朝霧の花―6―
巨大なスクリーンに映ったテレビを見ていた。
特に変化のないニュース、それらを眺めてみる中ノックされる扉。
コンコンとリズム良く叩かれた扉。
テレビの音量を下げ、無愛想な声で入るよう返事する。
その声を聞いた執事が、一通の封筒を手に室内へ入って来た。
「何か用?」
「お嬢様にお手紙が届きましたので、お持ち致しました。」
言って年老いた執事が差し出した封筒に視線を落とす。
受け取って裏を返すが、差出人の名前は書いてない。
宛名の字は、何やら丁寧でしっかりした字だ。
封筒を見つめたまま、手だけで執事を下がらせる。
軽く一礼した執事が扉の外に消えてから、は封を切った。
切った封筒からは、三つ折りされた便箋が2枚程出てくる。
「誰からだよ・・・――!?」
誰からなのかが分からなくて、訝しげに眉を顰め
一枚目の便箋を開き、最初の書き出しを見た瞬間・・・は我が目を疑った。
思わず顔を寄せてマジマジと見てしまう。
見出しとして書かれていたのは、『ジャニーズ事務所社長』の文字。
その途端過ぎるのは、あの竜也という人の言葉。
芸能界に興味ない?ってゆうあの。
・・・・まさか、本気で社長さんとやらに交渉したのか?
「マジかよ・・・」
手紙の内容は目を疑う物だった。
――拝啓、 様。――――――――――――――――――
我が事務所に属しているKAT-TUNの上田竜也からの推挙により
数々の話し合いと審査を経て、殿をKAT-TUN七人目のメンバーとして
ジャニーズ事務所に迎える事となりました。
つきましては、さる6月30日、都内にある事務所へお越し下さい。
其処では詳しい説明をしたいと思っております。
貴女の処遇をどうするか、それを話すにおいて重要な事もお話する予定です。
貴女がお越し下さる際には、此方から迎えを寄こしますので。
それでは、お目見え出来る日をお待ちしております。
ジャニーズ事務所社長――――――――――――――――――――
マジっすか?迎え寄こすとか書いてあるし。
6月30日なんて、明後日じゃんか!!
1人オロオロしながらカレンダーを仰ぎ見る。
今日は28日、もう間がないじゃんか。
重要な話って何なんだろう・・・凄く気になるなぁ。
にしてもアイツ・・・ってゆうか、竜也って人。
本気だったんだな、あたしを同じグループに入れるって話。
『それが貴女様を守る事になりますから』
竜也を様づけで呼んでた人がそう言ってた。
あたしを守る事になるって、どういう意味なんだろう。
『もうそろそろいいじゃん、止めとけよ』
数人の男等に絡まれてる時に現れた和也って人。
止めた事に変わりはないけど、何か言い回しが気に掛かった。
そろそろいいじゃんって言い方だと、自分が嗾けてるみたいだ。
それと・・男等を追い払った時の、不思議な感じ。
手の動きとか、詳しくないけど『九字』を切ったかのような?
行くべき?断れないかもしれない?迎え来るし。
悩みに悩んでいて、学校へ行く支度をは忘れていた。
ΨΨΨΨΨΨ
当日まで、何かするでもなく退屈な日常を過ごし
そして指定された30日は来た。
が通うのは、都内でも有名なお金持ちが通う学校。
専攻した教科以外は単位がいらないので、授業も午後までない。
堅苦しい授業から開放され、は迎えも呼ばずに校門へ向かう。
周りで他の令嬢や子息達が高級車で帰る中、歩く姿は目立つ。
そんな視線は気にも留めずに、帰路につこうとしていた。
の足が門を出る前、背後から呼ぶ声があった。
「さん」
呼んだ声は、実に中性的で惹きつけられる何かと
懐かしさに駆られた。
振り返る先に感じる人の気配。
同時に騒がしくなる周囲。
「あ、確かあたしをスカウトした・・」
「覚えててくれたんだ、嬉しいな。」
「初めまして、ちゃん。俺は中丸雄一っていいます」
「俺は田中聖。宜しくな。」
そう、に声を掛けたのは以前自分を芸能界に誘った本人。
相変わらず、男にしては綺麗な笑みを浮かべている。
しかも、今日は1人じゃなくて、更に2人を連れていた。
凄い人の良さそうな人と、パッと見ガラの悪そうな人。
は知らないが、迎えの面子は全員『九艘』。
周りが騒がしいのが気になったが、も挨拶し返した。
「それより早く乗って、此処にいると騒ぎになるから」
「まさか、貴方たちがあたしの迎え?」
もう騒ぎになってるって、と内心突っ込みながら
竜也の言葉に対し、本人達の迎えに驚く。
驚くに、竜也を始め、他2人もそうだと頷いた。
迎えを寄こしますので、とは書いてあったけど
まさかスカウトした本人が来るなんて・・・
「ささ、姫、お手をどうぞ。」
「姫?」
「足元にお気をつけ下さい」
「ほら、早くおいで」
「う・・・」
戸惑うの前に、雄一が手を差し出す。
姫とまで呼ばれ、顔に浮かぶは困惑の色。
それさえ構わずに今度は聖が足元の注意を促した。
更なるトドメは、先に後部座席に座った竜也のその言葉。
キラキラっとした笑顔を振りまき、車内から片手を差し出して招く。
何だその犯罪的な色香は!!←壊れ
知らないうちに顔が熱くなる。
それが恥ずかしさから来るのか、照れから来るのかが分からない。
ぼやぼやしてるの背を聖が優しく押し、片手を雄一が引き
車内にいる竜也が引き寄せて、車に乗せた。
「出していいよ」
「はい」
周りがキャーキャー騒ぐ中、は内心、もう学校に恥ずかしくて来れないと思っていた。
その隣りから聞こえる中性的な竜也の声。
だがその声に、は聞き覚えがあった。
パッと運転席を見れば、其処には竜也と初対面の時に後から現れた美形なマネージャーさん。
鳳 封真、その人だった。
両脇を竜也と聖に挟まれるようにして、座った。
妙にドキドキする心臓、それを隠す事に精一杯なを他所に竜也達は緊張感漂う顔をしていた。
何処に『一揺』が潜んでいるかが分からない。
『九艘』が3人とはいえ、戦闘能力として使えるのは竜也と聖のみ。
それでも、を奪われる訳にはいかない。
何よりも『一揺』のハンターにだけは。
しかし、竜也の危惧は現実となる。
事務所へ向かう車、その先に、1人のハンターが待ち構えていた。
「何がオマエにしか出来ない役目、だよ」
膨れっ面でぼやくのは、亀梨和也。
彼は『一揺』の者、唯一『九艘』を殺せる太刀『水断刀』を持つ事を許可されし者。
同時にKAT-TUNのメンバーでもある。
和也は、自分の仕え主の命で、直接的な接触をするべく
竜也達の向かう場所に、先回りしていた。
『一揺』としての気配を隠し、身を潜ませる事数十分。
和也の視界に、事務所へと入って来る車が捉えられた。
「来たみたいだな、さて・・早速試させて貰うぜ?お姫様」
車から降りたに、危険な雰囲気を纏った和也の目が注がれた。