運命と言うのは、こうゆうものなのかと思った。



買い出しに来た町で突然の襲撃。
奇声を上げながら逃げ惑う人々を手に掛けて行く妖怪。

逃げなくてはと思う前に、足が竦んだ。
どっちの仕向けた妖怪?と考える前に、玉面サイドだと理解。
きっと紅孩児様はそんな事はしないと思うから。

玉面に強制されてだとすると紅孩児様の部下たちかもしれない。
けどその可能性は打ち消された。
自分を見ても態度を変えない様子を見て、違うと感じた。

妖怪の手が伸びる。
だが、その手がの体を引き裂くよりも早く後ろへ引き寄せられた。

吃驚して振り向くと、町の人だろうか・・知らない男性がの腕を引いて走っていた。
死にたくない気持ちは誰でも同じ、皆協力をし合って妖怪から逃げている。

息を切らし、逃れられる場所を求めてひた走る。
走りながらふと思った。
半分は自分を狙っての襲撃かもしれなくて、そのせいでこの町は襲われて

死ななくてもいい人達が命を落としている。
全部私のせい。
私があの巻物を持っているせいで

あの事件さえなければ、吠登城へ来る事もなく経天と出会う事もなくて済んだかもしれない。
でも・・・・・逃げたくない。

怖いし先も見えない・・
でも・・・・もう戻る事は出来ない
故郷へ戻る事なんて叶わないし、何も知らなかった頃にも戻れない。

それに今は色々な事もあって知らない事ばかりだ。
過去の事とかも含めて、知らなくてはならない。
その時まで死ねない。

私の中に在る誰かは、それを願ってる気がする。
私が何かを知る事を・・・・



□□□



相変わらず森の中を町に向けて走るジープ。
腹減った騒ぎを起こしていた悟空も、叫び疲れたのか大人しくシートに座り
その隣の紅髪紅眼の青年―悟浄―もプカプカと青い空に紫煙を靡かせている。

皆が無言で乗り合う中、只一人だけが異臭を嗅ぎ取った。
すぐさま体を起こし、運転席、八戒の座るシートの肩を掴んだ。

「この先から血の匂いがする!」
「えぇ?・・・この先と言うと」
「そのまさかだろうな」
「俺達が向かってる町かよ」

危機を知らせるべく、掴んだシートをガクガクと先程のように揺らせば
気づいた八戒も顔色を変える。
呟いた言葉の先を引き継いだ三蔵の顔も厳しい物となった。

煙草を口から離し、悟空のように匂いを嗅ごうとしてみるが
彼の鼻腔にはつんさぐような血の匂いは漂ってこない。
猿は鼻も利くのか?と悟空をチラ見しながら思う。

走行しながら八戒はアクセルをふかし、妖怪に襲われているであろう町へ急いだ。
乗っている面々も各々に武器を構え、いつでも飛びだせる体勢だ。

悟空は如意棒を胸の前で構え、悟浄も錫状を出現させる。
そして三蔵も愛用のS&Wを袖から取り出した。
運命の出会い、宿命の邂逅は目前に迫っていた―――



懸命に散らばり、妖怪を撒こうとしてみるのだが
鼻の利く妖怪相手では中々上手く行かない。

追われてる状況は変わらず、どんどん追い詰められて行く。
このままでは2人とも殺されてしまう。
ううん、私ではなく・・・この男性を死なせてしまう。

だから・・覚悟を決めた。
このまま何もしないのなんて駄目だ!!

駆けていた足を止め、腰帯に挿していた武器 九節鞭くっせつべんを抜き取り
ひゅるんと撓らせて振り放つ。手を振りほどかれた男性も、振り返って妖怪と対峙したを庇おうと駆けた。

の鞭と妖怪の体がぶつかり、躊躇いを知らない妖怪の一匹を切り裂いた。
醜い断末魔を響かせその一匹が絶命。
肉を絶つ感覚が、鞭の握り手から伝わってくる。

私は・・・・・殺してしまった。
妖怪だけど・・さっきまで生きていた物。
震える体、恐怖に泣いている間もなく次の襲撃が休む間もなく繰り広げられる。

【殺セ殺セーーー!!】
「ひぃっ・・・!!」

恐怖で喉が引きつる。
鞭を振るう度に血飛沫が飛び、自分の服を濡らして行く。
それでも夢中で鞭を振るい続けた。

本当は殺したくない。
だけどそれでは自分とこの男性が殺される。
戦い方なんて知らないのに、無意識に体は動く。

後ろではを庇った男性が足を怪我して倒れている。
死角から来ていた妖怪から庇ったせいで、この人は怪我をした。

皆、皆・・・・私のせい―――

【ソノ経典モオ前モ、玉面公主様ヘノ捧ゲ物ダ!!】
「――――――-!!!!!」


間近に妖怪が迫った時、は声にならない声を上げた。
そうじゃない、そんなんじゃない。そう叫びたかった。

―ズガァアン!!―

武器を振るうのを躊躇った、その一瞬の隙。
伸ばされた妖怪の長い指の爪が、浅くの頬を傷つけた。

だけど其処までだった。
前方から響いた銃声、それは妖怪の脳天を貫き
を透かして飛び去って行く。

体は動く事が出来なかった。
この銃声・・・妖怪を消し去る事が出来る銃弾。
の視線は前方に向けられたまま動かせずにいて・・・・・

その人達は目の前に現れた。


風に靡く金の髪。
不快気に細められた紫暗の瞳。

双肩の『魔天経文』額のチャクラ。
紛れもなく、三蔵法師の証・・・・・・
後方にはこれまた特徴的な三人の男性。

瞬間また懐かしいと言う感覚には晒された。

「三蔵、いきなりぶっ放すのは危なくないですか?」
「その通りだぜ三蔵様、美人なおねーさんが危うく巻き添え食うトコだっただろ」
「フン・・そんな事は俺には関係ない」
「けどねーちゃん強いんだな!!だって殆ど1人で倒したみたいじゃん!」

呆然と立ったままのと対面した面々。
好き勝手にそれぞれが喋る。

悟空に言われて三蔵達も気づき、回りを見渡してみて気づいた。
三蔵が倒したであろう一匹の他にも、回りには5〜6匹の妖怪の死骸。
辺りには血が飛び散っていて、立ったままの女も返り血に服と顔を汚している。

彼女の手には血に濡れた鞭が握られていた。
女で一人、この妖怪を倒したのか?
しかも男を庇ってか・・・・

思案と共に三蔵の目は、未だに立ったままのへ向けられ・・・・・
三蔵に続き、全員の視線がへ向けられた。だが皆が言葉を失う事になった。

三蔵達の視線が自分を見てる。
それなのに未だに声は出なくて、それに胸が切なくなった。

彼等に会えた喜び、それだけじゃなく何処か懐かしいと言う気持ち。
そして湧き上がる別の感情。
目の前の三蔵を何とも言えない目で見れば、突き刺さるような強い紫暗の瞳が返される。

なのに、その瞳に見詰められた途端。
私の中で誰かが言った。

―やっと逢えたね―

―何度生まれ変わっても、必ずお前を見つける―

記憶を封じ込めた何かが一瞬だけ記憶の欠片を見せる。
三蔵法師と同じ金色の影が、幼い私に優しく微笑み
理由は分からない、けれど金色を持つ人はこの首飾りをくれた。

『また巡り会えた時の目印に、お前に預ける』

「怖かったのでしょうか・・三蔵」
「・・・・・・・俺に聞くな」

四人が見たは、とても悲しそうな顔で三蔵を見つめて泣いていたのだ。
ただただ涙を零す姿に、何故か胸が締め付けられた三蔵は
八戒の問いに返す言葉が遅れる。

何故だ?何だこの感情は・・・・・
どうしてこの女を見て、胸が苦しくなる?
初めて会った女だぞ・・・泣かれるのがどうして辛い?

クソ、こんな事は初めてだ。

知らない感覚に1人戸惑う三蔵の横では、取り敢えず女性へ接する事にしたらしい八戒が動く。
メンバー内で人当たりのいい八戒、つまりは外交役の彼が先ず接する。
だが――

「――!?」

八戒が近付いて来るのを呆然と光のない目で見ていたの体は揺らぎ
慌てた八戒が抱き留めたその腕の中で、は意識を手放した。

四人を引き付けた空色の瞳が閉じられ、目尻に残った涙の粒がキラキラと舞うのを三蔵は見ていた。
胸に燻ぶる今までにない感情と対面しながら。