何とか大学院から帰宅し、数時間の仮眠を経て目を覚ました。
自分を責め続けるは阿部に叱責された後、漸く安心して泣く事が出来た。
しかし代償はでかく、ガラス片で深く切れた両手では日常生活すら困難だった。
阿部も言っていたが昼飯を食べたら話し合うしかない。
悔しい事に、自分達がの為に割ける時間は今日しかないのだ。
それにこの後は病院に連れて行く必要もある。
掌と多分指の関節辺りまで欠片で傷ついているだろうの両手。
握り締めた時の強さが強ければ強い程、色々傷つけている可能性がある。
彼女はピアノを弾く事も出来るから支障が無ければいいなと阿部は願った。
弾きたいと思えばだれでも弾く事が可能という訳ではないし
弾ける環境と、本人の技巧が無ければならない。
まあプロを目指す訳ではないにしろ、音楽を奏でる技術があるのは素晴らしい事だ。
誰でも出来る訳じゃないからこそ続けて欲しいなと感じている。
の昼食は数十分かけて何とか済ます事が出来た。
スープは何とか1人で飲めたが、サラダだけはどうにもこうにも難しく
🌕「恥ずかしい」
💚「まあそう言わずに口開けようよ」
🌕「赤ちゃんみたいで恥ずかしい」
❤「気持ちは分かるけど、折角作ったから食べて欲しいな」
🌕「くっ――!!!」
❤「ふふふ、いい子だね」
已む無く食べさせて貰う事になったのだが、兎に角恥ずかしい。
親にだってされた記憶ないのに6人の兄が見てる前で食べさせて貰うのはとても恥ずかしいのよ!
だがいつまでも拒んではいられなかった。
サラダを箸で挟み、の口の前に運んで来ながら圧を掛ける阿部。
そこまでは断固拒否を貫けたのだが、阿部の横に視界に入るように座った宮舘が現れた。
しかも眉宇を下げ寂しそうな顔をして言うのだ。
狡い!!作って貰った人にそんな顔されたら頷くしかないじゃん!!?
めっちゃ恥ずかしいけど女は度胸!!
横に向けていた顔を前へ戻し、差し出されたままのサラダを¨あーん¨された。
美味しいけど味が分からなくなってます!
もぐもぐと口を動かす様子も兄達はジッと見守っている。
何だコレ、新手の拷問かな?
早くこの恥ずかしさから解放されたいと思うあまり焦る私。
ゆっくりで良いから、とは言うがそれは無理!
💗「あーあ、折角ハムスターみたいで可愛かったのに~」
🌕「可愛さは今求めてないです(。-`ω-)」
💛「お前の切り返し方ツボるww」
💙「照はツボ浅いからねぇ」
💛「そういう翔太だってゲラだろ(笑)」
💙「お前煩い~」
佐久間が食べる姿を可愛いと言うがサラリと流す。
あまり自分の容姿に興味が無かったりするので右から左に流した。
それを聞いていた照が軽く吹き出して笑い転げる。
容姿を褒められる事は過去にもあったが、正直嬉しさは感じた事がない。
何故だろう、多分・・得した事がないからかな?
それか私にとってこの容姿というより、瞳が好きじゃなかったからかも?
今でこそ個性とか褒められる点になってるけど幼少期は皆と違う事で色々あった。
まあ兎に角恥ずかしいと文句を言いながらもサラダを食べ終え
いよいよ今後について話す時間がやって来た。
最初に話して決める必要がある大学院の事からスタート。
💚「こればかりはくん自身の気持ちが大事だから君自身が思う事を俺らに話して欲しいかな」
🌕「・・・はい」
そう言って促す阿部に1つ頷く。
食事を終えたリビングに宮舘が運んで来た珈琲やら紅茶
佐久間にだけ配られたオレンジジュース等を眺め、少しだけ間を開けてから口を開いた。
🌕「・・あんな事があったけども、俺、卒業はちゃんとしたい」
止められるのは覚悟しての発言だ。
私が兄の立場に居たら多分反対したかもしれない。
でもチラッと見た兄達の反応は予想とは違い
何故か皆ニコニコと笑みを浮かべて此方を見ている。
🌕「・・・・あれ?」
💛「んー、反対されると思った?」
🌕「うん」
💛「反対する気は初から無かったな、お前がどんな決断を下しても尊重してやりたかったから」
💜「まあちょっと予想はしてたからね、は絶対中退とか選ばねえだろなってさ」
❤「逃げだすような子じゃないとは思ってたけど、予想はしていたね」
俺の勝手な願望だとしても、くんは立ち向かえる子だろうなって思ってたよ。
そう優しく言って微笑んでくれる宮舘を凝視、他の兄達も頷き合う。
面白いくらいに兄達に自分の考えが読まれてた。
でもなんか嬉しいなとか思っている自分がいて、戸惑う。
他の兄達も同意見なのか言葉は発さず頷いている。
皆して私の意見を尊重しよう、そんな風に考えてくれているのが分かった。
しかし幾ら兄弟という形にはなっていても、元を正せば赤の他人。
何故こんなにも彼らは懸命になれるのか、寄り添えるのか本当に不思議だ。
これは多分答えの出ないものかもしれない。
それなら私も彼らに寄り添えるようになりたいな・・
まだお子様な私だけど、そんな私なりに出来る事を探さねば。
先ずは、兄達からの信頼に応えられるように。
思った事はちゃんと皆に話そう。
🌕「皆ありがとう、ちゃんと卒業したい。でも・・その・・・」
決意はしたがこれを言うべきかを悩んだ。
そんな時も皆の視線が優しく注がれている。
これ、言っても平気かなあ・・一応男として過ごしてる訳だしさ?
💛「どした?」
💚「無理には聞かないけど思った事は言って良いんだよ?」
迷いながら視線を漂わせていると気づいた兄達が助け舟を出してくれる。
うーんうーん・・話すって決めたし引かれても良いから言っちゃえ
🌕「あの・・・その・・男なのにこんな事言って良いか分かんないけど」
💜「うんうん」
🌕「何か凄く色々な事が起きて、皆にも迷惑かけた俺が言ったら駄目だと思う・・けども」
💛「迷惑だって思ってたらお前が来る事自体反対してたよ俺ら、だから言ってみ?」
🌕「・・・!・・少しの間で良いから、皆の・・・傍に居たいっす」
⛄「・・・・」
沈 黙
ああああううあああ言ってみたらめっちゃ黙ってるううううあああ←主人公です
やっぱキモイよね?!皆からしたら(亮兄以外)私男の子って事になってるしさあああ
🌕「あああやっぱいい、今のナシ!これまでも独りでやって来れたし兄さん達に迷惑かけない」
家に誰も居なくて寂しくても独りで寝れるようになって来たし、このくらいのケガとかなんとかなるっしょ!
みたいな勢いで私は捲し立てた、恥ずかしさと後悔を隠したくて。
言うてまだ1ヶ月すら経ってないものね、皆があまりにも優しいから勘違いしてた。
勢いに任せて立ち上がり、居た堪れなくなったから個室に戻ろうと考えた。
自分の意思は伝えたしリモートで授業に参加して偶に講師にだけ会いに行けばいいよね?
兄達は芸能人、仕事も忙しそうだし疲れてるだろう。
そんな人達になんてワガママで自分勝手な頼み事をしてしまったんだ。
男の人が怖いのに、心開くの早すぎだよ私。
でも多分大人は怖いし急な接近接触は想像したら震えるよ
よく分かんないけど皆は平気なんだ、怖くない。
だけど心を全て開くのが怖い・・独りで居る時は知らなかった感情だ。
外界から遮断され遠ざけ独りでこれからも生きる気持ちで居たのにさ
此処に来たら皆優しく迎え入れてくれた、私と言う1人の人間として寄り添ってくれた。
これが家族っていう温もりなのかなって知る事も出来た。
でもいざその温かさと居心地の良さを知ってしまったら怖くなった。
私は此処を去ったらどうなるんだろうって。
皆と過ごすこの場所が凄く大切になり始めててさ
2年間の限定って事忘れてたよね、何なんだろうこのモヤモヤは・・
こんな風に言って後悔するなら知りたくなかったよ。
💛「」
🌕「・・・?」
自分の使ったカップを流しに置いた時、リビングから呼ばれた。
恐る恐る其方を見ると、私を見る皆と目が合う。
1人立ち上がった感じで居る照兄に気づき、呼んだのは彼だと察した。
私と目が合うとチョイチョイと手招きする照兄。
無視してしまっても良かったんだがそうもいかず、呼んだ兄の近くへ歩く。
頭一つ分上にある照兄の姿が間近に来た時、視線を合わせるように体を傾けた兄。
それから片手が伸びたなあと思ったら、目尻をグイッと拭われた。
🌕「?!」
💛「逃げずに俺らの話も聞いて?」
🌕「話・・・?」
💚「うん、今日はちゃんとその事?今後の話もするつもりでいたからね」
❤「君から言うように仕向けたみたいになってごめんねくん」
💗「まあ俺はキュンキュンしたから俺得~」
💜「兎に角座ってくん、ちゃんと決めよう」
少し強引に目尻を拭われた事で私は泣いてた事に気づかされた。
めっちゃ無意識だったけど吃驚した・・・
それから一斉に掛けられる兄達の言葉。
佐久間だけ1人謎の余韻に浸っているが構わず皆はを呼び
遠慮してんなよー、と言いながら来た翔太に手を引かれ元の位置に座らされた。
💚「大丈夫?」
🌕「・・大丈夫」
座り直したに阿部が訊ねると毀れていた涙を
手の甲で拭いながらは頷いた。
此処に他の皆が居なければハンカチを渡してやりたかったかなー・・
とか内心思う阿部。
泣いてた事にも驚いたが、初日に比べれば隠さず感情を出せるようになってると思う。
が再び座ったのを確認した後、本題に入る事になった。
先ずはのケガ、3日前の捻挫も完治しきらないうちに暴行被害に遭い
自己防衛の為に割れたガラス片を両手で握り締めた為の裂傷。
応急処置はしてあるとはいえ、ケガがケガなのでこの後15時から医大へ行く。
今朝の様子を見ても日常生活を1人で送る事は難しいだろう。
💜「だから俺ら的に、くんの傍に居てやりたいんだよね」
事の次第を先ず提示した流れで深澤がそう口にした。
これに関して他のメンバーも同感で、反対意見はない。
ただ、具体的にどうするのが良いのかが悩ましい所。
してやりたい事は色々考えついているが、自分達にはまだ分からない事のが多い。
の詳しい事情だ、6人の事は付き合いも長いし話し合ってきたから知っている。
だが彼に関しては¨過去に大人の男に対する恐怖心が生まれた¨くらいしか知らない。
唯一人の事に関して何か気づいてる風の阿部も口を割ろうとはしないし
黙っている事も辛いと、今朝吐露していた。
ただ今後の事を決めるにも、多少の過去を知る必要があるようにも思う。
同行させる際に何に気をつけたら良いのか、どれを避けたら良いのかを把握しておく為に。
まあそうする為には彼の一番辛い記憶を振り返って貰う事になる。
💜「・・でもな、その為にはちょっとだけでいいのよ
くんの苦手な事されたくない事とか話して貰わないとならないんだわ」
🌕「あ・・・うん」
💜「無理に聞き出そうとかしたくないから、言える範囲で良い」
🌕「はいっ」
💚「思い出してる時に怖くなったらやめて良いからね」
🌕「うん」
からしても、ついに来たか、ていう言葉だった。
以前一度だけ照に言い掛けた¨どうして大人の男性が怖いのか¨の理由を話す時が来た。
視界の端でもう一度の分の飲み物を持って来てくれた宮舘に会釈。
それから数分だけ黙った後、意を決し、必要最低限の事だけを話す事とした。
生まれは埼玉県で、両親と弟の4人家族で暮らしていた事。
ざっと2.3年前に旅行を両親にバイト代でプレゼントした。
だがその旅行中の事故で両親は亡くなり、は弟と共に伯父の家へ引き取られた。
💛「そっか、最初は伯父さんの家で暮らしてたんだな・・・」
呟くように漏らす照の言葉に頷きだけ返し先を続ける。
性別はあくまで男、長男として体験して来た風に私は話し続けた。
伯父は普段優しいが、それは外だけで内では違い・・と弟を比べては事あるごとに文句を言い
一度だけ弟の細雪を殴った事があるがそれを諫めた事で、標的はへ移ったと話した。
やがて義母や従妹に弟の目がない時に日常的な虐待が始まり
狭い押し入れに閉じ込められたり食事をさせて貰えなかったりしたと。
性的虐待・・・の事は言うべきか悩んだ・・珍しくはないが、嫌悪感を抱く内容だし・・・
🌕「なのでその、狭い空間とか密閉された場所は苦手ですね」
💗「・・、だからその・・・初日俺の事怖がってたんだな・・ごめん」
🌕「バレちゃってましたか・・いや、俺もそのあからさまに怖がったりしてさっくん傷つけてたと思う」
💗「可愛い弟に避けられたのはガーン!だったけど気づけなくて情けないや」
🌕「そうやって理解しようとしてくれただけで嬉しい」
💗「なあ、今は?その、俺の事怖くない?」(佐久間
おずおずと聞いてくる佐久間の表情と動きが何やら可愛い。
怯えてしまった理由だけはそれっぽく話せたと思う・・
まだこのくらいだけにしておこうかな・・・?
今は私の反応を気に掛けながら聞いてくれるのが嬉しい。
1人の人間として接して貰えるこの環境が心地良くて安心するのだ。
🌕「怖くない!」
ハッキリとそう答えた瞬間の佐久間の顔は少し感極まり、その後太陽みたいに笑った。
良かったな佐久間、と隣の阿部が声を掛け肩を組んでいる。
本当に嬉しそうで見ているも心が温かくなるのを感じた。
どこまで話すべきか一方では思案、全てを話す必要もないし話せる範囲で良いとも言ってくれている。
他の兄達も此処まで聞いた事を考慮すべく話し合い始めた。
なるべく広い部屋に待機する時はして貰おう、とか
怯えさせないように女性スタッフになるべく対応を任せようか等々。
兄達を眺めながら1人、どう話すべきかをは思案し続けた。