紅い記憶
パッと咲いた血の花。
焼けるような痛みに意識が遠のく中、私は柔らかい物に包まれた。
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目の前に広がるのは灰色の風景。
一軒の家に数人の人が集い、先生のような人に勉学を教わっている。
教壇のような物はなく、ただ上座に敷いた座布団の上でにこやかに手本の本を読み上げた。
にはとても見覚えのある人だった。
学びに来る人達と一緒になって悩み考え、慕われるその人・・・唯一覚えている父の姿。
幼い自分が現われ、一緒になって机を並べて父から勉学を学んでる。
以前少しだけ見たような風景・・・・
その庭には、以前気づかなかった人の姿も見つけた。
今と然程変わらない姿、でも少しだけ若いような気もする。
日の光を弾く金糸に、血のような赤い瞳・・・風間さん。
だから私の父を知っていたのですね・・。
そして風景は一変する。
今までは思い出せなかったはずの記憶の欠片。
私が13歳の時、父は再び幽閉された。
『松陰は素直に罪を認め、自供もしているようですな』
『そのようだ・・・本来ならば死罪に値するが、彼の自供で此方も助かったのは事実・・罪状は遠島と処す。』
時の大老・井伊直弼は父の処分をそう定めた。
なのに・・・・父はその処分に異を唱えた・・・・・
急激に蘇る記憶は、走馬灯のように駆け巡り様々な風景を灰色のままに見せた。
『私は老中暗殺計画を企てた主犯のような物、遠島ではなく死罪が妥当では?』
『井伊殿の温情を蹴るとは・・・!』
『ならばよかろう、望み通り貴様には死罪を申し付ける!!』
『執行は10月27日に執り行う!』
こうして父は、私たち家族に何の相談もなく自分の身の振りを決めてしまった。
秋の紅葉が美しい10月の27日、大勢の人達の見守る中・・・父は斬首。
抑えようとしても涙は溢れて頬を濡らした。
記憶の見せる過去だと言うのに、不思議と臨場感があってリアルだった気がする。
結局父は、私たち家族に何も言い残したりはしなかった。
そう、永訣書以外は。
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ツーッと流れる涙を長い指が軽く拭った。
それは沖田であり、此処は池田屋ではなく・・・・
「総司、手拭いと水桶・・此処に置くぜ?」
静かな空間にかけられた低音。
振り向く先に現われたのは赤茶の髪を1つに結い、腹に白いサラシを巻いた長身の青年。
彼は沖田と同じ新選組隊士で、十番組組長の原田左之助。
その原田に小さく応え、眠るを柔らかな表情で見つめ
静かに立ち上がると原田の持って来た手拭いを受け取り、用意された水桶へ浸した。
その沖田と入れ違いにの様子を見に傍に来た原田は
の頬に残る涙の跡に気づき、少しだけ眉を顰めた。
「ったく、夢の中でまで泣かせてんのか?総司」
「ちょっと・・人聞きの悪い事言わないでくれません?」
「にしてもこれも運命って奴か?要はお前に逃げるなって事だろ」
「・・・・やっぱり、そうなる・・?」
「当たり前だろ、女にこんな怪我させといて逃げるなんて言った日にゃあ俺が許さねぇよ」
「わー、左之さんこわーい(棒読み)」
短く嘆息すると飽きれつつも笑みを浮かべて揶揄。
人を斬る事にしか、己の価値を見い出せなかった沖田が今では一人の女相手に翻弄させられている。
しかも自分に助言を求めたりするのだ、もう吃驚仰天だぜ・・・・・。
にしてもって言ったか、この太夫さんにも驚かされる。
沖田の為に毅然とした態度であの風間に意見したって言うじゃねぇか。
しかも身を挺して総司を藩士の刀から救った。
度胸があるんだか無鉄砲なのか・・
けど、総司には似合いの娘さんって感じだな。
この子なら・・・・総司の鞘になれるかもしんねぇ。
濡らした手拭いを眠るの額に乗せ、自分の隣りに腰を下ろした沖田を眺め
原田は一人、嬉しそうに微笑むのだった。
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どのくらい眠っていただろうか、ふと背中が痛み意識が浮上してきた。
意識が浮上する間、誰かが頬に触れたような?
それから・・誰かに抱きしめられたような感触も体に残っている。
それと同時に数人の人の気配を近くで感じ・・・・
同時にボソボソと話す話し声も聞こえて来た。
「にしても凄かったよな〜左之さん!」
「さっすが左之って所だろ、俺にはヤボかなーと思ったら出来ねぇぜ?」
「俺は恥ずかしくて無理かも!」
「あいつ慣れてんじゃねぇか?ああ言うの」
「そりゃあ新八っつぁんとはちげぇもん!・・ってぇ!!バカこの子が起きちゃうだろ!」
「自業自得だ!」
とまあ何とも賑やかな会話。
数点気になる事を言っていたような気がします。
恥ずかしくて簡単には出来ない事・・・?を左之と言う方がしたと・・
・・・・・誰にでしょう?
その時だ、この部屋へ近づく気配が増えた。
そして襖がスッと開かれ、幾人かの足音が入ってきた。
「何バカ騒ぎしてんだ、廊下まで筒抜けだぞ?」
「あ、左之さん!総司も!」
「今お前の事話してたんだよ、手馴れてるってな!」
「ちょっと二人とも、此処には怪我人が寝てるんですよ?静かにしてくれません?」
「分かった分かった!出て行くからその刀しまえ!!」
部屋に入って来たのが沖田さんだと分かった途端、分かり易いまでに心臓が跳ねた。
この時点で意識は完全に冷めてしまっていた。
沖田さんに睨まれてしまったのか、新八さんと平助さんと言う方々がこの部屋を出て行ったのを気配で悟る。
寝たフリをしていると思われる前に起きてしまおう!
何となく熱っぽい頭でそう考え、瞑っていた目を開けてみた。
まだ目を開けた事に気付いていないのか、沖田と原田は部屋の端に座っている。
ちょっとだけまどろみ、ゆっくりと回りを見渡してみた。
あの池田屋とは違う造りの天井、見た事の無い間取り・・・・・。
此処は・・・・・・・・・・・何処でしょうか?
池田屋でもなければ、葵屋でもなく・・揚羽でもない。
でも此処には沖田さん達の姿がある。
混乱するの耳に明るい声が掛けられた。
「おっ?目が覚めたみたいだな、ほれ総司、彼女目が覚めたみたいだぜ」
「一々言わなくてもいいからっ!!」
声の主はこの前屯所へ訪ねた時沖田さんと一緒にいた人だと気付く。
どうやらこの人にも迷惑をかけてしまったのかもしれません。
この方とは対照的に何処か拗ねたような怒ったような声で応えたのが沖田さん。
まさかの池田屋で再びその姿と顔を見る事が出来た。
どうしてかとてもとても逢いたかった人。
原田を退かす勢いでの視界に映った沖田。
声だけ聞くと怒ってるのかと思ったが、視界に映ったその顔は少し赤い。
・・・・・・・・一体何が?
何が何だか分からないへ、やたらと上機嫌な原田が沖田の報復も恐れず説明するのであった。