朝霧の花 2
『今日は何処で遊ぶ?』
『うーん・・竜也くんの好きな所でいいよ♪』
手を繋いで歩き回った公園。
あの日のまま、君は変わらずに笑ってる?
俺は、あの日の事を・・・少し後悔してるかも。
君の・・人としての人生を、変えてしまったかもしれない事を。
『また逢えるおまじない、ずっと・・・一緒にいられるように』
ΨΨΨΨΨΨ
白昼夢は覚め、自分の視界に休憩所の風景が映る。
どう彼女の力を確認するかで、未だにメンバーは話し合いをしている。
『九艘』の当主の息子として、参加すべきなんだろうが
今はそんな気が起きない。
さっきの夢のせいかも・・・・
「上田も参加しろよ、息子なんだから」
「ん〜」
ふと立ち上がった竜也の背に、中丸が声を掛けるが
何とも気の抜けた声しか返って来なかった。
それ以上説得するのを諦めた為、竜也は1人サングラスを掛けて外へ出た。
軽く変装したつもり、一応も何も自分は芸能人。
バレたら事務所とメンバー、家にも迷惑がかかるから。
そうして出た外、確かに気晴らしも含まれてるが
本来の目的は、近づく彼女の『気』に気づいたから。
あんな事をして、彼女が助かる可能性も低かったから初めて彼女が覚醒した『気』を感じた時は
驚いたのもあるけど、それにも増して安堵と安心の方がデカかった。
ガキだった頃の過ちで、好きな子を殺していたかもしれなかったし
不安と後悔で胸が押し潰されそうだった。
晴天。
『九艘』と『一揺』。
この2つの一族を知らない者にとって、物凄く平和を感じる空。
普通に生まれていれば・・・・
こんな一族に生まれなければ。
何度そう悔いたか分からない、けれど運命(さだめ)は変えられない。
俺は『九艘』の者として、人と深く関わる事無く生きなければならないんだ。
父も母も、姉も・・そうやって生きて来た。
何百年もの長い月日を――
芸能人とバレないよう、目立たない路地裏でぼんやりしていた竜也。
何度悔いても、悔いるだけ無駄な事を考えていた矢先。
その気配は現れた。
思わず路地裏から飛び出して、気配を探ってしまう。
通行人も、勢いよく路地裏から飛び出して来た男に
驚いた目線はよこしたが、芸能人とは気づかないで通り過ぎて行く。
「竜也様・・如何なされました?このような外へお1人で出向くなど
万が一『一揺』のハンターに見つかったら・・・」
ジッと集中して気配を探っていれば、スタジオから自分を追って来た者に見咎められる。
此処で見失う訳には行かず、竜也は男に黙るよう目で訴え
再び神経を集中させた。
なるべく自然に再会を装いたい。
久しぶりに会った友達、って設定で行くか・・と策を練る。
「がこっちに来るんだ、封真はマネージャーのフリをして」
「『お雪様』が?分かりました、そのように。」
「彼女は『初代』じゃない」
「失礼致しました」
を違う名、初代の名で呼んだ封真をギロッと睨む。
視線を受けた封真は、すぐさま非礼を認めた。
今はまだ、何も知らないままで。
ΨΨΨΨΨΨ
町をぶらついてるのはいいけど、何処?此処。
看板に『竹下通り』とか書いてはある。
でもそれが、都内のどの辺りなのかが分からない。
生まれてからずっと、邸にばかりいたからだろう。
外の世界を全く知らない。
今流行の服や、音楽、アーティスト、芸能人とかも全く。
今着てる服も父親が買ってくる趣味に合わないブランド物。
カルティエ・グッチ・プラダ・エルメス・・・etc
「そんな物いらないから・・・・」
もっと愛して欲しい――
雑踏の中、与えられなかった物を懐かしく思い
交差点へ差し掛かる。
無防備な細い背に、後ろから誰かの腕が伸びた。
竜也の方も、気配を探った末
交差点で信号待ちをする、の姿を見つける。
同時に感じた別の気配。
「!?」
それから竜也の動きは早かった。
駆け足で道を走り、人混みで賑わう交差点へ自分から突っ込んで行く。
その場にいる人が驚き、ムッとして睨みつけるのも構わず
竜也はを探して奥へと進んだ。
――そして見つける
「やめろ!」
「え?・・・――きゃっ!!」
明らかに敵意を剥き出しにした『気』を発していた男。
竜也に見つけられ、止めるかと思ったのだが
男は力いっぱいの背を押して、雑踏へ消えて行った。
荒上げられた竜也の声、少し驚いて同時に懐かしさも感じた。
しかし、よく思い出す間もなく グラッと傾いた体。
傍にいた人も、すぐに反応出来ずにいる。
傾く視界に、乗用車が迫るのが見えた。
激しく鳴らされるクラクション。
咄嗟に目を瞑り、もう駄目だと覚悟を決めた時・・
強い力で後ろへ引き寄せられた。
の体が、後ろへ引かれたその後。
目の前を乗用車が通過して行った。
正しく、危機一髪。
引き寄せられた体が震え、立っていられなくなり膝が折れる。
「大丈夫だった!?」
「竜也様、取り敢えず中へお連れした方が。」
「え?え??」
しゃがみそうになったを、引き戻した人が支える。
後ろから聞こえた声は、とても中性的で落ち着いてる声。
それと、もう1つ聞こえた声。
何が何だか分からず、右往左往していると
これまた力強く抱っこされた。
「ちょっと!何処行くんだよ!」
「安心して、誘拐じゃないから」
突然お姫様抱っこされ、驚きと照れに襲われる。
しかも有無も言わさず交差点から移動させられた。
誰?この綺麗な人!
しかも誰?背中押した奴は!
この子は違うと思う、さっきの顔は必死だったし。
でも・・こんな綺麗な人、知り合いにいたっけ?
抱えられながら、自分を抱えて歩く青年を見上げて思う。
交差点から移動する際、ずっと通行人の視線が刺さる。
大勢の人の前でお姫様抱っこだから、注目されるのは分かるけど
何か睨まれてるような?
カッコイイ人に、堂々とお姫様抱っこされてるからか?
細い感じだけど・・力あるんだ。
誘拐じゃないからって言ってるけど、もしかしたら誘拐かもしれない
そんな風に思っても、暴れてまで逃げようとは思わなかった。
何かねぇ・・・何か・・知ってるような?
まさか、さっきも思ったけどこんな綺麗な人は知り合いにいない。
パーティーとかでも会った事ないし。
「着いたよ、怪我とかしてない?」
「え?あ、ああ・・助けてくれて有り難う」
美青年の記憶を模索してると、上から柔らかい声がかかって
何とも綺麗な顔に見つめられた。
内心でドキッとし、表には出さずに助けられた礼を言う。
すると美青年は、ニコッと微笑み
そっと廊下の上にを下ろしてくれた。
自分を見て、ニコニコと微笑んでる美青年。
この話し方とか、声とか・・昔に会ったような?
うーん・・・思い出せない、でも悪い人じゃないよな。
「君の名前は?俺の事知ってる?」
「 、生憎だけど全く知らない」
「そっか、俺は一応芸能人やってる。」
「え?芸能人?」
「うん、こっちは俺達のマネージャー。」
キラキラ輝く笑顔を振りまく美青年は、に名を尋ねると
それからいきなり自分は芸能人だと言った。
そうか・・・芸能人なら、見た事あるような気がするのもアリか。
テレビで見てたかもしんないし。
こっちの人は、美青年のマネージャーさんね。
がマネージャーを見ると、彼は『鳳 封真』と名乗った。
美青年のマネージャーは、美形って決まってんのか?
美青年が紹介したマネージャーさん。
此方もまた、目を見張るような美形さんだった。
艶やかな黒髪は、横が短く後ろが梳いてある感じにその内の一房がビーズの飾りで束ねてある。
黒いスーツを綺麗に着こなし、その手足はスラリと長い。
身長は180cmはありそうだった。
「芸能人に助けられるのは初めてだけど、どうも有り難う。」
「待ってちゃん、此処に連れて来たのは頼みがあるからなんだ」
「頼み?って知ったから、礼金でも貰うってか?」
「そんな事しない、ちゃんさ・・・・芸能人になる気ない?」
「――は?」
美青年に言われた言葉は、の思考を一瞬で止めた。
今の生活に不満はあったけど、いきなり芸能界入り!?
これが噂の『スカウト』!?
呆然とは、目の前の美青年と封真を見つめた。