朝霧の花 8



和也と別れ、エレベーターに乗り込んだ途端。
待ちきれずに口火を切った雄一。

「何で言わなかったんだ?ちゃんの事。」

あれだけ疑惑を話してたくせに、確認してくる。
表向きってゆうか、取り敢えずはお互いにを保護するのが目的だから。
雄一としては、和也達にも知らせたいんだろう。

それに同意し切れないのが、竜也と聖。
さっき自分達を、を狙った攻撃が『一謡』の仕業なのは分かってる。
だから余計に、疑いたくはないが疑ってしまう。

「俺は和也が白って思ってないんだよ」
「え?」
「タイミング良すぎなかったか?」
「あーでも偶々かもしんないじゃん」
「中丸、亀が降りてきた階段。何処に繋がってると思う?」

仲間を疑いたくない雄一、それは皆同じだ。
それでも敢えて、竜也はその可能性を口にする。

あの階段が通じる先は、屋上しかない。

「でも、違うかもしんないだろ」
「俺だってそう思いたいよ」

雄一も着く先が屋上だと気づき、慌てて竜也へそう言う。
あそこにいたなら、上から自分達を犬に襲わせる事が出来る。
10年前からの『気』を感じ取ってたんだ。本人を前にすれば気づく。

和也への不信感を募らせながら、竜也達は社長のいる階に着いた。
まだが目を覚ましていない。
気絶したまま会わせる訳にもいかず、彼女が目覚めるのを待つ。

「取り敢えず隣りの部屋を借りたから、其処に寝かせよう」

社長と交渉して来た竜也が、を任せていた雄一と壁際の聖に言い
竜也が扉を開け、を抱えて雄一が中へ入り聖が扉を閉めた。

雄一はをソファーに寝かせ、ある事に気づいた。
どうやら出血が止まったようなのだ。
血の滲みが薄くなり始めている。

「おい、包帯外してみろよ」
「まだ早いんじゃないか?」

怪我したのはついさっき、しかも犬に噛みつかれた傷。
そう早く治るとは思えない竜也がそう言えば
雄一は特に意味もなくサラッと血が止まったみたいだと告げる。

深く考えていなかったんだろう。あの可能性を。

一抹の不安を覚えながら、言われた通りに包帯を外し始める。
その僅かな感触、意識を失っていたの体がピクッと動いた。

まず目に入ったのは、上から覗き込む三つの影。
次第に視界がハッキリしてきて・・・・

「!!?」

吃驚した。
だって、覗き込んでた影はあたしを迎えに来た3人だったから。

ハッと目を開けたに、安堵した三者三様の顔が向けられる。
凄く柔らかく笑う竜也の顔を見て、勝手に自分の顔に熱が集まるのを感じた

「さっきまでいた犬は??」
「あれなら追い払った、それより怪我は?痛むんじゃない?」
「そう・・・怪我?ああ・・そう言えば、痛まないよ?」

照れてる自分を見られたくなくて、さっき自分達を襲った犬の事を3人に聞いてみた。
の問いに答えたのは竜也、この女の子張りに綺麗な人。

自分がかっこ悪く倒れた後なんだろう、その追い払ったってのは。
凄いなぁ、男の子だからなんだろうか?
初めて異性と接する、ふと考えていると怪我の事を聞かれた。

確かに聞かれるまで気にしもてなかったわ。
怪我した時は、焼けるような痛みが体を走っていた。
それが今では全然痛まない。

治るにしては早いなぁ・・・とか思いながら、自分で包帯を外す。
竜也達も傷の具合が気になって、一緒に眺めた。

痛まないけど、痕は残るだろうなと思って包帯を取り去った瞬間。
この場の誰しもが、言葉を無くした。
誰か・・嘘だと、冗談だと言って欲しかった。

「・・・・ない」

驚きのあまり、声が掠れるようにしか出なかった。
脹脛にあるはずだった傷は、跡形もなく消えていたのよ。

まるで初めから怪我なんかしてなかったように。
が言葉をなくす中、竜也達はもっと息を呑んでいた。

恐れていた事は、現実になってしまったと。


10年前に俺が蒔いた種は、芽吹いてしまった。
やっぱり亀梨は・・・・
所詮、一謡。俺達とは相容れぬ関係でしかない。

にこの事を話すのは早いかもしれない。
まだ何も知らないままで、酷かもしれないけど。

「何で?あたし噛まれたよね?」
が気を失ってる時に、診てもらったんだよ」
「にしたって、治るの早すぎじゃない?」
「た、竜也が連れてきた腕利きの医者だからだよ!」
「そうそう、女の子に傷残したら承知しねぇぞって言ってさ!」

傷の治り具合を訝しむ、それに対し竜也は有無を言わせぬ笑みを浮かべ医者に診てもらったからだと。
それでも無理があると突っ込めば、無駄に爽やかな笑顔の雄一が後押し。
黙っていた聖も、ドスの聞いた声で医者に言った言葉を再現。

まあ・・其処まで言うならそうなんだろう、と丸め込まれた
納得してくれた事に、3人が同時に胸を撫で下ろしたのをは知らない。
それから4人は社長に会うべく、この部屋を出た。

「なあおい、やっぱアレって」
「ああ・・そうならなきゃいいって思ってたけど」
ちゃんは俺等と同じ『九艘』って事か」
「俺が・・・の人生を変えちまったんだ」
「上田、だったらオマエはちゃんをしっかり守ってやれよ」

の後姿を前に、後方で話す3人。
傷が綺麗に治ってしまう、それは『九艘』だと証明するも同じ。
それを見た竜也は、自責の念を抱かずにはいられなかった。

全ての責は、始まりは自分にある。
それを知る雄一は、慰めの言葉ではなく渇を入れる事にした。
事は動き出してしまった今、昔してしまった過ちを悔いてる場合ではない。

悔やむならこそ、を守れとそう言った。
雄一らしからぬ言葉に、驚いて竜也と聖は雄一を見やる。

「そうだな、確かにオマエの言う通りだ。」
「だろ?俺達もオマエに力、貸すからさ」
「ああ、一謡に手出しはさせねぇぜ!」

自分を信じ、力を貸してくれる仲間。
頼もしい2人に、竜也は小さく礼を言った。


ΨΨΨΨΨΨ


コンコン

静かな廊下に、竜也のノックが響く。
数回のノックの後、中から呼応の声が聞こえた。

それを聞いてから竜也が扉を開ける。
扉を開けながら入る竜也に続き、と雄一、聖が中へ続いた。

「連れて来てくれたようだね、有り難う。」

中へ入った自分達を、柔らかな声が出迎える。
視線を少し上げてみると、の視界に机を前に椅子に腰掛けた1人の男性が映った。
何ともまあ・・・・派手な人だと思った。

「君が さんだね?来てくれて有り難う。」

派手な人だけど、人当たりのいい感じの印象。
社長さんは入って来た全員に腰掛けるように勧めた。

勧められるまま近くのソファーに向き合うように座る。
デスクにいた社長さんは、其方から達の目の前に来て座った。

「さていきなりだけど、上田の推挙もあって正式にさんはKAT-TUNの一員になる事が決まったから」
「え!?本気で言ってるんですか?」
「本気だよ?これからは『』って名乗ってね」
「でも今まで素人だったんですよ!?それをいきなり・・・」
「それは任せといて、デビューまでにまた会見するしレッスンも受けられるから」

あたしが言ってんのはその心配じゃなぁあーい!!

ドン!と机を叩きたいのを我慢し、視線だけで訴えかける。
何で推挙だけでメンバーに加えられるの?

アンタが一番偉いんだから、却下だって出来るでしょうが!!
デビューがいつか知らないけどね、今まで素人だった人間がいきなり芸能人並みに踊れるわけないでしょ!!

「御家の事は知ってるから大丈夫。迷惑掛けないようにするからね」
「社長、グループ名はどうするんです?」
「俺等の場合、頭文字だし」

内心で社長さんを罵倒、竜也の奴・・ウチの事も話してあるなんて
本当・・用意周到だとこと。それに頭文字がグループ名?

だとしたらどうするつもりなの?
それにあの親達に、どう説明するつもりなんだろう。
顔を見る限り、余裕ッポイなぁ・・・・

「なら単純に『KAT-TUN H』とかにしちゃえばいいよ」

か・・・カトゥーン・エイチ??
何てネーミングセンスのない・・・・

でもこの場の雰囲気は、それが妥当だろうって感じの雰囲気だ。
まあ他に案がないなら・・・それで決まりかよ。
あーもう・・・どうにでもなれ!って感じ。

「家に帰らなくてもいいなら、受けますよ」
「家に?うーん・・・」
「社長、だったら寮に入って貰ったらいいんじゃないですか?」
「ジャニの?そうだね・・それなら安心かもしれない、YOUの意見で行こう」

え、急に外人風??

まあそれはどうでもいいとして、寮なんて便利なモンがあるんじゃない。
それならそれを利用させてもらうまで。

話し合いは、スカウトを受けるって形で丸く収まった。
明日から寮に移って、レッスンに明け暮れる日々が始まる。


でもあたしは、本当の意味で此処に連れて来られスカウトされた意味を知らずにいた。