憧れと期待
俺を先輩と言って呼び止めたのは、宮崎って子。
真面目さが際立つような、おさげの髪型。
俺・・この子に先輩って呼ばれるような時 あった?
困惑してるに、宮崎さんは初めて笑顔を見せ
俺の傍に駆け寄って言った。
「先輩は覚えてないかもしれないですけど
私 ずっと小学校の時から憧れてたんです!」
また会えて嬉しい、そう言って宮崎さんは笑った。
小学校!?と大げさなリアクションをする隼人達。
恐らく此処にいる全員が、の小学生姿を想像しただろう。
でもおかしくない?歳の差があり過ぎだろ。
俺が小学校・・六年の時、この子は三年生・・・
えぇっ!?そんなんで俺の何処に憧れたってんだ??
そう思うのはだけでなく、石川も教頭も疑問でいっぱい。
詳しく聞くと、俺が中学の時に憧れてたらしい。
何処に憧れてたのかと言うと、家柄と(あんま嬉しくない)
お嬢様らしくない気さくな性格だそうだ。
その後、もっと詳しく聞こうとした隼人達をかわし
石川に連れられるまま、女子中学生達はその場を去った。
その場に残ったのは、何時ものメンバーとヤンクミ。
教頭達は、学校案内の為 慌しく走って行っていない。
これは丁度いい機会と思ったのか、一斉に質問してきた。
「オマエも石川が担任だったのかよ!」
「つーか、あの子の先輩!?」
「小学生に慕われてたってしんじらんねぇ〜!!」
「中学生のってチョー見てみてぇ!」
「やっぱおさげだったんか?」
いや・・質問はつっちーだけだな。
隼人と竜なんて、絶対その時の事想像してるぜ?
お嬢様らしくない気さくなトコ・・・ねぇ。
お嬢様って事で、距離を取られたくなかったからそうしてただけで
別に憧れられる程の事じゃないとは思うけどな。
「てゆうか竜、中学生が皆おさげな訳ねぇだろ」
「じゃあどうだったんだよ」
「それよりもオマエ等、こんな事してまず言う事あるんじゃねぇのか?」
普段のノリで、竜に突っ込みを入れ言い合いに発展しかけたが
背後から凄みの利いた声が轟き、仁王立ちのヤンクミを見た俺達。
ってゆうか、俺は参加してなかったんだし
謝る必要はねぇだろ(汗)。
ヤンクミが指し示したのは、派手に細工された制服。
どうやら、コレをお披露目した教頭達は怒り心頭になり
それを問いただしていた場面で、俺と隼人も見つかった。
しかし、これからという時に つっちーが大声を出し
ヤンクミの注意を逸らすと、一斉に彼等は走り去った。
俺も腕を引かれたけど、隼人には断り 此処に残った。
皆には言えない事も、女同士・・久美子になら言えそう。
そう思ったから此処に残った。
「オマエは行かなかったのか?嘩柳院。」
「うん・・・ちょっとヤンクミに相談があってさ。」
「相談!?このあたしに相談!?嬉しいぞぉ〜嘩柳院!」
そう言った途端、目を輝かせた久美子。
そんなに喜ぶ事か?とは思ったが、聞いてくれる態度が嬉しい。
「それで、どんな相談だ?あたし 口は堅いから安心しろ。」
「うん、俺・・やっぱ女だって事話した事後悔してんだ。」
「何でだ?オマエが話してくれんのアイツ等だって待ってたし
オマエ自身も話そうって決意した事じゃないか。」
久美子の疑問は正しい・・んだけど、確かに話して良かったよ?
けど・・卒業してからとかの方が良かったかもしんない。
そう続けると、不思議そうな顔のまま久美子は言った。
「何か・・あったのか?アイツ等と。」
「こ・・」
「こ?」
「告られた、隼人と竜に。」
「ほぉ〜?モテモテじゃないかって、本当かそれ。」
「こんな恥ずかしい事、真顔で嘘言えっか!」
それもそうだな、との突っ込みに納得する久美子。
顔はニコニコ顔で、何か楽しそう?
「でもまあ・・嘩柳院はどうしたいんだ?
オマエの気持ちが一番大事なんだ、曖昧なのは相手にも失礼だし
どんな言葉でも、気持ちが篭ってればアイツ等も分かってくれる。」
つまりは、断りの返事でも気持ちが篭ってれば大丈夫だ と。
断る・・・うーん、二人が嫌いな訳じゃないんだよなぁ
断ったら断ったらで気まずくなりそうじゃない?
そんな風にならないように出来ねぇかな〜
「気持ちが決まるまで、ゆっくり考えなさい青少年!」
「いや 俺女だから・・」
話して良かったのかマズかったのか・・・
でも、一人で抱えてるよりマシになったかな。
少しでも違う道を探してくれて、教えてくれる。
違う見方とかも、それだけで色んな考え方が出来る。
は、少しスッキリした気持ちでバイトへ向かった。
最初に行ったのは、喫茶店の方。
其処には同い年の真希ちゃんって子もいて、すぐに馴染めた。
其処のバイトには、取り敢えず男として雇って貰ってる。
もし何処かで会った時、女だったらヤバイじゃん?
真希ちゃんは、何と隣の桃女に通ってると分かった。
まさかお隣さんとは・・もしかしたら、アイツ等が覗いてる時
そのグラウンドにいたかも?って思うと偶然ってコエェ・・。
それはともかく、バイトも楽しくやってげそうだし
ヤンクミの言ったように、俺なりにちゃんと考えてから
アイツ等に・・・
バイトが終わったのは六時過ぎ。
辺りも暗くなりつつあったが、は本屋に寄った。
帰りが遅いと文句も言われないし、この辺も平和になったし
今手に持ってるのは、少年漫画。
何か、男として過ごしてるうちに 読む漫画も少年モノになってた。
勿論 少コミとか読みたいけど、女の姿じゃないから・・
かと言って、女として立ち読みしてる姿を
3Dの奴等とかには見られたら色々言われそうだからさ。
とか何とかブツブツ言ってると、見た事のある姿を見つけた。
確か、俺に憧れてたって言ってた子。
気になって見ている俺の前で、その子は驚くべき行動に出た。
手にしていたぶ厚い数学の参考書。
それを抱えていた鞄に入れようとしたのだ。
万引き?と思う前に、は駆け出していて
次の瞬間には、宮崎さんの手を掴んで止めていた。
「こんなの盗っても 貴女が苦しむだけだよ?」
そう言って現れたを見た宮崎さんの顔は、曇り
学校で会った時見せたような、可愛らしい笑顔はない。
パラパラッと参考書を捲れば 頭が混乱しそうな数の問題。
ナントカ方程式とか、連立方程式とか・・。
まあ俺は真面目にやってた頃、覚えたから免疫は多少ある。
あの頃はまあまあだったなぁ〜と捲りながら思ってた。
後ろから、店員の伺う視線に気づき軽く手を振ってから
宮崎さんの手を掴むと、慌しく店を出た。
一応男の姿だし?この子は中学生、傍から見れば
絡んでる高校生にでも見えたんだろう。
一先ず店を出て、広い通りに出てから俺は問いかけた。
「金がねぇ・・って訳じゃねぇよな」
「・・・自分でもよく、分からなくて」
この子の気持ち、何かすっごく分かった。
あの時の俺と同じ・・自分で努力して出来るようになった勉強。
それを勝手に教師が期待して、重圧を掛けてくる。
親も教師の口車に乗せられて塾に行かせようとしたり
そうやって子供の自由を奪うんだ。
自分達が敷いた理想通りのレールを歩かせ、それに反したら
また子供をそのレールに縛りつける。
「『優等生』って見られてるのって、辛いよな。」
「先輩も、そうだったんですか?」
「ああ、丁度今の宮崎さんみたいにな。」
「そうだったんですか・・でも、どうして男の人の格好を?」
そこに着目するとは、突くトコ分かってるねぇ。
もう気持ち的にもスッキリしてる事だし、打ち明ける事にした。
中学の時の事件が原因で、親友は入院してしまい
自分のせいで女友達を巻き込みたくないと 男装したと。
でも今は、無事問題も解決し 皆にも打ち明けたから。
「でも似合ってます!カッコイイですよ、先輩。」
「そう?嬉しいけど、何か複雑だな。」
この会話で、落ち込んでたような顔の宮崎さんも笑顔が戻った。
その様子に俺も安心する。
これなら大丈夫かな、と思い俺はそろそろ帰ろうって言ってみた。
「まだ、帰れないんです。塾、サボッちゃったから」
「マジ?じゃあ・・終わる時間まで、俺付き合おうか?」
「いいんですか?」
「俺も暇だったし、一人じゃ危ねぇかんな。」
俺も女だけど、最近空手習いだしたし♪
て訳で、俺と宮崎さんはその辺の店を回る事にした。
見て回ってから、行きたい店を決めようって。