アカバナ



先月は凄かったなあ・・・・・
咄嗟にした事だったけど、腕握っちゃったわ。
細身だけどちゃんと筋肉ついてて男の人って感じだった。

あの後青年は駅までの近道だと言って、私を送ってくれたのよ。
お節介だったかなとか思ったけど、ただ優しく笑うだけで
ポンポン、との頭に手を乗せて帽子を被り直して立ち去った。

青年が立ち去った後、駅のタイルに落ちていた物。
これは・・・・鍵?渡そうにも連絡手段がない

しかもあれから遭遇しなくて、気付けば8月になってた。
今日こそは会えるかな?
絶対コレ車の鍵でしょう?きっと困ってるだろうなあ・・・

帰宅の電車を待ちながら拾ったままの鍵を見つめる。
やがて滑り込んできた帰りの電車、今日も変らず満員だ。

その電車に鍵を鞄に入れてから早速乗り込む。
ぎゅうぎゅうの満員電車、物凄く狭い・・・・
群集に押されるようにして後ろ向きに端へと追い込まれた。

あー・・これ子供とかいたら窒息しちゃいそうだね。
なんて暢気な事を考えていた。
の身長は166cm・・・まあ平均くらいの身長。

何か今日妙に混んでるなあ・・
そう言えば今日は花の金曜日だったわ。

そのせいかー・・と暢気に後ろ向きのまま発車を待つ。
流石に今日は見つけられないかもね、乗ってたとしても・・・・・

いつも会える訳じゃないしね、と思った瞬間だった。
ぞくり、と背筋が泡立つ。
何か・・・・ある?って感触。

それはゆっくり蠢き、お尻を撫で上げた。
ち、チカン!!???
一気に体が緊張した。全く初めての体験、声が出なくなる。

チカンの手は太ももを撫で回し、体を密着させてきた。
ぎゃあああああ!!!気持ち悪い気持ち悪いっ

表情で周りに伝えようにも運悪く後ろ向きに乗ってしまった為それも叶わず
身を小さくして俯くしか出来なかった。
その手は次第にエスカレートして行き、前に回されるとスーツのズボン越しに前を撫でていく

怖い・・・
足でも踏みつけてやろうか・・っ
うわーーん、それが出来てればこんなに触られてないしーーっ!!

足は震えて竦み、何も出来ないまま降りる駅まで耐えるしかないと
涙の滲む目をギュッと瞑った時、救いの手は現れた。

「おいアンタ、何やってんだよ」
「!?」
「いい年して情けないとか思わない?このまま駅員の所でも行く?」
「わっ私は何もしてませんよっ・・言い掛かりは・・・」
「ふーん?なら次で降りろよ、駅員所行こうぜ」
「俺達暇だから付き合ってあげるけど?どうする?オジサン」
「・・・くっ、くそっ」

意外なほど近くから不機嫌極まりない低い声が聞こえ
這い回ってた気持ち悪い手が離れ、同時に呻き声が聞こえる。
振り向けずにいるが、冷静な青年とチカンの慌てふためくやり取りが続く。

始めは否定していたチカンだったが
淡々と問い掛けを続ける青年の冷静さに怖気づき
自分から十戒のように開けた人ごみを抜けて止まった駅に降りて行った。

震える膝が体重を支えきれなくなり、足の力が抜ける。
座り込みかけた体は誰かに支えられた。

「ちょ、平気だった!?」
「・・・・あ・・」
「カメが落ち着いて、彼女まだ喋れないと思うから」
「わりぃ・・・取り敢えず俺らも次で降りよう」
「・・・・・」

力強い腕がしゃがみそうな体を支え、同時に緊迫した声がを案じるように掛けられる。
私以上に真剣な顔と声を向けたのは何度か会って会話してたあの青年。
しかも今日はもう一人の声が青年を落ち着かせてる。

カメと呼ばれた青年を落ち着くよう言ったのは、ふんわりした茶髪の青年でこれまた美青年だ。
茶髪の青年は逆側からを支える体勢をとる。

他の乗客も心配そうな目線を送る中、二人に支えられるようにしては電車を降りた。
お礼が言いたいのに足が震えて体も震えてしまってとても喋れない。

怖かった、物凄く怖かった・・・・っ
椅子に座らせてもらっても震えが止まらない。
情けなくて自分で呆れる。

茶髪の青年はを気遣ったのか、飲み物を買いに行ってくれた。
残ったのは私とあの青年。何を話したらいいのか分からないくらいに別の意味で緊張してしまう。
暫く沈黙が漂っていたが、先に口を開いたのはだった。

「・・あの・・・有り難う、ございました・・っ」
「ホント平気か?その、怖かっただろうし。早いうちに助けてやれなくてごめんな」
「平気です、初めてチカンとかに遭って吃驚しちゃって!ちゃんと女だったみたい?とか・・・・・」
「――――!」

駄目だ、もう限界です。
責任を感じて欲しくなくて笑って言ってみたんだけど

笑顔を作ってカメと呼ばれてた青年と正面から視線が合ったら
思いの外真剣な眼差しに射抜かれて、体の震えと声の震えは誤魔化せなくなり
涙がぶわっと溢れてきてしまった。

それを見た青年の腕が動き、そっとの頭を引き寄せ
自分の肩口へ誘導し、そのまま優しく抱き締めた。

慰めるように優しい手が一定のリズムでの背中を叩く。
そのお陰か、次第に震えも止まってきた。
青年も雰囲気で落ち着いたのを察知し、もう一度座っていた椅子へを座らせる。

ベストタイミングで飲み物を買った茶髪の青年も戻って来た。
元気良くにオレンジジュースを差し出す。

「落ち着いた?」
「はい、その・・・・有り難うございました」(どきどきどき)
「上田もサンキュ、俺も落ち着いた。」
「カメのあんな顔久し振りに見たからいいよ」
「え、お前何その引き方(笑)」
「あっ!先月この鍵拾ったんですけど、もしや?」
「お!!やっぱアンタが拾っててくれたんだ?よかったー」
「カメも名前とか連絡先くらい聞いとけば良かったのにね」

ジュースを受け取ってから抱き締められた事を軽く思い出して心臓が跳ねた。
会話の途中で茶髪の青年は上田さんだと分かる。
それから鍵の事を思い出して、青年に取り出した鍵を見せるとパッと顔を輝かせた

何となく思う、私・・・・この人の笑う顔が好きだなあ〜・・って