August act.6



という子に重なった姿・・
深澤の中にある忘れもしない5年前の記憶。

性格が似てるのかは分からない、兎に角重なった。
同じ頃、も深澤からの何とも言えない視線を感じていた。
少し驚いた後、懐かしむような感じに目を細めた男性。

岩本と居る事からして知り合いなんだとは思う。
数分前は樹を交えて話をしてる様子も見てとれた。
あの3人の中で一番背の低いイケメンは何となくだが見た事がある。

🦇「それじゃ俺らは祭り太鼓回の司会行ってくるね」
💜「おー、もうそんな時間かまたな2人とも」

負けじと視線を送り返したりしていたら
色白美青年(大我)さんが此処を移動する旨を口にした。
祭りのプログラムは知らないが、太鼓の出し物があるらしい。

ホストって祭りに参加するだけじゃないんだ??
てかこんな雰囲気ある2人が司会したら目立ってしょうがないだろな。

まあそんな事は私には関係ない。
元々此処まで来る間だけの同行だったし頃合いね。
それじゃあ私達もそろそろ、と言うより先に

💙「何なら俺らも見に行く?」
💛「翔太興味あるなら行ってみたら?」
💙「なんだよ照は行かねぇの?」
🦁「しょっぴー野暮なこと聞くなって」

レーヴェ(樹)にしょっぴーと呼ばれている人の発言が嫌な予感に繋がった。
この流れだと太鼓見に行こうよと言われそうな気がして?

だが意外にも誘う言葉ではない声が発せられる。
声の主レーヴェ(樹)はニヤニヤした目を岩本とへ注ぎつつ
岩本も誘おうとしてる言い方の渡辺を止めたのだ。

有り難いような有り難くないような言い回しに不快感を覚える私。
そんな風な言い方したら間違いなく誤解されてしまう。

私と岩本さんはただの指名客とそのホストにすぎない。
だから他の人が誤解するみたいな言い回しはやめて下さい、と
今にも乗り出して口を開こうとしたのだが
前に出ようとした手を逆に後ろへ引き戻す力が掴み?

右の二の腕辺りに添えられる温もりを感じた。
と同時に結莉が驚いた目で私を見ている。
何?結莉だけでなく、その場にいる全員が私の方を見ていた。

💛「樹にしては気が利くじゃん」
🦢「???」

注がれる視線の意味を悟らせるみたいに上の方から聞こえる低い声。
パッと見上げれば間近に立つ岩本さんの姿。

それは兎も角どういう状況?
何故私は岩本さんに肩を抱かれているのか誰か説明して。

💙「は?どういう事?パニックパニック」

事態が呑み込めない人物がもう1人いた。
パニックを起こしたいのは私もなんだが??と塩顔イケメンを眺める。
てっきりレーヴェ(樹)の言葉を否定するのかと思いきや
岩本さんはあろう事か逆に肯定するみたいな行動を起こした。

なんで??
いや待てよ?今の私達は協定を結んだ者同士・・・
こういう風に示す事も作戦のうちなのでは?

私の勝手な印象から思うに、岩本さんは頭がキレる。
瞬発的に辻褄を合わせるのが上手いっていうか何と言うか
有り得ない話すら相手に信じさせてしまう説得力がある。
うーん・・岩本さんの発する言葉自体に、とても力があるのかも?

って何を褒めちぎってんだ私は。
兎に角、敢えて関係性が深いように見せたいのかもしれないと読んだ。

岩本の狙いまでは分からなかった
だが強ち外れてもいなかった。
結果謎の気を遣った大我と深澤に渡辺。

👩「えっ?どういう事なの、岩本さんアンタのお兄さんでしょ??」
🦢「・・ごめんね結莉、5月に岩本さんがいきなり大学に来た時吃驚しすぎて嘘ついたの」
👩「嘘・・・ってのは岩本さん、と血の繋がりは」
🦢「――無い、大嫌いなホストと関わりがあるとか誤解されたくなくて誤魔化したんだ」
👩「許さんぞ結莉さんは」
🦢「ごめんやっぱ怒ったよね・・?」

ううん、と事実を打ち明け項垂れるに掛けられる結莉の声。
許さんと言った割に声は怒気を孕んでおらず、飄々としている友人。

その間に大我と樹は気を利かせたのか少し遠巻きに見ていた。
深澤達も口を挟まずその場で佇んでいる。
岩本ただ1人だけが真横で見守る中、結莉は言葉を続ける。

👩「吃驚はしたけど納得もしたよ、お兄さんって言う割には似てないもん」
🦢「うっ(矢が刺さるイメージ)まあそうよね・・」

それから結莉は彼女なりの見解と気持ちを言葉にした。
似てない事も大きな理由だが、久し振りに会う割に距離感があったのと
ぎこちない感じからも『おかしいな?』と感じた点らしい。

👩「それに・・あんな事を体験した後にホストになんてならないでしょ」

大事な妹のアンタが心底嫌ってるホストになんてさ、と。
たった一言のこの言葉を聞いた瞬間、グッと来るものが胸を締め付けた。

結莉は面食いでイケメン好きでホスト好きだけど(辛辣
私の事や家族の事をちゃんと理解してくれてたんだと知れた。

5年前の件があった日、事故の知らせを受けた父と兄が出掛け
その日以降、母は勤め先を退職し・・派手な服装で出歩くようになった。
帰宅も深夜になるなんてのはザラでね。

どうして急に?って思った私や父と兄で母に聞いたりもした。
けど何回聞いても母は仕事を辞めた理由も遊び歩くようになった理由も話さなかった。
そんな擦れ違いが度重なるようになったある日、家庭は崩壊・・。

このらのやり取りを、何とも言えない顔で聞いていたのは
ザッと事情を聞いている岩本と、に既視感を感じている深澤の2人のみ。

深澤達は純粋に結莉の話が気になっていた。
という女性の過去、嫌な思い出としてホストが関わっている・・・
2人のやり取りを聞きながら深澤はそこが気になっていた。


+++


と結莉のやり取りを見守っていた男5人。
今役員会館に残っているのは4人に減っている。

大我と樹は言わずもがな太鼓イベントの進行役に出向き
結莉もその2人について行ったから。
女の子1人を行かせる事に抵抗はあったを宥めたのは友人本人と

🦇「大丈夫だよちゃん、結莉ちゃんは俺らがしっかり守るから」

ていう歯の浮くセリフをサラッと口にした大我の言葉だった。
流石大我と言うべきか?育ちのせいなんだろうすんなり言えてしまうヤツだったな。

まああの美青年にそう言われたら大抵の女性は堕ちる。
が、という子にその基準が当てはまらないのは表情からも察せられた。

( 'ㅂ')

・・・めっちゃ引いてねぇか?by深澤
て思わずツッコミしたくなるくらいあからさまには目が死んでいた。
へぇー・・今時こんな顔してイケメン美青年見る女の子も居るんだなあ・・・

あまりにも新鮮すぎて、危うく吹き出す寸前だった深澤。
イケメン美青年オーナーを袖にする女の子とか最高じゃね?(
それに、だ。

照は何で俺らだけ此処に残したんだろ?
彼女の名前も呼んでたところからして関係あるみたいだし。
それだけじゃない、見てて思ったんだけど距離近くね?
5年前の事件以来・・いや、代表の任に就いてからは殆ど表に出なくなった照。

MSMでNo1だけを目指し、貪欲に指名客を増やしていたあの日々とも違う。
営業以外で客と必要以上に関わる事も意に介さず色恋営業も務め
日ごとに女を変えては一夜を共にして指名客を増やしていた若き日々。

そのくせ線引きはしっかりしていたから、トラブルも少なかった。
呼ばれれば行くし簡単にセックスもしていた岩本。
だから客からは『セックスしたい時はKnight(岩本)くんを指名する』と囁かれていた。

割り切れてるから行為が終わればすぐ帰るし、行為中でも指名が入れば受ける。
そんなだったから『優しいけど冷たい』とも囁かれていたっけ。

俺や翔太、他のメンバーもそういう照の姿しか見て来なかったのもあって
今目の前でって子の腕を引き、樹の発言を否定もしなかった姿には驚いた。
今までなら例え指名客であっても気を持たせるような事はしなかったのに、と。

と、思案する深澤と佇む渡辺を招き
渦中の岩本はさっきまで3人で座っていた座敷の座布団にを座らせている。
腰を下ろすって事は改まった話があるという事に繋がる。
謎に身構えながら深澤も渡辺も向かい合うように座布団の上に座った。

謎に構えてるのは深澤達だけでなくも同じく構えていた。
出来れば一生関わらずに終わりたい人生だと言っても過言ではない存在が目の前に居る。
そもそも岩本さんが私だけ此処に残した意味も分からない。

しかし幾ら嫌いな存在とは言え、彼らも1人の人間だ。
皆が等しくあのクズ男と同じじゃない事くらい私だって分かってる・・・
けどいざ目の前にしてしまうと気持ちが落ち着かなくなる。

💜「えーと、そんな怖い顔しないで欲しいなあ」
💙「うんうん折角かわいい顔してるんだから勿体ねーよ」

緊張と嫌悪感のせいで怖い顔をしていたのだろう。
正面に座る2人のホストからやんわりと指摘される。
初対面なのに流石に失礼な態度だったかも、と気づかされる

パッと見2人ともチャラそうだけど雰囲気は元凶男と全く違う。
岩本さんの意図は分からないが、少なくともこの2人は話を聞く態勢で居る・・

それなら私もちゃんとしなくちゃ、この2人に失礼だ。
自分の中できちんとしようと決めた後は『はい』と頷き
少しぎこちなくだが、はにかむような笑みを向けた。

💙「ねぇふっか、この子笑うとめっちゃ可愛いんだけど・・」
🦢「えっ」
💜「それは同感だわ、けどその前に説明して貰いたいなあ照に」
💛「翔太、それ以上接近したら拳見舞うからな」
💙「おーこわっ」

私的にはかなり口許ヒクヒクした笑顔だっただけにこの言葉は意外だった。
ハッピの下に見えるシャツが青色のストライプの人がそう言い
その人の隣に座る二連ピアスの人も同意するように頷いた。

可愛いとか言われるのは慣れていない。
まあ・・・岩本さんに何度か言われたけど、それでも慣れないね。
その戸惑いが隠せず、流れで横に座る岩本さんを振り仰げば目が合った。

💛「怖い?大丈夫、この2人は俺と同じ『SnowDream』のオーナーとプレイヤーだから」
🦢「やっぱりホストさん・・・て、え?オーナーさん!?」

思わず私は二度見した(失礼

いやどっちがオーナーかは分かんないけど兎に角驚いた。
何で私、関わりたくないホストクラブの重役2人と顔見知りになってるんだろう?
あからさまに驚いたら、二連ピアスを付けた人がそんな驚くかなあと笑った。

つまりこっちの人がオーナーさん?
じっと見た感じ、人は良さそう・・・

それから岩本さんに促されるようにオーナーさんとプレイヤーの人が名を名乗る。
オーナーはKing(キング)が源氏名で、プレイヤーの人はQueen(クイーン)。
男の人なのに源氏名がQueen・・でもこの人肌綺麗だしその源氏名が違和感なかった。
これまた恒例なんだけど・・・間接的にお2人の本名も知るっていう・・ね。

ただオーナーの人は愛称で呼ばれてるっぽいから本名は不明。
Queenさんは岩本さん達から『翔太』と呼ばれてるのは聞いたから本名で間違いない。
対して樹さん(レーヴェ)には『しょっぴー』って呼ばれてたなあ。

それにしても同業者同士ってこんなに仲良いの?
敵対心剥き出しとかそんなイメージしか持ってなかったから意外だ。
まあ顔が良いのは共通事項みたいだけどね('ω')
てな感じに2人の自己紹介を聞き終えると、オーナーさんが私を見てニッコリ言った。

💜「俺らは名乗ったから今度は君の番」

まあそう来るよね・・・。
はぁ・・またも嫌いなホスト相手に自分の事を話さなくちゃならんのか・・・
あ、そうだその前に・・どうしても正しておきたい事があった。

🦢「その前に、ごめんなさい」
💛「え?ふっかになんかされた??」
💜「バーロー(笑)だったら謝んのは俺の方だろがっ」
💙「あ~やっぱり何かしちゃったんだ?」
💜「してねぇわアホっ」

いや、その・・(笑)
きちんとしておきたいのに言わせてくれない賑やかな人達に思わず吹き出してしまった。

🦢「――っは(笑)違います、謝りたいのは私の方で」

今まで見た事ない声を発し、カラカラと笑う
声を上げて笑う笑顔に虚を突かれた岩本は食い入るように魅入った。
こんな風に笑えたんだな、と。

でもすぐ居住まいを正した彼女は、目尻に浮かんだ涙を拭いつつ
謝りたいと口にした理由を話し始めた。
何かもうその謝る理由すらちゃんらしいものだった。

🦢「確かに皆さんは私の嫌いなホストだけど『同じ』じゃない」

今の今まで色眼鏡と偏見の目で見てました、ごめんなさい。
けどついさっきのやり取りを見てて思ったんです。
ホストが全部最低な訳じゃない、同じ目で見たらダメなんだって。

見ず知らずの女と膝を突き合わせて座り
訳も分からないままお辞儀しつつ自己紹介してくれたり
相手に合わせた接し方もしてくれるんですよね
皆さんは少なくともそういう方々だと感じました。

だからこそ結莉の前で口にした言葉は
取り消せないけどせめて謝りたいと思ったのだと
真っ直ぐな目を俺達に向けながらちゃんは話した。