朝霧の花―4―



思わずスタジオのビルを飛び出してしまった
行く当てもなく走っていたはずなのに、気が付けば町外れの神社にいた。

此処は、10年前によく来ていた場所。
よく覚えていないけど、誰かと遊んでた覚えがある。
誰だっただろう、それは思い出せない。

思い出そうとすると、とても懐かしい気持ちになる。
あたしは、その子の事を慕ってたんだと思う。

「無意識かな・・もうこの東京にはいないのにね」

そう、彼は10年前この東京から引っ越してしまった。
だから、この東京にはもういない。

それでも思い出す、こうして思い出の場所に来てしまってる。
『また会える約束・・・』
言葉は思い出せても、どんな約束をしたのか分からない。

また、会いたい。
会えるならば、もう一度。

は日が傾くまで其処で過ごした。
家には、すぐ帰ろうって気が起きなかった。
居心地の悪い家だ、ずっとあそこにいるつもりもない。

それでも親の庇護下にいるうちは、それも叶わないんだ。

仕方なくは屋敷に戻る事にした。
屋敷を出るのは、1人でも生きていける力を付けた時。
それまでは・・――


ΨΨΨΨΨΨ


神社からの帰り道、は夕方の雑踏の中を歩いていた。
此処から成城へは車で1時間、歩いて・・・・3時間程か。
下手すれば、かなり遅い時間になってしまう。

その距離を、迎えも呼ばずに歩いていた。
育ちのいい財閥のお嬢様。
外見も目を引く、擦れ違い様に振り返る者も多々。

物騒な奴等の目を引かない訳でもない。
良からぬ事を考え付いた者達が、そっとの後をつける。

その者達の後ろより、更に付いて行く別の影。
その人物は、スタジオで竜也と中丸の話を聞いていた者だった。

成城への道は、高級住宅街な為
人通りも徐々に疎らになる。
其処へ差し掛かる手前、後をつけていた者達も美少女がお金持ちだと気づく。

これはいいカモだと笑い、欲に塗れた手を無防備な背へ伸ばした。
男達をつけていた者も、少し行動を起こそうとしたが踏みとどまる。
確かめねばならないからだ、この者が探していた者なのかを。

それに相応しい『証』を――

「ねぇ彼女、1人でこんなトコいたら暇でしょ?」
「は?」
「ヒュウ♪可愛いじゃん、俺達と遊ぼうぜ?」
「いや・・暇じゃないんだけど」
「つれない事言うなって、暇なんだろ?」
「(苛々)」

ネチネチとネチっこく付きまとう見知らぬ男達。
これもナンパって奴か?

こんな時間にアンタ等こそ、何ウロウロしてんだよ。
こちとら親が煩くなる前に帰りたいんだけど。
町に行けば、他にもフラフラしてる人いるのに。

「黙ってないで何か言ってよ」
「暇なんだろ?」
「遊ぼうぜ」
「暇じゃないから、他の人誘って」
「スカしてんなよこのアマ、どうせ金持ちのボンボンなんだろ?」
「俺達が色々教えてやるっつてんだよ」

好きで金持ちに生まれた訳じゃないっつーの!!
此処で争う事になったら不利だ、女らしい事は習っても護身術とかは学んでいない。
どうするべきか・・・・

逃げるにも、人数が多くては逃げ切れないだろう。
動き易い格好はしてても、足の速さでは勝てない。
そうこうしてる間に、周りを囲まれる。

「いい事教えてやるって、来いよ!」
「離せ!暇じゃないって言ってんだろ!!」

1人の男に腕を掴まれ、その場から引きずられる。
吃驚して腕を振って、男の手を振り払う。
すると、男は逆上しへ掴みかかろうと腕を伸ばした。

その瞬間、全身を冷たい物が駆け抜けた。
怖い、身を守る術が何もない――!
――嫌だ――

その時、様子を見守る者が待ち望んだ変化が起こった。
晴れた空に雷鳴が轟き、の腕や肩を掴もうとした男達を撃つ。

「うわぁっ!?」

それに撃たれた男達は、僅かな痺れを感じて飛び退く。
突然の事態に、も何が起こったか分からず
飛び退いた男達を見つめた。

「何だコイツ・・やばくねぇ?」
「ビビんなよ、偶々だろどうせ」

何人かは驚いているが、1人がせせら笑って再度へ近づく。
それに気づいて、もハッと身構えた。
男の目は笑ってる、それも悪意のある笑み。

何をされるか分からない、自分がこんなにも弱いとは思わなかった。
そう思うと体が震えてしまう。
強くありたいのに、さっきの雷・・・本当に偶然か?

「もうそろそろいいじゃん、止めとけよ。」

もう1回出せないかな、とか思ってると別の声が暗闇に響いた。
パッと振り向けば、この場にそぐわない細身の青年。

止めとけよって止めてるけど、その前のもうそろそろいいじゃんって何。
聞きようによっては、この人が嗾けてたみたいじゃん。
そうだったり・・・して?

「何だよ、てめぇ・・・邪魔すんのか?」
「別に?でも今コイツに何かあるとマズイからさ」
「構う事ねぇ!やっちまえ!!」

パッと見、ケンカとは縁のなさそうな青年。
4人がかりで殴りかかる、は一瞬の事で何も出来ず立ち尽くすしか出来なかった。

殴りかかられるのを、他人事のように見つめ
小さくニヒルな笑みを浮かべた青年。

青年は素早く両手で何かを描く仕草をしたかと思えば
中指と人差し指を立て、唇に添えた。

その時、青年の右手の甲に何かが書かれてるのを垣間見た
問題はその後だ、襲いかかろうとしていた男達の動きが止まり
次に青年が唇に添えた指で、空を切る仕草をした。

男達に変化が起きた、指が空を切り終えると
ハッとした顔つきになり、何事もなかったかのように立ち去ったのだ。

「・・・・」

何・・・魔法使い?手の甲が光ったし、そうだったりして。
は、しばし目の前の青年を凝視。
何故助けたのか、それよりも普通の人間なのかも分からない。

にしても、最近おかしな事ばかり起こる。
この人も・・・・?

「平気だった・・――」
「アンタもあたしに芸能界入れって言いたいの?」
「・・・・は?」

先手を打って、青年の言葉を遮り問いかける。
すると、とても意外そうな顔をされた。

じゃあ違うのか?
それなら何で助けた?
まあ・・あのままじゃ困ったけどさ。

「何だそれ、アンタ、スカウトでもされた?」
「された、つい昼間。」
「マジ?」
「マジ、ってゆうかアンタこそ誰?」
「俺?うーん・・一応芸能人で通ってるからなぁ・・・」

芸能人?言われてみれば、纏ってる気が違う気もする。
スタイルもいいし、顔の造りもよさそう。
今はサングラスしてるから、見えないけど。

騒がれるのを期待してんの?
あたし、屋敷にずっといたしテレビも見させて貰えないから知らないのにね。

「あたしは 、言っとくけどあたし芸能人全く知らないから名乗ってくれる?」
「マジかよ、珍しいな・・俺は亀梨 和也。KAT-TUNってゆうグループの1人。」
「KAT-TUN?もしかして、竜也って人いる?」

目の前のアレの可能性がある子は、とても綺麗な子だった。
力が覚醒しつつある可能性も確認。

キャーキャー騒がれるのを予想したから、名乗らずにいたらこれまた意外にも
芸能人を全く知らないと来たもんだ。
知らないって言ったのに、口にしたのはメンバーの名前。

「それ上田だろ?何だ、知ってんじゃん」
「上田・・竜也ってゆうのか・・・・ソイツがスカウトしたんだよ」

その子、ちゃんは上田にスカウトされたんだって。
もう見つけてたみたいだな、流石。
この子だったのか、俺達がずっと感じてた『気』。

お雪みたいに、季節を操った。
それは紛れもない証だった。

さて・・『九艘』が保護に動いたし、俺達はどうするかな。
一先ず、俺の仕え主に報告が先か。

「じゃあ俺もスカウトしていい?考えとけよな」
「は!?揃いも揃って女を男だけのグループにスカウトすんな!」
「それは何とかなるから、家何処?送るって。」
「いいよ!もうすぐだから!じゃあな!」

どいつもこいつも!!
亀梨の好意をかわし、ブツブツ文句を言いながら
は亀梨を残して丘を登り始める。

そんな背を少しの笑みを浮かべて見送る亀梨。
ズンズン歩いていたが、丘の中腹辺りで立ち止まり
勢い良く振り返ると、押さえがちの声でこう言い捨てた。

「助けてくれて、アリガトな!!」
「!?」

驚く亀梨を残し、駆け出しては立ち去った。
残された亀梨の顔に浮かぶのは、面白そうな笑み。
との会話を、楽しんでる自分がいた。