照と深澤のみを呼び寄せた滝沢。
先ず開口一番飛び出したのは、想定していたダメ出し。
あそこの振りはもっと穏やかに優雅に等々。
踏み込みが早いから一呼吸置いてから踏み込むとか。
暫くダメ出しが続いたのもあり、その為だけに残らされたのだろうと感じ始めた。
しかし次の瞬間やはりそれだけじゃなかったか
と内心思う流れに。
「それと、前岩ちゃんには言ったくんの次回見学日の事だけども」
これには素直に2人して虚を突かれ
思わず目の前に立つ滝沢を何度見もしてしまった。
まさか本気だとは・・いや、冗談とも受け取れなかったがこんなに早くその話を出されるのは意外。
つい深澤と2人、ビクッと肩を揺らし身構える。
別にの事をかって貰うのが嫌という訳ではないし寧ろ嬉しい。
だが正直を自分達と同じ世界に引き込むつもりは無かった。
あの能力や素質素養は素晴らしいし、世に出るべきだとも思う。
ただその先が自分達の生きるジャニーズの世界、という事が受け入れがたい。
此処は普通の人が考えるような華やかなだけの世界ではないし
常に切磋琢磨し己を磨き、ジャニーさんの目に留まるよう努力し続けている必要がある。
自己プロデュースすら出来ない人間にデビューの道は用意されないのだ。
13〜4くらいでジャニーズの世界に飛び込んでも自分達のようにジュニアのまま25〜6を迎えたりなんてザラ。
大体の人間は20歳を超えた辺りでジャニーズ以外の生き方を考え、退所して行く。
自分達もその年齢だが、未だにこの世界にしがみ付き無い可能性に活路を見出すべく抗い続けている。
だがは違う、まだまだ16歳で幾らでも未来は拓けるのだ。
苦労すると分かり切ったこの世界に飛び込む必要はない。
あの素晴らしい能力と素養は、この世界以外でも幾らだって武器になる。
だからこそ滝沢に見込まれた末弟の事を誇りはしても喜べずにいる理由だ。
「その・・滝沢くんは本気で彼、の事をこの世界に入れたいと考えてるんですか?」(ふっか
「・・・正直、彼には是非ともこの世界に来て貰いたいと思ってるよ」(滝沢
「アイツが拒んでも、ですか?」(岩本
「そうなったらまあ・・アプローチを変えようかなと思う」(滝沢
「・・・・」(岩本&ふっか
「と言いたいけど、決断は彼に委ねる。彼が望んだら俺は全力で育てるよ」(滝沢
思わず口をついて出た深澤の疑問。
怪訝そうに問われ、滝沢は後輩2人の表情を視界に入れた。
滝沢自身の正直な考えを口にしてみるも、後輩2人の表情は険しい。
この事から2人は末弟をこの世界に入れる事は賛成しかねているのだと読み取れる。
大事にしてるからこそ反対なのかもしれないな。
それでも大事にする事と過保護は違うからね・・・
まあ見た感じ彼らもその辺の事は理解しているみたいだった。
滝沢の言葉に同意するように2人も頷き、本人が決める事だからと呟く。
心の底では反対だが、本人が同じ道を選ぶなら承諾するという事だろう。
「俺達も滝沢くんと同じく本人の決断に委ねてます」(ふっか
「そうか、なるべくなら彼自身に未来を決めて貰いたいからね・・」(滝沢
「・・・ですね・・」(岩本
話は以上だよ、と会話に間が出来たタイミングで滝沢が切り上げる。
の話だけでなくしっかりとダメ出しも受けた2人。
ありがとうございました、と滝沢へ一礼。
それじゃあまたな、この後頑張れよと激励も贈り滝沢は稽古場を後にした。
その数秒間、その場で深澤と照は滝沢の姿の消えた扉を眺めていた。
息が詰まる瞬間もあったが・・・円満に話が終わった方だろうと思う。
強くの入所を望んではいたが、あくまでも本人の意思に委ねてくれるだけの余力はあると知れた。
後はこの話をにした際、彼がどんな決断を下すのかに委ねられた事で一応区切りは付いただろう・・
「――はあ・・・」
思わず吐き出した深い息。
隣に立つ深澤もそれに気づき、同じように息を吐いてから口を開く。
「息が詰まる会話って疲れんね」
「・・それな」
「まあ兎に角俺らも行こう、阿部ちゃんとか安心させてやらないと」
「そうすっかあ」
互いに深々と息を吐き、稽古場から控室で待つメンバーの元へ向かった。
+++
時刻は15時05分、YouTube本社は此処から45分くらいはかかる。
今すぐにでも出発するのが望ましい。
恐らく今日出演するグループもそれぞれの現在地から移動を開始する頃だろう。
取り敢えず控室に向かいながら照はiPhoneを取り出し、連絡先を呼び出して通話ボタンを押した。
横を歩く深澤は照が電話を掛けた相手を知っているのか特に何も言わない。
「――もし?阿部か?今そっち向かってる、それともう時間やべぇからお前らももう出て来い」
『照か、おけ分かった俺達も出る』
「ん、合流しながら行くぞ」
『うん』
2コール目で出たのは阿部だ。
先ほどの表情が気になっていたのもあり、連絡する相手に選んだ。
慌てて出た声が徐々に安堵に変わって行くのが手に取るように分かる。
そんな分かりやすい阿部の反応は可愛らしかった(は?
偶に元末っ子を発揮して来る辺りが少しあざとい
まあ殆ど6人で行動しているから、人数が減るのは不安になったんだろうか。
何はともあれ左程時間もかからず滝沢からのダメ出しと一番気掛かりだった件は話し合えた。
それだけでも肩の荷が下りたというものである。
約1時間後に迎える記者会見の本番にも集中して臨めそうだ。
事務所の中を控室経由でエレベーターまで向かう中
丁度控室に近づいたタイミングで扉が開き、中から4つの人影が並行するように出て来た。
6人の誰一人として足を止める事なく並行しながら合流。
誰かを確認するまでもなく人影は待機していた4人なのは把握済だ。
「案外早く話が済んだんだね、良かった」(阿部
「かもな、多分互いに話す事と聞く事が決まってる分早く終わったんかも」(岩本
「なるほどね」(舘さま
「あの別れ際の阿部ちゃん見たら早く終わらせないとって思うもんねー(笑)」(佐久間
「はあ?俺普通の顔しかしてないからね?」(阿部
「いや、あん時の顔はマジで女子」(翔太
「分かる!ちょっと可愛かったよな」(ふっか
スタスタとエレベーターを目指して歩きながらの阿部弄り。
何だかんだ弄ってはいるがこれもメンバー愛がなせる事だ。
皆口にはしないだけで、誰と居るよりもメンバーと居る方が好きで安心出来ると自覚している。
だからこそ、そこまで大袈裟に阿部を弄る事はしない。
全員が互いを思いリスペクトし、尊重し合うグループ・・それがSnow Manだ。
現時点ではまだ6人揃っての仕事が多いから、共に過ごす時間も長い。
そのうち個々で受ける仕事が増えたり、交流関係も広がりつつあるから
前ほど一緒に何かをする機会は減って行くだろう。
そうなった時頑張れるように、一緒に過ごせる時間は大切にしたい。
まあ思ってても口にしないのが男という生き物なのだろう。
何はともあれ5人の兄から愛ある弄りをされた阿部。
可愛いとか男に言う言葉じゃないだろ、と思いつつも嫌ではなかった。
普段はしっかりしてる分、偶に甘えて来る元末っ子な部分を見ると
5人的に、可愛い奴だなあと違和感なく受け止めてしまう。
そう思わせてしまう辺りも阿部亮平が持つ魅力なのかもしれない。
無事エレベーターの前に到着し、深澤がB1のボタンを押す。
前列に深澤と照が立ち、その後ろに4人がいる並び
後列からするりと阿部が歩み出ながら両脇に立つ深澤と照の腕を取り
2人と腕組をするみたいにしながらポソリと口にした。
「だってさ、2人が居て皆が居てのSnow Manじゃん?」
ナチュラルに腕を組まれた照と深澤、吃驚して阿部を凝視。
仲は良いがあまりスキンシップ等は無かった自分達。
恥ずかしいとか気持ち悪いとかは感じなかったが、純粋に吃驚した。
チンとエレベーターが到着し、扉が開いて中に乗り込みながらも腕は組んだまま。
誰一人ひやかしたりせず、言葉に続きがありそうな阿部を静かに見やる。
「こう今までも2人が呼び出されたりしてたけど、結構見送るだけってのも心細さはあったよ。
特に今月は色々あったし、その中でも照とケンカしたとかもあったし迷惑かけたりでさ
俺のせいでSnow Manが5人になっちゃったらどうしよう、とか、照に酷い事をさせてしまったとか自己嫌悪になった。
あの件は解決したけど、俺が先帰った後 2人は今みたいに呼び出されたのかなって考えたらちょっと怖くなっただけ」
予想した通り阿部の言葉は続き、胸中を隠さず吐露した。
あの滝チャンネル以降、阿部は思った事を隠さず自分達に話すようになった。
話を聞きながら各々記憶を振り返る。
勢いに任せて叫んだ言葉が、危うく脱退の危機を招きそうだった事。
未だ阿部はそれについて悔いていて反省してる事が窺えた。
偶に行動があざといけど(?)しっかり考えてるのは流石だなと思う5人。
「・・・お前そんな風に思ってたんだな」(翔太
「んー、なんか最近の阿部ちゃんは今までより自分の気持ち俺らに話すようになったね」(佐久間
「元末っ子も可愛いよねふっか」(舘さま
「何で俺に振るのよ舘さま(笑)ま、まあ同期だけどウチでは末っ子枠ですからね阿部ちゃんは」(ふっか
「大丈夫、もうあん時みたいな事にはならない。もしなったとしても皆の居場所はここだろ?」(岩本
「うん、どんな事が起きても俺らはずっと6人だ」(阿部
万が一誰かがまた参加出来なくなってもそいつが欠けた穴は埋めるし
欠けたメンバーが戻って来るまで全員が一丸となってSnow Manを守って行こうと
誰一人口にはしなかったが、心の中で同じ事を考え決意したのかは顔を見れば察せた。
互いに頷き合い、一旦阿部も腕を解いたが後ろ側で変わらず照と深澤の腕は握っている。
そんな光景を佐久間はゆり組の間からニコニコと眺め、エレベーターの回数を確認。
エレベーターは滞りなくB1へ到着、両開きの扉が開き前に居た照と深澤が歩き出すとごく自然に再び阿部は2人と腕を組んだ。
もうそこに対し突っ込みはせず、あべさくを真ん中にサンドしながら6人で移動車へ。
移動車に乗り込む際に漸く腕を解き、運転スタッフに挨拶をしながら乗り込んだ。
時間的にはまだ余裕はあるだろうか、15時15分を回っている。
先ず深澤が滝沢から受けたダメ出し部分をメンバーに伝え、その事を共有。
運転手はナビで渋滞が無いかを確認し、事務所の地下駐車場から出発させた。
移動する車内は、行きと違って照も加わって騒がしさを増した。
YouTubeSpaceTokyo到着。
何とか到着は16時前の15時50分で来れた。
急いで移動車を下り、早歩きで建物の中を控室へと向かう。
受付には自分達のグループ名と個人の名前が書かれた紙がある。
そこに記された豪華な出場者達、彼らの中で自分達が一番年上にあたるグループ。
エレベーターに乗って目的の階に到着すると、そこにはもう関係者が溢れていた。
ゾロゾロと控室へ入ると、既にカメラが入っており裏側を撮影している。
宜しくお願いします、と各自声にして入れば既に室内にいた面子と目が合う。
明るい髪色の青年が照達に気づくや片手を上げ、ニコニコと笑った。
「うえーい」
「おー」
「いえーい」
彼の名は京本大我、あの京本政樹を父にもつSixTONESのメインボーカルだ。
その横には茶髪の柔和な青年、高地優吾の姿もある。
彼らとは共に切磋琢磨し、多くの舞台をこなしてきた戦友と呼べる関係。
少しだけ先を歩いている彼らとの刺激し合える関係は今後も続いて行くだろう。
「この後リハだっけ?」(岩本
「多分そう」(翔太
「多分かよ(笑)」(ふっか
「こんな時こそ聞こうぜ」(佐久間
真面目なモノローグをしつつ割り当てられたスペースの椅子に荷物を置く照。
タイムスケジュール表は荷物の中なので出すのが面倒になった照が誰に言うでもなく発した言葉。
そこに反応したのは翔太だったが、此方も把握しておらず曖昧な返事を返す。
ツッコミは入れても同じく把握していない深澤から回答は期待出来ず
張り切って声を挟んだ佐久間、キラキラした目で自分の斜め左に立つ阿部に振った。
これはもう突っ込めよという合図と振りにしか見えない。
仕方ないから阿部も乗ってあげた。
「Hey阿部!」(佐久間
「16時20分からだよ・・――って誰がsiriだ(笑)」
見事なノリ突っ込み!シンメの為せる技か?
ちょっとした佐久間劇場を見てあげつつ腕時計で時間を確認する面々。
この間も続々とJrが到着し、各自グループ毎の席に荷物を置いて行く。
それを眺めつつ、照はiPhoneを取り出し
LINEアプリを起動、トーク画面に何かを打ち込み始めた。