切ってドアを開けた。
ゆっくりドアが手前に開いて、立っていた男の子の姿が
スローモーションのように、自分の視界に・・・
またしても、絶妙のタイミングで雷光が空を明るくし
次の瞬間、一番デカイ轟音が轟いた。
「悲鳴が聞こえたから、大丈夫かなって・・・」
「ひゃっ!」
あまりの音のデカさに、思わずは目の前の男の子に抱きついた。
タオルケットを被ったままの。
吃驚した仁だが、しがみついて来た女の子を咄嗟に受け止めた。
真っ暗な部屋で、1人雷に怯えていた子。
必死に自分にしがみついた姿が、ドキッとさせた。
「大丈夫?・・ちょっと上がるけど、いい?」
「え?あ!ごめんなさい!」
「1人じゃ怖いんだろ?俺でよければしばらくいるから。」
「え!?何か悪いですよ、初対面なのに・・」
しがみついた女の子に、なるべく優しいトーンで話しかけ
ドアを後ろ手で閉めて言った仁。
俺の言葉で我に返ったその子が、パッと体を離した。
あくまで遠慮するその子、だがまたしても
激しい轟音が、彼女の声を掻き消した。
耳を塞いで悲鳴を噛み殺した彼女。
無理をする姿に、何か別の気持ちが芽生える。
「初対面でも関係ねぇって、誰かいた方がいいじゃん?」
「そ・・そうですか?じゃああの・・えっと、お願いします。」
歳は同じッポイのに、姿勢低く敬語で頭を下げた彼女。
・・・・マズイ、可愛いかもしんない。
何て気持ちが心の中で強くなった。
頭からタオルケットを被って、危なげに廊下を歩く姿。
裾を踏まないように、仁は彼女の隣をゆっくり歩いてやった。
さり気なく手まで握ったりしながら。
勿論、ドキッとがしたのは言うまでもない。
こんなにカッコイイ人だったなんて・・・
背も自分より高くて、男らしいしっかりした体格。
「ん?怖い?」
「いいえ・・!ちょっと平気になりました。」
「ホント?そりゃあ良かった。」
「・・・有り難う」
「どういたしまして」
初対面なのに、話をする度に打ち解けていく。
いるだけなで不安がなくなる。
不思議な人、ホントに初対面なんだろうか。
リビングに着くと、青年はキッチンから蝋燭を持ってくると
器用にセッティングして、リビングに明かりを灯した。
そこで初めて、青年の顔が見えて来た。
甘いマスク・・・女の子以上に綺麗な顔。
声に似合った素敵な青年だった。
懐中電灯の明かりで見たのとは違って
蝋燭の灯りで見る容姿も、やっぱり素敵でした。
「1人暮らしは初めてだよな?」
「うん、やりたい事があって上京したの。」
「やりたい事?」
「私ね 小説を書くのが好きで、こっちの方にそうゆう学校があったから どうしても通いたくて・・・」
凄く親身になって聞くから、は身内以外に話した事のない事まで
初めて逢った彼に話していた。
ごめん、そこまで聞いてないよねって謝ったら
謝る事ねぇだろ?いいじゃん、目標があるんだから。
頑張れよ・・と青年は気分を害する事なく、笑った。
私・・一目惚れしやすいのかな、胸が締め付けられた。
この人が笑う顔、好きかもしれない。
話をしてる時、音も光もしたけど
吃驚して、またしがみついたのは数回だけで
後は怖いのも忘れて、この人との会話を楽しんだ。
「お、電気回復したみたいじゃん。」
雷の音が遠ざかった頃、電源が回復したらしく
消えていた電気が付いて、室内を照らした。
仁も電気の回復と共に、明るい電気の下で女の子を見た。
サラサラのストレートの髪、くりっとした大きな目。
細い手足、可愛いなと思った通りに可愛い子だった。
途端に明るい室内で、照れ臭くなった。
それはも同じで、照れるのを隠すのが精一杯。
「じゃ、じゃあ俺そろそろ戻るわ。」
「あ、ホントに有り難うございました!」
気恥ずかしさに耐えかね、リビングから玄関に向かう仁。
その背を慌てても追いかけた。
だってまだ名前聞いてない〜
タオルケットを放り投げ、青年の見惚れるような背を追う。
綺麗な逆三角形・・・腰とか抱きつきたいってゆうか
抱きついちゃったじゃん!!うわー夢中だったとは言え
何て大胆な事しちゃったんだ自分。
「ねぇ、名前なんつーの?」
立ち止まってポカポカ頭を殴ってたら、笑いを含んだ声が聞こえ
目を開ければ、玄関に立つ青年の姿が見えた。
はにかんだ笑顔も、とっても輝いて見える。
「 、貴方は?」
「ね、可愛い名前じゃん。俺は隣の赤西 仁。」
「やっと挨拶出来た、ホントに有り難う仁君。」
「『仁』でいいよ、俺あんまいないけど・・・」
の名を可愛いと言った仁、笑って答えてから
下駄箱の上のメモ用紙に、サラサラッと何かを書くと
の手を取って、そのメモ用紙を握らせた。
手を取られた事に照れて、吃驚してるは
握らされた手を開いて見ると、何かの番号が。
「何かあったら、其処に掛けろよ すぐ行くから。」
突然のこの言葉、は耳を疑った。
まさか初対面で、こんなカッコイイ人に電番を貰えるなんて・・
しかも、すぐに行くからって・・・ひゃあああっ!!
顔に付いた熱は、すぐに頬を紅く染める。
照れながら固まってる私に、仁君・・えっと仁が
私の耳元に顔を寄せると、色っぽい声で
こう 囁いて去って行くのだった。
「って何かほっとけないし、一目惚れしたから。」
真っ赤になって、ドアが閉まるのを見つめていた。
これからこの東京で、とても素敵な毎日が始まった。