以前なら懼れなかった、何かを失うかもしれないという感情。
兄達に自分自身の事を話すという事で、何かを失うのでは?と震えている我が身。

💜「取り敢えず、ライブのレッスンの時は見れないから・・あそこかなフードコート」
💛「だな、あそこなら広いしテーブルセットもある」
💙「歌舞伎の稽古時は稽古場に来てもらう?」
💚「いっそ歌舞伎のは滝沢くんに話そう、それが一番良いと思う」
❤「そうだね、滝沢くんもくんの事を知ってるしくんも面識があるから話はし易いと思うよ」
💜「おっけ、それで行ってみよう」

話し合い中ずっと黙ったまま聞くの事を気にしつつ
近々の事は纏まりつつあった。
が来てざっと4週間目にして、彼の懼れの理由は知る事が出来た6人。

驚いたのはそれがついこの間、2.3年前まで行われていた事だ。
両親を亡くし、唯一の身内にあたる伯父に受けた虐待と暴力。

そこまで考えた時自然に思ったのは・・・は、自分から施設に逃げ込んだんだろうか?だ。
聞いた話を整理していると自然に行きつく疑問。
伯父に引き取られたのなら養子縁組される機会はない・・・・・もしや?

💛「お前・・――」
💗「なあはさ、何で竜憲さんの養子になったんだ?」

話し合いがまとまった所で見な同じ事を考えていたのだろうか
何かを言い掛けた照より先に被せるように佐久間が問いを口にしていた。
しかも直球ドストレートに('ω')

多分皆佐久間以外はオブラートに包んで聞こうとしていたと思う。
その辺が出来ない佐久間・・・流石にこれは特攻過ぎる。
一気にリビングの空気が凍り、緊張感を帯びた。

案の定座るの肩がビクッと跳ねるのが照にも見える。
思わず阿部が佐久間の口を塞ぐように手を伸ばして引き戻した。

取り繕うみたいになってしまうが、今のは聞き流していいよと阿部も言おうとして青褪めた。
なんだ?とその阿部が気になって右に座るに照も視線を向け
ほぼ無意識にを抱き寄せて背中を撫でてやっていた。

💙「佐久間のアホ!」
💗「えっ?!また俺やっちゃったのか;;ごめんっ」
❤「くん落ち着いて、佐久間の事は俺達でキツく言っておくから大丈夫」
🌕「・・・あ、う・・大丈夫・・・話さなきゃって分かってるんだ」
💜「無理すんな、いつだって聞いてやるから」
💚「頑張ろうとしなくていいよ、頑張れなんて俺らは言わないし言えない」

照に抱き締められた腕の中から絞り出すような声で話す
明らかに佐久間の質問と自分達が感じた疑問自体が養子になった事の答えだと察せれる反応。

それに気づくと同時に触れてはいけないデリケートな問題に
無遠慮に触れてしまった事を察した6人は顔面蒼白である。

一旦この話は止めるか?と提案してみるが
照に抱っこされたは頑なに首を振っている。
彼自身も自分達に打ち明けたいと思ってるのは強く伝わった。

しかしこのまま彼に話させても大丈夫だろうか?と不安になる。
だがこの機会に知っておくべきとも思う6人。

💛「・・話せそうならこのまま俺ら居るから話してみ、でも無理なら無理で良いから」
🌕「うん、話す・・・兄さん達に聞いて貰いたいから」
💛「おっけ」

今まで黙っていた照が眼下のに静かに問う。
見た感じは平気そうには見えないだが、意思は固く
照の脚の間に座るようにして、軽く深呼吸。

決意と緊張感が満ちたのか、自身の両手を膝の上で握り込み
拳を作ってから彼は微かに震える声でゆっくりと己の身に起きた事を話し始めた。

何故引き取られた伯父の家から養子に出たのか、そこに至るまでの経緯を。

達姉弟が引き取られたのは2015年、当時は14歳で弟の細雪は12歳。
始めは暴力のみだったが、やがてそれは変わって行った。
風呂上りや季節が夏になる頃、伯父の自分を見る目が変わり・・・

義母達が居ない時、主に夏休みなどを利用しては暴力で支配し
挙句の果てには寝室に忍び込むようになって、体を触られ

🌕「俺さ、恥ずかしい話・・伯父に」
💛「言わなくていい」
🌕「・・・男の子でも良いって人だったのか・・分からないけども・・・」

察した照に制止されたが唇を噛み締めた後、は全て言い切った。
養父との約束がある為、同性同士の性的虐待と説明したから伯父が変態みたいになったけどまあいいや。

寧ろ変態でしかないだろう・・姪とはいえ血の繋がりがある子供にそういう事をしたのだから。
思い出すだけで汚らわしいし虫唾が走る。

🌕「初めてされた日は、ホント、死にたくなってさ・・でも勇気がなくて」

誰に話す事も出来ず地獄のような日々は1年と半年続いた。
もう心も体も限界に来ていたある日、は伯父の家を飛び出した。
叶うなら亡き両親と弟と暮らした埼玉の家に帰りたかったから。

でも既に家は抵当に入り、人手に渡っていた。
最後に逃げ出したのは2016年の12月、本当に今度は死ぬつもりで家を出たんだ。
けど、その日も死ぬ事は出来なかった。

🌕「コンビニの帰り不良に襲われて、何かもうどうでもいいやって思ってたら誰かに助けて貰った気がする」
💛「・・・・・」
💚「誰かは覚えてないの?」
🌕「うん・・でもカッコ良かったよ、背も高くてさ2対1なのに俺の事助けてくれた」
💗「へえー!そいつすげぇな、俺も会ったらお礼言いたい!を助けてくれてありがとな!って」
🌕「俺も言いたいな、貴方のお陰で俺は竜憲さんに引き取られて兄さん達に会えたんだって」

この出会いの後、気は進まないけど伯父の家に戻って来た
何故か玄関先で義母と従妹に出迎えられ、家の中ではなく近くの喫茶店に連れて行かれた。

そこには弟、細雪と見知らぬ夫婦が待っていた。
しかもの荷物が簡単にまとめられており、後は本人が来るだけになっていて
事情が呑み込めないに、義母と従妹が説明してくれた。

が虐待と暴力を受けている事は知っていたらしい事。
すぐ助けられなかったのは別の引き取り先を探していたからだと話してくれた2人。

この時ばかりは心の底から救われたと感じた。
2人は見て見ぬふりしてたんじゃない、私を助け出そうとしてくれていたのだと知れたから。

義母の知り合いの伝手を頼り、偶々子供を欲していた事業主の夫婦が見つかり
伯父に気づかれないよう義母がと細雪の資料を作り、夫婦に見せに行ったりしていた。
写真を見た2人が一目で気に入って私達姉弟を養子に迎え入れたいと熱望したのだ。

🌕「2人の尽力があったから、俺はあの地獄を抜け出して皆と会えた」
💗「・・俺らに話すのも怖かったのに、ありがとな」
🌕「ううん、兄さん達に出会えたから話そうって思うようになれたんだよ」
💛「・・・お前を養子にした竜憲さん達に感謝しないとだな」
🌕「うん・・助けてくれたお礼は言わないとだね・・・」
💛「いや、そうじゃなくて、俺らと兄弟にしてくれてありがとうって言いたい」

話を聞き終えた佐久間や照が感じた事を言葉にして伝えてくれる。
やはり佐久間は少し感極まってるように見えた。

でも何より安心したのは、全てを話しても兄達の態度が全く変わらなかった事。
が一番懼れたのが彼らの反応だった。
引くでもなければ変にフォローしたり、気を遣うそぶりもない。
それがどんな事よりも一番嬉しかった。

これで暫く話さなきゃならない事は無い・・本当は女だという事以外は。
手のケガが治るまでは、皆の傍に居られる。
今まで生きて来た中で一番の我儘を兄達は叶えてくれた。

多分本当は凄く前例のない頼み事をしてるんだとは思う。
簡単に聞こえるかもしれないが・・・承認を貰いに行くのは兄達なのだ、私は言っただけ。
しかしまだ16のにはそこまで気を回す余力はなかった。

💛「・・?」
🌕「すぅー・・・」
💙「寝ちゃってるね、どうする起こす?」
💚「凄く勇気を出して話してくれたから疲れたのかも」
💛「今13時か、1時間ちょいくらいなら時間あるだろ」

重責から解放されたみたいに肩の荷が下りた
瞼が重くなり、重心が傾いて行く。

脚の間に座らせていた照がそれに気づき、左の腕を添えて支えた。
翔太は起こそうかと言ったが、何となく偲びなく思い仮眠させるかと提案。

💛「ちょっと佐久間、の個室から掛けるモン持って来れる?」
💗「おお、取って来るわ」
💙「えっ此処で寝かせるの?」
💛「個室に運ぶより此処の方が俺らも居るじゃん?」
❤「なるほどね、確かに個室に運ぶよりは此処のが良いか起きたらそのまま医大に行けるし」
💛「そういうこと」

脚の間にを座らせたままなので掛けるものは佐久間に任せた。
このまま抱えたままでも良かったのだが、用意する事もあるので佐久間が戻り次第移動する。
そう伝えれば少しだけ阿部がホッとしたように見えた。

何に対するホッなのかは敢えて触れず、佐久間が来る間照はを自分に寄り掛からせる。
最後の家出が2年前の12月・・・ふとの話が過る。

小雨が降る日の夜、俺はトレーニングがてらランニングに出てた。
帰り道に立ち寄ったコンビニで立ち読みしてる時に入って来た客は不良と・・子供・・・
取り敢えずそこまでは思い出せるんだが、途切れ途切れにしか思い出せず
あの日の夜、暗い外灯の下で自分が向かい合った子は誰だったのか今一記憶が繋がらなかった。

見かけた子供と不良はどうなったのか、何故自分はコンビニから出て
人気のない空き地に外灯の下誰かと一緒に居る流れになったのか、そこの繋がりの部分が抜け落ちていた。

顔は思い出せないが多分歳は当時のと同じくらいだったと思う。
でも多分違うよな、確かあの助けた子は女の子だったし・・・多分・・
それに何ていう技か忘れたけど格闘技習ってる子だったんだよ、その辺がとは別人な証。

💗「照持って来た~」
💛「――おお、さんきゅ」

パタパタと駆け下りて来る音と声で思案を中断。
近くまで走って来た佐久間を見やり、少し待たせる。

慣れた動きで脚の間で眠るの上半身を脇の下に手を添えて抱え上げ
左膝に乗せるように横向きで座らせ、軽々と膝の裏と背中に腕を添えるようにして立ち上がった。
そのままソファーの方に向き直り、さっきまで座ってたソファーに寝かせる。

💛「おけ、佐久間掛けるもの」
💗「ほいよ」

それから待たせていた佐久間の手から掛けるものを受け取る。
佐久間が持って来たの軽い素材の掛布団だ。
受け取ったそれを眠るへ掛けてやった。

取り敢えず時間になるまでに照自身も医大に連れて行く為の支度は済ます。
医大に連れて行く人員は何となく決まっている。
運転手の照とナビの阿部、それから最年長枠として一応深澤も行く事に。

4人が留守の間は宮舘はキッチン回りを預かり、佐久間は洗濯と掃除。
翔太はまあ自分の出来る事を何かやるだろう(多分

出発する組はこの空いた時間を利用し、各自出掛ける支度を済ます。
その間を待機組がリビングでの近くで過ごした。

💙「佐久間、あんま近くで見てたら照と阿部ちゃんに怒られるぞ」

静かなリビングに発せられた翔太の声。
皆の使ったカップをキッチンで洗う宮舘がその声でリビングを見る。
見れば眠るを中々至近距離から眺める佐久間の姿が。

の過去話を聞いてる時から大分感極まっていた様子の佐久間。
何か感じるものがあったのだろう、佐久間は感受性の強い所があるし。

💗「そういや照も阿部ちゃんも偶にに対する接し方が皆と違うよな」
💙「・・・そう?」
💗「具体的にどんな時って聞かれたらまだ答えられねぇけど」
❤「仮に違うとしても、くんの事を凄く気に掛けてるのは確かだよね」
💙「急にクランクインすんなよ涼太(笑)」
💗「それこそ急なゆり組ーー」

少し鋭い事を口にした佐久間だが、ゆり組コンボに興奮した為忘れてしまう。
大きく出てしまった声をハッと抑えた後には、何に対する疑問だったのかを忘れていた。
兎に角記憶に刻んだのは、照も阿部も末っ子の事を結構気に掛けてるという事のみ。

彼の過去話は全員衝撃的な内容だったのは間違いない。
歪んだ愛情なのか、寧ろ愛情で片付けていいものなのかすら分からない。
様々な理由と事情で親元から養子に出されたり、施設に出されたりするが
が養子に出された理由が衝撃的で、少しショックだった。

已むに已まれずでもなく、普通を超えた事情が隠されてて
まだ16歳の彼はその事を誰にも言えず、1人でその心の傷を抱えて生きて来た。
辛いのは彼自身だというのに、自分達に気を遣い懸命に振舞っていた。

そういうの全部ひっくるめたら自分はまだ愛のある別れだったのかなって
已むに已まれず、佐久間は親元から養子に出され幼馴染とも別れた。
が、数奇な運命の巡り合わせで 小さい頃離れ離れになった幼馴染とは同じ世界で再会。
共に切磋琢磨するジャニーズの世界で対に値する関係性にまでなっている。

そう考えると、自分の人生はまだ恵まれてた方だと佐久間は感じたのだ。
だから少し恥ずかしいと思った、自分自身の身の上を嘆き、何で承諾しちゃったんだろうとか
養子に出すとか施設に入れるとかいう決断を何故したんだろうと両親の事も責めた己を。

ただ佐久間自身がそう考える必要もないのだが、感情を引っ張られてしまってるのだろう。
翔太も何となく佐久間の雰囲気が普段と違うと感じたのか
座ってる場所から立ち、さり気なく佐久間の隣に座り直した。

💗「どしたのしょーた」
💙「別に、ちょっと足伸ばしたくなっただけ」

言うが早く佐久間の右側に背中を預け
両脚をソファーに投げ出すようにして寄り掛かった。
気の利いた言葉を掛けれる自信がない翔太なりの精一杯の気遣い。

普段翔太から自分達にスキンシップをしたりして来ない為
彼が近くに来る際は何かしら意味があるのだと5人は考えている。
不器用でぶっきらぼうな気遣いだが、それが翔太らしくて微笑ましい。

佐久間は寄り掛かる翔太の方に少しだけ体を寄せ
コツンと頭を軽く傾けながら照達が戻るのを待った。