August act.4



🦁「ちょっと邪魔するぞー!具合悪い子連れて来たから休ませてやって」

と言いながら中へ入り、声を張り上げるレーヴェ。
突然の来客に戸惑う役員達の後ろから縫うように現れた姿。
その姿を見たレーヴェ、嬉しそうに笑って改める。

🦁「あー!!師匠と岩もっさんにしょっぴーじゃん!!」
💙「騒がしいと思ったら樹かよ」
💜「それより具合悪い子寝かせないと」
💛「だな、こっちに広いスペースあっから・・・!?」
🦁「サンキュー師匠!」

現れたのは役員として詰めていた深澤ら3人。
突然現れた他店のホスト、レーヴェ(樹)に対し
吃驚しつつも冷静に出迎え、指示を飛ばす深澤。

勿論岩本も率先して動き畳の部屋を仕切る襖を開け
改めて誘導するべく振り向いた瞬間目を見開いた。
軽々と樹に抱えられたその具合悪い子は見た事がありすぎる者だったから

てか、何で樹と居んの??
Rough.TrackONEには行かないように約束させたよな・・?

戸惑いを表に出さないようにしつつ困惑。
しかも後ろからは大我との友人、それから在り得ない男が現れた。

はあ??何で元凶ヤローまで居んの??!
つか何この状況なに?
理解が追いつかない岩本の前で、を抱えた樹が靴を脱ぐ。

💛「危ないから俺が運ぶわ」
🦁「岩もっさん、サンキュー!」

女の子とは言え人ひとり抱えたままの着脱は危ないと感じ
殆ど無意識に動いた岩本は、樹の腕からを掻っ攫うように腕に抱える。
その瞬間何となく樹は『あ やべぇ』と感じたとか。

岩本に運ばれて行くを目で見送りつつ
現れた大我達に視線を戻した深澤と渡辺。

何となくだが、の他にもう1人嫌そうな顔をした存在に気づいていた。
大我でもなければ樹でもなく、連れっぽい子でもないヤツ。
そう、気まずそうに視線を泳がせている三白眼の男の事だ・・

意外だったのは三白眼の男を見た時、顔は知らないはずの岩本まで表情を変えた事。
何処かで人伝手に聞いたのだろうか?と不思議に思う。
まあそれは兎も角、今はこの状況があまりよろしくないなあ・・・
そう思った深澤、すぐに大我を手招きして傍に呼び寄せる。

その間渡辺が動き、残った樹と見知らぬ女の子に声を掛けに行った。
察したのかは知れないが三白眼の男を樹がこの場から外させる。

🦁「シャトランジ、わりぃけど今日は先に帰ってくれる?」
👤「あ・・はい、それでは」
👩「シャトランジさんTシャツホントごめんなさいねっ」

パッと見厳つめの顔をしている樹に振り向かれ
ドキッと肩を揺らした三白眼の男、シャトランジは素直に承諾し
律儀にまだお詫びの言葉を口にする結莉へ会釈して見せ、役員会館を出て行った。
まあ会心したように見えなくもないが・・・根が腐ってるヤツだから油断出来んな・・
てな視線をシャトランジが出て行くまで向けていた深澤はそう独白。

💜「つか大我、どういう事??」

この有り得ない組み合わせは何故起きたのかを同じオーナーを務める大我へ問う。
何故自分らと因縁のあるあの男を連れて此処へ来たのか。
そもそも最初から立ち寄る事になると分かりながら何故同行させた?

この祭りは殆どの商店街や店が参加しているし
役員会館には祭りの開催を取り仕切る役員が殆ど集まっている。
そうなれば自ずと自分らも居る、それを承知でここにあの男を伴って来たのだとしたら
事態は深刻になるし、今後大我達との付き合い方も変えなくてはならない。

どういうつもりなのかが読めず、ピリピリした空気が漂い始めた深澤。
それは渡辺も同じで、いつもより笑顔は少なく声のトーンも低い。

あと一番状況が読めないのは結莉である。
イケメン勢揃い!と喜んだのも束の間、とてもじゃないが気さくに話せる空気ではない。
唯一この状況を共有出来そうなも兄(だと思ってる)岩本に連れられて居ない・・・

居た堪れない状況すぎるうう・・早くと岩本さん戻って来ないかなあ;;
内心では半泣きになりながら結莉は大人しくしていた。


+++


その頃岩本に運ばれたはというと、畳の部屋にマットを敷き
簡易的な寝床を作って貰い、そこへ寝かされていた。
岩本はベッドを作ってくれた他の役員達に感謝を告げ
好意で貰ったペットボトルのお茶をテーブルに置いた。

状況は未だによく分からない、分からないが無心でここまでの行動を終えた。
目を閉じているの顔色は悪く、顔は紙のように白い。

それもそうだろな・・見たまんまだとしたら此処に来るまで元凶男と居た訳だし。
大我達の店で見つけただけで動揺し、俺の酒間違って飲むくらい震えてた
多分かなりのストレス状態で此処まで来たんだと思う。

💛「・・・・」

取り敢えず目を覚ましたら飲ませる為のお茶は枕元に移動させといた。
すんげえ汗かいてるから拭いてやりてぇけど・・タオル取りに行かないとなんだよね😶

何となくだけど此処を離れたくない。
タオル濡らしに行ってる間にが目覚めたらどうしよう、みたいな。
起きたら何が何でも帰ろうとするだろうし・・・うーん。

らしくなくどう行動するか悩む岩本。
さっきは考える間もないくらい直ぐに動いてたのにな。

が意識のない状態で樹に抱えられてるのを見たら
それまでの疑問が吹き飛ぶくらいカッとなって
気づいたら体が動いてて、樹からを引き離してた・・らしくないよな。

そうやって眺めつつ、ぎこちなく手を動かし
体温を測るだけだしと言い聞かせながらのオデコに手を乗せてみた。

💛「んー・・・少し体温戻って来たかな」

夏なのに体温低いとかヤバそうだ、と感じた岩本はの横に立ち上がり
畳の部屋に置かれたままの仮眠用?のシーツを体に掛けてやった。
汗も多くかいてたから寒くなっちゃう気もしてさ。

何よりその・・ちゃんが独り戦ってる時、傍に居てやれなかった自分に腹立つ。
まあ全ての場に居合わすのは無理って分かってるけど
何となくそんな風に感じる自分も居て、腹立たしさと共に戸惑いもあった。

同時刻、オデコに優しく触れる温もりで私は意識が浮上。
誰かが聞いた事のある声で喋ってるのが聞こえて

不思議とそれが岩本さんなら良いのになあとか思って目が覚めたら
本当に真横に岩本さん本人が私を眺めるみたいに座ってた。

🦢「・・・岩本、さん?」
💛「――!!ちゃん気づいた??」
🦢「はい・・けど此処は・・・」
💛「此処は役員会館、ちゃん樹に運ばれて来たんだよ」

ぼんやりしていた視界が次第にクリアになるにつれ
これは夢じゃなくて現実なんだと理解。

なに私、ホッとしてるんだろう・・・・
目が覚めたら岩本さんが居るこの状況に心底安心してるとか有り得ないわ。

それから言われた此処に来る経緯。
忘れてた訳じゃないが、何か気分が悪くなったのは覚えてる。
ちょっとだけ脳の処理が覚束ないせいか、反応が遅れる私。

いかん、どうしようもなく今安心しててヤバい。
岩本さんの話すトーンが優しくて子守歌みたいだ(ぇ

不安と緊張、つよいストレスから解放された
岩本の姿が傍にある事に驚くくらい安心感を覚えていた。
しかし心を赦すなんて事は何かに反する気がしてそこは踏ん張る。

💛「てか、ちゃん眠い・・?」
🦢「眠くはないですけど、その・・・・岩本さんの顔を見たら安心しました」
💛「――・・嬉しい事言ってくれるね、ひょっとしてデレ期?」
🦢「岩本さん、いつから真顔で冗談言うようになったんですか😶」
💛「ははっ、良いねその嫌そうな顔・・すげぇそそるし」

――籠絡させたくなる、

て言葉は喉元で飲みんだ。
近づきすぎないようにはするけど警戒されたくないんだよね俺。
ただ凄く時々意地悪したくなる・・・真っ直ぐすぎるちゃんを泣かせたくなる。

でも深入りさせたくない気持ちもあって、やっぱ支離滅裂な俺の気持ち。
深入りさせたくないのに関わる事をやめられずに居る。
そういうケはないけど、心底嫌そうな顔で俺らを見るちゃんの目が好きだった。

まだ大丈夫、この子は自分を持ってる子だからって分かるから。
いつの頃か芽生えた、ちゃんに対し相反する想いが交錯している。

🦢「相変わらず岩本さんはブレないですね」

どうかそのまま嫌いなままで居て欲しいと願いながらも
彼女に関わる事がやめられない・・・。
自分を好きになるなと言っておきながら、それは自分にも言える事なのではと思う。

嫌われたままで良いから近くでちゃんを見ていたい?
こんな腑抜けみたいな気持ちにさせる
俺自身を変えてしまいそうな彼女を遠ざけたいはずなのに感情が制御出来なくなる。

💛「ちゃんもブレないよ」
🦢「私、意思は強い方かもしれません」
💛「良いと思う、アンタはそうやってホスト嫌いなままで居てよ」
🦢「多分嫌いなままだと思います、私融通利かないヤツってよく言われるので」
💛「それが良いよ、好きになるなら俺以外の誰かにするのをお勧めするわ」
🦢「なんですかソレ、まるで私が岩本さんの事好きになりかけてるみたいな」

そこまで言い合いしてふと感じた距離感。
遠回しに改めて好きにならないようにと釘を刺された気がした。

別にそうまでしなくても好きになんてならないよ
全否定しながらも何となく心はモヤモヤしてしまった。
ある程度近づかせておきながら、ここから先は不可侵だよと言われてるみたいな?

改めて岩本さんは狡い人だと感じた。
迎え入れておきながら核心部分には触れさせず遠ざける。
知りたいと思わせておきながら遠ざけるのは狡いし腹が立った。

💛「あれ、違った?(笑)なんてね」

ほら今また遠ざけた。
これもアレかな、いざって時の為の練習?

それこそ何の、て話よね。
気にしてしまったら負けだと思うから曖昧なままにしておく。
だからもうこのやり取りは終わりだ。

🦢「また私の反応で遊んでますね?悪趣味・・」
💛「ははっ、バレた?ちゃん素直に顔に出るから意地悪したくなるんだよね」

そういうのが悪趣味なんですよ、とは嫌そうな顔になる。
少し変な雰囲気になりそうだったからドキッとしたけど
この顔をしてるから軌道修正は上手く行ったようだと察する岩本。

なんだこの攻防・・・と思いつつホッとしてる自分が居た。
本気にさえならなければ彼女と関われる、そう思う一瞬が確かにあった。

取り敢えず話を変えよう、そう考え気持ちを切り替える岩本は
簡易ベッドから体を起こすを手伝いつつ
自然な動作での背中に手を添え、左手も握るようにして引き起こした。

握った手から伝わる体温は心地いい。
これならもう起きても平気そうだな・・

💛「回復したばかりのちゃんに聞くの申し訳ないんだけど」
🦢「いえ、ご面倒もおかけしましたし何でも聞いて下さい」
💛「ねぇその前にさ(笑)今時の若い子はそんな堅苦しい話し方するの?」

え?という真っ直ぐな眼が俺に向く。
だってさ、ご面倒をお掛けしましたって言葉すんなり出て来ないモンじゃない?

余程育ちが良いのか親の躾が行き届いていたのか何れにしろ
20代前半の若者にしてはしっかりしてる子だなという印象を受けた。

岩本の問いに対し、はニコりと笑んで答える。

🦢「多分ホストが嫌いだからだと思います」
💛「ん?」
🦢「嫌いな対象と話す時ってそうなりません?」
💛「あー・・なるほどね、とことんブレないなーって再認識したわ今」
🦢「なので至って普通ですよ私は、後、あの人達と一緒になったのは偶々です」

清々しいくらいの理由はらしいもので、思わず笑ってしまった岩本。
ホストが嫌いだから、と言いながら笑みを浮かべている姿は狂気じみていて目を奪う。

けど・・・相手に不足はねぇな
俺らと関わるならこのくらいの強さがないと簡単に堕ちる。
それから流れで此処に至る経緯をちゃんは少し複雑そうに話した。

バイト終わりに会場に来た所、友人が通行人とぶつかり
通行人が買った飲み物を落としてしまった。
そこまではまあ飲み物を弁償すれば済む話だったのだが
ぶつかった相手が最悪すぎた、と。

まあここに現れた面子を見れば察しはつく。
の友人がぶつかった相手はまさかの元凶男で
内心は肝を冷やしたが、友人の話術で丸く収まりかけた・・

が、そこに後から樹と大我が現れ
飲み物は道中買えるから良いよと言い
少し歩かない?みたいな事を言われ、断るに断れず来てしまったと。

・・・そういやちゃん押しに弱かったっけ・・。
またはあの友人が巻き込まれた事だから見て見ぬフリが出来なかったのかもな。

💛「取り敢えず何もなくて良かったわ」
🦢「・・はい、その有り難うございました岩本さん」
💛「ん、どういたしましてそろそろ戻れそう?」

何れにしても何も起きなくて良かったと、ストレートに口にした岩本。
その言葉に驚きつつだがも素直に感謝を伝えた。
少し気恥ずかしそうにしている姿も初々しい。

体感からして結構時間の経過を感じたのと
深澤達の方も気になったので、戻れそう?とに確認を取る。
頷いてみせたへ向けてナチュラルに手を差し出していた。