August act.8
💜「君のお母さん、シャトランジに騙されたんだと思う」
🦢「――・・やっぱ、お母さん・・・ホントは辞めたくて辞めたんじゃなかったんですね?」
💜「うん、まだ俺も詳しくは調べないと分かんないけどこれだけは言える」
母親はシャトランジに騙されたせいで仕事を辞めざるを得なかった。
それこそ辞めた事にもシャトランジが関わってる可能性もある。
真田や野澤は騙せても、この子の目は騙せなかったシャトランジ。
ちょっと待てよ・・?今ヤバい可能性に気づいちゃったかも。
💜「ちゃん、ちょっと聞いていい?」
🦢「はい、私に分かる事なら」
💛「なんだよふっか急に真面目な顔して」
💜「5年前にちゃんのお父さんとお兄さんが呼び出された時君は行かなかった?」
🦢「・・?はい、留守番してなさいと言われたので・・・」
ふうむ・・・てなると、功を奏したかもしんない?
でも却ってマズいかも??
中々言いたい事が纏まらなくて焦る深澤。
取り敢えず彼女の母親が騙された詳細を明かす事にした。
これは自分と真田のみが知る真相、岩本らにも初めて明かす内容である。
💜「呼び出されたのは病院だと思う・・アイツ君のお母さんのスクーターに轢かれたって話してたからさ」
💙「はあ?マジかよ」
💜「うん、けど俺が駆けつけた時シャトランジより君のお母さんの方がケガしてたよ」
💛「ふーん・・つまり自分が轢かれたって嘘ついたわけだな?」
💜「そゆこと」
🦢「とことんクズな野郎ですね」
ぶはっ、と辛辣なストレート発言に吹き出す岩本と渡辺。
いやもうマジ最高だわちゃん、と笑い転げる岩本😃
俺も笑いたかったんだけど今それどころじゃない(笑)
もし彼女の両親と兄貴がシャトランジと対面した時・・脅されてたとしたら?
あのクズ野郎の事だからそのくらいしてそうなんだよ。
ホストを轢いたなんて噂が流されでもしたら母親の勤める店の評判は堕ちる。
ましてや母親を慕う彼女にその話が知れてしまえば
彼女だけでなく父親の職場や兄の職場にも影響が出るだろう。
これを逆手に取り、両親を脅しでもしていたら
両親と兄はシャトランジを恨み憎みながらも従った。
つまりだ、彼女の両親は擦れ違いから離婚したのではなく
自分以外の家族の生活を守る為、苦渋の決断をし離婚したのでは?
🦢「私だけ何も知らずに居たんですね・・・?」
💜「まだ仮説の段階だけど、そんな気もすんのよ」
💙「ホントだったらヤバいな・・」
も病院へ行っていたらとっくに面は割れてただろう。
だが彼女は両親や兄の指示で家に残っていた。
だからこそ疑問を持ち、母親の事も信じ行動を起こした今・・
件の事を改めて調べられるのと、隠した真相が暴かれる危機をヤツが悟れば
下手すると口止めをするべくに接近して来る事も考えられる。
💜「もしかしたらあっちから君に近づいて来るかもしんない」
💙「それこそなんでよ」
自分の頭の中だけで出した結論を
納得してなさそうな岩本や渡辺、それからへ説明をした。
母親を騙したクズ野郎は恐らく慰謝料やら保険金やらを騙し取ったと思う。
その上で家族、即ちの事を引き合いに出され
家族にバレたくなかったら貢げとかゲスい事も言ったはず。
母親はこれ以上迷惑を掛けないよう、取り立てから守る為離婚。
一時期シャトランジは羽振りが良くなり、金回りも良くなった。
そして金の力との母親を脅して貢がせた末、No4くらいまで上り詰めたのは事実。
しかしその後、更にとんでもない事をしでかして行方知れずに・・・
もし、そのやらかしにも母親が巻き込まれていて真相を知っていたら?
そこまで話した時、ハッと顔を上げた岩本が低い声を漏らした。
💛「まさかアイツ」
💜「俺らの店から売上金、持ち逃げしたんだわ」
💙「・・あの野郎・・・埋めるか?」
💜「埋めなくていい埋めなくていい」
💛「その時まさかとは思うけど・・・・ちゃんのお母さん」
次々と繋がり始める真相の欠片。
聞いていくにつれ、ある流れに向かっている事に気づいた。
偽りの事故をでっちあげられたばかりか、仕事も辞めさせられ
私達家族を巻き込まないように父と話し合って離婚。
離婚を怪しんだ私が変に調べないようホストに溺れたとまで父に話させる徹底ぶり・・
💜「多分、責任押し付けられたと思う」
そこまで話し終えた瞬間聞こえて来た震える声。
ハッと見れば、其処には小刻みに震えるの姿があった。
🦢「――っ・・そんな、酷すぎます・・・どうして母を其処まで苦しめたんですかっ」
💜「それも調べて行けば分かって来るだろな」
深澤さんの話を聞きながら沸々と沸いて来る怒りと悔しさ。
頭の中をずっと何で?どうして?が駆け巡る。
元凶男が何故母をターゲットに選んだのかが分からない・・・
それと母の仕事が歓楽街にまで行くものだとは知らなかった。
今になって思えば、出前を受け付けてる飲食店は
ありとあらゆる場所に届けに行くものだし
注文を受ければそこが歓楽街であろうと怪しい所だろうと行かなくてはならない。
もう少し母の仕事に興味を持てばよかったのだろうか・・
私だけ何も知らされず知ろうともせず、母の言葉を鵜呑みにし
今日の今日まで母はホストに溺れ、身を滅ぼしたのだと
違うと思いながらもどこかでそう思い込んでた。
そんな自分に腹が立って情けなくて鼻の奥がツーンとしたが
恥も外聞もかなぐり捨て、私は一方的に嫌っていた彼らと向き合い
改めて心に決めた決意とこれからの行動を打ち明けた。
🦢「何故あの男は母をターゲットにしたのか、私は知りたいです。
でも私1人では恐らく限界もあるでしょう・・・それでも私は全てを知るべきだと思います
どこまでやれるか分かりませんが皆さんに迷惑かけないようやるだけやってみたい
何もしないまま後悔するより、やって後悔する方が全然マシですから」
しっかりと皆さんと目を合わせ、本気なんだという意思を伝えた。
生半可な覚悟じゃ、岩本さん達に伝わらない気がして・・
幾ら先月岩本さんが協力すると言ってくれたとはいえ
代表としての名を使い動くのには、やはりオーナーの深澤さんの意向も関わるだろう。
全てを岩本さんの肩に乗せないように、私自身もやる事をやると示したかった。
そんなの言葉と眼差しを正面から受け止めた岩本達。
さっきまで揺らいでいた目をしていたのに今は強い意思に輝いている。
その事から彼女は心を決めたのだというのが真っ直ぐに伝わった。
全貌ではないにしろ、母親の身に起きた災難を知り
動揺しない訳がないだろうに・・泣く訳でも無く烈火の如く怒るでもなく
その怒りと悔しさを彼女は静かな闘志に変えていた。
強い意思の宿った眼差しは爛々と輝き、どこか危うさも垣間見えて自然と見惚れた。
💛「なら俺も約束する、先月も言ったけど改めてな」
🦢「岩本さん・・・ありがとうございます」
💙「うちの代表がそこまで言うなら俺もやらない訳にはいかねぇーな」
🦢「・・渡辺さん、初対面なのにありがとうございます」
💙「いや、初対面とか関係ないよちゃん見てたらそうしたくなっただけ」
💜「おーあの翔太を本気にさせるとは、さすが照の指名客ちゃんだね」
💛「指名客だから動く訳じゃないからな?ちゃんだから俺は動きたいの」
あーハイハイ( 'ㅂ')こりゃ照・・無意識だけど本気だな。
まあ兎に角、の真っ直ぐな意思に惹かれ
岩本を始めとした3人の男たちは協力を約束してくれた。
ナチュラルに驚く事を言う岩本にも何となく慣れて来た。
そこはまあ意味を理解してないから慣れた感じだ。
対する岩本もナチュラルに言ってしまえてるので気づいていない。
何故だから協力したいと思ったのか、を。
双方が考え方の変化に気づかないのに対し
先に察してしまった深澤と渡辺は顔を見合わせ、肩を竦め合うのであった。
話も纏まって来た為、行動開始すべく深澤が先ず口を開く。
現時点で誰よりも自由に動け、影響力もあるのはオーナーの深澤。
は知らないが、5年前『伝説のホスト』と言わしめた深澤である。
その影響力は未だ残り、ホストクラブ界隈で彼の名を知らぬものは居ない。
💜「よし、そうと決まれば他のプレイヤーにも話しとくか」
💛「・・頼んでもいいなら、そうして貰えると助かる」
💜「照・・・・」
💛「なんだよ」
💜「お前かわいいなあ!遠慮すんなよっ」
💙「仲間なんだから当然だろ、水くせぇじゃん」
💛「ちょ、ふっかやめろ髪が乱れる!」
💜「そもそもお前の頼みならアイツら喜んで引き受けるだろ」
iPhoneを取り出し、LINEグループに打ち込む深澤。
他のメンバーに頼む事は岩本自身躊躇っていた事でもあったので
今までそれをせず可能なら自分1人で探るつもりだった。
それを汲んでかオーナー権限を駆使し、自分の言葉として書き込んだ深澤に
少し遠慮を見せた岩本は、目上の存在に気を遣う風にも見え
それはの目にも新鮮なものに映った。
今までの自信に溢れた姿とも違う、かといって弱気な訳でも無い。
例えるなら、頼りにしている兄に頼っても良いのか迷う弟的な?
私も新鮮だったが深澤さん達も同じに感じたのかな
吃驚してたけどそれは一瞬で、黙った後すぐ嬉しそうに笑ったんだ。
それはもう頼って貰えたのが純粋に嬉しいって感じで
ホストクラブのオーナーに抱いてたイメージが大きく変わるくらい驚いた。
💛「まあ一応俺代表だもんな」
💜「バーカ、そんなの関係なしに喜んで引き受けるよ」
💙「だなー他ならぬ照の頼みならさ」
ストイックで誰かに頼ろうとせず、昔からずっと1人で解決し
進む事に恐れも迷いもせず且つての自分達を導いてくれたのは岩本だ。
次々とMSMから頼れる人間が去る中、先頭に立って動いたのも岩本だった。
そうやって恐れず動いてくれたから残された自分達も冷静になり
自分達で出来る事をやろうと行動に出れたのだ。
口数は少ないがやるべき事は何か、を行動で示してくれる。
いつだってその背は頼もしく、皆が自然と頼りにし
ついて行きたいと思わせるものがある。
その分1人で解決させようとして無茶もして来たから
常に頼って貰いたい気持ちは持っていた。
漸く今その時が来たのだ、これを喜ばずに居られるはずがない。
メンバーへの連絡は深澤に任せ、渡辺は自分の人脈を使う事にした。
iPhoneを渡辺も取り出すと慣れた手つきで操作し、メールを送信。
💛「ん、さんきゅ・・」
💜「それじゃ俺らはやる事あるから照はちゃん送って来い」
🦢「えっ?あ、1人で帰れますから大丈夫です」
💛「それはダメ、こんな人込みの中1人じゃ帰せないわ」
💙「ひゅ~♪」
分かりやすいくらい照れた様子で俺らに礼を言った照。
これはレアな顔だな、初めてに近い勢いで見たわ照の素面に近いテレ顔。
あと翔太は間違いなく戻って来た照に殴られると思う(・∀・)
既に口笛を吹いた翔太を照がジロリと睨んでいた。
が遠慮しようとしたのを制止し、少し強引だが手を取って歩きだす岩本。
まああれなら強く断るのは難しいだろう。
数分前に協力し合う事を再確認した間柄だ、強気な態度には出難いはず。
🦢「分かりました、じゃあ先月と同じ近くまで送って下さい」
💛「相変わらずガードが堅いね、偉い偉い。」
💙「ちゃん気をつけてね、またお店にも遊びに来いよ?」
🦢「ええと、機会があれば・・結莉と来ます!」
確かにガードが堅いというか、警戒心は常に持ったままみたいだねえ。
協力関係にはあるがある一定の距離は保ち続ける感じなのが分かる。
照も・・無意識に彼女を気にし始めてるけど線引きはしっかりしてるっぽいな。
まあホストと客っていう関係だからそれが正しい判断なんだろうけど
ほらさ、気持ちってヤツはそういうの関係なく止まらなくなるモンだからさ?
などと微笑ましい気持ちで岩本とを見送る渡辺と深澤。
上手く行ったら互いの心の壁を壊すきっかけになると思うんだよね~。
他人に対し何の気持ちも湧かなくなった岩本と
ホストに対し心を閉ざし、異性に対して全く免疫のない。
ある意味どちらも異性に対する免疫がないんじゃないか?
本能で女は抱いて来た照、経験はあれど心は置いてったままだったし
関わって来た過去の女の誰一人として、照の心の奥の琴線には触れられなかった。
それが今や無意識に自分から1人の女の子と関わり
気に掛け、樹にすら妬き、その一方でどう扱えば壊さないのか戸惑っている。
あの照がたった1人の女の子との接し方に戸惑い、探り探りに接してる様が見れるとはなあ。
この先に待つ運命が、あの2人に優しく在ればいいのに。
役員会館から去る2人の姿を眺めつつ、何となくそんな事を深澤は思った。
Fin