虹色の旋律 三十六章



発売日当日、書店に一斉出版された1つの雑誌。
テレビのCMを見た者達の間では、共通の話題の1つになった。

新メンバー 

若者の間で話題を攫っている主である。
6人でこのまま活動するものと思っていたファン達も
赤西達と同じように衝撃を受けた。

「CM見た?」
「あ〜ブルーシトラス編でしょ?見た見た」

今まさに書店でその雑誌を開きながら話す一組の女子高生。

「どう思う?新メンバーの加入」
「んー・・・・まあいいとは思うけど、皆も吃驚したんじゃない?」
「だよね、あたしらも吃驚したし。」
「てか、すっごい綺麗な子じゃなかった?」
「あー!それあたしも思った!!喋り方も何か変わってるよね」
「SUMMARYで初舞台らしいね、見に行こうかな〜」
「ポジションは赤西君とツータワーみたいになるっぽいじゃん、ファン中でも荒れそうだねぇ」
「スリートップかあ・・荒れそうだわ」

だねぇ〜・・友達の言葉に頷きながら、女子高生達は書店を去った。
このような会話は彼方此方で交わされていた。


+++++++++++


あれから亀梨達は無事タクシーに乗り込み、事務所を目指し移動中。
実は今日より、内容によっては会場での稽古も予定されており
今日は一度事務所に立ち寄り、それから移動車に乗り込んで会場での稽古が組まれている。

立ち眩みも去る事ながら、は正直今日のレッスンが憂鬱だった。
先週以来関わりが少なかった玉森も、会場稽古に参加するからである。

しかしだからと言ってレッスンを休む事は出来ない。
この場を逃げ出す事も出来ない。
でも今日は皆が傍にいる・・きっとやり切れるはず。

自身に暗示を掛けるかのように言い聞かせ、事務所への扉を潜った。
亀梨が先に扉を押し開けて入り、が続いて中に入る。
その次赤西が続いて最後に聖が中へ。

「上田達ももう着いてるよな」(亀
「そりゃそうだろ」(赤

事務の人に挨拶をそれぞれにしながらの会話。
亀梨の呟きに赤西がぶっきら棒に言い返す。
も三人に悪いな、と思いながら二人に続いたその時、の背筋は凍りついた。

「お、玉森?はよ」(赤
「―――っ」
「・・・・あ、赤西さん皆さんお早うございます!」(玉
「もう皆揃ってる?」(亀
「はい、もう集合してます。スタッフさんは先に出発してるそうです」(玉
「やっぱ俺ら遅れたみたいだ・・・・な?」(赤

何故か上から彼が降りてきたのだ。
鋭い視線をに向けてから、赤西の言葉に笑顔で受け応えしている。

ハキハキと答える様は人懐っこい少年。
だが彼の奥底にある本心を垣間見たには恐怖にしか写らない。
負けてなるものかと思えば思うほど逆に体が強張った。

トイレに行くのだと言う玉森と擦れ違い、四人は上へ進む。
だがその際偶々視界に収まったの顔色に赤西は言葉の終わりが疑問系になる。
戻りつつあった顔色が真っ青になっており、体が小刻みに震えているようにすら見えた。

赤西の視線が自分を伺うように見ている事すら気にする余裕すらない。
全身を覆うような恐怖、その恐怖が足元から這う様にせり上がって来る感覚に陥り
縋るような手を隣にいた田中に添えると、服の裾をギュッと握り締めた。

「ん?おい、マジ平気なのか?顔色やべぇーぞ?」(聖
「大丈夫です・・立ち眩み・・・・」
「今日のレッスン休んだ方がいいぞ?俺ら言っておくし」(亀
「駄目です・・・・絶対行きます・・!」

ふらつくを支えながら田中は心から案じた。
これはただ事ではないような気がする、と。

階段を上がろうとしていた亀梨と赤西も数段降りて戻って来る。
こんな事では駄目だと言うのに、体がそれに耐えてくれない。
もし今日休んだりしたら、益々玉森はを見限ってしまうだろう。

やっぱり実力で合格してないのではないかと思われてしまう。
そしたらKAT-TUNに入れた社長も、受け入れて下さった皆さんまでもが悪く言われてしまう。
だから尚の事帰る訳には行かなかった。

「けどその様子じゃ無理だって」(聖
「そうだよ、早く休んだ方がいいよ」(亀
「いやです帰りま――」
「わぁーったわぁーった!」(赤
「!?」

心配してくれる二人の気持ちに応えられないのが心苦しいが、は制止を振り切り階段を上がる。
亀梨と田中もそれを慌てて追いかけた。
しかし業を煮やした赤西が割って入り、覚束ない足取りのを素早く背中に背負った。

大きな男性の背に背負われた驚きにの焦りも止む。
父親以来初めてのおんぶだった。
自分を背負う赤西の顔が横を向いた事で伺い見れる、発せられた言葉は少し怒っているようだった。

うわー・・何コイツ軽っ!

「その代わり行くからにはちゃんとレッスン受けろよな?」(赤
「おい赤西――」(聖
「はい!最後までやってみせます」
「おし、けどな・・もう駄目だ!って思ったら誰でもいいから言っとけ」(赤
「・・・・はいっ!」
「全くも強情だね、仁は強引だけど」(亀
「はー・・・ったく」(聖

広くて大きな背中、あの赤西がを背負って階段を上がっている。
その事実が一瞬信じられなかった。
ちょっとは赤西さんに受け入れて貰えてるって事でしょうか・・?

嬉しくなって小さく微笑んだ
赤西の背中に背負われ、少し心が安心した。

そんな微笑ましい光景を一人の目が見つめていたのを達は知らない。
駆け足で階段を上っていく面々を、玉森は静かな眼差しで見ていた。


++++++++++++


達が到着した所で全員揃い、点呼と説明を軽くした後移動バスへと乗り込む。
田中はその途中、話の輪を離れて小山の方へ。
先週の出来事を知る小山の傍へ田中は移動した。

「おっす小山」(聖
「おお聖、おはよ」(小

さり気なくトーンを落として声を掛ける。
持ち出すのは本題のみだ。
早速今し方の出来事を報告してみた。

朝からの様子がおかしく、玉森と会話していた時には更に悪くなったと。
頼りない足取りで、体は小刻みに震えてた・・でも熱はなさそう。
それに赤西も薄っすら気づいて来たかもしれない事も話した。

「取り敢えず本人が休まないって断固拒否してっから連れて来たけどな」(聖
「成る程ねー・・こりゃそろそろ警戒しとかなきゃかな」(小

歩く小山の視線が前方のを映す。
確かに具合はよくなさそうだ。
度々上田と亀梨が様子を気にしてるみたいだけども・・・

「俺らが玉森に理由を聞いて止めさせてもいいけど、それだと更に悪い方に行きそうじゃん」(聖

一理ある、玉森はきっとを受け入れてない。
それに、が俺とか聖達に囲まれてるのも面白くないかもしれないし。

其処を俺らが出てって諌めたりなんてしたら、火に油を注ぎかねないもんなー・・・・
けど玉森が今後どう行動に移すか分からないし・・大事になるのは避けたいなあ。

「様子見に徹するしかないのが辛い所だね・・・でもの事ちゃんと見ててあげてよ?」(小
「あー俺我慢出来るか自信ない。ん?そりゃ言われなくても見守るけどさ、玉森の事も放っとけね〜」(聖
「聖は優しいからね〜、でも玉森の方はまだ待って。どうにかするのは理由を知ってからだよ」(小
「んー・・・・赤西どうする?話しとく?」(聖
「聞いてきたら話しておいて、成るべくなら知られる前に解決したいけどねー」(小

そりゃ同感、赤西結構熱い奴だからな。
小山が思案してる間、田中は視線をから外す事なく待っていた。
ふとその視界に影が割り込む。

「お、わっ?!」(聖
「聖と慶ちゃん何真剣に話してんの?」(上
「何だたっちゃんか、どっから沸いた?(笑)」(小
「沸いたとか失礼じゃない?偶々視界に入ったの、と歩いてたら視線感じたし」(上

沸いたのは上田でした←
金髪の髪が陽を弾いて眩しさ倍増中。

そのまま田中と小山の間に居座り、無邪気に聞いてくる。
今の上田に『無邪気』って言葉が一番似合わないんだがな・・
二年前よりはトケドケしさも減ってきてたり?

ぽよーんとして見えて実は結構鋭い元リーダー。
あまり勘付かせないように振舞う事にした。
なので上田には稽古の相談とかしてた、と説明するに留めておく。

そしてバスは原宿にある会場へ到着した。

先輩Jrが小さいJr達を自然に誘導するようにバスから降りて行く。
勿論達KAT-TUNもバスの出口へ向かった。

後ろに乗っていた者から降りる為、も前後を赤西と小山に挟まれながら歩き出す。
すると、下限から伸びた影がの足を引っ掛けた。

「わわわわわ!!」
「おわっ」(赤
!」(小

思い切り前につんのめり、前を歩いていた赤西に突っ込んだ。
後ろから聞こえた情けない声に丁度振り向いた赤西、慌てながらも何とかを受け止める・・が!

急だったせいもあり、後ろの小山が手を伸ばすもを受け止めたまま更に後ろへこけた。
ドターン!と言ういい音に、バスを降りたばかりの上田と亀梨が戻って来た。

「おいどし・・・って、仁!平気か??」(亀

覗き込んで見えた光景に、顔色を変えて亀梨は駆け寄る。
上田も慌てて亀梨に続いた。
先に小山も傍に行くと、赤西の上に乗っかったままのに声を掛ける。

が応えて小山を振り向いたタイミングで、彼は現れた。

「赤西さんすみません!僕の足がさんの足にぶつかったせいです!!」(玉
「おー・・いいって、怪我もねぇし」(赤
「――・・・わ、私も平気でしたから・・」
「おめぇはいいから早く退けっ」(赤
「ん?え?わぁああああ!!!!ご、ごめんなさい!!!!」

平謝りする様をジッと見てから赤西は平気だ、と玉森に声を掛けた。
玉森の方を緊張しつつも振り向き、頑張って笑みを向けた
しかし、其処は赤西の腹の上・・・

勿論受け止めたままコケた赤西としては、カッコ悪い上に何やら気恥ずかしくて耐えられなくなり・・
恥ずかしさは怒声となってに向けられた。
耳元近くで怒鳴られて、状況に気づき、同じく恥ずかしくなったは慌てて腰を起こした。

立ち上がろうとしたの手を、亀梨と上田が引っ張り立たせ
横にいた小山は玉森を気にしつつの服を払ってやる。

そのままその光景を、玉森は冷ややかな目で見つめていた。
偶々視界にそれが映ったのは、玉森と向き合う形で立っていた亀梨と上田である。
勿論玉森は瞬時に笑顔に変わり、先に降りて行った。

亀梨と上田の脳裏に『もしや?』と言う三文字が過ぎる。
中でも上田は別の光景も過ぎった。
此処へ移動する前に見かけた物・・・・小山と田中が真剣な眼差しでを見つつ会話していたあの光景・・

あれは『もしや』の事態を案じていたのでは?と