August act.3



結莉が背中からぶつかった相手はまさかの元凶男。
ぶつかった際服にかかったのか、Tシャツが僅かに濡れている。

ヤバい奴にぶつかってしまった・・!
どうしよう、私1人で結莉を守れるだろうか😥

憤慨する元凶男がどんな行動に出るか分からない今
とるべき行動は何が正解??
一応人通りも多いし他人の目もあるから、いきなり暴力には出ないと思いたい。

👤「おいてめぇ!折角買った飲み物どうしてくれんだよ!」
👩「あー・・ごめんなさい、何処で買いました?私弁償します!」
👤「弁償すんなら俺のTシャツのクリーニング代だろ・・・」
👩「勿論そっちもお支払いしますよ、お兄さん折角男前なんだからあんま怒らないで?」

暴力に出るか出ないかを案じていた私の前で早速元凶男が声を荒げる。
通行人が何人か振り向き、通り過ぎながら心配そうに見ていた。

誰もが見てみぬふりをする中、結莉のハートが強すぎる('ω')
私なんて警戒もあるけど怖い気持ちもあるからか何も言えなくて情けない。
上手い具合に男の怒気を受け流し、自分のペースへ持って行く結莉。

男前と言われた途端、憤慨していた男の様子が鳴りを潜める。
結莉さんよ・・・どこぞの交渉人かな?

取り敢えず見事な話術で男の気を逸らした結莉は
中々近づけずにいた私を振り向いてウインクした。

👤「お前面白いな、何て名前?」

得意そうにウインクしている結莉へ元凶男が名前を訊ねた。
これはこの流れはマズいしこんな男と結莉を関わらせたくない・・
という私の焦りが伝わったのかは定かではないが、結莉はこう名乗った。

👩「私?露草っていうの、お兄さんは?」
👤「その名前本名?」
👩「さあ?まあミステリアスで楽しいじゃん?お兄さんも教えてよ」
👤「まあそんなもんか?俺は――」
🦁「おいまだ飲みモン買ってねぇーの?」

浴衣の色を名前っぽく名乗った結莉、その機転凄いわ。
だがマズい事に元凶男に気に入られてしまったっぽい・・・うーん・・

この場を上手くやり過ごす考えの結莉に促され
得意そうな元凶男が名前を名乗ろうとした時
タイミング良く被せるように別の声が私の背後から飛んで来た。

必然的にその声に反応した元凶男が此方を見る。
切れ長の釣り目と三白眼・・。
目が合った訳じゃないのに睨まれたカエルみたいに私はビクッと震えた。

掛けられた声の主を見つつ、元凶男が視界の端に居るに気づく。
ただの野次馬かと捉えていたが、そっちを見た瞬間肩を揺らした見知らぬ女子・・・
なのだが・・ほんの一瞬だけ既視感を覚え、元凶男は眉を顰めた。
見た事ないはずなのに見た事があるような感覚がするなあと。

だが今はその事について考える時間はなかった。
声のした方から現れたのが、元凶男を雇う側だったから。

👤「す、すんません・・この女とぶつかって落としてしまいましたっ」
🦇「この女って言い方は良くないよ?お嬢さん大丈夫だった・・・?」
👩「(凄い美青年!!)だだだっ大丈夫です、寧ろ私がぶつかったせいなので!」

( 'ㅂ')

マテ、この人見た事ある!!
しかも相手も思ってたのか私を見つけた途端一時停止してるし・・・。
それにもう1人、元凶男に文句を言った人物も物凄く見た事があった。

美青年の出現に浮かれる結莉の方に合流した背の高い青年。
あの時と違ってスーツじゃないから新鮮。
じゃなくて、バレるやん!!

思わぬ出現に私の脳内はパニックだ。
だってこの2人、先月会ったばかりなんだもん!

岩本さん達の事しか警戒してなかった私も悪いけどさ?
本来なら営業時間だって時にホストが祭りに来てるなんて思わないでしょ!?
どうしよう、このまま立ち去りたい!!!
だって先月の事私結莉に言ってないんだわコレが!

幸い今なら美青年とイケメンの視線は元凶男と結莉に向いている。
こっそり距離を取るなら今しかない。
己の心が判断する感覚に従い、そろりと後ろへ後退しようと試みた

気付かれない程度に足を動かし、4人から距離を取ろうとしたのだが
急に後ろへ移動出来なくなってしまった。
何かこう・・・既視感を覚える状況が起きている気がした瞬間、声がした。

🦁「ちゃん掴まえた」
🦢「ひょえ!」

この声は、と感じた瞬間には既に包まれていた
背中から包まれるように覆い被さられ、右肩に感じる重みと耳元で聞こえる声。
それから身動きを封じるかのようにお腹に回された腕が。

しかも両腕も挟みこむみたいに抱き締められ?ている為身動きは出来ない。
少し顔を動かしただけだが、私を拘束している人自らが顔を覗き込んで来たので誰だか分かった。

🦢「Loweさん??!」
🦁「嬉しいね覚えててくれたんだ」
👩「えーーー!!イケメンと知り合いなの??」
🦇「ちょっと樹、それはマズくない?」
👤「???」

そう、を背後からバックハグしたのは『Rough.TrackONE』のホスト。
先月彼らの店に来店した際、帰る時にレーヴェ(Lowe/樹)に腕を引かれ
今みたいな感じに背中が相手に触れていた。

けどバックハグされたのは今が初めて。
この状況に頭がついていかないの代わりに結莉と美青年が反応した。
明るい茶髪の美青年は『Rough.TrackONE』のオーナーを務める。
まだ源氏名を聞いてないから呼び方が分からんね。

オーナーの美青年だけがLoweを止めにかかり
の予想通りに大きなリアクションを見せる友人の結莉。
それとあまり見たくないが、元凶男も驚いた反応はしてたと思う。

元凶男からすれば、オーナーとレーヴェは雲の上の存在。
そのレーヴェと気さくに話すに驚くのも無理はない・・

🦁「まだ岩もっさん達居ないし平気っしょ」
🦇「まあそうだけどまだ彼女は樹の指名客になってないし」
👩「えっ?どういう事??」

タブーにならないかを気にするオーナーに対し、余裕の笑みを浮かべるレーヴェ。
先程から聞こえる『樹』というのがレーヴェの本名かなと予想。
4月に初めて岩本達と会った時みたいな間接的に分かっちゃうアレだ・・(笑)
というか今聞き捨てならない単語が聞こえたような・・・・

まだ、いない・・て事は何れ来るって事??
思わずハグされたまま身構える私に、興奮した様子の友人が詰め寄って来た。
それもそうだよな・・・結莉、ホストとイケメン大好物だもんな・・😅

👩「ちょっと、いつこんな美青年とイケメンと知り合いになったのよ」

あー・・・・メンドクサイ(本音)
まんどくさい事この上ないが、説明しないままだと余計騒がしくなるので
ザっとだが結莉にここまでの経緯を説明する事にした。

先月いきなり岩本から連絡を受け、同業回りの同伴者を頼まれた事。
その際指名したのがレーヴェで、こっちの美青年はオーナー。
苦手なホストクラブにホストの同伴者として来店とか最悪だし
やっと関わらずに済むと思ったから引き受けたその結果

引き続き岩本が協力する事に決まり
元凶男探しを手伝って貰う代わりに好きにならない事を約束させられた。

家の事情こそ結莉に話してあるが、元凶男が今目の前に居て
さっき君がぶつかったヤツなんだよとは口が裂けても言えそうにない。
言ってしまえば結莉を巻き込む事になりかねないから・・・

彼女には何も知らさずにおきたいとは考えている。
巻き込みたくないが前提ではあるが、彼女の場合猪突猛進というか・・
嬉々として乗り込んで行きそうで怖い('ω')

👩「なるほどねー、てかいつの間にそんな人脈広くなったの?」
🦢「こればかりは不本意よ・・」
👩「まああの岩本さんがお兄さんじゃ広がるわね」
🦢「しーーっ」
👩「ハイハイ、取り敢えず私ダメにしちゃった飲み物買って来ますよ!」

待って私を独りにしないで!?

こんな濃い面子を前に岩本さんと兄妹(嘘)とか言わないでくれ!
と慌てたのも束の間、今度はこの空気の中
を残して飲み物買いに行くとか言い出した友人。

まだそんな親しくない他店のホストとオーナーと全ての元凶男と待つなんて気まずすぎる!!
私の声なき訴えが届いたのか知れないが、友人を引き止める声が掛かる。
引き止める声を発したのはオーナーの美青年。

🦇「良いよ、女の子1人に行かせるのは俺ら的にさせられない」
👩「で、でも・・ダメにしてしまった責任はとりたいです」
🦁「飲みモンくらいならこの道中幾らでも買えるし大丈夫よ」
👩「そうですか・・?それじゃお言葉に甘えて」

飲み物くらい途中でまた買えるからと気さくに笑った2人。
そんな2人の気が変わらないうちにと了承した結莉。
ならばもう長居は無用だ、とばかりに結莉はもう一度元凶男に謝罪する。

個人的にシャツのお詫びはしたい、と結莉は男に告げる。
それを聞いた元凶男、気を良くしたのかキモイくらい爽やかに笑い
お詫びしたいなら『Rough.TrackONE』に遊びに来て欲しいなと言った。

自分はキャストじゃないけど店に来てくれる方が何倍もの価値があると。
コイツ・・・あの時より少しは会心したのだろうか?
一瞬でもにそう思わせるくらい態度が神妙、というか殊勝である。
それはそれで不気味だけど・・一瞬だけ殊勝さを垣間見た。

顔だけは良い元凶男に微笑まれ、結莉も満更ではなさそう・・・
それじゃ時間が出来た時に遊びに行かせて貰います!と元気よく答えていた。
では今度こそ失礼しますね、と踵を返しつつ3人に会釈したと結莉。

しかしまたもそれは止められた。
美青年オーナーが待って、と口にしたのと同時に引き止められる。

🦇「折角だからこのままエスコートさせて欲しいな」
🦢「え゛っ」
🦁「わあ~相変わらず良いリアクション」

世の女性からしたら夢のような申し出なのだろうがからすれば地獄。
思わずあからさまに嫌そうな表情で声に出てしまったのをレーヴェに笑われる。
一刻も早く立ち去りたいなのに何故こうも上手く行かないのか・・;;

嫌いなホストと家庭と母を壊した元凶男に挟まれて祭り巡りとか拷問でしかない。
何としてでも此処でサラナラしたいと願うの願いは届かなかった。
せめて結莉だけ・・・と言いそうになったが気づく。
ホスト2人は兎も角、元凶男が居る中に結莉だけ残して逃げるのはよろしくないと。

気まずすぎて胃が痛くなって来た・・・・。
ゲンナリしたに気づいた結莉が、珍しく気を利かせるも
レーヴェに押し切られる形で役員会館までで良いから付き合ってと言われた。

其処に彼らも用事があり、雑用で犬扱いの元凶男を伴って来た。
は知らないがオーナーを務める大我が男を見張る為に伴わせていた。
先月岩本に言ったように飼い殺しにしておく為、である(コワッ

物凄く嫌だし一刻も早くこの場を去りたかったが
役員会館までで良いから、と言ってるし・・・まあそれならば
と渋々同行を承諾したは、なるべく3人から距離を取り
役員会館を目指して歩き始めた3人の後に続いた。

しかし屋台を見ながらの為、思ったより進みは遅い。
オーナーの美青年とレーヴェは前の方で楽しそうに話しているし
元凶男は元凶男で、爽やかさをキープしながら結莉と話している。

この状況・・物凄くストレスだ・・・
結莉と関わらせたくないが露骨に止めたら気づかれてしまう。
私が、元凶男に貢いでいた女の娘だという事が。
ヤツに近づく必要があるのにバレてしまったら元の木阿弥だ。

強いストレスと緊張に晒されて歩く道中は何も頭に入って来なかった。
楽しそうに笑う人々、遠くに聞こえる盆踊りの音。
それから目の前で楽し気に語らう4人の事も意識から抜けていた。

こんな状況になるなら祭り来なきゃ良かったなー・・
強いストレスに晒されながら歩く事数十分。
通りの中腹辺りに見える建物をレーヴェが指差し、役員会館に着くよと教えられた。
よし・・・もう少しの辛抱よ、あそこに着けば解放されるわ。

1人自分自身を鼓舞して歩くの前に
祭りのメイン通りの賑わいから少し外れた位置の役員会館が現れた。
建物は見えたけど、これ中入らなくても良いよね??

🦇「はい到着、結構すぐ着いちゃったね」
👩「でも楽しかったです!お店も是非行かせて貰いますね」

目の前で繰り広げられる楽し気なやり取り。
私はと言うとそれすら巻きにして今すぐ立ち去りたかった。

元凶男に怪しまれる前に気づかれないうちに消えたい――
そう強く願いながら結莉が挨拶し終えるのを待つ。
オーナーとレーヴェには申し訳ないが、失礼な態度かもしれなくても去りたい一心だった。

逸る鼓動と滲む冷や汗、ストレスから来る胃の痛み。
それらに耐えながら解放される瞬間を待っていたが
またも運命はの望まぬ方へと流れるのである。

🦁「てかちゃん顔色ヤバイじゃん!」
👩「ホントだ大丈夫??」
🦢「大丈夫だからもう帰ろう結莉・・」
🦁「そんな焦らなくても良いっしょ、仲で休んでから帰りなって」
🦢「いや大丈夫ですから」
🦇「レーヴェの言う通り休んでから帰りなよ、何なら送って行くし」

いやホントに大丈夫だから帰らせてくれェby

拒絶反応が出そうなくらい体が冷え切ってしまう
心底心配した3人から口々に休んで行く事を勧められてしまった。
あの元凶男すら真面目な顔してこっちを見ている。

八方塞がり状態にいよいよ私の精神が限界を迎えた。
目の前が暗くなりそうになった瞬間、体が浮き上がったのである。
吃驚したのと目が回ったのが同時に来て、姿勢を保とうと何かにしがみ付く。

🦁「問答無用、中入って横にならせて貰うぞ」

そう間近で呟いたのはレーヴェ。
咄嗟に横抱きにを腕に抱え、元凶男に入り口を開けさせると大股で中へ。

その頃役員会館では挨拶やらを終わらせ
顔合わせも終えた役員らが各々寛いでいる所だった。