❤「おはよう、くん」
リビングに入ると掛けられた優しい声。
見ればいつも通りキッチンに立つ宮舘が此方を見ていた。
今日に至るまで何度となく見て来た光景。
もう見れなくなるかもしれない、でも見たいと思ってた日常の光景。
それが変わらず目の前に広がっている。
💜「よく寝れたかー?」
💛「おはよ、。」
💗「はいつものとこ座っててな、昼メシ運ぶー!」
💚「昼間から元気だなー佐久間は」
💙「つか元気すぎてやかましいわ(笑)」
キッチンから視線を戻せばリビングに居る兄達から声が飛んで来た。
そのやり取りも全てが何も変わらないいつも通りの日常風景。
今朝の地獄が全て夢だったのではと思うほど、いつもと変わらず迎えてくれた。
敢えて直接は今朝の事に触れて来ない。
聞けば思い出すのが分かってるから、だから聞かないのだ。
さり気ない優しさが身に沁みた。
彼らを見てると、私も人に優しく接せられるようになりたいと思えてくる。
彼らを見てると・・優しい人間になりたいと思うんだ。
傷の無い人間なんていない。
心に傷を抱えながらも人は前に進まなきゃならない。
いや、進まなきゃならないんじゃなくて進む事が出来る筈。
きっと皆そういう強さを持ってる。
落ち込んだり心の病になってしまう人は、自分の中の強さに気づいてないだけ。
負けそうになっても踏ん張れる力を、強さを身に着けたいと私は思う。
🌕「おはよう、皆」
兄達がくれた優しい日常を、私も守ろう。
そうなれるまで泣いたりしない、そんな風に決意した日となった。
この日常を守れる強さを、私が身に着けられますように。
+++
昼食のメニューは、フレンチトーストと野菜サラダ。
スープはお好みでオニオンスープとミネストローネがある。
フレンチトーストに乗せる食材も自由に決めて良い。
野菜サラダも種類が用意され、中華サラダなのかポテトサラダなのか
それぞれがキッチン台に皿に乗せられて並べられていた。
なんだかホテルのビュッフェに来てるような気分。
でも立食式にはなってないからバイキングかな?
兎に角豪華な昼食を宮舘は用意してくれた。
感動しながらキッチン台へ向かい、お皿を運ぶ宮舘を手伝いに行こうとすると
スッと影が近づき、視界に現れた腕が前に出され
歩きかけたを優しく制止させた。
💛「、お前はストップ、その手じゃ難しいだろ?取り敢えずスープは何にする?」
🌕「あ、えと・・ミネストローネで」
💛「おっけ、座ってて良いよ」
💜「サラダは何にする?」
🌕「えーと、中華サラダ・・・」
💜「座ってな、持って行くから」
制止させた腕は照で、右腕が伸びの左肩を抑えていた。
取り敢えず言われたまま足を止め、間近に立つ照を見上げていると
スープは何が良いのかとナチュラルに訊ねられた。
私から好みを聞き出した照兄さんは歩き出しながら座ってなと言い残して歩いて行く。
良いのかなあと困惑し、立ったままどうしようと焦っていると更に
左側から顔を覗かせたふっかさんからも食べたいものを聞かれた。
急な甘やかしにどう反応したらいいのか戸惑う。
💚「各自で食いたいモン取りに行くからくんは座ってて良いよ」
❤「うん、本来自分の事は自分でするものだからね 偶にはやって貰いな?」
戸惑うに掛けられる若干治安の悪い言い方の阿部と毒を含ませた正論派の宮舘。
2人の発言を聞いたと見える渡辺と佐久間が慌しく立ち上がり
コソコソとキッチン台に並んだ食事を取りに行った。
これは分かり易く2人の事を言ってたのかなと察せられる言い回しでクスッとした。
ただただ治安が悪いだけじゃなく自発性を促すとは・・さすが(何かズレてるな
この後阿部と宮舘も立ち上がり、自分が好きな組み合わせの食事を取りに行った。
2人と入れ違いに先にキッチン台に向かった照と深澤が戻って来る。
分担したと思しき照と深澤、の食事は照がトレイに乗せて運び
自分達の食事は深澤が取り分けてトレイに乗せて来た。
💛「の分な、これで合ってる?」
🌕「ありがとう照兄さん」
💜「ゆっくりで良いからよく噛んで食べな」
🌕「はいっ」
💛「ん、イタダキマス」
🌕「いただきます」
💜「あーーーうちの末っ子かわいいい~」
座る私の前に照兄さんがトレイごと置き、そのまま横に座る。
最年長のふっかさんは私の右側の椅子に腰掛け、照兄さんの分の食器を配った。
配られた食事を見下ろすと、2人のフレンチトーストは1枚まるごとだが
の前にあるフレンチトーストは食べ易いよう4つにカットされている。
作り手宮舘の気遣いがそのフレンチトーストの仕上がりから感じ取れた。
兄達の優しさに胸がジーンとなりつつ、頼んだものと合ってるよと頷く。
右隣から優しく言ってくれる深澤と、左側から見守るように窺う照。
泣かないと決めたばかりだが、温かく優しい空気に泣きそうになる。
ギリギリ泣かずに堪えた後、手を合わせて言う照に倣い手を合わせてイタダキマスをした。
その一連の流れを眺めていた深澤。
甚く感激したのか分からんが大きく叫び?
椅子から移動しての隣に座ると横からガバッと抱き締めた。
🌕「!」
ピシッと凍る音がリビングに響く。
目を見開いて固まった照だが、その音の出所は自分ではない。
やはりまだ怖さを感じたのだろうと右隣のをゆっくり見れば
恐怖に震えるの姿・・・とかは無く?少し照れた顔のが大人しく座っていた。
あれ??
🌕「ふっかさん食べ難いです」
💜「悪い悪い、が可愛くてついなー(笑)」
深澤からの過剰なスキンシップに、が怯えたかと心配したが
今も横で何の問題なく深澤と話している。
じゃああのピシッはどこから??
💗「ちょっとふっかだけ狡いーー俺もハグしたいいい」
💜「お前はまだダメだろー、初日に怯えさせてたしなあ」
💗「あああ・・それを言われるとぐうの音も出ん!」
💙「ドヤるなよ(笑)」
💚「そんな事よりそろそろ離してあげたら?」
❤「そうだね、さすがに食べ難いと思うよ」
💜「ちぇっ」
💛ピシッ、の出所何となく分かっちゃったかも
騒がしい佐久間らのやり取りを隠れ蓑に鋭い目をしていたやつには気づかないフリをした。
('ω')俺まだ生きてたいからさ。
まあ兎に角全員が食べたいものを取り分け席に着き昼飯開始。
だが食器を手に持つことが難しい事に気づき始めた。
それでもフレンチトーストは何とか食べる事が出来た。
ヤバイなこれ、完全に食べさして貰う事になるのでは??
ふっかさんのハグには内心かなり驚いたけども、皆の事は全然平気になりつつある。
だからそれもあって叫んだり怯えたりは自然とならなかった。
その事より今考えるのは・・どうやって食べよう?
兄さん達の手を煩わせたくないしなあ・・・・
やっぱ、入院した方が・・いや・・・寧ろ養父母のとこに戻るべきか?
💛「?やっぱ難しいか」
悩んでいたら隣の兄、照に気づかれてしまった。
情けなさと恥ずかしさで顔に熱が集まる。
🌕「・・うん、ごめんなさい・・・」
💚「どうして謝るの?君は悪くないでしょ?」
🌕「あの時ガラス片なんて握らなければなー・・・って」
💗「それはお前がお前の身を自分で守った強さの証じゃん」
それはそうだけども、と内心では呟く。
強さの証なのかは分からないが、あの行動をとった自分の事を正当化する気にはなれなかった。
確かにあの場はやり過ごせたしそれ以上の行為は防げたかもしれない。
でもそれはただの結果論でしかないんだ。
🌕「もう少し後先考えてたらこうはなってなかったかなって・・」
ポツリと口にした私の言葉が楽しい雰囲気を台無しにするのが分かる。
シン・・としたリビングに発した私の言葉に、兄達が押し黙った。
それを見て言うんじゃなかったと察した。
言っても仕方ないのに勝手に口にしてしまった自分を恥じる。
そこへ少しだけ苛立ちを含んだ声の兄の言葉が発せられた。
💚「あんな事されて、冷静に後先考えた行動をとれる人なんているかよ
もし居たとしたらそれはもう、予知能力者か自作自演奴ぐらいだろ・・・
それともは、あんな目に遭うって分かってた?そうじゃないでしょう?
だから必死に回避しようとした、ガラスを割って講師や院生達に気づいて欲しいと賭けた。」
沸々と滾るけど静かな怒り。
怒りと言うよりは悔しさのようなニュアンスの言葉。
手を止めていた兄やもその声の主を見やる。
発言したのは左側のソファーに座る阿部だ。
守れなかったと悔い、涙していた元末っ子。
今阿部の中に浮かぶ感情は後悔と悔しさではなく
もどかしさと腹立たしさだった。
💚「あんな目に遭わされたのに、自分が悪いとか思うのは違うだろ・・
今くらいは俺らの事じゃなくて自分の事考えなよ、もっと俺らに甘えて良いんだから。
もう君自身を責めるのやめよう?責めるくらいなら怖かったって泣いてくれた方が全然嬉しい」
声を荒げるのではなく、淡々と静かに阿部は話した。
一方的に強い言葉を言うとか、そういう雰囲気になったら止める気では居た5人。
だが意外にも阿部は冷静で、声を荒げる事はしなかった。
昨夜見せた末っ子返りが嘘のよう。
ポカンと口を開けたまま阿部を見ていたや兄達。
でも言いたい事は全部阿部が言ってくれた。
傷ついてしまった時、辛い時に誰よりも傍に居て支えるのが家族。
💛「だな、俺らはの一番の味方なんだからいい加減頼れ」
🌕「・・・うぅ・・」
💙「今日くらい素直に泣いちゃえよ」
💗「そうそう、男の子が泣いたらダメって決まりとかないしさ」
❤「その分これから強くなればいいし、特にくんは息を抜いたって良いんじゃないかな」
🌕「泣くのは・・今日だけ、ですからっ」
💜「我慢すんのはナシな、泣いて良いぞー?」
💚「落ち着いたらちゃんと話そう?今後の事、俺らは兄弟で家族なんだから」
🌕「ふぁい・・!」
滲んでは溢れる涙を、毀れる度に手の甲で拭う。
我慢しなくていいと優しく促す翔太。
男が泣くのは肉親が旅立った時だけだ!と言いそうになった佐久間だが
自分達以上に辛い境遇のを思い、言うのはやめた。
自身の詳しい事情は知らないが何となく言ってはいけないと感じたのかもしれない。
折角賑やかに朝ご飯食べてたのにごめんなさい、と涙声で口にしたに皆苦笑。
左隣の照は笑いながら少し乱暴にの肩を引き寄せ、寄り添うようにして頭を撫でた。
💜「いつも喧しいから偶に静かなくらいが丁度いいわ(笑)」
💙「お前がそれ言うかね(笑)」
💚「煩くなるのは主に俺以外の皆だからね」
💜「お前言うねぇ」
今日の阿部は偶に治安が悪い。
けどまあ、あまりにもが自分を責め続けるから
それに対する何とも言えない感情が、そうさせてるのかなと皆受け止めていた。
今日の稽古予定は無い、24日から横浜アリーナでステージを控えているのもあるが
滝沢と三宅の計らいで今日1日だけはの傍についててやれる。
でも今後のスケジュールが詰まっている自分達は、23日の朝には横浜へ向かう。
ずっと傍に居てやりたいのにそれすら出来ない。
目の前で自分達に見守られながら今朝の事について涙する末っ子の助けにもなれない。
24.25とジャニーズJr.祭りに参加し、25日の午前と26日だけはオフ。
27日は再びJr全組でのステージになり全公演が幕を閉じる。
丸一日がオフとは言え、仮に此処へ戻ったとしてもとんぼ返りになるのは明白。
しかしこの状態のを独りで留守番させるのは酷だと感じた。