朝霧の花―3―



目の前の芸能人は、突然突拍子もない事をサラリと言った。
言った本人より、マネージャーさんの封真さんの方が慌てている。

それもそうだ、とゆうかいいのか?
芸能人が一般人をスカウトしても。
普通はそれらしい人が、名刺とか出してするもんだろ?

「興味、ない?」
「竜也様・・それはやはり社長さんを通してでないと」

吃驚して、言葉をなくしているを他所に
伺うような言い方をした美青年に、意見を述べる封真さん。
話が見えないってよりも、何も耳に入って来ていなかった。

助けてもらったのは感謝してるけど、それで何でスカウト?
そもそも、あたしの家の事を知ってるからか?
だとしたら、利用されてやる気はねぇぞー

「お金目当てか?家の娘って知ってるからスカウトしてんの?」

もし金目当てにだったら、絶対断る。
そんな言葉を顔に出し、疑うように警戒したに美青年は顔色を変えて言った。

「そんなんじゃない!君の事が心配で、守りたいから・・・!」
「え?」
「――竜也様!!」

其処まで言って、封真さんに先を遮られる。
心配で、守りたいから・・・?

益々訳が分からない・・どうして芸能人が、ただの一般人の心配を?
ウチの場合、ただの一般人じゃないけど・・・

「どうゆう意味?何なんだよそれ」
「ごめん・・今のは忘れて、でも芸能界入りの話は本当だから」
「そんなんじゃ答えになってない!」
様、今日はこの辺で、きっと今日の話は貴女様を守る物になりますから・・」
「そんなんしなくていい!」

人の気持ち無視して、話を進めるな!!
そう叫んで、はビルを飛び出していく。
そんなを、竜也は止められずに見送った。

俺とした事が、口が滑っちゃったよ・・・
しかも、余計にを混乱させちゃったな。
本当に・・守りたいのに。上手く伝わらない。

芸能界に入れたいのは、本当だ。
家がお金持ちだからじゃない、家なんかどうだっていい。

手の届く所にいる方が、守り易いからだ。
『一揺』の奴等から。

「申し訳ございません、竜也様」
「何で謝る」
「私がもっと上手く伝えられていれば」
「違うよ、俺が安易に考えた結果だからさ。」

封真が自分を責める前に、彼の心の重りを軽くする。
この考えが甘かったのかもしれないのは、確かだと思うから。
けれど・・・このままなのはマズイ。

を突き飛ばしたのが、『一揺』だったら・・・
あのままを野放しにしておくとは考え難い。
にしても・・どうやっての力を知ったんだ?

に昔あった出来事を知ってるのは、俺と親父と姉に母。
それと、雄一、聖だけだと思ってたけど。

『一揺』側でも、その事を知ってるのは当主と息子の赤西と
アイツの弟、赤西の父親のハンターの亀だけのはず。

「封真、出来る限りでいい・・の周りを護衛してくれない?」

竜也は楽屋へ戻りながら自分の側近をする封真へ言う。
彼に頼むのは、自分が自由な身ではないから。
封真にもそれはよく分かっている為、勿論です・・と頷いた。

それを確認すると、竜也はホッとしたように笑い
封真を下がらせて楽屋へと入って行った。
主からの頼みに、すぐさま封真は外へ急いだ。

――ガチャ

スタジオの楽屋へ戻ると、視界に入ったのは中丸。
彼も自分と同じ『九艘』。

周りを見ても、彼の姿しか見当たらない。
しかも、竜也が戻って来た事にすら気づいてないようだ。
そんな彼の背にホッとしたような目をすると、後ろに置いてあるソファーへ腰掛ける。

「おい中丸」
「うおっ!?上田、いつ戻ったんだよ」

ソファーに腰掛け、名前を呼ぶまで気づかずに集中していた中丸。
そんなに何に集中してたんだ?と思い手元を覗くと
歌詞の書かれたメモ用紙。

へぇ〜しかもそれ、聖と組んで歌うヤツのじゃん。

熱心な中丸の姿に感心している竜也。
そんな様子を見ていた中丸も、今まで姿を消していた竜也へ問いかける。

「オマエ今まで何処に行ってたんだよ」
「ああ・・それについて、話しておきたい事があるんだ」
「おう・・なんだよ、改まって。」

改まった竜也の口調に、中丸は聞く体制に入り
手にしていたメモ用紙をテーブルに置く。

一連の動作を見終えてから、声を少し潜めて竜也は話し始めた。

「俺達が結構前、10年前くらいから感じた気があるだろ?」
「――ああ・・確か、それって・・・」
「そ、オマエの考えた通りだよ。さっき会った。」
「そうそう・・で?って、会った!?会ったってどうやって!」
「煩い、赤西達に聞かれたらメンドイだろ。」

うんうんと頷いてから、竜也の言葉にハッとして身を乗り出す中丸。
竜也と従兄弟の中丸は、10年前の事情も細かく知っていた。
それでいて尚、非難する里の者の中で唯1人、竜也を理解し支えた。

中丸の母親が希紗良の妹、その妹が里の者と結ばれ
雄一がこの世に生を受けた。
聖はその雄一の親友である。

「俺さ、の気をさっきからずっと感じてたんだ。」
「へぇ〜」
「その気が近づいて来たから、外へ出てみたら丁度危ない所でね。」
「危ない所?」

話が長くなりそうだから、竜也は楽屋に置かれている冷蔵庫から
2人分の烏龍茶を取り出し、テーブルに置きながら話しを続けた。

相槌を入れ、テーブルに置かれた烏龍茶を手に取り
蓋を開けながら従兄弟の顔を伺い見た。

「誰かが信号待ちをしているの背を突き飛ばした、俺に気づかれたのにも関わらずね。」
ちゃんを!?それってやっぱ、アイツ等か?」
「間違いないとは思う、けど、赤西達じゃない。」
「だよな〜亀達が秀明殿の言い付けを破るとは思えないしな。」
「ああ・・」

中丸の言葉に同意してはみたが、今一ハッキリしない。
誰かが洩らさない限り、が『九艘』だとは分からないはず。
『一揺』は、相手が『九艘』でない限り水断刀を使う事もない。

腑に落ちなくて、赤西達が白とは断言出来ずにいた。

一応封真にの護衛を頼んだけど、全ての解決にはならない。
もしに何か遭ったら、俺は・・・・

「それで、どうするんだよ。」
「今、封真に見張らせてる。」
「封真さんに?まあ・・信用してない訳じゃないけど、平気かな」
「だからさ、俺も考えたんだよ。を芸能界入りさせようって」
「芸能界入り!?」
「ああ・・を巻き込んだのは俺だし、傍で守りたい。」
「・・・・上田が言うなら反対はしないけど、当てはあんのか?」
「勿論、には此処に入ってもらうよ」

自信満々に話す竜也、事情を知ってるだけに強く反対は出来ない中丸。
責任を感じてるんだろな・・・・だから、傍で守りたいんだ上田は。
だからって、此処ってこのグループにかよ!?

女の子が入れるとは思えないぞ、俺。
ジャニーズだぞ?歌って踊るんだぜ?
第一、頭文字はどうするんだよ。

「何が言いたいかは分かるけど、もう決めたし。」
「前向きなんだか積極的なんだか、強引なんだかわかんねぇ奴だな」

そんな中丸の言葉を、サラリと聞き流し
をKAT-TUNに入れる話を進め始めた。
何か考えでもあるのだろう、と中丸は思う事にした。

取り敢えず考えたのは、KAT-TUN Iというグループ名と
KAT-TUNの間にある棒の役目を担う存在にするという案。
まあ・・それも、が引き受けてくれればの話。

どうしても『一揺』から、を守るにはしなくてはならない。
遠くにいては守れない、俺はを二度と傷つけたくない。

「兎に角、ジャニーさんには話してみる。」

こう言うと、すぐさま楽屋を出て行ってしまった。
きっと、言葉通りジャニーさんの所へ向かったのかもしれない。

本当・・ちゃんの事となると、行動が早い奴だな〜
まあ確かに、俺も、ちゃんが傷つき・・・
その事で、また上田が辛い顔をするのは見たくない。

「聖にも話しとくか」

中丸は中丸で、大親友の聖に事の次第を話すべく
何処かにいるだろう田中 聖を探しに、楽屋を出て行った。

この話を、1人の『一揺』に聞かれたとも知らずに。